首相官邸HPより


 高市早苗首相が23日召集予定の通常国会の冒頭で衆院を解散する意向を固め、総選挙に打って出ることが明らかになった。物価高対策もそっちのけで党勢拡大のために政治空白を生むことなど言語道断だが、今後は台湾有事をめぐる国会答弁を発端にした日中関係悪化による影響の顕在化、とりわけレアアースの輸出規制による経済的打撃は図り知れない。

そこで野党からの追及や世論の批判が強まる前に、高い支持率を維持しているいまのうちに解散してしまおうという算段らしい。

 だが、高市首相が冒頭解散というカードを切ることによって追及から逃れようと考えた問題は、日中関係の悪化だけにとどまらないはずだ。

 そのひとつが、統一教会問題だろう。

 現在、韓国では統一教会トップである韓鶴子総裁が、尹錫悦・前大統領側に便宜を図ってもらうために金品を供与していたとする政治資金法違反などの罪で逮捕・起訴されており、裁判がおこなわれている。そんななか昨年末に韓国メディアは、捜査当局が押収した統一教会の内部文書「TM(トゥルーマザー)特別報告書」について報道。2019年の参院選を控えた時期に安倍晋三首相(当時)と面談をおこなったことや、2021年の衆院選後に「私たちが応援した国会議員は自民党だけで290人に上る」ことを統一教会の徳野英治・元会長が韓鶴子総裁に報告していたという。

 自民党による「点検」調査では、統一教会と接点があったという議員の数を179人としてきたが、統一教会側は選挙支援をおこなったと主張している数は290人。この数の開きだけでも自民党の調査に対する疑義を深めるものだが、1月8日発売の「週刊文春」(文藝春秋)がこの極秘文書を入手。A4で約3200ページにものぼる報告書の詳しい中身がついに報じられたが、それは高市政権にとって致命傷となりかねない内容だった。

 実際、「TM特別報告書」では高市首相の名前が32回も登場。2021年の自民党総裁選時には、天宙平和連合(UPF)ジャパン議長の梶栗正義氏が高市氏について〈安倍元首相が強く推薦している〉と報告。徳野氏も同様に〈高市早苗氏を応援してほしいと、実に熱心に本人が直接電話をかけています〉〈支持がどんどん急速に拡大した〉と安倍元首相の動きを伝えたうえで、〈高市氏が自民党総裁になることが天の最大の願いである〉とまで述べている。

ようするに、安倍氏の退陣後に高市首相を誕生させることは、統一教会の悲願でもあったのだ。

 高市氏といえば、2022年8月に毎日新聞から統一教会系メディアである世界日報社が発行する月刊誌「ビューポイント」に登場していることを指摘され、直後の閣僚就任会見で2001年に同誌に登場したことがあると認めたのだが、そのとき高市氏は「当時私が大変親しくしておりました細川隆一郎先生からのお誘いだった」「『ビューポイント』という本が旧統一教会と何らかの関わりのある本だということも知りませんでした」と弁明。ところがその後、2001年に登場した「ビューポイント」の対談記事が、じつは「世界日報」の同年1月5、6日付に掲載されたものだったことが判明。さらに高市氏は1994年から2001年にかけて少なくとも5回も「世界日報」に登場し、「夫婦別姓。私は大反対」「私は家長制度が復活してもいいと思う」「いくら選択的別姓といっても、家族の絆に影響を与えると思う」などと統一教会の思想と共通するような発言を繰り返していたことが発掘されている。

 高市氏が「世界日報」に登場していた時期は、統一教会が霊感商法や合同結婚式によって大きな話題を集め、社会問題化していた頃。にもかかわらず、「世界日報」が統一教会系メディアであることを知らなかったなどとすっとぼけて見せた高市氏──。しかも、昨年の総裁選時も、高市氏は中田敦彦のYouTube番組に出演し、統一教会問題について問いただす中田氏に対して「文鮮明氏の名前を知らない」「旧統一教会の教義を知らない」と白々しい発言に終始。挙げ句、自民党と統一教会の接点については「再調査をしない」と明言したのだ。だが、通常国会で統一教会問題の追及が再燃すれば、こんな詭弁では逃げ切れるとはとても思えない。

 さらに、本日発売の「週刊文春」(文藝春秋)が、高市首相の側近である佐藤啓・官房副長官にかんする重大な疑惑を報じている。2022年の参院選で佐藤氏の応援演説中に安倍元首相が山上徹也被告に銃撃されたその日、統一教会の奈良教会で10時から開かれた佐藤氏の応援集会に、佐藤氏の妻が夫に代わって参加していたことが「TM特別報告書」に記載されている、というのだ。

 佐藤官房副長官といえば、総裁選で高市陣営の中心的役割を担い、高市首相は佐藤氏が裏金議員であるにもかかわらず官房副長官に抜擢。「高市さんの政策や想定問答は私が書いている。靖国への参拝を見送ったのも私がコントロールしているから。あと、メイクも変わったでしょ。あれも私が変えさせた」などと周囲に豪語していると報じられたこともある(「週刊文春」2025年11月20日号)。一方、佐藤氏は裏金問題発覚以降、選挙での審判を受けていないことから参院運営委員会理事会などを“出禁”となっているが、いまだに高市首相は更迭していない。このように高市首相が露骨に寵愛してきた側近が、統一教会の支援を受けていたとなれば、大きな問題に発展することは火を見るより明らかだ。

 しかも、これは佐藤官房副長官の問題にとどまらず、高市首相自身の疑惑に発展する可能性もある。

 そもそも、佐藤氏は総務官僚出身で、高市氏が総務大臣を務めた2014年には木村太郎・内閣総理大臣補佐官の秘書官として安倍官邸を支えていた。高市氏と同じ奈良県の出身で、佐藤氏は2016年に出馬した際も高市氏から激励されたといい、実際、佐藤氏の遊説には高市氏が何度も同行。佐藤氏の選挙における高市氏の熱の入れようは2022年の参院選でも同様で、選挙戦終盤には高市氏のスタッフが佐藤陣営に急遽加わり、態勢の引き締めを図ったという(読売新聞2022年7月11日付)。佐藤氏の選挙戦では、地盤を同じくする高市氏がつねにサポートし、勝利を重ねてきたのだ。

 だが、その選挙戦において、佐藤氏は統一教会による応援集会に自身の代理として妻を出席させ、さらに同日には統一教会の会員が佐藤氏を応援すべく〈勝利のための電話かけ大会〉までおこなっていたというのである。奈良という地盤において、統一教会による選挙協力はどのようにおこなわれてきたのか──。当然、高市首相にも、統一教会による選挙支援を受けてきたのではないかという疑いの目が向けられることになるだろう。

 しかも、この「TM特別報告書」には、さらに深刻な問題がある。それは、「陰の幹事長」と呼ばれる萩生田光一・幹事長代行の関する記述だ。

 萩生田氏は2024年4月、裏金問題で1年間の党員資格停止および党役職停止の処分を受けたが、高市氏は総裁に選出されると萩生田氏を幹事長代行に登用。萩生田氏の処遇に怒り心頭の公明党から連立離脱を突きつけられても、高市氏は「あえての起用」と言い張り、萩生田氏をかばってみせた。つまり、高市首相にとって萩生田幹事長代行は、政権・党運営における生命線にほかならない存在だ。

 だが、「TM特別報告書」には、萩生田氏をめぐる重要な新事実が書かれていた。それは、2019年の参院選前にあたる7月2日に、統一教会の徳野会長が自民党本部を訪れ、安倍首相、萩生田氏と面談していたという事実だ。

 韓国のハンギョレ新聞(2025年12月29日)によると、徳野元会長と安倍氏との面談は「6回目」で、今回の目的は「安倍首相が推薦する北村経夫議員を我々団体がどこまで応援するか、決意を聞きたかったのは明らかだった」との記述があったという。

 しかも、驚いたのが、このとき、安倍元首相と萩生田氏が徳野会長からエルメスのネクタイをもらっていたとされていることだ。

ハンギョレ新聞の同記事は、その事実を紹介した上で、報告書に「安倍首相は大変喜んだ」「たった一本のネクタイだったが効果的だった。真のお母様(韓鶴子総裁)への感謝の気持ちを贈り物を通じて感じたと思う」という記述があったことを報じている。

 萩生田氏が同席する場で、安倍首相が統一教会幹部らに選挙応援を要請していた──。ここで思い出さざるを得ないのが、2013年の参院選直前にも自民党本部の総裁応接室で安倍首相や萩生田氏、岸信夫氏と、徳野会長ら統一教会の最高幹部らが面談をおこない、安倍首相が教団側に対して自民党比例区候補である北村経夫氏の支援を要請する言葉を伝えたと報じられた件だ。これは2024年9月に朝日新聞がスクープし、安倍首相や萩生田氏らが統一教会幹部らとともに写真におさまっている“面談の決定的証拠”も掲載された。しかし、この朝日のスクープに対して萩生田氏は「写真は自分」と認めながらも、面談の記憶も記録もないと主張。高市氏と同じようにすっとぼけたのだ。

 だが、証拠写真が残っている2013年とほぼ同じ面談が2019年の参院選前にもおこなわれていたとなれば、「記憶がない」わけがない。前述したように、萩生田氏はエルメスのネクタイまでプレゼントされていると報告書にあるのだ。

 さらに、「週刊文春」(1月15日号)によると、徳野氏は萩生田氏について、こうも報告している。

〈常に連絡を取り合う関係です〉(2020年6月12日)
〈我々と安倍首相との面談を一貫して主導してくれた人物〉(2020年9月11日)

 統一教会と安倍首相の面談を主導したのは、萩生田氏だったというのである。統一教会問題を追ってきたジャーナリストの鈴木エイト氏は、安倍政権と統一教会をつなぐ役割を果たしたのが萩生田氏だった可能性があることを指摘してきたが、今回の報告書の記述からも、その可能性はさらに深まったといえる。

つまり、萩生田氏こそがキーマンとなり、安倍政権下における統一教会と自民党の「組織的な関係」を取り持ってきた疑いがさらに深まったのだ。

 しかも、萩生田氏にかんしては、こんな記述まである。安倍元首相銃撃事件のあと、自民党と統一教会の関係が大きく取り沙汰されたが、その真っ只中だった2022年7月27日、徳野氏は萩生田氏をこのように評価しているのだ。

〈萩生田大臣は、否定もせず、かといって正直に話すこともせず、知恵深くマスコミに答えました。その背後で我々に対しては密かに「私は大丈夫です。何の問題もありませんから心配しないでください。それより今、そちらが大変ですね。ぜひ耐え抜いてください」と激励している人物です〉(前出「週刊文春」)

 安倍氏が銃弾に倒れた直後、自民党と統一教会の関係が問題になっている最中にも教団幹部を「激励」していたとなれば、高市政権を揺るがしかねない大スキャンダルだ。もちろん、徳野氏が誇張して報告していた可能性は否めないが、「TM特別報告書」は嘘ばかりの信憑性が疑われるシロモノというわけではまったくない。実際、同報告書では長島昭久・衆院議員が統一教会の元信者だと記載されていたが、長島氏はその事実を認めている。

 高市首相自らが要職につけた政権の要でもある萩生田氏が、自民党と教団のパイプ役を果たしたという疑惑。さらには最側近である佐藤官房副長官と教団の癒着問題。

ようするに、通常国会において統一教会問題の追及が再び巻き起こる可能性が非常に高い状況なのだ。

 しかも、高市首相はほかにも、命取りになりかねない深刻な問題を抱えている。自身の「政治とカネ」の問題だ。

 高市首相をめぐっては、実態が不明瞭な宗教法人・神奈我良とその代表から計4000万円もの巨額献金を受けていたことが発覚。さらに今月8日には、2005年以降に実施された7回の衆院選において、高市氏が代表を務める自民党支部から高市氏個人に対して計6474万円もの寄付があったことも判明。昨年の「たまたま私が支部長だった。高市早苗に対する献金ではない」という国会答弁が実態と乖離しているとして問題になっている。裏金問題によって自民党が先の参院選で窮地に追い込まれたというのに裏金議員を重用してきた高市首相だが、首相自身にも不透明なカネの流れがあったというわけだ。

 このように、高い支持率の陰でさまざまな疑惑がくすぶっている高市政権。それらを覆い隠したいという私利私欲で解散権を濫用しようとはあまりに姑息だが、そうした高市首相の姑息さを許しているのは、メディアの報道姿勢にほかならない。

 事実、今回の「TM特別報告書」問題について、かろうじて新聞メディアは報じているものの、「週刊文春」のように深掘りしている社は現時点でゼロ。テレビにいたってはNHKも民放もほぼスルーの状態、せいぜいコメントでさらっと出てくる程度で、「週刊文春」の詳報を受けても沈黙をつづけている。同様に、高市首相の不透明な「政治とカネ」問題を徹底追及しているのも、週刊誌ばかり。対して、テレビはニュース番組でもワイドショーでもこうした問題をほとんど取り上げていない。

 それだけではない。台湾有事をめぐる国会答弁の問題も、それによって日中関係を悪化させていることも、ベネズエラに対するトランプ政権の国際法違反の蛮行に頬被りしていることも、テレビは高市首相の責任を正面から問うことを放棄。高市首相が前のめりになっている冒頭解散についても、物価高に苦しむ庶民の生活を見捨てる手段をとろうとしていることを批判せず、政局報道に夢中になっている。その姿勢は、もはや大本営発表としか表現できない様相を呈している。

 円安がさらに深刻になっているにもかかわらずSNSでは異常な高市首相への熱狂が拡散され、オールドメディアと揶揄されるテレビも骨抜きにされているいま、冒頭解散が実行されれば、自民党圧勝のみならず、憲法改正まで一気呵成に進む可能性さえ高まる。いまからでも遅くはない。批判されるべき問題が捨て置かれ、冷静さを失ったファナティックな言説のみが蔓延るというこの危機的状況を生んでしまっていることの責任を、メディアは重く受け止めるべきだ。

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