元グラビアアイドルの小向美奈子が覚せい剤所持で逮捕された。今回で3度目の逮捕だ。
2009年2月に覚せい剤取締法で執行猶予付きの有罪判決が下された小向だが、芸能界復帰は順調とはいかなかった。「浅草ロック座」でストリッパーとして復帰したが、その後もアダルトビデオ出演などが中心で、かつての活躍とはほど遠いものだった。
「いつもお酒ばかり飲んでいたようですが、覚せい剤にも再び手を出していたとの噂も絶えなかった」(事件を取材したスポーツ紙記者)
小向はなぜ再びクスリに溺れ、3度目の逮捕となったのか。最初の事件後に出版された"懺悔本"『いっぱい、ごめんネ。』(徳間書店/09年11月)を読むと、その原因とも思える理由を垣間みることができる。
両親と3人の兄妹に囲まれて育った小向だが、家族はごく普通の家庭だった。小向はちょっと気が強く、幼稚園では男の子と喧嘩もする活発な少女だった。しかし、小学生くらいから、安室奈美恵に憧れてメッシュを入れたり、不良に憧れるようになる。小学生でタバコを吸って、両親にこっぴどく怒られたこともある。異性に対しても早熟で積極的だったらしい。
「初めて男の子とKissしたのは、中学1年の夏(略)小学生のころから大好きでいつも、顔を合わせるたびに、『好き、好き』って言っていた」
相手に半ば脅迫のように答えを迫り、一緒に行った夏祭りでキスをした。初体験も同じ時期だった。
「どっちが誘ったというわけじゃない。何となく、ベッドの上でごろごろしだして、じゃれついて、どちらからともなく抱き合って......」
13歳の初体験だった。彼とは自然消滅したが、15歳でスカウトされ芸能界に入った後、小向の人生を決定づける男性と出会ったという。不良仲間のお姉さんに連れられて行った居酒屋で知り合った2歳年上の無職の男だ。
「いつでも、どこでも......彼の腕に抱かれていたい」
恋愛にのめり込んでいく小向だが、ほどなく異変が襲う。妊娠だった。だが、産婦人科の待ち合い室で男は「ベビーベッドも必要だろう」と子供を産むことを了承した。
「思いつく限りのベビー用品を次々に上げては、指を折る彼の姿を見上げながら、私は幸せに包まれていた」
しかし幸せは長くは続かなかった。3度目の定期検診の直後、小向の目の前で男はバイク事故にあってしまったのだ。
「左から交差点に進入してきたクルマと、彼のバイクが激突する。
衝撃で投げ出された彼の身体が、コマ送りのようにゆっくりと宙を飛んだ」
彼は帰らぬ人となった。その直後、小向は流産してしまう。
「殴られたようにお腹が痛み出した私は、トイレに駆け込んだ。
激しい出血と、抉られるような鈍痛。
便器に飛び散った赤い血の中に、それは浮かんでいた」
その後も小向の男性遍歴は続いたが、それはあまりに刹那的ともいえるものだったらしい。人気絶頂で毎晩遊び回っていた19歳のときの心境を、小向はこう語っている。
「早朝、タクシーに乗ってひとりで家に帰ってきたとき、両手で自分の身体を抱きしめたくなるほど寂しさを感じることがあった。心の隙間を男の温もりで埋めたいと思ったことも一度や二度じゃない(略)。誰でもいい、男の人と肌を重ね合わせながら、安心して眠りたい...」
そんな時に出会ったのが日系アメリカ人のリチャードだった。しかし彼は小向の財布から現金をかすめ、大麻を買うような男だった。別れ話を切り出した小向に対し、リチャードは納得せず、殴りレイプをした。
小向が覚せい剤と出会ったのも、男絡みだった。21歳のころ付き合っていた男の家に行った小向は、その男が自分の腕に注射をしている場面に遭遇した。
「頭が真っ白になり、思考回路が完全にストップしてしまった私に向かって、目の前の男が口を開いた。
『ほら、お前もやってみるか!?』」
恐怖や不信感もあり、タバコを吸う振りをして何度かやり過ごしたが、しかし、たび重なる男の要求で、遂にクスリに手を出してしまう小向。そして男はクスリを決めた後のセックスで、快楽から逃げようとする小向にこう囁いたという。
「無理だよ、美奈子。クスリをやっている限り、セックスから逃れることはできないんだから」
だがクスリに手を出した後の男は豹変した。小向を拘束し、気に入らないと殴る蹴るの暴力を振るう。両手では数えきれないほどクスリを吸わされた。その度に小向は思ったという。
「私はクスリに溺れたんじゃない。
私が溺れたのは、愛していた、愛してくれていると信じていた男...」
クスリを使ってのセックスも別れられない理由だったと認めつつ、男への愛を語る小向。しかし、遂に限界が来た小向は1年半後、男の家を逃げるようにして飛び出した。だが、新しい生活を始めたのも束の間、「話をするだけ」との約束で男と再会すると、男は小向が仕事に行くことも許さず、軟禁状態に置いた。もちろん暴力も続いた。そして仕事ができなくなった小向は、それが原因で08年9月に事務所を解雇され、翌09年1月には覚せい剤取締法違反で逮捕、起訴されたのだ。
本書では、事件との関係もあるのか、クスリや男性遍歴もかなりボカして書かれてある。しかし、少なくとも孤独感を埋めるためにひたすら男を求め、すがるしかない小向の姿がそこにはある。そして悲しいことに小向には男を見る目が決定的に欠けていた。小向がクラブなどで出会い、優しく甘言を囁くのはクスリを勧めるロクでもない男たちばかり。そして付き合い始めると暴力を振るい、不当に拘束する。そこから逃れようともがくが、結局は孤独や快楽に流され溺れていく小向──。
実際、小向の周りには常に男の陰があった。
それは最近になっても変わらなかったようだ。
3度目の逮捕後に発売された「フラッシュ」(光文社)2月24日号では、1年半前に小向と付きあっていたという "年上の男"がこうコメントしている。
「彼女とは1年間つき合いました。(略)クスリのことは僕は知らなかった。僕の前ではしなかったし、気配もなかった」
小向はこの"年上の男"と別れた後も、六本木のサパークラブに務める男性と交際していた、いや、別の男性と同棲していた、などといくつもの男性関係が取り沙汰されている。
小向は本書のなかで「2度とクスリはやらない」との決意とともにこんな夢を語っていた。
「もう一度、すべてを投げ捨ててもいいと思える人と巡り会い、純粋な恋をする。そして、愛する人の赤ちゃんを産む」
しかしその夢を叶えるためにも、そして今度こそクスリを断ち切るためにも、まず、恋愛依存体質をなんとかする必要があるのではないか。小向の過去を改めて読んでみると、そんな気がしてならないのだが......。
(林グンマ)