立憲民主党の菅直人・元首相が橋下徹氏と維新について「弁舌の巧みさはヒトラーを思い起こす」と投稿した問題で、橋下氏、大阪府の吉村洋文知事、大阪市の松井一郎市長らが「ヒトラーと重ね合わせるのは国際的にご法度」「誹謗中傷を超えて侮辱だ」「どういった人権感覚をもっているのか」などと反論、立憲民主党に「謝罪しろ」と迫っている。
維新や橋下知事・市長時代の大阪の公務員に対する思想統制については、これまでも「ナチスドイツばり」という批判が巻き起こってきたし、その大衆扇動の手法がナチスドイツと共通性があることも多くの人が指摘してきたし、排外主義や優生思想など思想的にも共通性がある。
そもそも吉村知事や松井市長はそんなイチャモンに時間を割いている場合ではないだろう。何しろ、昨日24日には、ついに大阪府の病床使用率が50%を超え、吉村知事は大阪モデルで「非常事態」を示す「赤信号」の点灯を決定せざるを得ない状態に追い込まれているのだ。
これは、明らかに「まん延防止等重点措置」の適用要請が後手に回った吉村知事の責任だ。しかも、そんななか、吉村知事の“ボス”である松井一郎大阪市長もここにきて呆れた発言・政策を打ち出し、大きな批判が巻き起こっている。
松井市長は21日にコロナ感染拡大によって保育士の欠勤が相次いでいるとし、「自宅で子どもを見られる人は当面は、保育所への通園をお控え願いたい」と発表。昨日24日から2月13日までを「家庭保育協力期間」とし、自宅で保育が可能な家庭は子どもの登園を控えるよう呼びかけたのだ。
この松井市長の決定には、ネット上でも〈あほか。「自宅で子どもを育てられる環境なら」って、それがないから保育園に通わせてるんだろ〉〈自宅で面倒みれる状況ちゃうから保育園預けとるんやないか それとも面倒みれる状況で保育園って申込めるんですか!?〉〈保育園と幼稚園の違いを知らないのでは〉〈今度は大阪の市民に身を切ってほしいそうです〉など、批判が殺到している。
当然だろう。まず、これまでも大阪市では緊急事態宣言の発令時などに同様の要請をしてきたが、これまでは園児の感染防止が目的であり、人手不足を理由とした登園自粛の要請は初めて。つまり、感染拡大防止対策を怠った結果、現在の爆発的状況を生み出し、ついに市民にそのしわ寄せを押し付けはじめたのだ。
それでなくても大阪市には、そもそも保育の受け皿が不足しているという状況がある。
大阪市は昨年5月、「待機児童解消特別チーム」を立ち上げるなど待機児童解消に取り組んできた結果として、4月1日時点で待機児童数が昨年同日比で6人減少の14人(速報値)になったと発表したしかし、保護者が育休中の場合や条件をしぼって保育所探しをしていた場合は「待機児童」ではなく「利用保留児童」として扱われるため、こうした「隠れ待機児童」は全国で問題となってきた。そして、大阪市はこの「隠れ待機児童」の人数が2361人にも及んでいるのだ。
実際、大阪市の隠れ待機児童問題は深刻で、2020年4月から認可保育所に入るために利用を申し込んだものの1次選考で落選した人の数が大阪市は4626人にものぼり、全国最多の横浜市(4662人)に次ぐ多さとなった。また、2018年4月の「待機児童数」ランキングだと、待機児童50人以上の148自治体のうち大阪市は82位だが、「隠れ待機児童」を含む合計数で見ると大阪市は4位に(朝日新聞「待機児童問題「見える化」プロジェクト」)。さらに、2021年4月時点で、全国で待機児童が多い自治体のトップとなったのは兵庫県西宮市だが、西宮市の「利用保留児童」は1034人で大阪市よりも少ないのだ。
松井市長は2019年の市長選において「待機児童ゼロ」を公約に掲げていたが、それをいまだ実現できていないどころか、全国のなかでも深刻な「隠れ待機児童」を発生させているのだ。その上、感染拡大防止対策を怠ってきた結果、保育所に入園できた家庭にも「仕事を休んで家で面倒を見ろ」と迫っているのである。
しかも、松井市長が首長としてありえないのは、感染防止対策を怠ってきたどころか、危機感を高めなくてはならない状況であるにもかかわらず、コロナを甘く見てもいいかのような発言を連発、感染拡大を是認する言動を繰り返してきた“確信犯”だということだ。
松井市長といえば、昨年末にも市民に要請しているコロナ対策の要請を破って「維新30人大宴会」に参加していたことが発覚した際にも「何か問題ありますか?」などと開き直り、感染が急拡大していた今年1月8日・15日には、昨年度延期した大阪市の成人式を中止することもなくユニバーサル・スタジオ・ジャパンで決行。写真や映像を確認するかぎり、参加者には間隔を空けるなどのソーシャルディスタンスはとられておらず、大きな音楽に合わせて参加者にダンスを促すなど、かなりの盛り上がり状態に。その上、8日のこのイベントでは、挨拶に立った松井市長がマスクを外し、こんなスピーチをおこなったのだ。
「やっぱり二十歳の記念の仲間と集まる式典、あのコロナぐらいの、あのウイルスに、この思い出、人生のなかで非常に重要なポイントになる思い出のイベントを、なくされてたまるか、と」
大阪では全国で最悪の死者数を出しているというのに、コロナを「あのぐらいのウイルス」呼ばわりする……。もはや呆れて開いた口も塞がらないが、この成人式イベント強行が感染拡大にさらなる拍車をかけた可能性も高い。実際、21日におこなわれた大阪府の新型コロナ対策本部会議では、りんくう総合医療センターの感染症センター長である倭正也医師は〈年末年始、成⼈式での集まりなどを背景にオミクロン株によるこれまでにない感染の急拡大が⾒られている〉と指摘しているからだ。
だが、松井市長の絶句するような言動はこれだけではない。11日の会見で松井市長は「インフルエンザとくらべてオミクロン株が命に大きくかかわるような症状だとは思っていない」「専門家のみなさんで(コロナの感染症法上の扱いを)第5類にする協議をするべき」などと言い出したが、6日の囲み会見ではこんなことまで口していた。
「専門家のなかには、木村先生かなぁ、『インフルエンザより軽い』と仰ってる方もいらっしゃるんでね」
「(オミクロン株は重症化しにくいという話もある状況で、重点措置のように)人の生活に制約をかけるというのは、僕はちょっと違うんじゃないかと思う」
ここで松井市長が取り上げた「木村先生」というのは、元厚労省医系技官で「コロナたいしたことない」論を喧伝している、あの木村盛世氏のことだろう。木村氏は「ワクチンも治療薬もできたなかでは感染を無理に止めない(でいい)」だの「(オミクロン株は)あきらかに風邪のウイルスに近づいている」と発言するなどコロナを矮小化しつづけているが、感染者が増加すればするだけ重症・死亡者も増えるのは当たり前の話であり、オミクロン株を矮小化するのは危険きわまりない話だ。
事実、前述した21日の大阪府新型コロナ対策本部会議でも、感染症の専門医である大阪市立総合医療センターの白野倫徳医師は〈インフルエンザに比べると分かっていないことが多い感染症であるので、「ただの⾵邪」とは言わず、インフルエンザよりはやや厳しい対策をとる必要はある〉と指摘。前出の倭医師も〈医療のみならず社会機能を維持するためには現状より強い措置により現在の感染拡大を食い止めることが今まさに必要〉と述べている。
だが、松井市長は、現場の医師が鳴らす警鐘を無視し、よりにもよって木村氏の主張を持ち出して「『インフルエンザより軽い』と仰ってる方もいるんでね」などと言い、感染拡大防止策を打ち出すことを否定していたのである。すでに感染状況は爆発的な増加となっていたにもかかわらず、だ。
そして、こうしてオミクロン株を甘く捉えている松井市長は、感染拡大防止のための施策を打たなかったばかりか、保健所の体制強化まで放棄していた。
実際、この6日の会見では、記者から「大阪市内の保健所は1日の感染者数が1700人くらいまでの体制を組んでいるが、自宅療養者などが増えた場合に保健所が患者の状況を把握するために、人員を増やす考えはあるか?」と問われると、松井市長はこう答えていた。
「いまは去年の時点で患者数に合わせた保健所体制を構築している。いまは限りある人材を精一杯、保健所の業務に支障をきたさないように体制を組んでますから、現状でやっていきたいと思う」
感染者が急増し、今後も爆発的な患者数になっていくことは誰の目にもあきらかだったというのに、松井市長は「患者数に合わせた保健所体制を構築している」「現状のままでやっていく」として保健所の人員増強を拒否。その結果、大阪市の保健所の業務はあっという間に逼迫し、19日からは高齢者施設や学校などを除いて濃厚接触者を特定する調査を取りやめるにいたったのである。
大阪では、維新政治によって保健所が大幅に削減され、コロナ下で人員不足があきらかになった。また、保育の受け皿が脆弱であることもわかりきっていた。だが、吉村知事や松井市長はテレビ出演に精を出すばかりで、そうした現状を省みることもなく感染拡大を事実上容認してきた。いま、そのことのツケを、府民・市民は払わされているのである。大阪市民は、このトンデモ市長を即刻リコールすべきなのではないだろうか。