9月1日のきょう、関東大震災の犠牲者を追悼する式典が各地で行われた。墨田区の都立横網町公園では、関東大震災時のデマによって虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼式典が、市民団体によって催され、多くの人々が参列した。
そんななか、同じ横網町公園では、朝鮮人犠牲者追悼碑の前で行われた追悼式典の目と鼻の先、ほんの十数メートルの地点で、"虐殺否定論"に立つ在特会系市民団体「そよ風」が仕切る集会が行われた。本サイトで指摘してきたように、小池都知事の朝鮮人犠牲者追悼文拒否の背景には「そよ風」によるロビー活動が見え隠れしている。本サイトは、この「真実はここにある!関東大震災石原町犠牲者慰霊祭」との名目で開催された集会を取材した。
開始予定時刻の11時以前から、大量の警察官が集会場所を取り囲んで通路を封鎖、「そよ風」側以外の参加者や見学者を排除する動きを見せていた。一方、「そよ風」側の人数は多くても30人にも満たないほど。警官の人だかりの隙間から見えるのは、掲げられた日章旗と「六千人虐殺は本当か! 日本人の名誉を守ろう!」いう看板の文言。「慰霊祭」とは名目にすぎず、朝鮮人虐殺を否定する運動の匂いがプンプンしてくる。
実際、「そよ風」代表による開会の辞では「この真実の石原町犠牲者慰霊祭を契機に、反日日本人の手による自虐史観を払拭せねばなりません」なる言葉がいきなり飛び出した。その後、来賓として挨拶した人物も、極右政治団体「維新政党・新風」前代表・鈴木信行氏や、在特会と協力して排外主義デモを行なってきた「外国人参政権に反対する会」東京代表・村田春樹氏など、ヘイト運動界隈でおなじみの顔ぶれだった。
たとえば、鈴木氏は「まさにデマと嘘が新たにまかりとおってきたことは見過ごすことはできない。
見ての通り、あまりに露骨な歴史修正主義に唖然とするが、これこそ、「そよ風」の集会が慰霊や追悼を目的にしたものではなく、極右イデオロギーに基づく運動と同質であることの証左だろう。
さらに驚かされたのは、こんな極右集会に現役の区議会議員までが参加し、堂々と挨拶をしていたことだ。
この日、「そよ風」の集会でスピーチしたのは、地元の墨田区議会議員・大瀬康介氏。本サイトは集会終了後、区議を直撃した。
大瀬区議によれば、主催者から来場の依頼があったわけではなく「たまたま」「自主的に」「飛び入りで」参加したというが、一方で、本日この場所で「そよ風」の集会が行われることは事前に知っていたという。
集会への参加は「そよ風」の趣旨に賛同してのことかと尋ねると、大瀬区議は「というよりも」と言って、朝鮮人虐殺に関して呆れるような認識を語った。たとえば、関東大震災時に流れた「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」などの情報がデマであったことは当時の警察も認めている史実だが、大瀬区議は「朝鮮人暴動は流言飛語ではなく、事実です」と主張する。
「朝鮮人の暴動も、朝鮮人が火をつけてまわったのも事実です。実際、それでつかまってる。あるいは強盗をやったりしたのなんかも事実です。
また、デマを鵜呑みにした自警団による朝鮮人への暴行・殺害については「意図的に殺したとかじゃないわけでしょ。犯人を逮捕しようと思ったら、ピストル発砲したりするじゃないですか」と説明し、それでは自警団の行為は正当防衛という認識かと尋ねると、「基本的にはそういう考え方です」と頷いて、「自警団が朝鮮人を殺したからといって『虐殺』とは言えない」との考えを明らかにした。
念のため繰り返すが、「正当防衛」や「犯人逮捕のため」の前提となる、「朝鮮人の暴動」も「朝鮮人が火をつけてまわった」のも「強盗をやったりした」のも、当時の警察とマスコミが拡散したデマだ。当時の新聞画像をソースに、「朝鮮人暴動は事実」などと主張するネトウヨはたくさんいるが、それらがデマであったことは歴史学の常識だ。実際、当時、警察官僚として新聞を使いデマ拡散に加担した正力松太郎(元・読売新聞社主)も震災時のデマを認め、「警視庁当局として誠に面目なき次第」と反省の意を表している。無実の朝鮮人たちを徒党を組んで襲い、殺害して回るという行為はまさに虐殺としか言いようがない。
ところが大瀬区議は、朝鮮人虐殺の犠牲者を追悼する式典や、その主催者、あるいは「そよ風」の集会に対するカウンターたちについてこう語るのだ。
「それ(朝鮮人虐殺と呼ぶこと)は彼らの論理です。それを言うのはやはり、日本を陥れたい、あるいはアジアがひとつにならないと困る人たちですよ。早い話が、共産党とかが朝鮮半島を南北に分けちゃったわけじゃないですか、あれと同じ理屈で、日本も割ろうとしている。対日分断工作ですよ。今日、(集会開始前に)周りにいた(カウンターの)人たちも、やっぱり、あれは雇われた対日工作員だと思う」
そして大瀬区議は、結論として「朝鮮人犠牲者追悼碑を撤去すること」が「一番」だと言い、議会で訴えていくと宣言したのである。
「だって、無実の罪を後世の人に押し付けていいんだろうか、と。やはり、ちゃんと歴史を検証できるうちに、しっかり論理構成をたてて(朝鮮人犠牲者追悼碑を)撤去させないといけない。あれを見た人たちがね、たとえば朝鮮から来た観光客かなんかが、あそこを見せて、こういうことやってたんだよと言うわけです。だからこそ公の場に碑があるんだ、と言って宣伝するんですよ。だから、次の議会でも(撤去を)訴えていく。第三回定例会が今月ありますけど、そこでも言っていきます」
ようするに、「そよ風」の集会で挨拶した大瀬区議は、関東大震災の際の「朝鮮人暴動などのデマ」を「流言飛語ではない事実」だと主張して、日本人自警団らによる虐殺を「正当防衛」と評価するという"虐殺否定論"の典型的詐術を開陳し、そればかりか、朝鮮人犠牲者追悼式典を「日本を分断する対日工作」、さらにカウンターについても「雇われた対日工作員」などというネット右翼顔負けの言いがかりをつけたのである(なお、集会の途中で抗議者たちが暴力的に妨害したという事実はなく、「そよ風」は警察に守られながら最後まで集会をやり遂げた)。
まったくクラクラしてくるが、しかし看過してはならないのは、この大瀬氏が、区議として横網町公園の朝鮮人犠牲者追悼碑撤去を議会で訴えていくと鼻息を荒くしていることだろう。「そよ風」がロビー活動に精を出していることは前にも触れたが、こうした政治家と繋がることによって、露骨な歴史修正の運動を政治の場に反映させているということが、これではっきりしたわけである。
そう考えてもやはり、朝鮮人虐殺をめぐる右派の歴史修正運動は、水面下で想像よりもはるかに影響力を持っているということらしい。わたしたちは、決して"虐殺否定論"と慰霊碑撤去運動を「一部のトンデモがやっていること」などと軽視してはならない。本サイトでは、小池都知事の反応も含めて、引き続き、この問題を追及していくつもりである。
(編集部)