安倍政権が「余人をもって代えがたい」人物だからと違法の定年延長までおこなった黒川弘務・東京高検検事長が、記者との賭けマージャン問題を受けて、きのう21日、辞表を提出。法務省は訓告処分とした。
「懲戒免職が妥当」と見られていたのに、まさか「訓告」とは──。これでは退職金も満額支払われる可能性まである。
この処分の甘さには絶句するほかないが、じつはこの黒川氏の賭けマージャン問題では、もうひとつ、絶句するような出来事があった。
黒川氏の問題では、黒川氏と賭けマージャンに興じていたのが新聞記者だったという点にも注目が集まり、「記者はこうして癒着しているのか」「これで国民の知る権利は守られるのか」などと問題視されているが、そんななか、安倍首相と会食を重ねてはテレビに出て露骨な政権擁護を繰り出すために「スシロー」という異名まで持つにいたった、あの田崎史郎氏が、きのう放送の『ひるおび!』(TBS)で堂々と「記者の気構え」を語ったのだ。
まず、番組では、黒川氏が産経の記者2名と、朝日の元検察担当記者と賭けマージャンに興じていたことについて、田崎氏に「記者の立場で今回のニュース、どうご覧になりました?」と質問。てっきり、権力者と一緒に賭博罪に該当する犯罪行為をおこなっていたという記者としての倫理観を問うのだろう……と思いきや、田崎氏はこんなことを言い出した。
「僕ら政治記者は、『政治家と癒着している』というふうに批判されるんですね。あれ(「週刊文春」)を見て、社会部記者のほうがよっぽど癒着してるんじゃないかと思いました」
開口一番、言うことが「俺より社会部の記者のほうが癒着してる!」って……。まさかの主張に、田崎氏の発言中から八代英輝弁護士のものと思しき笑い声が聞こえ、番組MCの恵俊彰も「最初から攻撃的ですね(笑)」と言うしかなかったほど。
しかも、いよいよ記者が権力者とマージャンをしたり飲みに行くことに問題はないのかという話題に移り、元NHK解説副委員長の鎌田靖氏は「権力者に取り込まれてはいけないから、親しくならなくてはいけないけども、ある一線は守らなければいけない」「それをやらないと、たんにお友だちだから、お友だちと会っているというわけではなく我々は仕事で会っているわけですから」とコメント。対して、恵が田崎氏に「新聞記者の方は取材対象とマージャンしますか?」と問うと、田崎氏は迷うことなく「します」と即答。そして、こんな熱弁を振るったのだ。
「僕は政治部に配属されて、最初に自分でこうしようと決めたことは、取材対象の政治家から誘われたら断らない、と。どんなことがあっても」
「マージャンもするし、僕、酒はあまり得意じゃない、飲めないんですけど、酒も飲み、一緒に遊びもする、とにかく付き合う。付き合って、仲良くなって、いざというときに話が聞ける状況にしておくんですね。で、聞いて、それをすぐに書けないときもありますよ。書けないときがあってもそれを溜めておいて、いずれ書くぞ!という気持ちをつねに自分で持ってることが大事だと思うんですよ。僕はそうやってやってきた」
「いずれ書くぞ!」って、安倍首相と一緒に寿司をつまんで聞いた「書けない」話を、アンタは書いたことがあるのかよ、という話だろう。実際、田崎氏が言うこと、書くことといったら、安倍首相や安倍官邸が「流してほしい話」「書いてほしい話」だけではないか。
その上、すっかり調子づいた田崎氏は、こんな話まではじめた。
「金丸信っていう自民党の副総裁が、佐川急便の5億円献金事件のときに、あの、ものすごい世の中、追及されていたんですね。そのとき、金丸さんの誕生日がたしか9月17日だったんです。そのとき僕が金丸さんの家に行ったら入れてくれたんで、そこでいろいろ話聞いたんです。で、外に出たら社会部記者がいっぱいいて、ある社に……そのときね、ブドウをいただいていたもんで、ブドウ貰って帰ったんですね。
なんと、「スシロー」と呼ばれる以前にも「ブドウ記者」なる癒着ネームの称号を得ていたとは。しかも、当時の新聞記事を確認すると、「ブドウ記者」のエピソードは見つけられなかったのだが、金丸氏は田崎氏だけではなく騒動のおわびにと近所にも地元・山梨産のブドウを配ったものの、〈「金丸さんからは受け取れない」と、大半が突き返された〉と書かれていた(朝日新聞1992年10月4日付)。ようするに、巨額献金事件で揺れる政治家からブドウなんか受け取れないとご近所さんでさえ考えていたのに、新聞記者である田崎氏は平然と受け取って帰ったのである。
「いつでも話が聞けるように仲良くなるためにはなんでも断らない」と矜持を語る田崎氏だが、その無頓着ぶりが記者としての倫理観を失わせているのだろう。これでは、違法行為を犯したかどうかの違いだけで、黒川氏と賭けマージャンを産経や朝日の記者と同じではないのか。
だが、田崎氏は「僕の自負心は、そのとき(金丸氏から)聞いた話は本に書いたんです、ちゃんと。そういう気構えが必要なんじゃないかと思うんです」と言い、黒川氏と賭けマージャンをしていた産経の記者についても、「今後、(黒川氏のことを)書かれるかどうかって問題だと思います」などと述べたのだ。
「今後、書くかどうかが問題」って。黒川氏が“水に落ちた犬”となってから後出しで暴露することにもまったく意味がないとは言わないが、そのことで事務次官、検事長として大きな権限を持っているそのときに監視・批判しなかったことがそれで済まされるわけないだろう。この間、数々の政権不祥事が不起訴で片付けられ、その処遇をめぐっては法まで捻じ曲げられてしまっているのだ。田崎氏は以前、自身に対する御用批判に対しても「いまも利用されていると感じているが、利用されるかどうかはこちらの判断。『いずれ書くぞ』というのが、最大の良心でありプライドだ」と同様の主張を開陳していたが(https://lite-ra.com/2018/02/post-3801.html)、たんなる言い訳だ。
そもそも「賭けマージャン」を一緒にするような共犯関係にまでなって、まともな批判記事が書けるはずがないだろう。現に、黒川氏との賭けマージャンの場を提供した産経の記者は、定年延長が問題となっている最中に署名記事で〈黒川氏は日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告の逃亡事件の指揮という重要な役割を担っていることもあり、定年延長という形を取らざるを得なかったとみられる〉などと黒川氏の人事を擁護していた。
実際、元NHKの鎌田氏は「このマージャンやりながら、たとえば『俺がどうなる』とか『今度の事件こんなことがある』というふうには、僕はそんな話にはならないと思う」と言い、恵から「鎌田さん、このタイミングでもし呼ばれていたら行きました?」と質問された際も「行かないでしょうね」と回答。鎌田氏は「コロナのときじゃなければ行きますよ」と留保したが、しかし、田崎氏はコロナ禍だとしても「僕は行った」と胸を張って断言し、こうつづけたのだ。
「ようは僕らにとって、(この)職業、いろんなことやっていいんですけど、犯罪以外。ようは書くか書かないかなんですよ。それを世の中に知らせることが大事なんで」
「そのときの(黒川氏の)表情も見たいですよ」
記者は書くことで世の中に知らせるべき情報を伝えるのが仕事。そして表情まで鋭く観察してこそ実情が見えてくる──。これだけを読むとまるで使命感あるジャーナリストだが、しかし、こう語る田崎氏の実態はどうなのか。その答えは、すぐに出た。
番組では最後に黒川氏の進退を話題にしたのだが、そこで田崎氏は「総理大臣というか、政府の任命責任は大きいですよ」とコメント。だが、つづけて語ったのは、こんな話だったのだ。
「でも、ただ、もうひとつ大事なことは、この無理な人事をやったのは誰なのかってことで、かつ、黒川さんを指揮監督する立場にあるのは最高検なんですよ。最高検の検事総長の稲田伸夫さんがいて、その方が割合、ずっとやってこられてきているわけです。その人がなかなか辞めないもんで、無理な定年延長をせざるを得なくなったっていうのが実態だと言う人もいるんです。だから僕は今回の後始末どうするのかってことも含めて、やっぱ最高検の検事総長がどうするかってことが厳しく問われなければいけないと思います」
安倍首相が黒川氏を定年延長せざるを得なくしたのは、なかなか辞めない稲田検事総長のせい……って、そんなアホな話があるか。検事総長の任期は慣例では約2年で、稲田検事総長がそのタイミングを迎えるのは今夏だ。それを政権の意向で退任しろと迫ることこそ検察への人事介入ではないか。
さらに、田崎氏は“稲田検事総長が黒川氏の賭けマージャンの責任を取るべき”などと言うが、定年延長を決めたのは内閣であり、責任を取るべきなのは森雅子法相と安倍首相だ。
しかも、田崎氏が振りかざした、この“稲田検事総長責任論”は、完全に田崎氏が安倍官邸と結託している証拠でもある。安倍官邸が稲田検事総長責任論を煽ることで稲田氏に揺さぶりをかけ、公選法違反事件での河井克行・前法相の国会会期中の逮捕を見送らせようとしているからだ。
ようするに、田崎氏は権力者と深い仲になることを「ようは書くか書かないか」「世の中に知らせることが大事」などと語ったが、実際に田崎氏がやっていることは、官邸から吹き込まれた「安倍首相にとって都合のいい情報」をそのままお茶の間に流し、世論形成を図ろうという“安倍首相のアシスト係”“安倍官邸の広報官”でしかないのだ。
黒川賭けマージャン問題で浮き彫りになったメディアと権力者の癒着だが、田崎氏も同じ穴のムジナ。いや、新聞以上に市民への影響力が強いテレビに出て、一方的に安倍官邸の言い分を垂れ流しているという点では、その罪はもっと重いのだ。