もちろん、画像生成AIの問題で浮き彫りにされたように、クリエイターの創作活動自体は、自動化できるものではありません。一方で、創作活動の周辺にはファイルの整理、ファイル形式の変換、画像のサイズ調整、データの抽出といった雑多な作業が存在します。これら周辺の作業を効率的に自動化していくことは職業倫理に反するものではないと思います。
フリーランスであれば、そうした作業を自動化することで創作活動に注力することができますし、企業に属して活動するクリエイターにとっては、人手不足を補ったりコストダウンを実現する手段になり得ます。しかし、そうした自動化をどのように取り組めばいいかわからないといった方も多いかと思います。そこで今回は、macOSに標準搭載された作業自動化ツールである「Automator(オートメーター)」について詳しく解説します。
目次
Automatorの基本概要を知る
▶ RPAツールってなに?RPAツールのRPAとはRobotic Process Automationの略で、ボットと呼ばれるソフトウェア上のロボット、またはデジタル・ラバーと呼ばれる仮想知的労働者に、作業を代行させて業務プロセスを効率化していく技術のことを指します。RPAツールは、スクリプト作成といった専門知識を必要とせず、GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)で、任意のタスクを自動化できるツールであり、ノンエンジニアでも簡単に利用できる点にメリットがあります。
▶ Automator(オートメーター)とは?

Automatorで出来ることは結構多い!
Automatorを使って自動化できるワークフローには8つのタイプにわかれます。以下の表で8つのタイプについて説明します。Automatorで作成できるワークフロー書類の種類
書類の種類説明ワークフローAutomator内で実行できるワークフローアプリケーション自動化アプリケーションを作成し、アプリのアイコンにドロップされたファイルやフォルダに対して処理が行われるワークフロークイックアクションFinder、Touch Bar、サービス・メニューに追加して実行できるワークフロープリントプラグインプリントダイアログで実行するワークフローフォルダアクション特定のフォルダに項目を追加すると実行されるワークフローカレンダーアラームカレンダーの予定がトリガーとなって実行されるワークフローイメージキャプチャ・プラグインイメージキャプチャで利用できるワークフロー音声入力コマンド音声入力で実行を操作可能なワークフロー上記の書類の種類には、カレンダーやイメージキャプチャといったmacOSに標準搭載された特定のアプリで動作するものと、アプリケーションやクイックアクションなど様々なファイルやフォルダで使える汎用性の高い書類があります。特定のアプリで動作するものに関しての使い方については後回しにしても利用できるので、ワークフロー、アプリケーション、クイックアクション、フォルダアクションといった書類の使い方から一つ使い勝手の良さそうなものを選んで試していくことで比較的短時間で使い方をマスターすることができます。
クリエイターにおすすめのAutomator活用事例!
比較的に汎用性が高い書類も、Automator内で実行されるワークフローは毎回Automatorの起動が必要になりますし、アプリケーションやフォルダアクションは少し設定が複雑になります。そこで、今回は一番わかりやすいクイックアクションを使った方法に絞りつつ、クリエイター向けの活用事例をいくつか紹介します。▶ 覚えてしまえばカンタン!いっきに作業が捗る「画像リサイズの自動化」
1.新規書類をクリック


2.クイックアクションを選択


ここからのワークフローを作成するレシピは、いろいろな作成方法がありますので、あくまで一例として捉えてください。
3.Finder項目の名前を変更する項目を設定


ドラッグが完了すると、右上の画像のように、ワークフローとしてアクションが追加されています。フローは上から順番に実行されるのですが、順番を入れ替えたい場合は個々のアクションの設定欄をクリックしたままカーソルを動かすと移動させることができます。
「Finder項目の名前を変更」アクションの設定項目を変更すれば、ファイル名の設定ルールを細かく指定できます。今回は初期設定の日付を追加する形式のまま進めていきましょう。
4.画像の切り取り方の項目を設定


「画像を切り取る」アクションの設定欄で、画像の切り取り方についての細かな設定ができます。ここでは、Instagram用の正方形の画像トリミングをイメージして設定項目を変更してみましょう。写真が正方形にして、なおかつ被写体もぶつ切りにならないようなトリミングをしたいので、「切り取る前のサイズ調整」で「短辺に合わせる」という項目を選択しておきます。
5.作成したクイックアクションに名前をつけて保存


6.リサイズしたい画像を選択してクイックアクションを実行


7.画像がリサイズされる


▶ 作業時間の短縮に繋がる「ファイルの形式変換の自動化」を試す!
同様の手順で、クリエイティブワークで頻発する「画像のファイル形式変換」のついてのクイックアクションを作成してみましょう。
1.「画像のタイプを変更」アクションをドラッグ


2.画像形式変更の設定~クイックアクションの保存


3.クイックアクションを実行


▶ 「PDFのテキスト」をクイックアクションで取り出す方法
デザイナーや編集者など、クライアントからもらった資料にあるテキストデータを、IllustratorやInDesignに流し込むといった作業も、よく行うものだと思います。最近は、テキストファイルや表計算ファイルではなく、PDFファイルから流し込み作業を行うケースも増えてきていると思いますが、PDFからテキストをコピー・抽出するのは割と面倒な作業です。これも、クイックアクションを作成することで自動化してみましょう。
1.「PDFテキストを取り出す」アクションをドラッグ~アクションの保存


2.クイックアクションを実行


クイックアクションの作成方法を覚えてしまえば、アプリケーションやフォルダアクションといった他の書類の使い方も応用で覚えられると思います。これら書類の種類の違いは、主に自動化を実行するときの処理方法の違いなので、レシピの作成方法自体は基本的に同じです。
その他に、クリエイターにおすすめのAutomatorで自動化できるワークフローを以下の表にまとめましたので参考にしてみてください。
クリエイターにおすすめの自動化ワークフロー
ワークフロー説明複数の画像ファイル名を連番にする「Finder項目の名前を変更」というアクションを使ってワークフローを作成する際に「連番付きの名前にする」を選択すると、ファイル名を一括で連番にできるワークフローを作成できる。書類の種類は、ワークフロー、アプリケーション、クイックアクション、フォルダアクションなど自身が使いやすいものを選択するいつもの作業環境を起動「指定されたFinder項目を取得」「Finder項目を開く」といったアクションでワークフローを作成することで、複数のアプリを一括で起動し、いつもの作業環境を瞬時に構築できるようにできる集めた曲を自動的にミュージックに追加する「プレイリストに曲を追加」「ファイルを”ミュージック”に読むこむ」などのアクションでワークフローを作成すると、ネットでダウンロードしフリー音源などを自動でミュージックに追加できるようになる。書類の種類はアプリケーションを選択すると、アプリにドロップするだけで音源が追加できるので便利
Automatorと他のRPAツールとの違いを分析
最後に、Automatorと他のRPAツールの違いも確認しておきましょう。▶ AppleScriptとの比較
macOSでの作業を自動化するには、AppleScriptを活用する方法もあります。
▶ 他の(有料)RPAツールとの違い
ノンエンジニアがより複雑な自動化を行いたい場合は、有料のPRAツールも検討してみましょう。世界で高いシェアを誇る「UiPath」、大規模なエンタープライズ向けの「Automation Anywhere」、NTTグループが開発した国産の「WinActor」などがその代表格です。ただし、これら有料のPRAツールは、利用料も高額ですのでフリーランスのクリエイターが利用するものとしては現実的ではありません。
個人向けのPRAツールとして使いやすいのは、やはりOSに標準搭載された自動化ツールとなるでしょう。WindowsユーザーにはAutomatorと同様に「Microsoft Power Automate Desktop」という自動化ツールが標準搭載されています(利用にはMicrosoft 365サブスクリプション必要となるので無料ツールではない)。その他にも日本のベンチャー企業が開発している「マクロマン」といったツールのように無料で利用可能なPRAツールもいくつかリリースされていますので、Automatorにないワークフローを自動化したいといった場合は、いくつか試してみると良いかもしれません。
まとめ
作業効率化というと最新の端末環境・OS環境や、ワンクリックでアプリやタスクが立ち上げられる左手デバイスといった特殊なガジェットの用意、有料のアプリやツールの活用などを前提に語られることが多いなと日頃感じています。そんな情報があふれる中で、新しいデバイスやソフトウェアなどを手に入れたいと思いつつも、壊れたりアップデートできなくなったりするまで古い端末を大切に使ってるクリエイターも多いのではないでしょうか。とはいえ、さすがにmacOS X v10.4以前のOSが搭載されたMacをメインの端末として作業している人は、さすがにごく少数でしょう。そういう意味では、今回紹介したAutomatorは、Macユーザーであれば誰でも使うことができる作業効率化ツールです。私も今回の記事作成にあたって初めてAutomatorを使ってみたのですが、PDFテキストを抽出するアクションなどは、なぜデフォルトでこの機能が搭載されていないのだろうと思うほど、簡単で便利でした。もっと早く使ってみればよかったというのが率直な感想で、これから自分でもいろいろと試してみようと思っています。私と同じように、全く使わないままOSを何世代もアップデートしているといった人も少なくないと思いますが、ぜひ本記事を参考にしてクリエイティブワークの作業効率化にAutomatorを役立ててみてください。
