下世話な芸能ゴシップから社会問題にいたるまで、視聴者の共感を集める鋭いコメントを放っては、その発言がたびたびニュースになるマツコ・デラックス。
ただ、どんな話題も明け透けに本音を語るマツコでも、実は自身のプライベートな話題に関してはそこまで大っぴらに明かすことはない。
「よく言われるじゃない、男の人のほうが引きずるとかさ。多少の期間は男のほうが引きずるんだろうけど、その後までちゃんと覚えてられるのって、女性のほうが覚えてる気がするんだけど、人によるのか? 私はもう、男か女かという判断は皆さんにお任せしますけど、まあ、性別上は男じゃない? 本当に覚えてない。もう、それこそ、どこに行って何したとか、そういうのとかほとんど覚えてないし、時が経てば経つほど忘れて。(不意によぎることも)まったくないね。(中略)チンコとかも全然覚えてないもん、もう」
昨年3月3日放送『アウト×デラックス』(フジテレビ)では、ここ15年ほど恋人はいないということを明かしつつ、こんなことを語っていたこともある。
「10年過ぎるとね、自分は何のために生きてんのか分かんなくなってくるよね」
「人を愛することって、けっこう人間の根源じゃない? それを10年以上してないってね、何のために私は存在してるんだろうって思う」
昔の恋の思い出はどんどん忘却の彼方へ消えていき、かといって10年近く恋人がいない以上、そのような思い出が更新されていくこともない。
では、まったくもって交遊もなく、完全にひとり寂しい生活を送っているのかといえば、そうでもないようだ。
実は、マツコには「友達以上恋人未満」と呼んでもいいかもしれない、ある人物がいる。その人物とは、人気AV男優のしみけん。最近では、雑誌連載や著書も多数出版、テレビ番組の出演も多く、AV以外の場での活躍も多い彼だが、そんなしみけんとの関係を、マツコは「週刊新潮」(新潮社)2012年6月21日号のなかでこのように語っていた。
「弟みたいな感じよ。
しかし、なぜ、マツコ・デラックスとAV男優にそんな深い関係があるのか? そのきっかけは、マツコがゲイ雑誌「Badi」(テラ出版)の編集者だったころまで遡る。前掲「週刊新潮」ではこのように語っている。
「私が(ゲイ雑誌の)「Badi」で編集者をしていたころ、彼がモデルに応募してきたのがきっかけよ。いろんな話をしているうちに、彼はセックスが純粋に好きなんだとわかったわけ。AV男優に向いていると思って、そう話したわ。
しみけんにとってマツコはまさに「恩人」といった存在である。そもそも、彼はAV男優になりたかった。だが、どこかのメーカーがAV男優を募集しているわけではない以上、ズブの素人ではどうすればAV男優になれるのかも分からない。そこでなんとかAV業界への足がかりを掴もうと、たまたま広告を見た「Badi」のモデル募集に応募した。ゲイ雑誌も同じアダルト業界。
しかし、半年が過ぎてもいっこうに自分の進みたい道への足がかりは掴めない。それもそのはず。ゲイ雑誌業界とAV業界は、一見似ているようで実はまったく違う業界。いくらそこで頑張ったところで、その道は自分の夢にはつながっていない。しみけんにそのことを教えてくれたのがマツコだったのだ。
〈ある日、「Badi」の撮影で九十九里浜に出掛け、待ち時間にロケバスのなかで担当編集のマツコさんとおしゃべりをしていました。
「お前、絶対AV男優になれ!」
「AV男優にならないと、将来、犯罪者になるぞ!!」
と、延々と「AV男優になれ!!話」が続き、「このままゲイのグラビアをやっていても、AV男優にはなれない」と知らされたのです。
このとき初めて、ゲイとAVは別の業界だということを教えられました〉
もしもマツコがいなければ、AV男優としてのしみけんは生まれなかったかもしれない。しかし、しみけんとマツコにあるエピソードは美談ばかりではない。しみけんは一度、マツコに殺されかけたことがあるそうだ。
〈当時の「Badi」では、なぜか「野外もの」の撮影が多く、首都高を走る軽トラックの荷台でふんどし一丁になり、トラック野郎のようなグラビアを撮ったこともあります。高速道路なのでスピードも出ていて危険だということで、モデルの僕が荷台から落ちないように腰縄をつけて、「これで大丈夫だから」と撮影に臨みました。ところが、無事撮影を終えて腰縄をほどこうとすると、縄の端っこがどこにも繋がれてない!? 「全然、大丈夫じゃない!」とひっくり返りましたが、このとき腰縄を結びそこねたのが当時「Badi」の編集をしていたマツコ・デラックスさんでした〉(前掲『AV男優しみけん 光り輝くクズでありたい』)
とはいえ、しみけんにとってマツコは「メンター」のような存在であるようだ。放送作家の鈴木おさむとAV関係者との対談を集めた『AV男優の流儀』(扶桑社)のなかでしみけんは、撮影で勃起できずスタッフに大迷惑をかけたのに落ち込んでマツコに悩み相談の電話をかけたときのことをこう語っている
「マツコさんなんて電話で「あの~」って言っただけで、「お前のあの~だけで、これからくだらない話が始まるのはわかってんだよ、なんだ?」って。勃ちませんでしたって言ったら、「知らねえよ! こっちはなぁ、風呂入ろうと思って裸なんだよ。お前のクソみたいな不条理な電話をどう切るかで頭がいっぱいなんだよ」って言われて。で、そんな扱いを受けると、「あ、なんだ、周りの人からしたら、そんな小っちゃいことなんだ」って」
先輩に悩み相談しようと思ってこんな返しが来たらますます落ち込んでしまう気もするが、それは二人の信頼関係あってのことなのだろう。恋人との思い出は、いったん別れてしまえばどんどん薄れていくが、友情はずっと続いていく。二人の関係はそういうものなのだろう。
(田中 教)