TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 平野タカシ
アコースティックライブで見せる、デビュー5周年の成長と進化
“ふあんぷらぐど”は、ReoNaのオフィシャルファンクラブ「ふあんくらぶ」会員限定で届けられる特別なライブ。2019年、2021年にも開催され、彼女自身の活動の広がりに合わせて、その規模もだんだんと大きくなっている。それは、ReoNaの“絶望”に寄り添う歌声を必要としている人の数が増加していることの証左でもある。この日、KT Zepp Yokohamaに集まった人々もまた、色んな気持ちを抱えながら日々を過ごすなかで、“不安”な気持ちをわかち合い、心を和らげてくれる、彼女の歌声に魅せられたのだろう。そのように「ふあんくらぶ」を介して繋がる人々の想いの強さと、開演前のSEとして流されていたエリック・クラプトンの名盤『Unplugged(アンプラグド)』が、会場に心地良い期待感をもたらしていく。
照明が暗転すると、まずは荒幡亮平(Key)と山口隆志(Gt)がステージに登壇。そして主役のReoNaが中央に立つと、荒幡の叩きつけるような鍵盤捌きを合図に、ライブは「Believer」からスタートする。月のように神々しいライトがステージを照らすなか、半円形の大きなストリングカーテンに囲われたスペースで、3人は歌と演奏を激しくぶつけ合う。パッション溢れるピアノ、中盤での山口の弦を擦るような奏法、それらと呼応するように昂っていくReoNaの歌声。幕開けからあまりにも鮮烈なセッションが繰り広げられた。
続く「怪物の詩」では、同楽曲のMVのサムネイル画像がステージの後ろに大きく投影される。
歌い終えて「ありがとう」とつぶやき、簡単に挨拶をしたReoNaは、続いてヴァネッサ・カールトン「A Thousand Miles」のカバーを披露。彼女のフェイバリットソングの1つで、2020年に開催予定だったツアーのタイトルにも引用されていた楽曲だ(同ツアーはコロナ禍の影響で実現しなかった)。軽やかなピアノのフレーズ、伸びやかな歌声が、心を上向きにさせてくれる。
「痛みにまみれた過去も、泥の中をたゆたうような時間も、お歌になることで、誰かに、あなたに、寄り添えるなら」――そんな言葉に続けて歌われたのは「Lotus」。サビで色づくライトが、泥の中から這い上がって力強く咲いた蓮華の花を象徴するようだ。次の「まっさら」では白い照明が真っ直ぐに伸びて、楽曲の世界観を雄弁に表現。楽曲の終盤、ステージのライトが赤から白に切り替わる演出は、まるで“命の血潮”と“まっさらな心”を表しているようで、ReoNaがひたむきな声で歌う“まっさらな命で 今日も生きて行く”というフレーズとも重なって、大きな感動を呼ぶ。絵本を読み聞かせるような優しい歌声に合わせて、ストリングカーテンが様々な色に染まっていった「テディ」もそうだが、ReoNaのライブはいつも聴覚だけでなく視覚にも訴えかけてくるものがある。
とはいえ、もちろん主役は彼女の歌声だ。
意外なカバーや新曲から浮かび上がる、新たな“お歌”の世界
先ほどの「A Thousand Miles」のように、様々なカバー曲が楽しめるのも“ふあんぷらぐど”の醍醐味の1つだが、今回のセットリストで意外にして新鮮だったのが、さだまさしのペンによる「不良少女白書」だ。原曲を歌ったのは、70年代から活躍する夫婦フォークデュオ(現在は娘を加えたトリオ編成で活動中)、ダ・カーポの榊原まさとし。80年代の学園ドラマ「2年B組仙八先生」で挿入歌として使用され、ヒットしたことで知られる。US由来のフォークミュージックと日本的な叙情性が融和した、いわゆる「四畳半フォーク」と呼ばれるジャンルの楽曲で、孤独や疎外感、迷いなどについて綴った歌詞は、確かにReoNaがこれまで表現してきた“絶望”と近しいものを感じさせる。彼女は、ときにうなだれて自問自答するように、ときに情念を迸らせるように歌唱して、その侘しさに満ちた世界観を見事に表現してみせた。
その後のMCで、横浜出身の荒幡との横浜トークで会場を和ませると(荒幡が差し入れした華正樓のシュウマイが美味しかったとのこと)、自身が一緒に暮らしている3匹の猫の話からの流れで「猫失格」を披露。軽快なリズムに乗せて、陽だまりのように優しく温かい歌声で、不器用な猫の心情を描いていく。
「朝が来るのがたまらなく怖かった日があります」「別に死にたいわけじゃないけど、生きていることが、なんだか、申し訳ない日があります」「そんな、とりとめのない、よくある絶望に寄り添えますように」――ReoNaはそう語ると、本ツアーでお披露目された新曲「オムライス」を届ける。どこかの誰かの不登校の経験談がそのまま楽曲になったような、不思議なリアリティのある物語が、ピアノの物悲しい調べと共に紡がれていく。どこか古風で叙情的なメロディ、サビでの“ルールルルールー”というフレーズは、先ほどの「不良少女白書」のような四畳半フォークの世界観に通じるものがあり、これまでカントリーミュージックなどのルーツを自らの表現に消化してきた彼女の、新たな一面を感じさせる楽曲になっていた。
続いては、彼女のライブでの定番レパートリー、Aqua Timez「決意の朝に」のカバー。1番ではアコギのみをバックに、2番からはピアノも加わるなかで、滔々と歌い上げる。つらい気持ちや行き場のない思いに寄り添い、不器用な自分でも生きていていいと思わせてくれる歌。彼女が“お歌”をと
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