「かんにんなと言いながら首を絞めた…」
87歳の男の背中は、法廷で震えていた。
60年ほど連れ添った妻が、認知症で暴言などに及ぶようになったことを苦にして、夫が手をかけた“老々介護殺人”。
「もうこれで終わりにしたいと思った」
なぜ悲劇は起きたのか。誰もが当事者になりうる問題を、法廷で見つめた。
(MBS大阪司法担当 柳瀬良太)
法廷で涙「いっぱいいっぱいになったもんで」
大阪地裁の434号法廷。白くなった髪に、紺色の長袖姿で入廷した87歳の男。
時折目を閉じながら、耳には補聴器をつけ、猫背姿だ。
男 「(妻に)今までのことを謝らなあかん。いっぱいいっぱいになったもんで」
男は、去年10月13日の午後8時ごろ、大阪府八尾市の市営住宅一室で、妻(当時81)の首をパジャマのズボンで絞めつけて殺害。その後、午後9時半ごろに交番に出頭し、自首した。
男は、最愛の妻になぜ手をかけたのか。
足が不自由になった妻を介護
法廷で語られた男の人生は、決して平坦なものではなかった。
7人兄弟の次男として生まれたが、家計が苦しく、ほぼ小学校に登校できなかった。中学校に進級しても、農業を手伝っていたという。
読み書きはほとんどできず、村のあちこちで工場勤めをして、27歳の時に妻と知り合い、結婚。2人の子どもに恵まれた。
子どもの独立後に2人暮らしが始まったが、妻が交通事故に遭い、人生の歯車が狂い始める。
妻は徐々に足が不自由になり、夫の介護が増えていった。
(被告人質問 以下同)
男 「買い物は最初は家内も行っていたが、段々(足が)悪くなっていった」
「今は私がほとんど買い物に行く」
弁護人「ご飯はどうしていた?」
男 「(朝・昼・晩)私が作っていた」
弁護人「洗い物はどうしていた?」
男 「私がしていた」
弁護人「お風呂で妻の身体を洗うことは?」
男 「ありました」
「看護師が気に入らないという話をするようになり…」
80歳過ぎまで働き続けた男。買い物や料理など身の回りのことを、一生懸命こなした。
妻は当初は要介護・要支援の認定を受けていたが、その後、手続きをするのをやめた。
弁護人「妻が介護認定を受けなくなったのはなぜ?」
男 「看護師が気に入らないという話をするようになり、それでやめました」
弁護人「物忘れもするようになっていく?」
男 「やっぱり、物忘れがひどくなっていった…」
「私は病人じゃない」激昂する妻
2020年ごろから、妻は「金を盗まれた」など、認知症らしき被害妄想を見せ始める。
「上の階の住人から、毒をまかれている」などと言って警察に通報したり、近隣住民を誹謗中傷する内容のお経を、大声であげたりするようになった。
男 「やめてと言うてもやめない」「なんぼ言うても納得してくれない」
弁護人「病院行ってほしいと言ったら、どうなった?」
男 「怒られました。『私は病人じゃない』と」
追い込まれていった夫
妻の被害妄想や大声での暴言は、男を精神的に追い込んでいく。
弁護人「夫婦の会話は?」
男 「会話はだんだんと減っていった」
「会話をすると大変なので、なるべく近づかないようにと」
弁護人「逃げ場はありましたか?」
男 「いやぁ、つらかったです」
弁護人「逃げるところはなかった?」
男 「はい…」
孤立を深める両親を心配した次男が、訪問介護を受けさせたいと考え、病院を受診させようとしたこともあった。
しかし、妻は大声を出して激怒。男は「病院のことを言うと妻が暴れるので、言わないでくれ」と次男に頼みこんだ。
「もうご破算にしたかった」ついに切れた我慢の糸
老々介護は、ついに限界を迎える。
「あんた、ここから出ていけ」
妻から浴びせられた言葉に、ついに男の我慢の糸が切れた。
妻を肩掛けカバンで複数回殴り、転倒しても大声で叫び続けたため、口をふさいだが、手をかきむしられ出血。
激情を抑えきれず、パジャマのズボンで首を絞め、殺めるに至った。
男 「いっぱいいっぱいになったもんで…」
弁護人 「その時の気持ちを覚えていますか?」
男 「かんにんなと言いながら、首を絞めて、とにかく……」
弁護人 「首を絞めて、どうなりたいと思った?」
男 「もうご破算にしたかったんです」
弁護人 「今の状況から逃げたかった?楽になりたかった?」
男 「はい。それが一番強かったです」
「線香の一本でもあげたい」震えた背中
いま心中に浮かぶ、妻への思いを問われると、証言台の丸まった背中が震えた。
弁護人の問いかけに、男は涙ながらに答えていく。
弁護人 「いまの気持ちは?」
男 「お墓参りにも行きたいし…、線香の一本でもあげたいと思っています…」
弁護人 「認知症が進むまでは、普通の夫婦でしたよね?」
男 「旅行に10回くらい行ったり、楽しいこともあった」
「許してくれと言うしかない」
弁護人 「どうしていたらよかったと思う?」
男 「介護認定をちゃんと受けさせればよかったと思います」
弁護人 「でも、病院に行ってくれなくて。我慢の限界だった?」
男 「はい…もうこれで終わりにしたいと」
弁護人 「次男には?」
男 「…………すまなかった…」
弁護人 「改めて、妻に対する気持ちは」
男 「すまん、すまんと思っています。会いに行きたい、線香もあげたい…」
“保護観察付き執行猶予”の有罪判決
大阪地裁(末弘陽一裁判長)は今年3月の判決で、男の犯行を次のように断じた。
「妻の妄想や暴言は認知症による疑いが大きく、被害者に非があるとはいえない」「長年連れ添った夫に殺された被害者の心情を思うと、まことに痛ましい犯行で、他者に相談して手立てを講じるなど、殺害の選択を回避する手段はあった」
一方で、「2人きりの生活で、長年介護してきた妻からの被害妄想や大声での暴言などに耐え続け、精神的に追い込まれた状態にあった」「被告は我慢しがちな性格で、公的手続きなどにも疎く、他の手立てを講じる積極的な行動に出なかったことを一概に強く非難することはできない」とも指摘。
自首した点も踏まえ、男(87)に拘禁刑3年・保護観察付き執行猶予5年を言い渡した。
説諭「ご自身の罪と向き合いながら、人生を全うして」
裁判長は最後に、次のように説諭した。
「本件の結果は取り返しのつかないものであります。長年連れ添った妻を自分の手で殺めた責任は本当に重い」
「これから社会に出て、妻がいない日々の中で。ご自身の罪と向き合いながら、人生を全うしてもらいたい」
その後、男側・検察側の双方が控訴せず、判決は確定した。
取材後記
男が背負い込んでいたのは、個人の罪だけではなく、超高齢社会が抱える、深く暗い構造的な孤立そのものではなかったか___
「もうご破算にしたかった」
密室で発せられた無言の悲鳴に、行政は、そして社会はどうすれば応えることができたのだろう。
この法廷で語られた“真実“は、誰にでも起こり得る“現実”だという思いが、胸を締めつけた。
限界を迎える前に「助けて」と言える、周囲がSOSに気づける社会が来ることを願い、法廷を後にした。

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