IT環境における作業効率化とは、様々なデバイスやツールを用いて、タスクやワークフローを自動化していくこととイコールです。この自動化の促進は、デジタル化・DX化という言葉を頻繁に目にするようになったことからも分かる通り、企業の成長戦略として必要不可欠な施策となっています。
そして、企業がファクトリー・オートメーションやマーケティング・オートメーションといったツールを導入しているのと同様に、クリエイティブワークでも作業を自動化していくことは、生産性を高めていく上で重要な事柄です。

もちろん、画像生成AIの問題で浮き彫りにされたように、クリエイターの創作活動自体は、自動化できるものではありません。一方で、創作活動の周辺にはファイルの整理、ファイル形式の変換、画像のサイズ調整、データの抽出といった雑多な作業が存在します。これら周辺の作業を効率的に自動化していくことは職業倫理に反するものではないと思います。

フリーランスであれば、そうした作業を自動化することで創作活動に注力することができますし、企業に属して活動するクリエイターにとっては、人手不足を補ったりコストダウンを実現する手段になり得ます。しかし、そうした自動化をどのように取り組めばいいかわからないといった方も多いかと思います。そこで今回は、macOSに標準搭載された作業自動化ツールである「Automator(オートメーター)」について詳しく解説します。

目次

Automatorの基本概要を知る

RPAツールってなに?
RPAツールのRPAとはRobotic Process Automationの略で、ボットと呼ばれるソフトウェア上のロボット、またはデジタル・ラバーと呼ばれる仮想知的労働者に、作業を代行させて業務プロセスを効率化していく技術のことを指します。RPAツールは、スクリプト作成といった専門知識を必要とせず、GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)で、任意のタスクを自動化できるツールであり、ノンエンジニアでも簡単に利用できる点にメリットがあります。

Automator(オートメーター)とは?

Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
AutomatorのアイコンAutomatorとは、macOSに標準搭載されているRPAツールです。AppleScriptをGUIで操作可能にし、視覚的にmacOS上の複数のタスクが連動したワークフローの自動化、複雑なショートカットによる自動化などを実現することができます。2005年に発売されたmacOS X v10.4 Tigerから搭載されているツールですので、すでに使いこなしているというMacユーザーも多いかと思います。また、Automatorをよく知らないというMacユーザーも、上の画像にあるロボットのアイコンは見たことがある人も多いのではないでしょうか。


Automatorで出来ることは結構多い!

Automatorを使って自動化できるワークフローには8つのタイプにわかれます。以下の表で8つのタイプについて説明します。

Automatorで作成できるワークフロー書類の種類

書類の種類説明ワークフローAutomator内で実行できるワークフローアプリケーション自動化アプリケーションを作成し、アプリのアイコンにドロップされたファイルやフォルダに対して処理が行われるワークフロークイックアクションFinder、Touch Bar、サービス・メニューに追加して実行できるワークフロープリントプラグインプリントダイアログで実行するワークフローフォルダアクション特定のフォルダに項目を追加すると実行されるワークフローカレンダーアラームカレンダーの予定がトリガーとなって実行されるワークフローイメージキャプチャ・プラグインイメージキャプチャで利用できるワークフロー音声入力コマンド音声入力で実行を操作可能なワークフロー上記の書類の種類には、カレンダーやイメージキャプチャといったmacOSに標準搭載された特定のアプリで動作するものと、アプリケーションやクイックアクションなど様々なファイルやフォルダで使える汎用性の高い書類があります。特定のアプリで動作するものに関しての使い方については後回しにしても利用できるので、ワークフロー、アプリケーション、クイックアクション、フォルダアクションといった書類の使い方から一つ使い勝手の良さそうなものを選んで試していくことで比較的短時間で使い方をマスターすることができます。

 

クリエイターにおすすめのAutomator活用事例!

比較的に汎用性が高い書類も、Automator内で実行されるワークフローは毎回Automatorの起動が必要になりますし、アプリケーションやフォルダアクションは少し設定が複雑になります。そこで、今回は一番わかりやすいクイックアクションを使った方法に絞りつつ、クリエイター向けの活用事例をいくつか紹介します。

覚えてしまえばカンタン!いっきに作業が捗る「画像リサイズの自動化」

1.新規書類をクリック

Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
Automatorを起動
Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
「新規書類」をクリックアプリケーションフォルダにあるAutomator(ロボットのアイコン)をクリックして起動します。Launchpadから起動する場合は「その他」のフォルダに入っている場合がありますので、見たらない場合はそちらを確認してみてください。Automatorが起動すると、右上の画像のようにFinderのサイドバーに「Automator」と表示されたウィンドウが表示されますので、このウィンドウの左下にある「新規書類」をクリックします。

2.クイックアクションを選択

Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
「クイックアクション」を選択
Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
「Finder項目の名前を変更」をドラッグ「新規書類」をクリックすると、書類の種類(ワークフローの種類)を選択するウィンドウが開きます。8つある選択肢の中から「クイックアクション」を選んで「選択」ボタンをクリックします。書類を選択するとアクションを作成する画面が操作できるようになりますので、右側上部の「ワークフローが受け取る現在の項目」にあるプルダウンメニューをクリックし「画像ファイル」を選択します。この設定は「書類」「PDFファイル」といったファイルの種別を設定することで、その種類のファイルのみでクイックアクションが表示されるように設定する項目です。

ここからのワークフローを作成するレシピは、いろいろな作成方法がありますので、あくまで一例として捉えてください。
今回は細かな設定は省いて、なるべく最短で設定できる流れで解説します。ここでは「Finder項目の名前を変更」というアクションを最初に設定してみましょう。アクションは、左側サイドバーに表示されているアクション一覧から、任意のアクションを選択し、右側のワークフロー作成エリアにアクションをドラックすることで設定できます。

3.Finder項目の名前を変更する項目を設定

Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
「Finder項目をコピー」アクション「追加」をクリック
Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
名前変更の設定項目を設定「Finder項目の名前を変更」をワークフロー作成エリアにドラッグすると、左上の画像にように「Finder項目をコピー」アクションを追加して、オリジナルを変更しないでコピーを変更するようにしますか?というパネルが表示されます。クリエイターが画像をリサイズする場合は、元画像を残して複製したものをリサイズするほうが管理しやすいので「追加」をクリックします。

ドラッグが完了すると、右上の画像のように、ワークフローとしてアクションが追加されています。フローは上から順番に実行されるのですが、順番を入れ替えたい場合は個々のアクションの設定欄をクリックしたままカーソルを動かすと移動させることができます。

「Finder項目の名前を変更」アクションの設定項目を変更すれば、ファイル名の設定ルールを細かく指定できます。今回は初期設定の日付を追加する形式のまま進めていきましょう。

4.画像の切り取り方の項目を設定

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先ほどコピー済みなので「追加しない」をクリック
Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
画像の切り取り方について設定次に画像をリサイズするアクションを追加していきます。画像をリサイズするアクションはいくつか種類がありますが、ここでは「画像を切り取る」というトリミングのアクションを選択してリサイズを設定してみましょう。「画像を切り取る」をワークフロー作成エリアにドラッグする際も、「Finder項目をコピー」アクションを追加するかを尋ねるパネルが表示されます。
すでにコピーするアクションは追加済みですので、ここでは「追加しない」をクリックして次のステップに進みます。

「画像を切り取る」アクションの設定欄で、画像の切り取り方についての細かな設定ができます。ここでは、Instagram用の正方形の画像トリミングをイメージして設定項目を変更してみましょう。写真が正方形にして、なおかつ被写体もぶつ切りにならないようなトリミングをしたいので、「切り取る前のサイズ調整」で「短辺に合わせる」という項目を選択しておきます。

5.作成したクイックアクションに名前をつけて保存

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メニューバーから「保存...」を選択
Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
クイックアクションの名前を入力して「保存」ワークフローが作成できたら、画面上部にあるメニューバーからファイルをクリックし、表示されたメニューの中から「保存...」を選択します。ファイル名を設定するパネルが表示されますので、クイックアクションの名前を入力して「保存」ボタンをクリックします。ここでは「画像リサイズ(480×480)」という名前に設定してみます。

6.リサイズしたい画像を選択してクイックアクションを実行

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リサイズしたい画像を選択
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作成したクイックアクションを選択作成したクイックアクションを実行する場合は、リサイズしたい画像をFinderで選択して、Controlキーを押しながらクリックします。クリックして表示されるメニューの中に「クイックアクション」という項目がありますので、これを選択すると作成した「画像リサイズ(480×480)」というアクションが表示されますので、これを選択します。

7.画像がリサイズされる

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画像が指定のサイズにリサイズされる
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作成したアクションはライブラリのServicesに格納左上の画像のように、画像がリサイズされました。作成したクイックアクションは、[ユーザ>ユーザー名>ライブラリ>ライブラリ>Services]というフォルダに格納されています。クイックアクションを削除したい場合は、ここから削除します。


作業時間の短縮に繋がる「ファイルの形式変換の自動化」を試す!

同様の手順で、クリエイティブワークで頻発する「画像のファイル形式変換」のついてのクイックアクションを作成してみましょう。

1.「画像のタイプを変更」アクションをドラッグ

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「画像のタイプを変更」をドラッグ
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「Finder項目をコピー」アクション「追加」をクリック「画像のタイプを変更」というアクションを、ワークフロー作成エリアにドラッグします。「Finder項目をコピー」アクションは「追加」をクリックしておきましょう。

2.画像形式変更の設定~クイックアクションの保存

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画像変更後のタイプを設定
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ファイル名を入力して保存「画像のタイプを変更」の設定欄で、画像変更後のタイプを設定できるので、任意のファイル形式を選択します。ここでは、JPEG(JPG)を選択し、ファイル名を「JPG変換」としてクイックアクションを保存してみます。

3.クイックアクションを実行

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クイックアクションから作成したアクションを選択
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JPGに変換されているiPhoneで撮影した画像ファイルをMacに転送すると、HEIC(High Efficiency Image Format)というファイル形式になるので面倒だと感じている人も多いでしょう。この変換に、作成したクイックアクションを使ってみましょう。変換したいファイルをControlキーを押しながらクリックすると、メニューが表示されますので、クイックアクションから先程作成した「JPG変換」を選択します。右上の画像のように複数のファイルが一括でJPEG画像に変換されました。

PDFのテキスト」をクイックアクションで取り出す方法

デザイナーや編集者など、クライアントからもらった資料にあるテキストデータを、IllustratorやInDesignに流し込むといった作業も、よく行うものだと思います。最近は、テキストファイルや表計算ファイルではなく、PDFファイルから流し込み作業を行うケースも増えてきていると思いますが、PDFからテキストをコピー・抽出するのは割と面倒な作業です。これも、クイックアクションを作成することで自動化してみましょう。


1.「PDFテキストを取り出す」アクションをドラッグ~アクションの保存

Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
 
Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
「Finder項目をコピー」アクション「追加」をクリック「PDFテキストを取り出す」というアクションを、ワークフロー作成エリアにドラッグします。「Finder項目をコピー」アクションは「追加」をクリックしておきましょう。抽出するテキストの形式を「標準テキスト」と、フォントサイズなどを反映した「リッチテキスト」から選択できますので、ここでは「リッチテキスト」を選択してみます。クイックアクション名は「PDFテキストを抽出」として保存します。

2.クイックアクションを実行

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クイックアクションから作成したアクションを選択
Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
PDFファイルからテキストが抽出されているテキストを抽出したいPDFファイルをControlキーを押しながらクリックすると、メニューが表示されますので、クイックアクションから先程作成した「PDFテキストを抽出」を選択します。右上の画像のようにPDFファイルからテキストが抽出されました。

クイックアクションの作成方法を覚えてしまえば、アプリケーションやフォルダアクションといった他の書類の使い方も応用で覚えられると思います。これら書類の種類の違いは、主に自動化を実行するときの処理方法の違いなので、レシピの作成方法自体は基本的に同じです。

その他に、クリエイターにおすすめのAutomatorで自動化できるワークフローを以下の表にまとめましたので参考にしてみてください。

クリエイターにおすすめの自動化ワークフロー

ワークフロー説明複数の画像ファイル名を連番にする「Finder項目の名前を変更」というアクションを使ってワークフローを作成する際に「連番付きの名前にする」を選択すると、ファイル名を一括で連番にできるワークフローを作成できる。書類の種類は、ワークフロー、アプリケーション、クイックアクション、フォルダアクションなど自身が使いやすいものを選択するいつもの作業環境を起動「指定されたFinder項目を取得」「Finder項目を開く」といったアクションでワークフローを作成することで、複数のアプリを一括で起動し、いつもの作業環境を瞬時に構築できるようにできる集めた曲を自動的にミュージックに追加する「プレイリストに曲を追加」「ファイルを”ミュージック”に読むこむ」などのアクションでワークフローを作成すると、ネットでダウンロードしフリー音源などを自動でミュージックに追加できるようになる。書類の種類はアプリケーションを選択すると、アプリにドロップするだけで音源が追加できるので便利 

Automatorと他のRPAツールとの違いを分析

最後に、Automatorと他のRPAツールの違いも確認しておきましょう。

AppleScriptとの比較
macOSでの作業を自動化するには、AppleScriptを活用する方法もあります。
AppleScriptは、ユーザーが独自にカスタマイズしたワークフローや特定のアプリケーション用ワークフローを作成できるため、Automatorよりも複雑なワークフローの自動化が可能です(AutomatorでAppleScriptを読み込むことも可能)。しかし、コマンド処理など、プログラミングに関する専門知識が必要となり、ノンエンジニアの方には扱いが難しい自動化ツールです。

他の(有料)RPAツールとの違い
ノンエンジニアがより複雑な自動化を行いたい場合は、有料のPRAツールも検討してみましょう。世界で高いシェアを誇る「UiPath」、大規模なエンタープライズ向けの「Automation Anywhere」、NTTグループが開発した国産の「WinActor」などがその代表格です。ただし、これら有料のPRAツールは、利用料も高額ですのでフリーランスのクリエイターが利用するものとしては現実的ではありません。

個人向けのPRAツールとして使いやすいのは、やはりOSに標準搭載された自動化ツールとなるでしょう。WindowsユーザーにはAutomatorと同様に「Microsoft Power Automate Desktop」という自動化ツールが標準搭載されています(利用にはMicrosoft 365サブスクリプション必要となるので無料ツールではない)。その他にも日本のベンチャー企業が開発している「マクロマン」といったツールのように無料で利用可能なPRAツールもいくつかリリースされていますので、Automatorにないワークフローを自動化したいといった場合は、いくつか試してみると良いかもしれません。

まとめ

作業効率化というと最新の端末環境・OS環境や、ワンクリックでアプリやタスクが立ち上げられる左手デバイスといった特殊なガジェットの用意、有料のアプリやツールの活用などを前提に語られることが多いなと日頃感じています。そんな情報があふれる中で、新しいデバイスやソフトウェアなどを手に入れたいと思いつつも、壊れたりアップデートできなくなったりするまで古い端末を大切に使ってるクリエイターも多いのではないでしょうか。とはいえ、さすがにmacOS X v10.4以前のOSが搭載されたMacをメインの端末として作業している人は、さすがにごく少数でしょう。そういう意味では、今回紹介したAutomatorは、Macユーザーであれば誰でも使うことができる作業効率化ツールです。

私も今回の記事作成にあたって初めてAutomatorを使ってみたのですが、PDFテキストを抽出するアクションなどは、なぜデフォルトでこの機能が搭載されていないのだろうと思うほど、簡単で便利でした。もっと早く使ってみればよかったというのが率直な感想で、これから自分でもいろいろと試してみようと思っています。私と同じように、全く使わないままOSを何世代もアップデートしているといった人も少なくないと思いますが、ぜひ本記事を参考にしてクリエイティブワークの作業効率化にAutomatorを役立ててみてください。

Mac標準搭載の『Automator』で面倒な作業を自動化! 実践するとかなり便利なRPAツールの使い方
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