テレビでは改元のお祭り騒ぎがつづくが、そんななか、SNS上を大きくザワつかせる“事件”が起こった。
昨日、自民党が新たな広報戦略「#自民党2019」プロジェクトをスタート。
さんざん新元号を政治利用してきた安倍首相だが、それだけではなく、改元とあわせ、著名なキャラクターデザイナーを起用して大々的な広告キャンペーンを張るとは──。潤沢な政党交付金にモノを言わせる自民党らしいやり口だが、話題になっているのは、そのイラストだ。
今回のプロジェクトで自民党が開設した特設サイトでも、やはりこのイラストが使用されているのだが、それは荒々しく勇ましい野武士ふうの7人がV字に並んでいるというもの。
だが、問題はここから。この主人公っぽいキャラをクリックすると、なんとそこに「第二十一代・第二十五代 自由民主党総裁 安倍晋三」という文字が出てくるのである。
……ようするに、どう考えても、このイケメン武士が安倍首相、ということになるだろう。これはバグっているのか、新手のギャグなのか、それとも本気なのか。
〈自民党の7人の政治家が7人の侍の姿となって新時代を切り拓いていく劇画、そんなイメージキャラクターを墨絵で描いて頂きました。(中略)真ん中に立つのは言わずと知れた安倍総理です。我々の決意が一枚の水墨画になります。〉
「イメージキャラクター」とはいえ、普通、少しは本人の特徴が織り込まれるものだが、このキャラはどこをどう取っても安倍首相とは似ても似つかない。
当然、SNS上ではツッコミが殺到しているが、しかし、安倍自民党によるこのプロジェクトを笑ってばかりもいられない。
というのは、世界的なキャラクターデザイナーを起用した広告だけではなく、そのほかの部分でも、これまでにない政党PR展開になっているからだ。
たとえば、話題のイラストとともに公開されている動画では、ダンスやBMX、落語やファッションなどさまざまな分野で世界を目指す13~17歳の十代という十代の表現者たちが登場。そうした未来ある若者たちの輪に安倍首相が加わり、「未来をつくりたい」と宣言する──。
子どもの貧困問題はもちろん、待機児童問題を置き去りにして不平等を助長しかねない幼児教育無償化を進めたり、こども食堂を民間に任せっきりにしたりと、まったく子どもの「未来をつくる」ための政策を怠っているくせによくも言ったものだと呆れるが、しかし、そうした安倍首相の怠慢を知らない人がこの動画だけを見れば、そのスタイリッシュな映像に、「前向き」「なんか新しい」というイメージを抱くのではないか。
●天野喜孝に加え『おっさんずラブ』も手がけた映像クリエイター集団も動員
それもそのはずで、実際、この映像を企画・制作したのは映像クリエイター集団である「solo」。昨年ブームを巻き起こしたドラマ『おっさんずラブ』の監督や、アジア、アメリカなど海外でも公開された映画『東京喰種 トーキョーグール』の監督、日清カップヌードルやHONDAのCMなどを手がけた映像ディレクターなどが参加しており、メンバーそれぞれが海外の映画賞・広告賞で評価を受けてきた経歴の持ち主だ。
天野喜孝氏に、気鋭の映像クリエイター集団による演出。しかも、今回の自民党のプロジェクトはこれで終わりではない。甘利議員は前述したブログで、〈更には、ファッションとのコラボレーションもしていきます。
このような広告戦略を安倍自民党が仕掛けたのは、無論、若年層を取り込むためだ。毎日新聞(5月1日付)によると、〈安倍内閣への若年層の支持率が高年層より高い傾向があることに目を付け、支持基盤を拡大するのが狙いだ〉という。
そして、今回の街頭広告や特設サイトを見ると、大企業による広告展開のようなブランド感と、革新感が漂っている。
さまざまな疑惑や不正などなかったかのように「新時代の幕開け」などと銘打ってリセットしようとすることは、厚顔極まりなく、政権与党としての責任など微塵も感じられない。しかし、これこそが安倍自民党なのだ。
実際、特設サイトのトップ画面では、「新時代の幕開け」という大きな文字のバックに、「もっと自由にして欲しい」「自分らしくいたい」などさまざまなメッセージが流れるのだが、そのなかには「伝統を超えたい」「古い価値観もアップデートしていく」というものまである。性的マイノリティーに対して「生産性がない」(杉田水脈)「この人たちばかりになったら国はつぶれてしまう」(平沢勝栄)と発言する議員を抱え、「伝統的家族観」を押し付ける政党が「伝統を超えたい」とは、あきらかに「お前が言うな」案件だが、そんな批判など、安倍首相にとっては馬耳東風。ようするに「やってるイメージ」だけが生成できればそれでいいのである。
批判をよそに、巨額の広告費とクリエイティブによって展開され、つくりあげられていく安倍自民党の革新的ブランド感。似ても似つかないキャラクターの捏造にツッコんでいる場合ではないのかもしれない。
(編集部)