慰安婦問題や徴用工問題、レーダ照射問題などで悪化する一方の日韓関係。今月には、韓国の文喜相国会議長が米ブルームバーグのインタビューで、「戦争の主犯の息子である天皇(原文は日王)が慰安婦のおばあさんたちに謝罪しなければならない」と発言(朝鮮日報)。

これに対して、日本政府が「発言は甚だしく不適切」(安倍首相)、「極めて無礼」(河野太郎外相)などと反発し、ますます対立が深まっている。

 こういうときこそ、メディアは冷静な報道をしなければならないはずだが、実際はまったく逆。テレビを中心に「韓国けしからん」の大合唱を繰り広げている。しかも、“嫌韓ムード”を煽るだけではなく、ほとんどヘイトスピーチと化しているものも少なくない。

 その典型が、テレビ朝日の『ワイド!スクランブル』だろう。同番組といえば、昨年のリニューアルで、安倍政権擁護や右派的主張を連発する小松靖アナウンサーをMCに抜擢。
元テレ朝政治部記者で、現在は『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)、『ニュース女子』(DHCテレビ)などでおなじみの“安倍応援団ジャーナリスト”末延吉正氏らがコメンテーターを務める番組。その21日放送、むき出しのヘイトが垂れ流されたのだ。

 番組では、文議長の「天皇謝罪」発言を中心に日韓関係を特集。コメンテーターとして出演した漫画家の黒鉄ヒロシ氏が、スタジオでこんな持論を展開したのだ。

「歴史みたいなね、(韓国に)煮え湯飲まされっぱなしなんですよ。そのたびに、日本が仲良く常識的にっていったら、かならずひどいことになる。
文禄・慶長の役で和睦になって、それじゃあ帰りますってなったら後ろから撃ちかけてくるんですよね。条約無視も甚だしいわけ」

 いったい、この人は何年前の話をしているのかと呆れるが、さらに黒鉄氏は自作のイラストを示し、そのなかに描いた慰安婦問題を象徴する「少女像」を指してこう続けた。

「従軍慰安婦の像ってあるでしょ。あれのアメリカ兵がジープで女の子を轢いちゃったそのときにできた像なんですよね。これで倉庫に入れてあったのを引っ張り出して流用。そういうね、常識ではない」

 言っておくが、これ、まったくのデマである。


 詳しくは本サイトの記事(https://lite-ra.com/2017/12/post-3635.html)を一読いただきたいが、いい機会なので簡潔に振り返っておこう。ソウル日本大使館前に建てられた有名な少女像(正式名称は「平和の碑」ないしは「平和の少女像」)は、彫刻家のキム・ウンソン、ソギョン夫妻による芸術作品だが、数年前からネトウヨ界隈では「少女像は米軍装甲車事故被害者像の転用」なる説が流通。そのネトウヨデマを丸呑みするかたちで、極右雑誌「WiLL」(ワック)2017年10月号が「『慰安婦像』のモデルは米軍犠牲者の少女だった」(田中英道)と題して拡散。「週刊文春」(文藝春秋)まで「『慰安婦像』の正体を暴く!」などと後追いしたこともある。

 しかし、キム夫妻は確かに、2002年の米軍装甲車事件で亡くなった女子中学生を追悼する作品も発表しているが、それは、二人の幼い少女が肩を組んでいるという像で、慰安婦の「少女像」とは全くの別物なのだ。しかも、ネトウヨ界隈では米軍装甲車事故の被害者の少女の写真と、「少女像」の髪型がそっくりだ、などと言って「転用」の根拠としているが、本サイトでも画像を引用して紹介したように、二つの像は髪型から頭身まで一点も類似性がない(岡本有佳・金富子責任編集/世織書房『〈平和の少女像〉はなぜ座り続けるのか』に収録)。
なお、産経新聞の元ソウル支局長である加藤達也・社会部編集委員も2017年6月17日に行われた公益社団法人國民會館主催の講演会のなかで「当時の記録を調べましたところ、米軍装甲車の女子中学生轢過事件の後にできた像と、慰安婦の像は別物です」と明言している。

●韓国人を一括りにして、「病気」「日本に核を撃つ民族」「嘘でも通る」

 ようするに、これは「慰安婦像のモデルは別の事故被害者の少女」という虚説をばらまくことで、少女像が持つ意味を打ち消そうという卑劣なデマゴギーだったわけだ。にもかかわらず、黒鉄氏は本サイトなどがとっくのとうに指摘しているこんなネトウヨデマを、恥知らずにもテレビで披露し「常識ではない」などと批判しているのだ。

 常識がないのはこの漫画家のほうだが、さらに黒鉄氏はこんなヘイトをまくし立てていた。

「物語を優先する国なんで、自分たちに都合が悪いと歴史をも改ざんしてしまう。だから、冷静につきあえないんで、喧嘩しなくてもいいけども、ほどほど無視のね、『また病気がでられましたか?』みたいなことで諌めるしかないんじゃないか」
「朝鮮民族の日本に対する考えかたって(核ミサイルを)撃つって可能性あるんですよ」
「彼らは優先順位が違いますよね。
僕らはやっぱり常識で、西洋的価値観なんですよ。日本はもともとそうなんですよ。常識の国。義の国ですから。(韓国は)嘘でも言っていれば通る」

 あきらかに韓国人を一括りにして、「病気」「日本に核を撃つ民族」「嘘でも言っていれば通る」などとレッテルを貼り、国籍・民族差別を扇動するヘイトスピーチだ。

 そもそも黒鉄氏といえば、産経新聞社の月刊誌「正論」などにも寄稿している保守論客で、安倍応援団の一人だ。
たとえば2012年に安倍氏が自民党総裁に返り咲いたときも、〈安倍氏の首相就任時の「美しい国日本」という演説は全体を俯瞰していた。突然辞任したと批判されるが、病気が理由で、政策に瑕疵はなかった〉(神戸新聞2012年9月27日など)と擁護してきた。

 しかもこの黒鉄氏、公共のテレビ番組で言葉を失うようなヘイトを重ねたという事実自体、極めて問題だが、実は2017年度までテレビ朝日の「放送番組審議会」の委員を務めていたのである。

 テレ朝の放送番組審議会というのは、〈番組内容の充実・向上を目指すことを目的〉(テレビ朝日HPより)として各界の有識者で構成される組織だが、現在の委員長は、安倍首相の“大ファン”を公言する幻冬舎・見城徹社長。さらに委員として秋元康氏やサイバーエージェントの藤田晋社長が脇を固め、「テレ朝の政権忖度の象徴」などとも批判される組織だ。実際、数年前からはテレ朝の株主総会でも、安倍首相礼賛を繰り返している見城氏らに審議会委員の資格があるのか疑問視する声があがっているが、テレ朝側はいまだに見城氏らを要職につけ続けている。

 本サイトでレポートしてきたように、安倍首相と会食を繰り返す早河洋会長のもと、看板報道番組『報道ステーション』から政権に批判的なニュースが消えていくなど、どんどん政権忖度の度合いを増しているテレ朝。放送番組審議会の委員だった黒鉄氏が、まるで韓国政府と対立する安倍政権の後方支援的な韓国ヘイトを撒き散らしたのも、偶然ではないだろう。

 元番組審議会委員が安倍首相の本音を代弁するかのような差別の扇動を繰り出したのを見るにつけ、もはや、この“政権忖度放送局”に自浄作用など期待できないのかもしれない。
(編集部)