疑惑の中心人物でありながら「桜を見る会」の追及から逃げつづける安倍首相。21・22日におこなわれた朝日新聞の世論調査では内閣支持率が38%、不支持率が42%となり1年ぶりに不支持率が支持率を上回った。
だが、当の本人には反省の色はまるでなし。なかでもつくづく呆れたのは、今年を振り返ったときの安倍首相のコメントだ。
安倍首相は21日に日本橋三越本店でおこなわれている「第60回 2019年報道写真展」の会場を訪れ、鑑賞。同展ではこの1年を振り返る写真300点が展示されているが、安倍首相は鑑賞後、記者団にこうコメントした。
「いま、写真展でも拝見させていただいたのですが、もうずいぶん前のことのように思えますけども、令和初の国賓としてトランプ大統領をお迎えしました。そしてまた、日本で初めてのG20、大阪で開催しました。世界中からリーダーたちが集まった年でもありましたけれども、また、即位礼正殿の儀で本当にたくさんの人たちが日本を訪問していただいたと思います」
何を言い出すかと思えば、よりにもよって海外メディアから嘲笑のネタにされたトランプ大統領への過剰接待を得意気に振り返るとは……。だが、呆れたのはこのあと。安倍首相はさらにこうつづけた。
「また、ラグビーW杯、世界中のスポーツファン、ラグビーファンが日本にやってきた。日本は世界の真ん中で輝いた年になったのではないのかと思います。
ネトウヨ以外まるで実感のない「日本が世界の真ん中で輝いた年」という総括も驚きだが、挙げ句、「新しい日本の国づくりを進める」などと写真展とはまったく関係のない憲法改正の話題まで持ち出したのである。
いかに安倍首相が自己中心的なものの見方しかできないかがよくわかるコメントだが、しかし、このコメントでもっとも問題なのは、安倍首相が写真展である事実をあらためて目の当たりにしたというのに、それを無視したことだ。
安倍首相は今年1年を「日本が世界の真ん中で輝いた年」などと宣ったが、今年1年で忘れてはいけないのは、激甚災害指定を受けた災害が3件も発生するという「自然災害に襲われた年」だったということだ。
そして、この写真展でも、台風によって被災した各地の様子が伝えられ、たとえば千曲川の堤防が決壊して泥水が町を飲み込んだ様子や、浸水被害を受けた北陸新幹線など、数々の災害報道写真が並んでいた。
実際、18日におこなわれたオープニングセレモニーでは、ラグビーW杯の日本代表である田中史朗選手がテープカットをおこなったが、写真展を鑑賞して田中選手は「ラグビーだけに集中してきたが、日本や世界ではいろいろな出来事があった。(事件や災害の)被害に遭われた人のことを考えると、もっと自分たちにもできることがあると思った」(スポーツニッポン19日付)と語っている。
ラグビーの代表選手としてW杯の話題に終始しても不思議ではないというのに、被災地に思いを寄せて「自分たちにできること」を考えた田中選手。一方、安倍首相はこの国の総理大臣であるというのに、写真で被災地の被災を目の当たりにして、被害に遭った人びとへの言葉や災害対策の強化など出てきて当然のコメントを何ひとつ発さず、「日本は世界の真ん中で輝いた年」などとはしゃいでみせたのだ。
自分の見たいものしか見ず、被災地から目を背けてなかったことのように振る舞う──。しかしこれは、災害発生時から一貫して安倍首相がとってきた態度だ。
あらためて振り返ると、9月に首都圏を直撃した台風15号では千葉県に甚大な被害をもたらしたが、安倍首相は関係閣僚会議の開催はおろか総理指示も一切出さず、千葉県の被害状況があきらかになった同月9日から2日後の11日には内閣改造を決行させた。
こうした初動の遅れによって被害は拡大し、熱中症による死亡者や通電火災といった2次被害まで出してしまったわけだが、しかし、安倍首相に反省はまるでなく、今度は10月に気象庁が1200人を超える犠牲者を出した狩野川台風に匹敵するとして最大級の警戒を呼びかけた台風19号が上陸したが、国民に対して会見を開いて避難を呼びかけるといった動きも一切なく、被害が次々と発生していた同月12日は首相公邸で予定もなく“のんびり休養”状態に。首相動静からも災害対策で会議を開いたり専門家やスタッフなどと相談をした形跡は見えず、15時30分には一応、総理指示を出したが、それも7月20日の台風5号のときとほとんど同じ文面にすぎなかった。
しかも、安倍首相は信じられない言動に出た。人命救助の分岐点である発災後72時間以内という一刻を争うなかにあった同月13日夜、安倍首相はラグビー日本代表のスコットランド戦勝利に大はしゃぎし、〈東日本大震災でもスポーツの力を実感しましたが、世界の強豪を相手に最後まで自らの力を信じ、勝利を諦めないラグビー日本代表の皆さんの勇姿は台風で大きな被害を受けた被災者の皆さんにとっても元気と勇気を与えてくれるものだと思います〉などとツイートしたのだ。
このツイートをおこなった時間帯、利根川では氾濫危険水位に到達したことから、千葉県成田市や千葉県香取市、千葉県銚子市といった地域で警戒レベル4の避難勧告が出されていた。また、宮城県丸森町や長野県長野市をはじめとして多くの地域で孤立状態に陥いっていた人びとも数多く存在していた。多くの人びとが危険と隣り合わせで救助をひたすら待ち、避難所で不安な夜を過ごし、あらためて言及するまでもなく大事な人を災害によって失ったり安否が確認できない、そんな状態のなかにある人がいた。そうでなくとも、多くの人びとが被災している真っ最中にあり、停電でスポーツ観戦しているような環境にはなかった。にもかかわらず、安倍首相はそうした被災者の存在を一顧だにしなかったのである。
安倍首相は台風15号のときも同じように被災地そっちのけでW 杯に夢中だった。
千葉県の被災者を見て見ぬふりをして内閣改造を実行し、被災の真っ最中にラグビーW杯に夢中になって「被災者にも元気と勇気を与えてくれるもの」などと投稿する──。あまりに無神経、無責任と言わざるを得ないが、安倍首相はこの姿勢をまったく崩さず、年の瀬になっても被災地を無視してラグビーW杯の話題を持ち出して「日本は世界の真ん中で輝いた年」などと総括したのである。
安倍政権の約7年間を振り返れば、森友・加計問題や「桜を見る会」に象徴される“国家の私物化”も言語道断だが、もうひとつ重要なのは、大災害のたびに被災者をないがしろにしているとしか思えない行動を繰り返していることだ。こうした安倍首相の災害への無関心の根底には、おそらく、自然災害による被害も国民の自己責任という残酷な思想がある。だからこそ、何度批判されても迅速な災害対応がとれないばかりか、被災地をないがしろにするような言動を平気でとるのだ。
4日にドイツのシンクタンクが公表した2018年に気象災害の影響が大きかった国ランキングでは、西日本豪雨などで被害を受けた日本がワースト1位に選ばれた。気候変動による影響が今後高まることが予想されるなか、災害対応よりも自分の楽しいこと、都合のいいことにしか目を向けない安倍首相に、このまま舵取りを任せていていいのか。