ところが、特措法改正の政府案では、要請に応じた事業者への支援は「国・自治体の努力義務」にとどまっている。ようするに、自分たちは支援するもしないも「努力」でよくて、事業者には過料の罰を与えるというのである。
対策としてやるべきこともやらずに、一方的にムチだけは振るう──。この、政府としての責任を棚にあげた罰則は、これだけではない。
感染症法の改正案では、保健所の調査を拒んだり虚偽の回答をした者や、入院勧告に従わない患者に対し、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰を設ける方針だというからだ。
この罰則案に対しては、ネット上でも「検査したくてもできない人がこんなにいるのに?」「入院すべき人が入院できない状況なのに?」という指摘が巻き起こっているが、あまりも当然すぎる反論だろう。
まず、「保健所の調査を拒んだり嘘をついたら刑事罰」というが、13日の会見で記者から「保健所の調査の回答拒否や虚偽回答が実際どれぐらいあるのか、また、どれほど深刻な問題かを裏付けるような具体的な数字を示してもらいたい」と追及された際、菅首相は「具体的には承知しておりません」と言い放った。根拠もないのに刑事罰を設けるなどと述べているのである。
だいたい、現状は市中感染が広がったために感染経路不明者が増加し、首都圏では保健所の調査が簡略化される方針だ。政府はクラスター追跡を「日本モデル」などと自画自賛してきたが、その「日本モデル」とやらに実効性を持たせたいのなら、まずは感染者に増加の傾向が出てきた初動でしっかり対策を打つこと、さらに保健所機能の強化のための支援に力を入れるのが先決だ。実際、第1波の際、アメリカのニューヨーク州では大規模な市民への無料検査と同時に、濃厚接触者の追跡(トレーシング)にも力を入れ、この追跡をおこなうための「トレーサー」を育成、新たな仕事を生み出した。こうした取り組みもなく罰則だけ設けても、うまくいくはずがない。むしろ「刑事罰を受けるかもしれない」という恐怖から、感染の疑いを感じても相談・受診しないという人を生み出し、さらに感染を拡大させる可能性すらある。