今年度の「グッドデザイン賞」にも、優れたデザインの工夫が見られる事例が数多く集まりました。この記事では、グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)に選ばれた遊具プロジェクトをはじめ、特に注目しておきたい10件のデザインを紹介していきます。
【GOOD DESIGN AWRAD 2024 注目のデザイン10件】
*グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)*
「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」
株式会社ジャクエツ

最も重度な障害を持つ子どもから、健常とされる子どもまでを広く遊具の対象とすることで、「誰でも遊べる」環境が提供されます。このような「対象」の垣根を取り払うことを目指すデザインは「インクルーシブデザイン」と呼ばれ、近年の製品開発などでは特に重視されています。

具体的に開発された遊具には「KOMORI」「UKABI」「YURAGI」があります。「KOMORI」は独特な新しい形のブランコ、「UKABI」は一般的な馬型のモデルとは異なりまたがらなくても使えるスプリング遊具、「YURAGI」はトランポリン遊具です。いずれも「揺れる」体験を生み出します。



*グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)*
「α9 III」
ソニーグループ株式会社

グローバルシャッター方式では、全画素の露光・読み出しが同時に行われます。従来のローリングシャッター方式では、画像の撮像面上部の画素から順に読み出しが行われていました。グローバルシャッター方式を採用することで、「α9 III」では高速で動く被写体であっても「肉眼で見たまま」の歪みのない撮影が可能です。特にスポーツや報道などのプロフェッショナルの撮影で、決定的な瞬間をとらえるのに適した1台となっています。

グッドデザイン賞の審査では、グローバルシャッターの技術が高く評価されるとともに、カメラボディの随所に「決定的な瞬間を撮るための工夫」が散りばめられていることが評価されました。審査委員からは「おそらくこの製品以降は決定的瞬間の写真の概念が変わることになるのだろう」というコメントが上がっています。
*グッドデザイン・ベスト100*
「不二家洋菓子店のリブランディング」
株式会社不二家

新VIでは、新たなロゴマークがデザインされた「スマイルマーク」を中心に、商品の上質感を明朝体で表現した「店名ロゴ」、“変わらぬ想いを刻む礎” として1961年に誕生した「ファミリーマーク」が組み合わせられています。「スマイルマーク」は、ひと目で不二家だと認識できるデザインであるとともに、スイーツを食べたときのおいしい笑顔を象徴するマークです。
それまでの不二家のデザイン展開ではさまざまなマークが混在していたため、逆に使いにくい状況やブランドとしての統一感が薄れている状況が生じていました。VIの刷新でその状況を整理し、店舗デザイン/商品パッケージ/包装ツール類/TVCM/イベント/オンラインなど、全てのブランドプロモーションが統一されています。

「TourBox Elite Plus」
TourBox Tech Inc.

Procreate、Clip Studio Paint、Photoshop、Lightroom、Blender、Cubaseといったさまざまなクリエイティブ系アプリに対応し、さまざまな操作を片手で自在にコントロールできることが特徴です。イラストやアニメの制作、写真の加工とカラー調整、動画の編集と色調補正など、多くの場面でスピーディーな作業を実現するために役立ちます。
本製品では、iPadのタッチジェスチャーのマッピングも可能です。iPad版の「TourBox Console」でショートカットを入力し、タグを付けて設定ができます。1つのiPadで設定した後は本体のメモリ内に設定を保存できるため、別の「TourBox Console」がインストールされていないiPadでも使用できる仕組みです。また、iPadとパソコンでも一貫した操作方法が提供され、シームレスな切り替えができます。
「VersaSTUDIO BD-8」
ローランド ディー.ジー.株式会社

「VersaSTUDIO」は卓上型製品群のブランドで、その特徴は「コンパクトサイズ」「操作性の高さ」「導入しやすい価格帯」です。「BD-8」もそのコンセプトに基づきながら、同ブランドでは初のフラットベッドタイプの製品として誕生しました。最大A5サイズ・高さ102mmまでの形状に対応し、オプション品の回転軸治具を使うと円筒状のメディアにも出力できます。
専用インクは布や革などから木材や各種プラスチックまで、柔らかいものにも硬いものにも対応します。プライマーインクを使うことで材料への密着性が高まり、ガラスや金属への出力も可能です。スマホケースや文房具、コスメアイテムなど、1台でさまざまな付加価値の高いアイテムを作り出すことができます。
「BD-8」には同社ハイエンドモデルのプリンターと同じプリントヘッドが採用され、導入しやすさとプロ級の品質が両立されています。本体は電源ボタンのみのシンプルな設計で、デザイン制作から出力まで簡単な操作で実行できる「FlexiDESIGNER VersaSTUDIO Edition」が標準で付属します。
「KAORIUM」
SCENTMATIC株式会社

同社が開発した独自のAIシステムでは、香りと言葉を相互に変換でき、曖昧で表現しにくい香りの印象を言葉で可視化したり、ある言葉に紐づく香りを導き出したりできます。香りの特徴を分析し、誰もが理解しやすい言葉で表現できるため、自分にマッチする香りを見つけるためにも役立つシステムです。
UIはテーブルトップに文字が浮かび上がる近未来的かつシンプルなデザインで、ユーザーが体験に集中できるようにビジュアル要素は最小限に抑えられました。
この「KAORIUM」を開発したセントマティックは、香りを言語化するAIシステムであらゆるものに情緒的な体験価値をプラスする「香りのビジネスデザイン集団」として、2019年に設立されました。香りの体験とそれに伴う人間の感性を進化させる「嗅覚のデジタライゼーション」に取り組んでいます。「KAORIUM」も、「香りを通じて人々の感性や感覚を豊かにする」というビジョンから発展したプロジェクトです。
「DROMI」
フェンリル株式会社

近年では、個人が趣味で動画を作成してSNSに投稿することも飛躍的に増え、「プロだけが使いこなせるクリエイティブなツール」から「誰でも簡単に使えるクリエイティブなツール」へと需要が広がっています。アイデアを動画という形にするには下書きとなる絵コンテの作成が重要ですが、一方で、デジタルツールの多くは導入コストや技術習得のハードルが高いという課題があります。
そこに着目して開発されたのが「DROMI」です。シンプルなUIで絵コンテ制作に特化した機能が提供され、「思わず描きたくなるデザイン」が追求されています。完成させた絵コンテは、MP4形式の動画はもちろん、シーンごとにPNG画像、印刷用のPDFなどで書き出すことができ、共有ができます。
本アプリはiPadOS 17.0以降で動作し、App Storeから無料でのダウンロードが可能です。
「コピック アクレア」
株式会社トゥーマーカープロダクツ

本製品は「隠蔽力が高い不透明マーカーが欲しい」というユーザーからの要望や、「アルコール原料に対する世界的な環境基準の移り変わり」などを考慮して企画・開発されたそうです。もともと「コピック」はクリエイターに非常に人気の高いブランドですが、作品の幅を広げるための「プラスワンの描画材」としても高く評価されています。
「コピック アクレア」の本体デザインでは、持ちやすいサイズと質感が追求され、長時間にわたっての使いやすさが重視されました。既存のマーカーケースに収納できることもポイントです。キャップのカラーマークではインク色が忠実に示され、突起の部分が転がり止めの効果も担っています。
さらに本商品は、これまで「コピック」に馴染みがなかった人たちも気軽に手に取りやすいように設計されています。紙だけでなく、金属/木/ガラス/プラスチック/石/キャンバスなどのさまざまな素材に着色でき、あらためて描く楽しさを感じさせる画材です。
「御神籤ブック」
合同会社TIDE

この「御神籤ブック」のプロジェクトは、「本を読む習慣がある人にもない人にも心躍るような体験となり、読む楽しさを知るきっかけや、つい手に取ってしまうようなアプローチを作りたい」という発想からスタートしました。
具体的なデザインとしては、瓢箪や鹿の子などの吉祥模様を配置したラッピングペーパーで本が包装されています。日本や中国などの「おみくじ」がある文化圏のテイストも要所に取り入れられ、縁起の良さが表現されました。
この「御神籤ブック」には、ラッピングの裏面のシールで本の中身のヒントが記されたシンプルなバージョンと、「おみくじ」のカードをタグ付けして裏をめくると中身のヒントが書いてあるバージョンがあります。カードは開封後に栞として使いやすく、包装紙もブックカバーとして使えます。価格がゲンを担いだ888円(税込)であることもユニークです。
「産泰神社のリブランディング」
産泰神社

産泰神社のリブランディングは、神社の「ご祈祷」と「安産祈願」を中心に据えて実施されました。しっかりと残すべき伝統を尊重しながらも、神社の役割や魅力を現代的に伝えることが重視されています。
主祭神である木花佐久夜毘売命を象徴する社紋が随所に配置されたデザインで、全体を通して統一感もあります。新しい社紋は、対になった桜で親子が仲良く寄り添う姿をイメージさせ、それらを包み込む柔らかな外型が赤子のかたちを表しています。
ブランディングデザインを手掛けたのは、西澤明洋氏が代表を務める株式会社エイトブランディングデザインです。西澤氏はリサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた一貫性のあるブランディングデザインを数多く手掛けており、産泰神社のリブランディングでもその手腕が発揮されました。
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【まとめ】
この記事では、2024年度グッドデザイン賞の受賞作品の中から、MdNの独自視点で10件を紹介しました。今年度の審査対象は5,773件で、2次にわたる厳正な審査を経て、1,579件の受賞が決定しています。
ここで紹介してきたデザインのほかにも、さまざまなこだわりと工夫が盛り込まれ、「デザインの力」で何らかの課題を解決しようという取り組みが感じられる受賞作品ばかりです。単なるプロダクトとしての見映えの良さだけではなく、プロジェクトやサービスなど「かたちのないもの」も対象として多く含まれていることが特徴となっています。デザインに携わる人たちが、あらためて多くのことを「発見」できる顕彰制度です。
公益財団法人日本デザイン振興会
URL:https://www.g-mark.org/
2024/11/11
