INTERVIEW & TEXT BY 前田 久
17年越し、奇跡のリリース
――『らき☆すた』の放送から17年越しでOSTがリリースされます。率直なご感想は?
斎藤 滋 ストレートに、「出せて良かった」です(笑)。17年も経っているのに、まだ出させてもらえる状況にあるってすごいことですよね。
――このタイミングでリリース、それもフィジカルで出すというのはどういう流れで?
斎藤 まず、原作の連載開始から20周年という節目に、オーケストラコンサートをKADOKAWAさんが企画されたんです。それを盛り上げるために、ランティス側でも何かできることはないかな? と考えたときに、そういえば歌モノのベスト盤はかつて出したことがあったけど、劇伴は出していなかったなと思いつきまして。それでランティスの『らき☆すた』チームに提案させていただいた形です。
――正直、意外でした。「あれ?パッケージとセットでリリースされたものだけど、まだ単品のOSTがリリースされてなかったんだ」と。
神前 暁 同じような形でリリースされた『涼宮ハルヒの憂鬱』のOSTは出ていたんですけどね。
――神前さんは発売のお話をいただいたときのお気持ちはいかがでしたか?
神前 いやぁ、びっくりしましたよね。こういう過去作のリリースってタイミングが大事なんですが、『らき☆すた』は特にそういうものがない作品だと思っていたので。リイシュー(再発売)ならまだしも、完全に新規タイトルで出せるというのがびっくりです。でも作家としては当然、非常に嬉しいことですね。
――『らき☆すた』前後のアニメ業界はお二人の目にはどう映っていたのでしょうか。
神前 ちょうど深夜アニメが盛り上がり始めた頃といいますか。ゼロ年代のオタクカルチャーの盛り上がるのが、まさに『ハルヒ』『らき☆すた』の放送された2006、7年のタイミングだったと思うんですね。その少し前に『(魔法先生)ネギま!』のハピマテ(「ハッピー☆マテリアル」)があったりして、ネットと親和性の高いアニメ、ゲームみたいなカルチャーが、ちょうどその頃に始まったYouTubeやニコニコ動画の盛り上がりともリンクして、爆発的に勢いのあった時代だったな……という印象ですかね。ただ、当時はそれ以外の音楽シーンを知らない状態でいきなりポンッと渦中に放り込まれたものですから、比較とかではなくただただ「なんだかすごい業界だな~」と思っているだけでした。
――プロデューサーという立場だと、もう少し俯瞰的にご覧になっているところもあったのでは?
斎藤 そうですね。
――そうした時代の空気感があり、ご自身たちとしても『ハルヒ』のヒットの勢いがある中での次回作としての『らき☆すた』だったわけで、気負いやプレッシャーはなかったのでしょうか?
神前 同じ座組ではあったんですけど、あくまで別の作品ですし、『らき☆すた』って割と日常アニメといいますか、地味目な素材だったのでそこまで大きなプレッシャーを感じることはなかった気がします。「あの『ハルヒ』の次!」って感じではなかったですね。
斎藤 同じスタッフでやった前の作品が大ヒットしていたとして、宣伝面では「あのスタッフが再集結!」というフレーズは使えるんですけど、当事者たちは割と気持ちをゼロにして作ることが多いと思っています。『ハルヒ』がヒットしたから頑張らなきゃ、っていう気負いはゼロではないんですけど、これはこれ、それはそれと割り切って、ゼロからスタートさせる気持ちのほうが断然強かったように記憶しています。
ブリティッシュ・ロックの影響
――最初の劇伴打ち合わせでは、どんな話をしたか覚えていますか?
斎藤 神前さん、覚えてます? (音響監督の)鶴岡(陽太)さんとランティスの当時の社長である井上俊次さんがいらっしゃって。
神前 覚えてます。あと、(当時の)副社長の伊藤善之さんもいらっしゃいましたよね。
斎藤 そうそう。井上さんは、多分『ハルヒ』がヒットしたから来たんだと思います(笑)。で、井上さんから「バンド系なんていいんじゃない?」とコンセプトの提案があって。具体的にはたしか、ビートルズの名前が出ていたことはぼんやり覚えています。
神前 ビートルズは誰かがおっしゃってましたね。井上さんだったかな?伊藤さんも言いそうですよね。どなたがおっしゃったかまでは覚えていないんですが、そのコンセプトは実際に完成した劇伴にも結構反映されてます。
斎藤 といっても絶対にそれ、というわけではなくて、「方向性を1つ決めよう」って軽めの話でしたよね。
神前 あくまで1つのキーワードとして、ですね。
――特に今回の2枚組でいうと1枚目に主に収録されている楽曲は、改めて聴くとかなりビートルズらしくて驚きました。
神前 そうですね。
――それにしても、アイデアの源泉はどこだったんでしょうね。日常系アニメとビートルズを繋げる何かがあったのでしょうか。
神前 うーん、そこはなんとなくじゃないかな……。ビートルズの音楽性がどうこうだったんじゃないと思うんです。「何か1つ軸を定めなきゃ」と考えたときに、一番王道なものを挙げた、ということではないかと。
斎藤 確信をもって「バンドサウンドでいこう!」ってなったわけではないですよね。あれも良いね、これも良いね……と話をしているうちに、なんとなく方向性が決まった。
――そこから鶴岡さんの音楽メニューの発注があって。
神前 鶴岡さんって音楽を使うシチュエーションをあまり具体的に書かれないんですよね。大体「日常1」「2」「3」みたいな。
斎藤 あとはポエミーなサブタイトルが付いてるものもありますよね。
神前 「形而上的な会話」とか。
斎藤 時々そういう、難しい日本語が混ざる。
神前 謎掛けみたいな感じですね。ただ、それでも当時はまだ比較的システマチックなオーダー