2023年夏、ソロアーティストとして新たなデビューを飾ったCHiCOが、2024年2月7日、待望のEP『PORTRAiT』をリリースした。CHiCOが歌に目覚めた子供時代、音楽の楽しさを知った学生時代、プロデビューしてからと、彼女の音楽人生を彩ってくれた豪華クリエイターを楽曲提供者に迎えた本作は、アーティスト・CHiCOの素顔と成長を、改めて感じさせてくれる。


INTERVIEW BY TEXT BY 阿部美香

CHiCOの現在地をプロフィールとして届けられる1枚に
――ソロ活動もいよいよ2年目に入り、1月28日には“リスアニ!LIVE 2024”の“SUNDAY STAGE”にソロとして出演されました。まずはソロとして初日本武道館のステージに立った感想から伺えますか。

CHiCO いつもCHiCO with HoneyWorksのCHiCOとして出演させていただいていたので、ソロで立つステージはとても広く感じましたね。緊張と不安もありましたが、一緒に盛り上げてくれたお客さんのお陰で楽しくパフォーマンスできました!

――そしてここからが本題ですね!1stEP『PORTRAiT』ですが、CHiCO with HoneyWorksから数えても、EPを出すのは実は初めてなんですよね?

CHiCO そうなんです。シングルかフルアルバムばかりだったので、最初はEPって何だろう?って思っていたら、スタッフさんが語源を調べてくれて。なるほど、EPのEはエクステンドのEなんだ!ミニアルバムみたいな感じだ!と理解しまして(笑)。例えば『シャングリラ・フロンティア』のEDテーマ「エース」で私のことを知ってくれたり、CHiCOソロを初めて聴いてくれる方には、気軽に手に取ってもらえていいなと思います。

――『PORTRAiT』というタイトルも、新しいCHiCOさんを知ってもらうには、ぴったりのタイトルですよね。

CHiCO はい。名刺代わりになる1枚にしたかったですし、それって私のプロフィールを渡すような感じですね。じゃあ“ポートレート”というタイトルがいいなって、最初に思ったんです。ほかにも色々検討したんですが、最初の案が自分の中でしっくりきすぎてしまって(笑)。
CHiCO with HoneyWorksからずっと、アルファベットのiは小文字にしてきたので、『PORTRAiT』しかない!とお願いして、このタイトルにしました。

――では、どんな名刺、どんなポートレート集にしようと考えました?

CHiCO ソロになってから、色々な作家さんに曲を書いていただいているんですけど、今回は、それぞれの作家さんから見たCHiCOを曲にしてもらいたかったんです。そこで、私が歌を志した原点の方、お仕事を始めてからのご縁でご一緒してもらった方にお声がけさせていただいて、素敵な5曲が完成しました。

――バラエティに富んだクリエイター陣の手によって、すごく多彩な楽曲がそろいましたよね。

CHiCO そうなんです。テイストもそれぞれなので、曲順どうしよう?と、嬉しい悩みもあったり。ジャケットも楽曲のバラエティ感に合わせて、色んなスタイルで雰囲気の違う私のポートレートを組み合わせてもらったのですが、CHiCOはこんな曲もあんな曲も歌えます!という宣言もできたと思いますし、色んな角度から楽しんでいただける、本当に名刺代わりになるEPが出来上がりました。

「エンパシア」はリアルなCHiCOの今を言葉にしてくれた
――そんなCHiCOさんの5つの顔が詰め込まれた『PORTRAiT』。オープニングを飾るのは、リード曲でもある「エンパシア」。作詞を白神真志朗さん、作曲を白神さんと堀江晶太さんが手がけられました。

CHiCO 堀江さんは「エース」でベースを弾いていただいたご縁もあり、お願いしました。白神さんとは初めましてになるんですけど、堀江さんが白神さんにお声がけしてくださいました。


――堀江さんは、数々のヒットアニソンを手がけていますし、白神さんはご自身もシンガーソングライターとして活動されている方。さっき『PORTRAiT』は各クリエイターから見たCHiCOさんをテーマに楽曲提供してもらったと聞きましたが、こちらのお二人とは、どういう打ち合わせがありました?

CHiCO お願いしたのはロックでアップテンポな楽曲。これからライブも控えているので、ライブで盛り上がる曲ですね。歌詞の方向性も、お二人と細かくキャッチボールしながら。“どういうアーティスト目指しているか?”や“アーティストとしてのコンセプトは?”だけじゃなくて、“日常であった嬉しいこと、感動したことはありますか?”みたいな質問に応えたり。堀江さんと白神さんがそれを汲んでくださって、これからのCHiCOの音楽活動にも繋がる歌詞にしてくださいました。

――まずはCHiCOさんのことを知ってもらおうと。

CHiCO そうですね。ただ……最初のミーティングの時に私、いつもの口下手が出てしまって、自分が今後どうありたいかもそうですし、自分はこうしたいと話したことに矛盾があったり……。全然、思い描いていることをちゃんとお話することができなくて、あとでガチへこみしちゃったんです。で、このままじゃいけない!と思って、改めてお二人に伝えたいことを文章にまとめて送らせていただいて……という経緯が実はありまして(苦笑)。そういった私の悩んでいる様子も全部、白神さんが歌詞にしてくれているんです。
2番に“いま降って湧いたように迫る 問いかけに窒息寸前で”というフレーズがあるのですが、そこなんかは、お二人からの掘り下げた質問に、私が顔面蒼白になって“いや、えっと……ちょっと言葉にするのは難しいんですけど……”ってなっていた場面、そのままです(苦笑)。

――「リスアニ!」もCHiCOさんの活動を長く追い掛けさせていただいてますが……目に浮かびます(笑)。

CHiCO あ、やっぱりですか?(苦笑)

――まさに『PORTRAiT』のコンセプトでもある、白神さんと堀江さんから見たリアルなCHiCOさんが、写し出されましたよね。

CHiCO 丸裸にされた感じです(笑)。レコーディングにも来ていただいたんですけど、“こういう曲になったけど大丈夫でしたか?”と気遣ってくださって、“あとからメールをくれたからこそ、この曲が作れた”ともおっしゃってくださって。自分自身の意識づけもちゃんと見直さなきゃというのも、改めて気づけましたし。白神さんが、そういう悩んで戸惑っている私の様子を“それを優しさと呼ぼう”と、歌詞に書いてくださったことも嬉しかったですし、サビの終わりに“行先のことは、その後でいい”という、私の背中を押してくれるワードも入れていただいて……。私も歌詞を読むたびに、ちょっとウルッとします。

――タイトルの「エンパシア」も“共感”という意味ですしね。

CHiCO そうなんです。今、私と同じ境遇の人に共感してもらいたい楽曲。だから、レコーディングの時も歌い方のニュアンスを、お二人とキャッチボールさせていただきながら進めていきました。
曲調も、私が今まで歌ってきたロックな曲とは違っていて。

――確かにそうですね。CHiCOさんが歌うロックナンバーは、今までキメキメのメロディをパワフルに歌っている曲が多かったですが、今回は楽曲の構成もサウンド感も全く違う。歌声にも優しさが込められていますよね。

CHiCO そうなんです。『PORTRAiT』の楽曲は全体的に、基本声をあまり張らないようにしているんです。この曲も歌詞に合わせて、心の中にある気持ちをグワッと出すようにしました。だからEP全体を通じて、どの曲もすごく新鮮な気持ちで歌わせてもらっていて。なかでも「エンパシア」は、私自身と皆さんへのメッセージが、すごくリアルに感じてもらえる曲になったと思うので、リード曲としてたくさんの方に届くといいなと思っています!

ダークファンタジーな「イバラヒメ」はオペラの歌唱も参考に
――2曲目の「イバラヒメ」は、『ハイキュー!! TO THE TOP』で同時期にオープニングとエンディングを担当してから、コラボも続いているBURNOUT SYNDROMESの熊谷和海さんが作詞・作曲。関係性は、もうファンの方もよくご存じですよね。

CHiCO はい。BURNOUT SYNDROMESのアルバムにフィーチャリングで参加させていただいたり、ライブにもゲストで出ていただいたり。
本当に色んなご縁があるので、熊谷さんには絶対参加してもらわなきゃ!くらいの勢いでお願いしたんですけど……とても物語のある、意外な曲を作ってくださって! 熊谷さんは、“もしCHiCOがアイドルだったら?”を、コンセプトにしてくださったんです。

――なるほど!スポットライトを浴びたくて、周りの望むように踊り続けてスターになったアイドルの女の子が、どんどん自分を失っていくイメージを、童話的な世界になぞらえている。ダークファンタジーな世界観ですね。

CHiCO そうなんです。熊谷さんの曲にはいつもドラマがある。私もイメージがすごくふくらみました。ただ、どうしてこういう世界を考えられたのか、裏話はまだお聞きしてないんです。今度ゆっくりお聞きしたいです。

――曲調も、クラシック音楽を彷彿とさせるイメージがあり新鮮でした。CHiCOさんの歌い方も、とくにサビはファルセットを駆使してとてもテクニカル。聴き入ってしまいました。

CHiCO そこの歌い方は、モーツァルトのオペラ「魔笛」の「夜の女王のアリア」を参考にしました。
でもオペラ歌手のようではなく、口をあまり開けず、張らない裏声を頑張ったんですけど……全体的にすごく苦戦しました。こう……上手に曲にハマらないぞ!と、自分の歌にちょっと頭抱えながら(苦笑)。5曲の中でも、特に難しかった曲です。でも、去年の末に、熊谷さんが私に楽曲提供したことを知らせるポストをXでしてくれたんですけど、そこに“CHiCOさんの声は、空気を支配する強さ、魔力がある”と書いてくださっていて。すごく嬉しかったです。ライブで歌えるのも楽しみですね。

――3曲目の「駅」は、諫山実生さんの作詞・作曲。諫山さんに楽曲提供をお願いした理由は?

CHiCO 私が小学生の頃、NHK「みんなのうた」で「月のワルツ」という曲を聴いて、いつかこんな歌い方をしてみたい!と憧れた方なんです。楽曲も本当に素敵で。楽曲提供をされているという情報をSNSで偶然見かけて……ダメ元でスタッフさんを通じてお声がけさせていただいたら、なんとOKが!

――感動ですね。

CHiCO はい。私が歌を目指す1つのきっかけになった方なので、本当に嬉しかったです。楽曲をお願いする際も、直接お話することはできなかったんですが、「月のワルツ」や諌山さんのほかのこういう曲が大好きで!……と、完全なファンレターと、もし良ければバラードを書いていただけたら!というリクエストを書いて、諌山さんにお送りしました。

――そして出来上がったのが、とても心温まるバラード。

CHiCO いつも駅のベンチで帰りを待っている2人がお互いを求めながら、まだ言えない……みたいな、もどかしさがすごく素敵な楽曲にしていただきました。歌詞でもエピソードはそんなに多く語られないんですけど、逆に出会った頃から心惹かれていて、すごく大事に好きという気持ちを育ててきたんだなという。

――風景の描写と情緒あふれる言葉たちと、CHiCOさんの優しいボーカルに癒されます。

CHiCO デモの仮歌も、諌山さんが歌ってくださっていて。今ではそれも私の宝物なんですけど(笑)、すごく素敵だったんです。でも、諌山さんの歌い方に寄せてしまうと、私の歌ではなくなってしまうから、ちょっと素朴な歌い方で届けたいなと思いました。このふたりが、これからどうなっていくのか、皆さんにも想像してもらえたら、楽しいですよね。

悩みに悩んで作詞した「Prelude Romance」は自分へのメッセージ
――そして4曲目の「たがため」は、福岡晃子(元チャットモンチー)さんの作詞・作曲です。福岡さんにお願いしたのは?

CHiCO チャットモンチーも、私にとってはすごく思い入れもある大好きなバンドで。高校時代、軽音楽部でバンドを組んだ時に、初めて人前でギター・ボーカルとしてカバーしたのが、チャットモンチーの「風吹けば恋」。諌山さんと同じく、私が音楽を志すにあたってのキッカケになったアーティストさんなので、ぜひにとお願いしていただきました。

――とても小粋でかわいらしい曲になりましたね。歌詞を見ると、日常の1コマを描きつつ、“誰のためのわたしなんだろう だけど誰かに見ててほしい”とあったり、この曲も今のCHiCOさんのリアルを写し出しているように感じました。福岡さんとは、どういうお話をしたんですか?

CHiCO 雑談みたいな感じでした。最近、嬉しかったこととか、腹が立ったこととか、悩んでることとか、 頭を抱えたこととか。月末になると、マネージャーさんから交通費の清算の催促が来て大変なんですとか、洗濯物を取り込むのが苦手で、とか(苦笑)。音楽活動でいま思っていることだけじゃなく、普通に雑談をしながら進めていった楽曲で。日常の中のふと思いにふける瞬間のひとこまを、書いていただいた感じです。

――言葉のチョイスも面白いですよね。1番には“たまりたまるやらなきゃリスト とりあえず起動カタリスト”、2番には“世界を救うボーカリスト それでもわたしはカタリスト”というフレーズが出てきますよね?

CHiCO はい。色々な解釈ができると思うんですけど、私は1番のカタリストは、パソコンのキーボードをカタカタ叩いてる人で、2番は世界観を語る=カタリストと解釈してます。

――確か……CHiCOさんがプレイしているゲーム「Apex Legends」にもカタリストというキャラクターが登場しますよね?

CHiCO そうなんです!そういえば、福岡さんと「私、パソコンで朝までゲームやっちゃうんですよね」「何やってるんですか?」「『Apex』です」「あ、知ってますよ」みたいな会話をしたんです。で、「どのキャラクター使ってるんですか?」って聞かれて、答えました「カタリストです」って(笑)。

――じゃあ、ダブルミーニング、トリプルミーニングとして入れてくれたんでしょうね。元々カタリストという英語は、化学反応を促進させる触媒の意味がありますが、アーティストという存在も音楽を通じて聴き手に化学反応を起こさせる触媒と言えますし。

CHiCO そうですね、福岡さん、すごい。そういう言葉遊びもそうなんですけど、福岡さんの歌詞は心の繊細な部分をすごく汲み取って切り取ってくれているので、白神さんが書いてくれた「エンパシア」と同じように、この曲にも私自身を救ってもらっている気がします。日々生きてて、疲れる瞬間って誰しもあるじゃないですか。そんな時に考えることに、共感してくれる人も多いんじゃないかな。

――そしてEPのラストを飾るのが、渡辺 翔さん作曲、CHiCOさんが作詞を手がけた「Prelude Romance」です。

CHiCO 渡辺さんは、CHiCOソロをスタートする時に、色々な作家さんに楽曲提供をお願いしていた中のお一人で。一番いいタイミングで発表したかったので、ずっと温めていたんです。

――すごくキラキラとした、オシャレで華やかでポップなラブソングですが、作詞家・CHiCOさんとしては、どんなテーマで歌詞を紡いでいったんですか?

CHiCO やっぱり恋するって素敵だなと思える、憧れの恋愛スタイルですね。デモの段階ではもう少し素朴な雰囲気だったんですけど、水野谷 怜(Arte Refact)さんのアレンジがとてもダンサブルできらびやかに仕上げてくださったので、舞踏会のイメージが頭から離れなくなっちゃって(笑)。一度書いていた歌詞を書き直しました。憧れの恋愛といえば私の中では『シンデレラ』。『シンデレラ』の映画を3作観て、キャラクターの台詞とかも書き起こしてイメージをふくらませつつ、リスペクトを込めて書いていきました。

――王子様に見初められてプリンセスになる……女子にとっては永遠の憧れですよね、『シンデレラ』の物語は。

CHiCO そうなんです。でも、ただ受け身の恋が描かれているんじゃないんだな、とも思ったんです。3作品観た中で舞踏会を開こうとする時に王様が、お嫁さん探し
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