これのどこが「解党的出直し」なのか──。高市早苗総裁が昨日7日、自民党の新執行部を発足させたが、その顔ぶれに批判が集まっている。
まず、重要ポストである党四役は、副総裁に麻生太郎氏、幹事長が麻生氏の義弟である鈴木俊一氏、総務会長が麻生派の有村治子氏、政調会長が旧安倍派の小林鷹之氏、選対委員長が高市陣営で幹部を務めた古屋圭司氏が就任。この人事には田崎史郎氏も「あまりに露骨すぎる」と述べていたが、これでは「第二次麻生政権」「あからさまな論功行賞」と批判されるのは当然だ。
だが、なにより批判が集中しているのは、幹事長代行に萩生田光一氏を就任させたことだ。
ご存知のとおり、萩生田氏といえば5年間で2728万円もの裏金が発覚しながら当初は国会の政治倫理審査会にも出席せず、記者会見では安倍派幹部であったにもかかわらずキックバックについては把握していなかったと主張。昨年の衆院選は政倫審に出席していなかったことから非公認での立候補となったが、選挙戦では完全に開き直って「自民党」を前面に押し出し、当選を果たした。
そして、今回の総裁選で萩生田氏は〈私は初の女性総理を目指す、高市早苗さんを支援します〉とブログで宣言し、高市支持を広げるため支援に奔走。実際、高市氏が9月30日に麻生氏のもとを訪問した翌日には萩生田氏も直々に「麻生詣で」をおこなっていた。
対する高市氏も、総裁選中には“裏金問題の決着はついた”とし、総裁となって初の会見でも裏金議員の要職起用について「国民の代表として送り出された方々なので、とくに人事に影響はない」と発言。ようするに、萩生田氏の党幹部への復活は既定路線だったというわけだ。
しかも、鈴木氏は「麻生氏の傀儡として処遇されただけのお飾り」ともいわれており、事実上、萩生田氏が幹事長として実権を握るのではないかとみられている。
実態解明も進んでいないにもかかわらず裏金問題を「終わったこと」として片付け、裏金金額上位ランカーの萩生田氏を党幹部に据える。つまり、高市総裁は「金権腐敗にまみれた自民党」を復活させたのである。
だが、言うまでもないが、萩生田氏をめぐる裏金問題は「決着」などついていない。
東京地検特捜部は昨年12月、萩生田氏の政策秘書である牛久保敏文氏を起訴猶予処分としたが、上脇博之・神戸学院大学教授が検察審査会に審査を申し立てると、今年6月、東京第5検察審査会は「起訴相当」と議決。議決は長期間にわたる虚偽記入や領収書廃棄という証拠隠滅を挙げ「組織的常習犯罪で非常に悪質」「このような事案で起訴を見送り続ければ、いつまでたっても虚偽記載はなくならない」と指摘した。
そして、この議決を受け、東京地検特捜部は一転して今年8月、牛久保氏を政治資金規正法違反罪で略式起訴。東京簡裁が罰金30万円と公民権停止3年の略式命令を出したのだ。
牛久保氏は〈萩生田氏と20年以上にわたり行動を共にしてきた腹心〉であり、〈故安倍晋三元首相にもかわいがられ、永田町では「名物秘書」として名前が知られていた〉という(共同通信8月15日付)。そのような人物が刑事責任を問われたというのに、萩生田氏は記者会見を開いて説明することもなく、“選挙で禊はすんだ”とする高市総裁のもとで幹事長代行の座に収まるとは、けっして許されることではない。
しかも、萩生田氏のみならず、総裁選で高市氏を支援してきた旧安倍派の裏金議員たちをめぐっても、ここにきて次々に新事実が判明してきている。
たとえば、安倍派幹部だった下村博文氏は、昨年の衆院選で落選したものの今年7月に自民党衆院東京11区支部長に選任され、総裁選では高市支持を表明していた。
だが、総裁選真っ最中の9月25日に東京地裁でおこなわれた大野泰正・元参院議員らの公判では、旧安倍派の会計責任者だった松本淳一郎・元事務局長がパーティ収入の還流再開を求めた幹部議員が下村氏であることを証言。2022年8月の幹部会合において下村氏が「池田佳隆議員に返してくれ。安倍会長も了承している」との趣旨の発言をし、その場で裏金キックバックの再開が決まったと認めたのだ。
ご存知のとおり、政倫審で問題の2022年8月の会合に出席した安倍派幹部たちは、「継続でしょうがないかなというぐらいの話し合いで継続になった」と語った塩谷立氏を除いては「そのときは結論は出なかった」と発言。実際、下村氏は「この会合で還付の継続を決めたということはまったくない」と主張し、西村康稔氏も「いろいろな意見があったが結論は出なかった」と発言。さらに、世耕弘成氏も「8月5日の会合で現金による還付の復活が決まったことは断じてない。このとき、私は『安倍元総理大臣の残した指示なのだから守るべきだ』ということを逆に明確に申している」とまで強調していた。ようするに、政倫審という政治家の責任を審査する場において、下村氏が裏金キックバック再開を要望したことを明かさず、西村氏と世耕氏は口裏を合わせて平然と国民に嘘をついていたのである。
だが、もっと驚くべき事実が、この公判ではあきらかになっている。それは、世耕弘成氏による“キックバック再開にあたっての偽装工作指南”だ。
世耕氏といえば、自民党より離党勧告を受けたが、参院から鞍替えした昨年の衆院選で当選。総裁選では萩生田氏や下村氏と同様に総裁選で高市支持に動き、参院安倍派をとりまとめた立役者。高市総裁の誕生により「自民党への復党も早まった」と言われている。
しかし、9月25日におこなわれた公判では、2022年8月の幹部会合で裏金キックバックの再開が決まった数日後、世耕氏が安倍派会計責任者だった松本事務局長に対して“議員側のセミナーやパーティの収入に上乗せして計上する”という「偽装工作」をショートメールで提案していたことが判明。〈松本氏が議員側に返金の連絡を入れる際は、その提案に沿って政治資金収支報告書の記載方法を説明〉したというのだ(しんぶん赤旗9月26日付)。
前述したように、政倫審で世耕氏は「私は『安倍元総理大臣の残した指示なのだから守るべきだ』と主張した!」と胸を張り、一方で「議員個人のパーティ券を清和会が買う(ことで還流する)との案があった」などと他人事のように語っていたのだが、「偽装工作」のやり方を自らメール提案していたとは……。
高市新総裁のもとで萩生田氏が幹事長代行に就任したことに対する批判が高まる一方、SNS上では「裏金問題という終わった話をいつまで蒸し返すのか」「たんなる不記載のミスだろ」「高市さんの足を引っ張りたいだけ」などというコメントも溢れているが、裏金事件は「政治腐敗」を象徴する問題としていまだに解消されていない重大事だ。いや、それどころか高市氏には、右腕だった元政策秘書が刑事処分を受けた萩生田氏を、よりにもよって党幹部に重用した責任が問われるし、臨時国会では下村氏・世耕氏の証人喚問の実施が不可欠であることは論を俟たない。
共同通信の世論調査では、裏金議員の要職起用について77.5%が反対している。高市総裁の誕生によって旧安倍派の連中が息を吹き返して裏金問題を終わったことにしようとしても、世論がそうさせないことが重要だ。