18日、『バイキング』に出演する平井解説委員


 憲政史上初といわれる法相経験者の逮捕となった、河井克行・案里議員の買収事件。ふたりが逮捕された18日はメディアもこの逮捕劇を大きく報じたが、だが、この期に及んでも、安倍応援団は必死に安倍首相を庇おうと醜態を晒したのだ。

 たとえば、河井夫妻の逮捕直前に放送された18日の『ひるおび!』(TBS)では、検察の事情聴取を受けた地元議員ら約100人の大半が現金授受の事実を認めているという点について、御用ジャーナリストの代表格である田崎史郎氏が「100人に2600万円っていうと大きいなってみなさん思われるでしょうけれども」などと切り出し、30年ほど前に大物議員から“統一地方選前に県会議員に100万ずつ、市町村会議員には大体50万ずつ配った”と聞いたという話を披露した上で、「常識外れかも知れないですけれども、政治の世界ではあり得ることなんですね」と発言。さらには「陣中見舞い、当選祝いのかたちなら許される」と述べた。

 金権選挙を「あり得ること」などと一般化して、「陣中見舞い、当選祝いのかたちなら許される」などと解説する──。田崎氏はつづけて「参院選が近いとそれで済まなくなる可能性がある」とも述べたが、河井夫妻が金を配った半分以上は自身の後援会関係者だといわれており、参院選の票固めだったことは明らかなのだが、田崎氏はこうやって買収事件そのものを薄めてみせたのだ。

 だが、この日は田崎氏の解説も可愛く感じられるような、超絶アクロバティックな解説が他局で飛び出した。『バイキング』(フジテレビ)で、平井文夫・フジテレビ上席解説委員があまりにも露骨な安倍首相擁護を展開したのだ。

 平井解説委員といえば、同番組で黒川弘務・前東京地検検事長の“賭け麻雀”問題について「点ピンはセーフ」と言い出したり、国会閉会問題でも「(総理は)忙しい。安倍さんには一年中国会を開いて議論してほしいが、毎日毎日蓮舫さんの相手をしていていいのか」などと語るなど、同番組で酷い安倍擁護を繰り返してきた人物。しかも5月25日の放送では、世論調査での内閣支持率低下について「朝日や毎日は『これは下がるな』と思ったらやってくる」などと朝日や毎日が恣意的なタイミングで世論調査をおこなっているかのように述べていたが、逆に平井氏が所属するフジは昨日、FNNと産経新聞の合同世論調査でデータ不正があったとして謝罪をおこなっている。

 このように安倍政権のアクロバティック擁護を繰り出すことから、平井解説委員は「フジのスシロー」などと呼ばれているのだが、18日の放送では、安倍首相の任命責任について取り上げられた際、こんなことを言い出したのだ。

「じつはですね、安倍さんって河井(克行)さんのことね、そんなに好きじゃない」
「僕が聞いたのはね、安倍さんが河井さんの悪口を言った、人づてに聞いたんだけど、その悪口の内容はここでは言いませんけど、結構辛辣でしたね」

 安倍首相は河井容疑者を嫌っていた……!? 河井氏が安倍首相の子飼いだったという話が山ほど語られているなかで、そんな話、聞いたことも見たこともなく、驚きのあまり顎が外れそうになったが、平井氏は平然とこうつづけた。

「なぜ、その河井さんを安倍さんが閣僚にしたかっていうと、河井さんは亡くなった鳩山邦夫さんの側近中の側近だったんですね。

鳩山さんという人は、じつはお金がすごいたくさんあるんで、結構政界では大事な人なんですね。で、邦夫さんが安倍さんにお願いしていたんです、『うちの河井をよろしく』って。だけど安倍さんは嫌いだったから、ずっと入閣させなかったんだけど、邦夫さん亡くなったあとに、最後の最後になって、もうさすがに長いんで、入れてあげましょうって言って入れたと」

 この平井解説委員の話に対し、MCの坂上忍は「もう、平井さんが話すと生々しい!」などと驚いて見せたが、この話は生々しいどころか、酷いホラ話だ。

 河井容疑者が鳩山氏主宰の「きさらぎ会」に参加しているのは事実だが、2012年の総裁選において、安倍支持で「きさらぎ会」の票まとめに尽力したのが河井容疑者であり、だからこそ安倍首相は河井氏に目をかけてきた。実際、2015年10月の内閣改造では首相補佐官に引き立て、2016年6月17日付の日本経済新聞では「首相支える「黒子」5人衆」のひとりとして河井容疑者が紹介されているほどだ。嫌っている人物を、どうしてわざわざ側近に据えるだろうか。

 だいたい、安倍首相が河井容疑者を法相に任命したことは事実であり、嫌っていたからといって任命責任がなくなるものではまったくない。しかも、河井案里容疑者の選挙には安倍首相の地元事務所の秘書が少なくとも4人、指南役として投入されていたのだ。

 それを、「安倍首相が河井氏の辛辣な悪口を言っていたらしい。ただしその中身は言えない」などという眉唾モノの話を語って任命責任を矮小化しようとは……。これが、フジテレビを代表する「上席解説委員」による解説なのだから開いた口が塞がらない。

 しかし、こうした御用ジャーナリストによる安倍擁護が平気で垂れ流されることよりも、もっと酷いことが起こった。

それは、河井夫妻の逮捕から一夜明けた翌19日の、ワイドショーの放送内容だ。

 一応、午前中のワイドショーでは河井夫妻の逮捕を軒並み取り上げたが、問題は午後。河井夫妻逮捕問題をトップで扱ったのは『バイキング』と『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』(CBCテレビ)のみ。たとえば、『ひるおび!』が12時台のトップで取り上げたのは、緊張が高まる北朝鮮と韓国の話題。約1時間にわたってこの話題をたっぷり伝え、河井夫妻の逮捕問題はそのあとの扱いだった。さらに、『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)や『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)にいたっては、アンジャッシュ渡部建の不倫問題や往来制限解除、北朝鮮と韓国の問題、ユニクロが発売した冷感マスクに行列ができた話題などを取り上げ、河井夫妻逮捕の問題は一切扱わなかった。

 思い出してほしい。すべてのワイドショーは昨年、韓国の文在寅大統領側近だったチョ・グク氏のスキャンダルを連日にわたって取り上げ、法相就任を「日本ではありえない」「異常」などと攻撃。『ミヤネ屋』や『グッディ!』はチョ・グク氏の会見を生中継で伝えるほどの熱の入れようで、『ミヤネ屋』の司会である宮根誠司は「怪しいことがあったら、日本だったら総理大臣が任命しませんよね、法務大臣に」などと述べていたほどだ。

 ところが、この国で前法相が買収容疑で逮捕されるという憲政史上初ともいわれる事態が巻き起こったというのに、一夜明けると何事もなかったかのように事件に一切ふれず、それどころか北朝鮮問題と合わせて「文大統領はお手上げ状態」だの「韓流”コロナ”対策が大苦戦」だのと相変わらず韓国の話題を必死になって伝えているのである。

 お隣の国の前法相の辞任や妻の逮捕劇は大々的に、そして執拗に報じてきた一方で、この国の前法相が、しかも現役国会議員でありながら夫婦揃って逮捕されるという前代未聞の大事件が起こっても、翌日には取り上げられなくなる──。いかにこの国のワイドショーが救いようもない状態になっているか、これではっきりしただろう。

 事ここに至っても、御用ジャーナリストを登場させて安倍政権擁護を垂れ流し、事件自体がなかったことのように話題から消してしまうワイドショー。こうしたメディアによる政権への忖度こそが、国民の無関心を誘い、この国の不正を日常化させてしまっているのである。その罪は重い。