国が新しい発明や研究に独占的な使用権を認める「特許」。一発当てれば億万長者になれると都市伝説のように言われているが、実際に出願しているのは最先端企業や専門の研究者、あるいはドクター中松のようなちょっと変わった人というのが一般的なイメージだろう。

だが、その実、特許とは縁もゆかりもなさそうな著名人が一攫千金を夢見て出願し、しかも実際に認められた発明も少なくないという。

 少し前に出版された『すばらしき特殊特許の世界』(稲森謙太郎/太田出版)では、出願人やその内容が"ふつうじゃない"ケース、つまり有名人による特許やちょっとトンデモな特許などが多数紹介されている。

 たとえば、ダウンタウンの松本人志。言わずと知れた天才芸人が発明した目覚まし時計「時をかけるおっさん」は、ネーミングはともかく意外に実用性が高そうだ。

 この発明品は、目覚まし音が鳴る報知器と、それを停止させる信号発信器を別々にして、後者を寝室から離れた部屋に設置するところがキモ。アラームを止めるためには絶対に布団から出なければならないから「必ず起きられる」というわけだ。

 ちなみに松本自身、遅刻グセが治らないという現実問題を抱えていたという。ありそうで無かったシンプルな着眼点がいかにも松っちゃんらしい。また、煙草に火をつけようと開ける度に回数がカウントされて、1日に吸う煙草の数が分かるライターホルダー「ライターのおっさん」もなかなか実用的。これらはダウンタウンの番組企画で出願されただけだが、もし特許が認められていたらン百億とウワサされる松ちゃんの貯金残高が一桁増えていたかもしれない!?

 さらに、驚かされたのは国民的アイドルグループAKB48を生み出した秋元康だ。こちらはなんと恋愛ゲームプログラムの特許。要約すると、「プレーヤーはある実在のアイドルグループ全員から求愛されていて、任意で決める本命以外をフってフってフりまくることで本命の好感度がアップする。
そして、振った人数が多いほど、素晴らしいエンディングが待っている」というプログラム。......うーん、このセンス、思わず唸ってしまう。 

 しかも、たんにフればいいだけでなく、フったことで減少する「良心耐久度」なるものが設定されており、その残数が足りなくなると本命以外の女の子の告白を強制的に受けなければならない。この「ほろ苦いバッドエンディング」が"既存のゲームにはない新しさ"というふれこみらしい。

 なんかツッコミどころしか見あたらないが、秋元はこの発明の設定を少し変え、実際に『AKB1/48アイドルと恋したら...』シリーズとして発売。ミリオンヒットを飛ばしたというからさすが、としか言いようがない。

 さらにページをめくれば、作家デビュー直前のエンジニア時代に『ガリレオ』も思いつかない発明で特許を取得した東野圭吾、「古代エジプトビール」を再現したという考古学者・吉村作治など、思いもよらない人たちによる特許出願を知ることができる。

 もちろん、本書では著名人以外の特殊特許も数多く紹介されている。たとえば、スタンガン搭載のデンジャラスな"暴漢撃退機能付きデジカメ"や、少子化社会に警鐘をならす(?)"離婚阻止型エンゲージリング"、日本人のルーツである縄文人と弥生人をカップリングに活用した"結婚情報システム"など、センス・オブ・ワンダーを誘うものがいっぱいだ。

 意外なのは、こ難しい理論や発明だけでなく、誰でも思いつくようなシンプルな発想で特許をとった例も少なくないということ。

「これぜったい特許とれるよ!!」

 ジョッキ片手に居酒屋で一席ぶったことのある貴方、そのアイデアは単なる思いつきだろう。たぶん、ありふれてもいるだろう。
でも一度本書を読んで、改めて違った角度からみてみると......それはもしかしたら、一攫千金の布石になるかもしれない。
(藤谷良介)

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