早いものでもう12月も終わろうとしています。最近音楽生成AI「Suno AI」というのがリリースされましたが、これがなかなかのスグレモノで「締め切りが伸びる歌を作ってください」とお願いすると、それらしい違和感の無い仕上がりで「歌」を作ってくれます。スゴいです。担当者様、締切伸ばしてくれてありがとうございます。
さて...、テクノロジーの進化ってすごいと改めて思う今日このごろですが、今回はプロダクトデザイナーとして2023年の「生成AI」ブームを振り返り、生成AIの「ここがスゴい」と、利用者目線として「ここが惜しいっ」というテーマで記事をまとめてみようと思います。
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2023年の生成AI現在地
2023年は、生成AI技術が急速に進化し、多くの業界に革命的な変化をもたらした年として記憶されるのではないでしょうか? 特にChatGPTを起点としたOpenAIの躍進は凄まじく確認している大型リリースも以下のようにてんこ盛りです。- ・2023/02 ChatGPT Plusリリース
- ・2023/03 GPT-4の導入
- ・2023/03 ChatGPTのプラグイン導入
- ・2023/07 Code interpreter ベータ版展開
- ・2023/09 音声と画像入力機能
- ・2023/10 DALL-E 3(画像生成AI)のベータ版ロールアウト
OpenAIはMicrosoftとタッグを組んで先行優位性を活かしつつ業界の優位に立っていますが、GoogleにMeta、Amazonも生成AI開発競争に参戦し、大いに業界は沸いています。
プロダクトデザインにおける生成AI活用の現在
プロダクトデザイン界隈における生成AIの活用も着々と進んできています。例えば、オンラインミーティングのヒアリングやユーザビリティテストなどのリサーチに際には議事録やメモを残すことがありますが、人の手でそれを行うのは面倒で大変な作業です。生成AIを使ったオンラインミーティングのビデオ録画、文字起こしサービスは劇的に進化しており、tl;dvやRimoなど優秀なツールが次々に出ています。
一度使ってみて驚いたのですが、音声の読み取り精度は驚くほど高くなっており、実際に「使える」と思えるレベルになってきています。


プロダクトデザイナーから見る、生成AIの「惜しい」点
前置きですが生成AIの可能性を筆者は強く信じています。一定の決まった回答や、専門特化した分野以外、多様なユースケースや応用の効く生成AIは、プロダクトデザイナーにとって現時点でも確実に役立つテクノロジーであることは疑いようがありません。それを踏まえたうえで、生成AIツールを活用して得られる成果物のメリットと、生成AIを利用するために準備する工数を天秤にかけた際に「現状ではまだ上回らないかなぁ」と感じた点も存在します。
▶コンテキスト理解の限界
エンジニア界隈ではGitHub Copilotなどの、実務で十分使える生成AIツールがすでにいくつもリリースされています。創造性の必要な業務において、実務で使える生成AIツールと使えないツールの差は「コンテキストを踏まえているか」が重要でしょう。
例えばコードの世界では前後のコードを読むことで、問題となっている箇所を推論、予測して修正します。コードはテキストデータ且つ一定のルールに基づいて書かれている言語なので、解決できるかどうかはさておき、生成AIの特徴から見てもコンテキストを読み解くことが比較的容易です。
一方で「プロダクトデザイン」ではこのコンテキストを読み解くのが非常に難しいです。プロダクトデザインの分野において、生成AIを活用する際の最大の難点は、デザインが持つ複雑で多面的な性質にあります。
その中でもUIデザインは、単に審美性だけではなく、使用者の経験、文化的背景、感情的な反応といった無形の要素を包含しています。そのため、単純にデータを処理しパターンを学習するだけのAIには、これらの微妙なニュアンスを完全に理解し再現することが困難です。 また、意匠設計においては流行や文化的傾向にも影響を受けます。これらの要素はコードのように一定の規則性を持たないため、AIが現在のトレンドを理解し適応するのは一層難しいです。
さらに、プロダクトデザインはそのプロダクトが置かれる環境や、使用するユーザーの具体的なニーズを深く理解することも必要です。 これには単に表層上の設計に留まらず、機能性、持続可能性、アクセシビリティなど、多くの側面を考慮する必要があります。
現段階において、生成AIはこれらの複雑な要因を総合的に評価し、適切な提案をするには至っていません。
▶画面設計プロセス介入の難しさ
プロダクトデザインにおけるUIデザインの具体的な例として、「画面上にボタンを配置する」プロセスを考えてみましょう。このプロセスは一見単純に思えるかもしれませんが、実際には多数の複雑な判断を要します。
例えば、ボタンのサイズ、色、形状、位置、さらにはボタンに関連する動作やフィードバックまで、ユーザー体験に大きな影響を与える要素が含まれています。生成AIをこのプロセスに介入させる際の難しさは、まずユーザーインターフェースのデザインが単に視覚的な要素に留まらないことに起因します。ユーザーの操作性、直感的な理解、アクセシビリティなど、非常に多様なユーザーのニーズを考慮する必要があります。
現段階のAI及びツールでは、これらの複雑なユーザーの行動や好みを完全に理解し、それに応じた最適なデザインを提案することが困難です。 また、ボタンの配置やデザインは、そのアプリケーションの全体的なコンテキストに深く根ざしています。
例えば「ボタンの役割」、「アプリケーションの目的」、「ターゲットユーザーの特性」、「使用環境」など、多くの要素が考慮されるべきです。加えてプロダクト全体のルールやガイドライン、デザインシステムがあれば、そのルールに従ってデザインされてなくてはなりません。
これらの要素はしばしば非明示的であり、AIにとってはこれらを把握し、適切なデザイン判断を下すことが特に難しい点となります。
▶具体的なツール事例
コンテキスト理解によるデザインの難しさを説明しましたが、具体のUIデザインにおいて、この困難にチャレンジしているツールはすでにいくつもあります。現時点で有名なのはUizardのAI機能やFigmaプラグインとして開発されているGeniusなどが挙げられるでしょうか。

もっともこれはUizardが悪いということではなく、テキストプロンプトだけでUIデザインをどうにかする...というアイデア自体がそもそも筋が悪いのでは? と思っています。

ただ、そもそもGeniusを開発しているDiagramがFigmaに買収されたので、Figma本体で着々と開発が進んでる可能性がありますがまだ何も発表はありません。少なくとも検証に時間がかかる分野ということは、このことだけでも伝わるでしょう。
以上のことから、現段階でプロダクトデザイン、特に画面設計プロセスにおいて生成AIを使ったツールを全面的に使おうとした場合、その下準備や工夫にかけるコストに対してリターンが合わない...というのが結論です。
終わりに、2024年に向けて
最後はやや厳しい目を持って生成AIツールを評価しましたが、これはあくまでプロダクトデザインの一プロセスについてであり、生成AI自体の未来が明るいことは変わりなく、その進化は確実に続いています。様々なレポート、例えば、2023年版「生成AIのハイプ・サイクル」によれば、生成AI自体の使用率は全体として上昇傾向にあります。
2023年は多くの進展と変化を経験しましたが、2024年には更なる発展が期待されます。それでは、2024年にお会いしましょう。
