フリーランサーと企業との間でトラブルが起きた場合、これまでは泣き寝入りするしかないというケースが数多くありましたが、2024年11月から施行されるフリーランス保護新法によって、法的な根拠も整いつつあります。そこで、今回は前回の記事『すぐに役立つ! 11月の施行前にクリエイターが知っておきたいフリーランス保護新法の基本知識』でもお伝えしたように、私の経験談も踏まえながら、最新の法律サービスについて解説します。
目次
▶法テラス
法テラス法テラスは、経済的に困難な人々に向けて法律に関する相談や支援を行う公的なサービスです。各都道府県に事務所が設置されていますので、利用しやすい相談先を選択できます。また、利用者側で人選はできませんが、相談内容に合った専門領域の弁護士に相談できるようになっています。ただし、利用には収入や資産が一定基準以下である必要があり、窓口で簡単な審査があります。
注意が必要なのは、無料の法律相談で法テラスは第一候補となるサービスですが、相談内容によっては数週間先まで予約で埋まっているケースが非常に多いという点です。居住地に近い事務所ではなく都市部の大きな事務所で予約をすることも可能なので、急ぎの場合はいくつかの事務所の予約状況を確認してみましょう。また、親身になってくれる弁護士が多いと思いますが、法テラスの活動は、弁護士にとって「プロボノ」という社会貢献活動の一環として提供しているサービスに近く、弁護士費用を格安で設定しているため事件への採算が取れないケースも多く、相談には乗ってもらえるけれど、これでトラブルがスムーズに解決するとは限らないという点は理解しておきましょう。
▶フリーランストラブル110番
フリーランストラブル110番フリーランストラブル110番は、厚生労働省関連の団体で、国もフリーランス向けのトラブル相談窓口として利用をすすめています。弁護士に直接、電話やメールで無料相談できる点が最大のメリットです。
ただし、フリーランスに関するトラブルが急増し、予約の取りにくい状況が続いています。また弁護士は相談者側で選択することはできません。複数回利用はできますが、電話での相談時間にも制限があります。加えて、窓口はオペレーターによる事務的な対応になるので、追い詰められた精神状態だと対応が冷たく感じる方もいるかもしれません。
▶下請け駆け込み寺
下請け駆け込み寺下請け駆け込み寺は、中小企業庁関連の団体ですが、個人事業主やフリーランスの相談にも対応してくれるサービスです。取引上の問題解決に向けて専門の相談員や弁護士のアドバイスを受けることができます。私は法テラスもフリーランス110番もすぐに予約が取れない状況で、こちらの団体に相談してみました。窓口はオペレーターではなく、相談員の方が対応してくれます。
私の相談は早急に内容証明を送付したいという内容だったのですが、「市役所等の法律相談も調べてみてください」と他のサービスへの案内するといった具体策を教えてくれたり、相手方企業の動向から考えられる対応についても丁寧に回答してくれました。ここで対応してくれた相談員の方は法律の専門家ではないとのことでしたが、精神的にかなり救われた気がします。上記2サービスでは対応が間に合わない場合など、駆け込みしてみると良いかもしれません。
その他の主な無料法律相談サービス
サービス名説明よろず支援拠点国が設置している支援拠点で独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営。法律系のサービスではないが中小企業・小規模事業者・中小規模の法人などに向けのサービスで経営上のあらゆる相談が可能。自治体の法律相談サービス多くの自治体で無料の法律相談サービスが提供されており、労働問題なども対応してくれる場合あり。東京弁護士会や第二東京弁護士会といった弁護士会のサイトにも自治体向けサービスに関する情報が提供されている。ここで紹介した公的な法律サービスは、いずれも無料で利用可能ですが、結局のところ裁判など法的な手続きが発生する段階になると弁護士費用や裁判費用などの費用がかかることが一般的です。以前、私が経験した事案で(クライアントの破産による未払に関して)、いろいろなサービスで相談してみましたが、簡易裁判でも訴訟費用や弁護士費用で10万以上の費用が必要になるケースが多いと言われました。加えて、裁判に勝ったとしても費用面で赤字になる可能性が高いという助言ももらいました。
フリーランス保護新法によって少し良い方向へ進むと思いますが、実際のところ、こうした未払など経済的に苦しい状況では裁判に向けて訴訟を起こすといったことは非常に困難です。公的な無料法律相談は、基本的には裁判にならないための対処法や、和解に向けた斡旋、法律的な手続きといったサポートまでを無料で提供するサービスである点を認識しておきましょう。
ちなみに、どうしても裁判が必要といった場合は、住宅の賃貸契約などで交わす火災保険などに「弁護士費用特約」がついていないかを確認してみるのも一つの方法です。トラブル内容によってはこの特約を活用できるかもしれません。私はプライベートで損害賠償トラブルになった際に、この特約によって救われた経験があります。
▶フリーランス協会
フリーランス協会フリーランス協会は、政府の審議会・検討会などに有識者として参加しているメンバーなどが中心となって運営されている団体で、法務や契約関係のサポートも充実しています。ただし、理事のメンバー構成を見ると、どちらかと言えばクリエイターよりも、ベンチャー経営者、プランナー、コンサルタント、大手広告代理店や大手出版社の出身者などが多いので、フリーランスという働き方から新しい事業を創出していきたい方々によって設立された団体といった印象を受けます。また、インボイスについては基本的には推進している団体です。これらはデメリットなのかというと、必ずしもそうではなく、適格請求書発行事業者や、行政関連や手堅い大手企業とのプロジェクト等の案件を獲得したいという場合などは、プラスに働くことも多くあるでしょう。
▶Wor-Q
Wor-QWor-Qは日本労働組合総連合会という、労働組合の全国中央組織が運営するフリーランス向けのサービスです。弁護士相談のサポートの他、賠償補償や所得補償などもカバーする共済サービスなども提供されています。サイトで提供されている情報は会員以外も見ることができますが、すべての機能を利用するためには連合ネットワーク会員に登録する必要があります。
労組は思想・信条的に合わないという方もいるかもしれませんが、人権派弁護士と呼ばれるような労働問題に強い弁護士は、一般的に左派系の方が多いです。法律的なトラブルが発生した際などは心強いサービスの一つですので、覚えておきましょう。
▶文芸美術国民健康保険組合に加盟している団体
文芸美術国民健康保険組合文芸美術国民健康保険組合は文芸美術および著作活動に従事しているフリーランス向けの健康保険組合です。通称「文美国保」と呼ばれています。国民健康保険の支払いに悩むフリーランサーも多いと思いますが、そうした悩み相談の際に「文美国保に加入するといいよ」とアドバイスされることも多いのでご存じの方も多いでしょう。文芸美術国民健康保険組合自体は直接的な法律相談は提供していませんが、下記の表でも紹介しているように法的なサポートを提供する団体も多く加盟しています。
文美国保に加入するためには、文美国保の加盟団体の会員にもなる必要がありますが、同じような業種の団体でも法的なサポートが充実している場合と、交流などコミュニティ機能のみを提供する団体があるので、年会費なども考慮した上で法的なサポートを含む団体の会員になっておくと便利です。加盟団体については「加盟団体一覧」で確認できます。また、どれくらいの保険料になるかは、保険料シュミレーションというページで確認できるので、気になる方はチェックしてみましょう。
法的なサポートも提供する主な文芸美術国民健康保険組合加盟団体
団体名説明日本イラストレーション協会フリーランスで活動するイラストレーター、グラフィックやウェブデザイナーが加入できる協同組合。著作権や人格権、肖像権等の侵害などの対応をサポートするサービスも提供している。日本漫画家協会漫画家を支援する公益財団法人。著作権等管理事業などもサービスとして提供している。日本アニメーター・演出協会アニメーター・演出家などアニメクリエイター全体を支援する団体。
日本商工会議所商工会議所は、地域の商工業者の利益を代表し、地域経済の発展を促進することを目的とした経済団体で全国の515地域に存在します。
この他にも、クラウドソーシング、人材派遣といった実質的に使用者側の関連事業をやっている企業が運営しているサービスなど数多くの団体・サービスがあります。少しデリケートな部分まで解説したのは、これらの団体の会員になるかどうかについては、提供されるサービスと同じくらいに団体との相性も大事だからです。設立の経緯、団体の理念、役員構成などの背景までしっかりと吟味した上で、自分の目的や考え方に合った団体を選びましょう。
法律相談を提供する主なネットサービス
サービス名説明ココナラ法律相談日本最大級のスキルマーケット「ココナラ」が提供している法律相談。クリエイターのスキル提供と同様に弁護士がスキルを提供している。地域や分野、料金など条件指定し弁護士を検索でき無料の法律相談も提供されている。弁護士ドットコム法律系のメディアの代表格。「みんなの法律相談」という一般利用者のお悩みを解決する公開型Q&Aサービスが提供されている。あなたの弁護士弁護士の検索サイト。オンライン上で質問をし弁護士からの回答がもらえるQ&Aサービスも提供されている。ベンナビ弁護士の検索サイト。掲載中の弁護士が法律相談に無料で回答するQ&Aサービスを提供している。また、最近はクリエイター向けの法律ハンドブックで、大変おすすめな書籍がいくつか発刊されれています。
クリエイター向けのおすすめ法律ハンドブック
『クリエイター六法』 著者:宇根駿人、田島佑規 / 出版社:翔泳社
『クリエイターのための権利の本』 著者:大串肇、北村崇、木村剛大、古賀海人、齋木弘樹、角田綾佳、染谷昌利 / 出版社:株式会社ボーンデジタル
このように、いろんな情報源を活用して法的なトラブルに備えたリスクマネジメントを行っておきましょう。
※著者は法律の専門家ではありませんので、法律の解釈など認識が不十分である可能性があります。条項内容については自身でも確認したり専門家のアドバイスを仰ぐようにしましょう
▶著作権・著作人格権
クリエイターが最も気になる契約書の条項は著作権に関する内容でしょう。著作権については、ここで全てを語れませんので、著作人格権にポイントを絞って解説します。私の記憶が確かならば、著作人格権が注目されるようになったきっかけは彦根市のゆるキャラ、ひこにゃんのデザイナーと彦根市がキャラクターの改変について争った「ひこにゃん事件」でした。この事件をきっかけに、契約書に著作権の譲渡に加え著作人格権の不行使を盛り込む企業が増えたのではないかと推測します。
キャラクターデザインなどグッズ販売などを展開してく場合、キャラクターの改変が必要になる度に、著作権者に許可を取るといった作業はなるべく省きたいという発注者側の考えも理解できます。これは、Webコンテンツなどにおいても同様です。ちなみに、デザイナーやライターといった職種に携わる人が、自身の制作物を作品のように捉えるのはおかしいと考える方もいるかもしれません。しかし、コンテンツの作者というのは制作物に対して責任も負わなければいけません。著作人格権に関しては、TVドラマ原作の漫画家が自ら命を断つという痛ましいニュースも記憶に新しいですが、芸術的な価値があるか否かの問題ではなく、著作人格権に対して配慮を欠くことは著作者の尊厳も大きく傷つけ創作活動に支障をきたす可能性もあるということだけは、クライアント企業の方々も心に留めておく必要があるかと思います。
また、必ずしも世の中に流通している契約書のフォーマットに則る必要もありません。例えば、私が見た契約書の中には、著作権を譲渡せずに、著作人格権の不行使だけで対応し、なおかつ著作者人格権を不当に損なうことのないよう配慮するといった文言が添えられているものもありました。大切なのは、クライアント企業とフリーランスの双方が納得いく形で契約を締結することで、フリーランス側は契約内容の変更も含めて根気よく自身の考えや契約ポリシーを伝えていく必要があります。
※参考資料:著作権テキスト(文化庁)
▶競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)
競業避止義務とは、使用者(クライアント企業)と競合する業務を行わない義務のことを指します。労働契約では、競合企業・組織への転職や競合する事業の設立を禁止するものとなりますが、フリーランスの場合はライバル企業での仕事を禁止・制限する義務になります。この競業避止義務は、ITベンチャー企業などで見られることがある条項で、エンジニア用の契約書フォーマットをそのまま流用しているケースがあると考えられます。
フリーランスに対して競業避止義務を課すことは可能ですが、独占禁止法上の問題が生じる可能性もあり、クリエイター活動の死活問題に発展する可能性が高いので要注意です。例えば、ソーシャルゲームのイラストレーターが、この条項がある契約書を締結してしまうと、他企業のゲームイラスト制作を請負うことができなくなる可能性があります。メディカルイラストレーター、スポーツライターといったように複数の競合他社で業務を請負うことを前提に活動するジャンル特化型のクリエイターは特に要注意な条項です。
「契約書の条項は削れないが、競合◯◯というメディア以外のサービスであれば問題ありませんよ」といった約束で対応しようとする担当者もいますが、契約書内にその競合他社名やサービス名が明記されていない場合、その約束は法的な効力がない可能性が高いです。また、契約書を交わす相手は、その担当者個人ではありません。担当者が変更となったり退職した場合は、言った言わないのトラブルに発展しやすいです。使用者の懸念は、秘密保持契約の条項でカバーできていることがほとんどですので、契約内容を吟味したうえで基本的には削除してもらうように交渉してみましょう。
▶業務委託契約と請負契約の違い
業務委託契約と請負契約はどちらも仕事を発注して遂行する契約ですが、内容には厳密な違いがあります。ここでは両者の違いについての詳細は割愛しますが、その違いはしっかりと確認しておきましょう。例えば、フリーランスのメリットとして、自分の取引先を自由に選べるという点がありますが、請負契約では特定の条件を満たさない限り、途中で契約を解除することが難しいため、注意が必要です。
※参照URL:業務委託契約と請負契約は違う? 注意点・契約のポイントを解説(ベリーベスト法律事務所)
▶秘密保持契約
業務で知り得た情報を外部に漏らさないように、多くの契約書で、秘密保持契約(NDA)の条項が盛り込まれています。秘密保持のレベルは、契約終了後も無期限に秘密を守ることを求める厳格なものから、一定期間に限ったものまで様々です。契約内容を十分に確認し、納得した上で締結することが大切です。
以上に挙げた条項を中心に、契約書をチェックしていくとスムーズかと思います。また、一概には言えませんが、作家や漫画家といったクリエイターを抱える大手出版社などをはじめとして、条件面で高待遇なクライアントの契約書ほど、シンプルでわかりやすい傾向があるように思います。一方で、安価な報酬で実績公開が不可能な案件は、数ページにわたる契約を提示してくるケースが多いように感じます。フリーランスとして実績を積み上げていく上でも、実績公開可能な案件で、他者に置き換えができない創作活動に携わるよう仕事を選択していくことが、クリエイター活動を続けていく上で重要なことかもしれません。
著作権など法的事項については、積極的に情報収集し理解を深めることが大切ですが、自分自身の法律文書読解力については過信しないようにしましょう。例えば「生成AIと著作権の関係は私のほうが詳しい」といった態度では適切なアドバイスを得られない可能性もあります。誠実な弁護士・法律の専門家は、依頼者にとって不都合な事実も情報提供してくれるはずなので、しっかりと聞く耳をもっておきましょう。
また、大手企業やITベンチャーの社員は、国内トップクラスの大学を卒業した人や法律系の学部を出ている方なども多く、そうした頭脳と契約書の内容で対峙しなければいけないこともあります。特に相手方には弁護士がついていて、なおかつ自身の活動に大きな影響を与える状況下では、必ず何らかの方法で法律の専門家のサポートを得ることが大切です。まずは、法的なトラブルが発生しないような環境づくり、リスクマネジメントが重要ですが、問題が起こってしまった際は、本記事をポータルサイト的に活用してみてください。
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フリーランスにおすすめの無料法律相談サービス
基本的には、法的なトラブルに発展するような事態は避けたいものです。しかし、フリーランス歴の長い方は、何度か法的なトラブルを経験したことがあるのではないでしょうか。法的なトラブルが起きた際に、相談する人が身近にいないというのはフリーランスにとってのウィークポイントです。ここではまず、フリーランスにおすすめの無料法律相談サービスについて解説します。▶法テラス

注意が必要なのは、無料の法律相談で法テラスは第一候補となるサービスですが、相談内容によっては数週間先まで予約で埋まっているケースが非常に多いという点です。居住地に近い事務所ではなく都市部の大きな事務所で予約をすることも可能なので、急ぎの場合はいくつかの事務所の予約状況を確認してみましょう。また、親身になってくれる弁護士が多いと思いますが、法テラスの活動は、弁護士にとって「プロボノ」という社会貢献活動の一環として提供しているサービスに近く、弁護士費用を格安で設定しているため事件への採算が取れないケースも多く、相談には乗ってもらえるけれど、これでトラブルがスムーズに解決するとは限らないという点は理解しておきましょう。
▶フリーランストラブル110番

フリーランスに特化しているので、担当の弁護士もクリエイティブ職・IT関連職などの仕事内容などにも詳しく、自身の仕事内容などの説明もスムーズに進む可能性が高いです。
ただし、フリーランスに関するトラブルが急増し、予約の取りにくい状況が続いています。また弁護士は相談者側で選択することはできません。複数回利用はできますが、電話での相談時間にも制限があります。加えて、窓口はオペレーターによる事務的な対応になるので、追い詰められた精神状態だと対応が冷たく感じる方もいるかもしれません。
▶下請け駆け込み寺

私の相談は早急に内容証明を送付したいという内容だったのですが、「市役所等の法律相談も調べてみてください」と他のサービスへの案内するといった具体策を教えてくれたり、相手方企業の動向から考えられる対応についても丁寧に回答してくれました。ここで対応してくれた相談員の方は法律の専門家ではないとのことでしたが、精神的にかなり救われた気がします。上記2サービスでは対応が間に合わない場合など、駆け込みしてみると良いかもしれません。
その他の主な無料法律相談サービス
サービス名説明よろず支援拠点国が設置している支援拠点で独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営。法律系のサービスではないが中小企業・小規模事業者・中小規模の法人などに向けのサービスで経営上のあらゆる相談が可能。自治体の法律相談サービス多くの自治体で無料の法律相談サービスが提供されており、労働問題なども対応してくれる場合あり。東京弁護士会や第二東京弁護士会といった弁護士会のサイトにも自治体向けサービスに関する情報が提供されている。ここで紹介した公的な法律サービスは、いずれも無料で利用可能ですが、結局のところ裁判など法的な手続きが発生する段階になると弁護士費用や裁判費用などの費用がかかることが一般的です。以前、私が経験した事案で(クライアントの破産による未払に関して)、いろいろなサービスで相談してみましたが、簡易裁判でも訴訟費用や弁護士費用で10万以上の費用が必要になるケースが多いと言われました。加えて、裁判に勝ったとしても費用面で赤字になる可能性が高いという助言ももらいました。
フリーランス保護新法によって少し良い方向へ進むと思いますが、実際のところ、こうした未払など経済的に苦しい状況では裁判に向けて訴訟を起こすといったことは非常に困難です。公的な無料法律相談は、基本的には裁判にならないための対処法や、和解に向けた斡旋、法律的な手続きといったサポートまでを無料で提供するサービスである点を認識しておきましょう。
ちなみに、どうしても裁判が必要といった場合は、住宅の賃貸契約などで交わす火災保険などに「弁護士費用特約」がついていないかを確認してみるのも一つの方法です。トラブル内容によってはこの特約を活用できるかもしれません。私はプライベートで損害賠償トラブルになった際に、この特約によって救われた経験があります。
フリーランスのクリエイターにおすすめの団体
スポーツ選手と同様に、クリエイターもエージェント(代理人)を持つことが理想的です。しかし、そのような費用を準備できる人はごく限られています。そんな代理人的な役割を担ってくれるのが、フリーランス・個人事業主向けの団体で、加盟することで法的なサポートを得られる場合があります。年会費などの費用が発生しますが、社会保険や賠償補償などのサービスも提供している団体もあるので会員になるメリットも多いと考えられます。▶フリーランス協会

▶Wor-Q

労組は思想・信条的に合わないという方もいるかもしれませんが、人権派弁護士と呼ばれるような労働問題に強い弁護士は、一般的に左派系の方が多いです。法律的なトラブルが発生した際などは心強いサービスの一つですので、覚えておきましょう。
▶文芸美術国民健康保険組合に加盟している団体

文美国保に加入するためには、文美国保の加盟団体の会員にもなる必要がありますが、同じような業種の団体でも法的なサポートが充実している場合と、交流などコミュニティ機能のみを提供する団体があるので、年会費なども考慮した上で法的なサポートを含む団体の会員になっておくと便利です。加盟団体については「加盟団体一覧」で確認できます。また、どれくらいの保険料になるかは、保険料シュミレーションというページで確認できるので、気になる方はチェックしてみましょう。
法的なサポートも提供する主な文芸美術国民健康保険組合加盟団体
団体名説明日本イラストレーション協会フリーランスで活動するイラストレーター、グラフィックやウェブデザイナーが加入できる協同組合。著作権や人格権、肖像権等の侵害などの対応をサポートするサービスも提供している。日本漫画家協会漫画家を支援する公益財団法人。著作権等管理事業などもサービスとして提供している。日本アニメーター・演出協会アニメーター・演出家などアニメクリエイター全体を支援する団体。
下請法ガイドライン講座など法的な講座なども提供している。日本写真家協会フォトグラファー向けの支援団体。写真著作権と肖像権などもサポートしている。ジャパン デザイン プロデューサーズ ユニオンデザイン事業所の経済的安定と社会的地位の向上を促進を支援する団体。弁護士、弁理士などによる勉強会なども開催している。日本インダストリアルデザイン協会インダストリアルデザイナー向けの支援団体。契約や知財に関する情報提供・サポートなども提供する。ITフリーランス支援機構ITフリーランス業界の健全化を通じ、業界の永続的な繁栄を目的とした支援団体。労災防止活動や補償提供など法的な支援も提供している。日本ネットクリエイター協会株式会社ドワンゴの関係者が運営するネットで活動するクリエイター向けの協会。税務、国保、音楽原盤二次使用料徴収、各種著作権などのサポートなどを行っている。▶商工会議所

法的なサポートも充実しており、フリーランス・個人事業主も加盟することができます。全く別の組織ですが青年会議所や保守系の政治団体と関係が深いと指摘されることもあり、こちらも思想・信条的に合わないと感じる方もいるかもしれません。しかし、デザイン事務所などのオフィスを構えていて、地域コミュニティのメンバーとして活動していきたいといった場合は、法的なサポート以外でも非常にメリットのある団体でしょう。
この他にも、クラウドソーシング、人材派遣といった実質的に使用者側の関連事業をやっている企業が運営しているサービスなど数多くの団体・サービスがあります。少しデリケートな部分まで解説したのは、これらの団体の会員になるかどうかについては、提供されるサービスと同じくらいに団体との相性も大事だからです。設立の経緯、団体の理念、役員構成などの背景までしっかりと吟味した上で、自分の目的や考え方に合った団体を選びましょう。
クリエイターに役立つその他の法的サービス・情報源
ネットの法律系サービスも無料法律相談サービスを提供していたり、予算にあった弁護士を検索する機能が搭載されているので、チェックしてみましょう。法律相談を提供する主なネットサービス
サービス名説明ココナラ法律相談日本最大級のスキルマーケット「ココナラ」が提供している法律相談。クリエイターのスキル提供と同様に弁護士がスキルを提供している。地域や分野、料金など条件指定し弁護士を検索でき無料の法律相談も提供されている。弁護士ドットコム法律系のメディアの代表格。「みんなの法律相談」という一般利用者のお悩みを解決する公開型Q&Aサービスが提供されている。あなたの弁護士弁護士の検索サイト。オンライン上で質問をし弁護士からの回答がもらえるQ&Aサービスも提供されている。ベンナビ弁護士の検索サイト。掲載中の弁護士が法律相談に無料で回答するQ&Aサービスを提供している。また、最近はクリエイター向けの法律ハンドブックで、大変おすすめな書籍がいくつか発刊されれています。
クリエイター向けのおすすめ法律ハンドブック
『クリエイター六法』 著者:宇根駿人、田島佑規 / 出版社:翔泳社
『クリエイターのための権利の本』 著者:大串肇、北村崇、木村剛大、古賀海人、齋木弘樹、角田綾佳、染谷昌利 / 出版社:株式会社ボーンデジタル
このように、いろんな情報源を活用して法的なトラブルに備えたリスクマネジメントを行っておきましょう。
法的にトラブル発展しやすい契約書の条項
フリーランス保護新法によっていくつか改善される領域もあると思いますが、それでも対企業のやりとりにおいて個人であるフリーランスの立場が弱いことには代わりはありません。これまでは、契約書をかわさずに依頼される仕事もありましたが、新法によって契約書の締結が必須になってくるでしょう。しかし、契約書の内容をすべて把握することは困難です。そこで、法的なトラブルに発展しやすい契約書の条項に絞って、そのポイントを確認しておきましょう。※著者は法律の専門家ではありませんので、法律の解釈など認識が不十分である可能性があります。条項内容については自身でも確認したり専門家のアドバイスを仰ぐようにしましょう
▶著作権・著作人格権
クリエイターが最も気になる契約書の条項は著作権に関する内容でしょう。著作権については、ここで全てを語れませんので、著作人格権にポイントを絞って解説します。私の記憶が確かならば、著作人格権が注目されるようになったきっかけは彦根市のゆるキャラ、ひこにゃんのデザイナーと彦根市がキャラクターの改変について争った「ひこにゃん事件」でした。この事件をきっかけに、契約書に著作権の譲渡に加え著作人格権の不行使を盛り込む企業が増えたのではないかと推測します。
キャラクターデザインなどグッズ販売などを展開してく場合、キャラクターの改変が必要になる度に、著作権者に許可を取るといった作業はなるべく省きたいという発注者側の考えも理解できます。これは、Webコンテンツなどにおいても同様です。ちなみに、デザイナーやライターといった職種に携わる人が、自身の制作物を作品のように捉えるのはおかしいと考える方もいるかもしれません。しかし、コンテンツの作者というのは制作物に対して責任も負わなければいけません。著作人格権に関しては、TVドラマ原作の漫画家が自ら命を断つという痛ましいニュースも記憶に新しいですが、芸術的な価値があるか否かの問題ではなく、著作人格権に対して配慮を欠くことは著作者の尊厳も大きく傷つけ創作活動に支障をきたす可能性もあるということだけは、クライアント企業の方々も心に留めておく必要があるかと思います。
また、必ずしも世の中に流通している契約書のフォーマットに則る必要もありません。例えば、私が見た契約書の中には、著作権を譲渡せずに、著作人格権の不行使だけで対応し、なおかつ著作者人格権を不当に損なうことのないよう配慮するといった文言が添えられているものもありました。大切なのは、クライアント企業とフリーランスの双方が納得いく形で契約を締結することで、フリーランス側は契約内容の変更も含めて根気よく自身の考えや契約ポリシーを伝えていく必要があります。
※参考資料:著作権テキスト(文化庁)
▶競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)
競業避止義務とは、使用者(クライアント企業)と競合する業務を行わない義務のことを指します。労働契約では、競合企業・組織への転職や競合する事業の設立を禁止するものとなりますが、フリーランスの場合はライバル企業での仕事を禁止・制限する義務になります。この競業避止義務は、ITベンチャー企業などで見られることがある条項で、エンジニア用の契約書フォーマットをそのまま流用しているケースがあると考えられます。
フリーランスに対して競業避止義務を課すことは可能ですが、独占禁止法上の問題が生じる可能性もあり、クリエイター活動の死活問題に発展する可能性が高いので要注意です。例えば、ソーシャルゲームのイラストレーターが、この条項がある契約書を締結してしまうと、他企業のゲームイラスト制作を請負うことができなくなる可能性があります。メディカルイラストレーター、スポーツライターといったように複数の競合他社で業務を請負うことを前提に活動するジャンル特化型のクリエイターは特に要注意な条項です。
「契約書の条項は削れないが、競合◯◯というメディア以外のサービスであれば問題ありませんよ」といった約束で対応しようとする担当者もいますが、契約書内にその競合他社名やサービス名が明記されていない場合、その約束は法的な効力がない可能性が高いです。また、契約書を交わす相手は、その担当者個人ではありません。担当者が変更となったり退職した場合は、言った言わないのトラブルに発展しやすいです。使用者の懸念は、秘密保持契約の条項でカバーできていることがほとんどですので、契約内容を吟味したうえで基本的には削除してもらうように交渉してみましょう。
▶業務委託契約と請負契約の違い
業務委託契約と請負契約はどちらも仕事を発注して遂行する契約ですが、内容には厳密な違いがあります。ここでは両者の違いについての詳細は割愛しますが、その違いはしっかりと確認しておきましょう。例えば、フリーランスのメリットとして、自分の取引先を自由に選べるという点がありますが、請負契約では特定の条件を満たさない限り、途中で契約を解除することが難しいため、注意が必要です。
※参照URL:業務委託契約と請負契約は違う? 注意点・契約のポイントを解説(ベリーベスト法律事務所)
▶秘密保持契約
業務で知り得た情報を外部に漏らさないように、多くの契約書で、秘密保持契約(NDA)の条項が盛り込まれています。秘密保持のレベルは、契約終了後も無期限に秘密を守ることを求める厳格なものから、一定期間に限ったものまで様々です。契約内容を十分に確認し、納得した上で締結することが大切です。
以上に挙げた条項を中心に、契約書をチェックしていくとスムーズかと思います。また、一概には言えませんが、作家や漫画家といったクリエイターを抱える大手出版社などをはじめとして、条件面で高待遇なクライアントの契約書ほど、シンプルでわかりやすい傾向があるように思います。一方で、安価な報酬で実績公開が不可能な案件は、数ページにわたる契約を提示してくるケースが多いように感じます。フリーランスとして実績を積み上げていく上でも、実績公開可能な案件で、他者に置き換えができない創作活動に携わるよう仕事を選択していくことが、クリエイター活動を続けていく上で重要なことかもしれません。
まとめ
チャット生成AIを利用するなど、法律の専門用語に関する理解も、容易になってきている部分もあります。しかし、法律関連の文書を正確に読みこなすには、かなりの読解力を要します。法律特有の専門用語や慣用表現の理解も必要になってきますし、場合によっては一つの助詞や文法の変更で意味が大きく変わることもあります。著作権など法的事項については、積極的に情報収集し理解を深めることが大切ですが、自分自身の法律文書読解力については過信しないようにしましょう。例えば「生成AIと著作権の関係は私のほうが詳しい」といった態度では適切なアドバイスを得られない可能性もあります。誠実な弁護士・法律の専門家は、依頼者にとって不都合な事実も情報提供してくれるはずなので、しっかりと聞く耳をもっておきましょう。
また、大手企業やITベンチャーの社員は、国内トップクラスの大学を卒業した人や法律系の学部を出ている方なども多く、そうした頭脳と契約書の内容で対峙しなければいけないこともあります。特に相手方には弁護士がついていて、なおかつ自身の活動に大きな影響を与える状況下では、必ず何らかの方法で法律の専門家のサポートを得ることが大切です。まずは、法的なトラブルが発生しないような環境づくり、リスクマネジメントが重要ですが、問題が起こってしまった際は、本記事をポータルサイト的に活用してみてください。

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