「マスコミはいい加減、イスラム国と呼ぶのをやめろ」「イスラム国じゃなくてISILだろうが」
いま、ネット上では過激派集団「イスラム国」の呼称問題が大きな議論を呼んでいる。イスラム国という呼称を使うことで、実際にイスラム国という国が存在するように誤解を招きかねない、というのがおもな指摘だ。
ISILとは「Islamic State in Iraq and the Levant」の略で、訳すと「イラクとレバントのイスラム国」となる。CNNの報道によれば、アメリカ政府がこの略称を使用する理由は「組織がイラクやシリア以外の国への拡大を視野に入れているとみられること」と「米政府はカリフ制イスラム国家を設立するという組織の計画を認めない立場を取っている」からだという。
ちなみにそのCNNは「ISIS」を使用しているが、こちらは「Islamic State of Iraq and Syria」(イラクとシリアのイスラム国)の略。ISILにせよISISにせよ、あるいはISにせよ、どのみちIslamic State=イスラム国と入っていることになる。
で、日本のマスコミはどうかというと、NHKにしても民放にしても、テレビでは「イスラム国」を使用。新聞も、政権にべったりの産経新聞も読売新聞も「イスラム国」で通している(2月5日現在)。こうした状況に苛立ち、ネット上では「日本政府に倣ってイスラム国の使用をやめろ!」という声が高まっているのだ。
とはいえ、安倍首相が「ISIL」と言い出した理由は、結局アメリカに忠犬っぷりを示しただけだ。これまで本サイトで何度も報じてきたように、安倍首相は人質にとられた湯川遥菜さん、後藤健二さん救出に動かなかったばかりか、命の危険に晒すような暴挙にさえ出ていた。これは"見殺しにした"と言っても決して過言ではない問題である。
もちろん、本サイトが「ISIL」でも「ISIS」でも「IS」でもなく、「イスラム国」を使いつづけてきた理由はこれだけではない。もっとも大きな理由は、これまで伝えられ、周知されるようになった「イスラム国」の残忍なテロ集団という印象が、聞き慣れないアルファベットに置き換えることで薄れてしまうのを懸念したからだ。さらにいえば、読者のなかには当然、「イスラム国」という表記から「ISIL」「ISIS」「IS」などと変更されれば混乱をきたす者もいる。新聞・テレビがいまも「イスラム国」を使用しつづけるのも、きっと同じ理由からだろう。
だが、考えなくてはいけないのは、イスラム教徒への影響だ。愛知県のイスラム礼拝所には、「日本から出て行け」「家族構成は分かっている」「殺す」「日本人の敵だ」などという脅迫や嫌がらせの電話が相次いでいることを毎日新聞(2月5日付)が伝えているが、こうした行動が「イスラム国」という言葉の意味を誤解し、「イスラム国=イスラム教徒」と誤って解釈していることが原因で行われている可能性はある。あまりに短絡的すぎないか、という疑問もあるが、それよりも、このような暴力が罪のない人たちにおよぶことは防がなくてはいけない。
しかし、それは単純に言葉を置き換えたら済む問題なのだろうか。「テロに屈しない」と安倍首相は繰り返すが、その前にわたしたちが行わなくてはいけないのは、ムスリムに対する理解を深めることではないか。
考えなくてはいけないことは山ほどある。移民にひときわ厳しいフランスで、ムスリムたちはシャルリーの風刺をどう捉えていたのか? 「イスラム国」という過激派組織に世界中の若者たちが賛同する原因には、各国の欺瞞が隠されていないか? そもそも「イスラム国」をつくりあげてしまったアメリカの中東政策を日本はどう見つめ直せるのか? ......こうしたことをひとつひとつ考えていくには、中東とその民族の歴史、イスラム教への深い理解が必要だ。
必要だ、と偉そうに言いながら、筆者自身、いまだ右往左往している。だが今後、中東と日本のこれからを考えていく上で必要な知識を掬い、伝え、広げていくことも、本サイトの重要な課題であることに違いはない。前述したように、過激で残忍なテロ集団であるというイメージをもっとも多くの人が抱いている「イスラム国」という呼称を本サイトでは使用していくつもりだが、これもまた、編集部でその都度検討し、あらためる機会も出てくると思う。
ただ、いま日本に起こっていることは、ありえないほど恐ろしい事態だ。テロという恐怖を国民に煽り、責任から逃れようとする安倍政権。そして、政権に都合の悪いことは口をつぐみ、人質事件の真実追及さえ行わない翼賛的な報道。──本サイトではこうした状況に抗い、隠されようとしている事実を暴いていきたいと考えているが、この国で異常な事態が進行していることだけは、ひとりでも多くの読者にしっかりとわかってほしいと願っている。
(編集子)