視聴率が振るわなかった上、大久保佳代子のマラソン"ワープ疑惑"に「TED」パロディのライセンス無許可問題など、放送後もいまだに"よくない"話題がつきない今年の『FNS27時間テレビ』(フジテレビ系)。テーマに「本気」を掲げたものの、本気どころか企画力のなさが露呈し、フジのピンチぶりがただ露わになっただけの27時間だったが、そんななか、唯一評価を受けているのが「中居正広のMC力」だ。
今回の番組は『めちゃ×2イケてるッ!』がメインとなり、総合司会もナインティナインだったが、『めちゃイケ』レギュラーでもない中居がなぜか司会に参戦。メインのナインティナインが休憩している間も出ずっぱりで、八面六臂の大活躍を見せた。この中居の"大アシスト"には岡村も「ホンマに困ったときの中居正広。あんまり恥ずかしくてこんなこと言いたくないんですけど、中居、ほんとにありがとう」「中居正広ってほんとうにすごいんだなって思いましたよ」と、『オールナイトニッポン』で感謝と称賛を口にした。
もちろん、中居のMCの安心感はすでに多くの人が感じていることだろうが、しかし一体、中居のMCの魅力とは何なのだろうか。じつは先日、この秘密に迫った本が発売された。社会学者・太田省一氏の『中居正広という生き方』(青弓社)だ。
中居といえば、SMAPブレイク前からグループ内でMCの役割を担い、その腕を磨いてきたが、本書によると、中居は30歳で「やっぱMCだな」と再確認、そのとき中居はこんな決意を秘めていたという。
〈そのとき、「三十代は一回ファンに嫌われなければいけない」と決意した。なぜか。バラエティ番組のMCとなれば、恋愛や結婚の話、あるいは下ネタになることもある。その際、MCである自分がそういう話をまったくしないのは卑怯だと感じたからである〉
そして40歳を目前にしたときには、ラジオでこうも語っているという。
「SMAPのなかでいちばんおしゃべりができるようになる、ジャニーズのなかでいちばんおしゃべりができるようになる、芸能界でジャニーズなのにおしゃべりがいちばんできるようになる」
司会者を志すなら、ファンに嫌われる覚悟が必要。これらの発言からは、軽妙なMCとは裏腹に、腹を括り、深い信念をもって挑んでいることがわかる。
また、著者の太田氏は、中居のMCにタモリとの類似性を挙げる。それは、こんな中居の発言に顕著なのだという。
「感情を安定させていたい。それは喜怒哀楽を出さないとか感情を押し殺すとかいう意味ではなくて、いつでも相手の言葉を引き出したり、人の気持ちを受け入れたりできるということ」(「AERA」2013年9月16日号インタビューより)
タモリのMC術は、場を仕切るのではなく〈出演者たちが作るその場の流れを感じ取り、それにうまく身を委ねる〉点にある。この〈仕切らない仕切り〉で重要になってくるのが、出演者をよく観察すること。じつは中居も、〈プライベートでごはんを食べに行くときでもだいたい端に席を取る。人を背にするのがイヤなので、壁があれば壁を背にする。SMAPのトークのときも、自分が仕切るときは四人が見えるように端に行く〉といったように、〈相手の言葉や気持ちをしっかり引き出す〉ための言動を心がけているのだ。
しかも、中居はああ見えて(失礼)、勉強家・努力家の一面がある。中居は手書きのノートをつけ、気になる言葉や文章などを記録しているが、〈「書くことは記録というより、書く意識を持つこと、書く習慣をつけることによって、こんなものの考え方があるのかを知ることになって」いる〉のだという。
この指摘は、コメンテーターとしての中居のことを思い出すと、とても腑に落ちるものだ。以前、本サイトでも記事にしたが、『ワイドナショー』(フジテレビ系)で日韓関係の悪化がテーマになったとき、司会の東野幸治やコメンテーターの松本人志が当たり障りのないコメントをつづけるなか、中居はたったひとり、「謝るところは謝ればいいんじゃないですか?」「お話すればいいのにね。韓国も日本と仲良くしたほうがいいと思いますよ」と、毅然と自分の意見を言葉にした。あきらかにスタジオの空気は"面倒臭いことを言うなよ"というものだったが、きっと中居は、普段から考えてきたことをもとに、広い視野から自分なりの客観性を保とうとしたのではないか。これは場の空気を読む芸人たちとは大きく異なる点であり、日頃の"考える練習"の成果ではないだろうか。
そうした"意識の高さ"は、場合によっては衝突を生むような気もするが、しかし中居にはそれもない。太田氏は中居の特徴のひとつとして〈自分が相手を支配するような関係に持ち込まない〉と綴っているのだが、それがよく伝わってくるのが、2007年の『NHK紅白歌合戦』を笑福亭鶴瓶とふたりで司会を務めたときのエピソードだ。
〈台本を相手の司会者の分まで全部覚えるという中居正広が、他の番組のように台本にとらわれずやろうとする鶴瓶のことを考えてということもあっただろうが、二人の間の特別な信頼感もそのツーショットからは感じられた。
迎合することと、相手と寄り添うことは違う。相手を知り、尊重するからこそ生まれる笑い、心地よい進行──中居のMCの魅力とは、こうした人をいたわる気持ちがあるからなのかもしれない。たぶん、それは昔からのものだ。思えば森且行がSMAPを脱退することになったとき、会見に同席した若き中居は、脱退を森のわがままだと世間から受けとられないように、笑いを織り交ぜながら懸命に森の挑戦を言祝いでいた。いま思えば、あれは現在につながる中居のMCの魅力が垣間見えた瞬間だったのかもしれない。
中居は以前、『プロフェッショナル~仕事の流儀~』(NHK)に出演したとき、「プロフェッショナルとは?」という質問に「一流の素人、一流の二流、最高の二番手」と答えている。太田氏はその言葉から、中居のMCの魅力をこのように導き出す。
〈「プロとは?」と聞かれて「素人」と答えるのは、一見つじつまが合わない。しかし、この答えのなかにこそ、ジャニーズとMC、さらにはアイドルとMCを両立させる秘密があるのだろう。中居正広にとっては、歌って踊るアイドルがMCをやるのではなく、MCこそがアイドルである素の自分を見せるにふさわしい仕事なのである〉
締めるときはきちっと締め、おどけるときは徹底的におどけ、SMAPメンバーと絡むときはアイドルらしい〈自然に醸し出されるイチャイチャ感〉〈アイドル的なかわいさ〉も忘れない。──本書を読むと、つくづく中居正広という人物の"つかみどころのない魅力"が立体的になっていく。
(大方 草)