北朝鮮の平昌五輪への参加が決まった後もさまざまな対立が表面化して一進一退を繰り返している朝鮮半島情勢。ところが、1月30日放送の『ひるおび!』(TBS)で、あの八代英輝弁護士がその膠着状態を吹き飛ばすようなすごい奇策を口にした。
「韓国は北朝鮮の軍事パレードに参加するべき!」
究極の平和主義者や南北統一原理主義者でさえ口にしない、世界の常識を覆すような主張だが、もちろん八代弁護士はそういう思想の持ち主ではない。それどころか『ひるおび!』ではスシローこと安倍御用記者の田崎史郎の露骨さの陰に隠れ、ソフトな語り口でニュートラルに映っているが、八代弁護士の思想的本質は安倍応援団やネトウヨに近い。
実際、かつてレギュラーだった『たかじんNOマネーBLACK』(テレビ大阪/2015年に終了)では、番組の影響力が低いと思って気を許していたのか、露骨な安倍政権擁護を繰り返していたし、『ひるおび!』でも、韓国や中国に話題が及ぶと、感情的としか思えない嫌韓反中発言をしばしば口にしている。
たとえば、ここ最近は、さんざん平昌五輪バッシングを展開していた。韓国が北朝鮮の五輪参加を受け入れたことについて「五輪の政治利用そのもの」「世界は韓国を非難している」などと罵倒したかと思えば、日韓合意見直し問題で安倍首相が平昌五輪欠席をちらつかせると「安倍首相は行かなくていい。平昌五輪なんて全然盛り上がってない」と大演説。あげくは、女子アイスホッケーの韓国・北朝鮮合同チーム問題を取り上げた番組に対して、「他国のチームはどうでもいい、スマイルジャパン(日本代表)のことだけでいい」と噛み付く始末だった。
そんな八代弁護士が「韓国は北朝鮮の軍事パレード参加するべき!」などと言い出したのはなぜか。いや、それだけでなく、八代弁護士はこの日、北朝鮮擁護としか思えない論理まで口にしていた。
それはこの日の『ひるおび!』の新聞記事紹介コーナーで、北朝鮮が平昌五輪に合わせて2月4日におこなうことで合意していた「南北合同文化行事」の中止を韓国側に通告した、というニュースを取り上げたときのこと。番組では「韓国メディアが北朝鮮を冒涜しているから」という北朝鮮側の表向きの言い分、さらに五輪開会式前日に北朝鮮がおこなう軍事パレード批判に北朝鮮が怒ったという見方を紹介した。
すると、八代弁護士、なぜか猛然と北朝鮮擁護を始めたのだ。
「北朝鮮にすり寄るって決めたんだから、韓国に北朝鮮を批判する資格はない」「北が態度を硬化させるのは当然」
そして「北朝鮮側が軍事パレードに際して韓国軍の将校を招待するというなら応じるべき」と言い出し、冒頭で紹介した奇策を主張しはじめたのだった。
「韓国は平昌オリンピックに関して、不人気を払拭するために全面的に北朝鮮にすり寄るということで方針を決めたわけですよね。だとしたら、北朝鮮が軍事パレードをするのを批判するというのは、逆におこがましいと思うんですよ。これに対して北が態度を硬化してもある意味当然かなと僕は思ってしまいますし、むしろ北側が軍事パレードに際して韓国軍の将校を招待するというなら応じるべきだと思いますよ。敵同士であっても軍隊が交流をもつというのは非常に大事なことですし、相手の装備であったり、相手の言葉であったり、指揮系統も知ることができますから、虎穴に入るというのはすごく大事なことなんですね」
MCの恵俊彰も、このトンデモ主張にはさすがにギョッとした表情で「そんなことしたら国際社会、大変なことになるんじゃないですか!?」とツッコんだ。
しかし、それでも八代は発言を修正することなく、「日本も中国軍やロシア軍と演習してますし、有事のときにぶつからないための信頼関係は必要なんですよ」と強弁し続ける。
恵はさすがにまずいと思ったのか、かぶせ気味に、「でも、北朝鮮ですよ!?」「核開発やってる国の軍事パレードに参加するんですか!? 呼ばれたからって!?」と声を荒げてツッコミを重ねるが、八代はそれでも引かない。
「軍事パレードに参加するんじゃないですよ。将校を観閲に送るだけですよ。一緒にパレードに参加しようっていうんじゃないですよ。視察のために将校を送るってこと自体を、そんなに目くじらてたてることじゃないんじゃないかなと僕は思います。一緒に兵器と並んで行進しだしたら問題だと思いますけど」と続けたのだ。
北朝鮮の軍事パレードに一緒に並んで行進するなんていうのはそもそも中国やロシア軍だってありえない話で、そんなことは誰も言っていないのだが、意地になっている八代弁護士は、とにかくひたすら韓国に北朝鮮軍事パレードへの参加するよう説き続けたのだった。
もちろん、八代弁護士が唱える南北の軍交流が本当に実現するなら、それはそれで結構なことだ。このタイミングでもし韓国軍幹部が北朝鮮の軍事パレードに招待され、観閲するなどという展開になったら、北朝鮮vs日米韓という対立構図の枠組みが崩れ、それをきっかけに朝鮮半島の緊張が緩和される可能性もある。
しかし、朝鮮戦争はまだ休戦状態にすぎず、終結していない。しかも、北朝鮮が核開発をどんどん進めているいまの状況で、さすがにそんなことができるはずがないだろう。実際にやったら、韓国が国際社会から袋叩きにあうだろうし、それ以前に、米韓合同軍事演習にナーバスになっている北朝鮮が韓国をパレードに招くはずがない。どう考えても、八代弁護士の主張は荒唐無稽なファンタジーでしかないのだ。
ただ、そんなことは、国際派弁護士を名乗る八代氏だってわかっているはずだ。いや、国際派とは関係なく、中学生でもわかる。にもかかわらず、八代弁護士がこんな無茶苦茶を強弁し続けたのは、"韓国憎し"のあまりだろう。
前述のように、八代弁護士はとにかく、韓国に対する嫌悪感が半端なく、最近は平昌五輪を徹底的に攻撃していた。そんな八代弁護士にとって、韓国が平昌五輪に北朝鮮を招待して、平昌五輪をきっかけに朝鮮半島の緊張が緩和しそうなことは我慢ならなかったのだろう。
しかも、その裏側には"韓国が北朝鮮と一緒になってくれれば、思う存分、韓国を攻撃したい"という個人的願望さえ透けて見えていた。
北朝鮮問題を語っているうちにいつのまにか北朝鮮よりも韓国攻撃に夢中になるというのはなんとも倒錯的だが、実は、この倒錯は、ネトウヨにも共通するものだ。実際、ヘイト的な言論をみても、この状況下でさえ、北朝鮮よりも韓国ヘイトのほうが圧倒的に多い。
そう考えると、今回の発言は八代弁護士の普段の韓国中国批判がプラグマティズムにもとづくものではなく、むしろ差別感情にもとづいたネトウヨに近いということの証明とも言えるだろう。
ちなみに、八代弁護士がもしこの記事を読んで、自分の韓国批判が感情的なものでないというなら、ぜひ、今回の韓国と北朝鮮の軍事交流という計画をこれからもブレることなく主張し続けていってもらいたい。八代弁護士のような右派コメンテーターが一回転して、こんな究極の平和主義的主張をするのは、それはそれで、なかなか意義深いとは思うので......。
(編集部)