そうした音声コンテンツの選択肢の一つとして、現在注目を集めているのが、ポッドキャストです。リアルタイムで配信を聴く必要はなく、自分の好きなタイミングで楽しめるポッドキャストは、クリエイターだけでなくビジネスパーソンや学生などが移動中に楽しむコンテンツとしても最適です。また、近年はツールの進化によって音声コンテンツ制作も容易になってきており、ポッドキャスト配信へ参入するハードルも低くなっています。そこで、今回は、ポッドキャストの最新事情やポッドキャスト配信の始め方などについて詳しく解説いたします。
目次
ポッドキャストが注目される理由
ポッドキャスト(Podcast)とは、インターネットを通じて音声コンテンツを配信するサービスや仕組みの総称です。2000年代前半に登場し、Apple社のiPod普及と共に注目されました。ラジオ番組と異なりリアルタイム聴取が不要で、ダウンロードしてオフラインでも楽しめる点などが大きな特徴です。まずは導入として、これまでも存在したポッドキャストが、今なぜ注目されているのか、その背景について詳しく解説しておきましょう。▶移動時間活用メディアとしてのメリット
ポッドキャストの最大の魅力は、通勤・通学・運転中など「ながら聴き」に最適なメディアであるという点です。現在のエンターテイメント領域は、可処分時間の奪い合いであると言われていますが、移動時間というスキマ時間を有効に使える音声メディアは、その「奪い合い」に左右されにくい特性を持っています。
また、同じように移動時間を有効に使えるメディアにはYouTubeなどの動画コンテンツもありますが、「見る」という作業を伴うビジュアルコンテンツは画面に集中する必要もあり、例えば歩きながら聴く、単語帳を見ながら聴くといったような他の作業をしながらの視聴は難しいという制限があります。加えて、ラジオ番組などリアルタイム聴取が中心のメディアは、好きな番組を聞き逃してしまうといった聴取タイミングの問題、電波受信状況やデータ通信料の問題などがあります。
ポッドキャストはこれらの課題をクリアできるメディアコンテンツであり、自分の聞きたいスキマ時間に好きなタイミングで聴くことができます。加えて、タイムパフォーマンス重視で倍速で聴くコンテンツとしても利用しやすいので、若年層などにも徐々に人気が高まってきているのです。
▶アメリカ大統領選にも影響を及ぼしたZ世代のポッドキャスト人気

例えば、ジョー・ローガン氏がホストを務める『The Joe Rogan Experience』、若い男性層に人気のコメディアンであるテオ・フォン氏による『This Past Weekend』、テクノロジー業界の起業家たちがホストを務める『All-In Podcast』などの人気ポッドキャストがトランプ氏の支持率に好影響を与えたとされています。特に、投票日の直前に『The Joe Rogan Experience』にトランプ氏がゲスト出演し、3時間近くに及ぶインタビュー動画がYouTubeで約5000万回再生されるなど、非常に大きな注目を集めました。
これらのPodcastは、映像付きの動画Podcastとして提供されているケースも増えていますが、必ずしも映像を見ているわけではなく、音声を「ながら聴き」しているユーザーも多いようです。こうしたポッドキャスト利用を補足するデータとして、18~29歳の若年層はポッドキャストを聴く傾向が強く(約3分の1が「週に数回以上ポッドキャストを聴いている」と回答)、その主な理由の一つとして「何かをしながら聴く」を挙げているという調査結果が、世論や社会動向に関する調査・分析を中立的な立場で行う非営利・独立系のシンクタンクであるPew Research Centerから報告されています。
※参考記事:ポッドキャスト選挙、Z世代つかむ 再生回数でTV圧倒(日本経済新聞)
※参考記事:Podcasts as a Source of News and Information(Pew Research Center)
▶オールドメディア&カルチャー復権の兆しと「エモ消費」
日本の消費動向分析において、「モノ消費」→「コト消費」→「トキ消費」といった消費トレンドの変化があるといった論説を目にした事がある方も多いと思いますが、現在はさらにその先を行って、Z世代以降の若年層には「エモ消費」という消費トレンドがあると分析するアナリストもいます。
そうした「エモい」事柄の中の一つに、昭和レトロ、平成レトロといった文化のリバイバル現象があります。カセットテープが人気を博したり、デジタルメディアに慣れた世代がZINEとよばれる冊子作りに夢中になっていたりします。また音楽配信で新譜以外の楽曲に触れる機会も増え昭和の歌謡曲や平成のJポップを好んで聴く若者も増えています。
少し前までは中高齢者向けのコンテンツとして「撤退戦を処理しているだけのメディア」と見なされていたラジオのリスナー層が若年層にも拡大し、大きく変化しています。例えば、タイムフリー配信も可能なradikoの存在によって若年層が気軽にラジオコンテンツを楽しむようになり、『オールナイト・ニッポン』といった往年の深夜番組も、若者に人気のパーソナリティーを採用し、再び人気を博しています。
加えて、ポッドキャストを利用できるアプリ・プラットフォームが充実してきたこともあり、サーバーにかかるコストから一時期はポッドキャスト事業から撤退していたTBSラジオが、人気番組のスピンオフや、若手芸人のラジオレギュラーになる前のトライアル的な番組、レギュラー放送の終了を惜しむファンをフォローアップするような番組、ニッチなジャンルの番組など積極的にポッドキャストを制作するようになり、多くの人気コンテンツが生まれていることも注目すべき変化です。
クリエイターにポッドキャスト配信がおすすめな訳
ポッドキャストの概要が掴めたところで、クリエイターにポッドキャスト配信をおすすめする理由について説明します。▶制作の手軽さ

一方で、例えばトークに専門的な学びがある、親しみやすい人柄が伝わるといった魅力があれば、スマートフォンなどのマイクを使って、いわゆる「録って出し」スタイルで、話した内容をそのままコンテンツとしてアップするだけでも十分に番組として成立します。業界での知名度ある、あるいはファンがいるクリエイターであれば、日々の感想をそのままつぶやくだけでも人気の番組になるかもしれません。最初は「録って出し」スタイルでスモールスタートし、徐々に機材を揃えていくなど、機材や編集ソフトへのこだわり自体を趣味として楽しむこともできるでしょう。
▶次に来るトレンドは「マルチタスクメディア」
先日、Skypeが惜しまれつつもサービスを終了したといったニュースが話題となりましたが、かつてSkypeで流行した「さぎょいぷ」(作業しながらSkypeをする通話スタイル)のように、作業をしながらマルチタスクで楽しめる配信スタイルは、その後YouTubeをはじめとした動画配信などでも人気を集めています。作業中に聴くことや、作業中に収録することも可能なポッドキャストは、クリエイターにとって非常に相性の良いメディアと考えられます。
さらに、最近話題のNotebookLMの音声概要機能によるポッドキャスト風の音声コンテンツ生成(次回のテーマで詳しく解説予定)のように、生成AI技術によって音声・テキスト変換ツールが充実してきている点も、制作の手軽さをさらに強化する要因となっています。
前述の若年層のポッドキャスト人気の理由と合わせて、このように、ユーザーの目的に合わせて、その視聴・聴取スタイルを柔軟に変化できる「マルチタスクメディア」は、次にくるトレンドの一つであると予測されます。
▶表現の可能性

▶キャリア発展の機会
前述したNotebookLMによるテキストの音声コンテンツ化機能がすごいと話題となっているという現象もあり、今後さらに多くの人がポッドキャスト配信を行うようになると予測されます。コンテンツ量が増えることで、ポッドキャスト全体のリスナー数はさらに増加し、マーケットも拡大していくでしょう。有料配信をせずとも、人気番組にはスポンサー企業が現れる可能性もあり、収益化も十分に期待できます。市場が拡大すれば、専門性アピールのブランディングツールとしても活用できます。

※参照記事:エッグフォワード代表・徳谷智史の著書『経営中毒』が、ビジネス書の聖地で3か月連続総合第1位を記録(PR TIMES)
主要配信プラットフォームの比較

また、ラジオ局系のポッドキャストは、ポッドキャスト専門の番組もありますが、多くは地上波ラジオ番組のアーカイブとしての側面も強く、主に既存のラジオリスナーをターゲットにしています。一方で、独立系のポッドキャスターやSpotifyなどが力を入れているポッドキャストのマーケットは、全く異なるニーズを持つ層を開拓し始めています。これには「ながら視聴」を積極的に求める層、ニッチな情報を深く掘り下げたい層、パーソナリティに共感する層などが含まれます。
そのため、ポッドキャスト提供者の目的に合わせて、最適なプラットフォームを選択することが重要になってきます。以下が主要なプラットフォームの一覧です。
Podcastの主要プラットフォーム一覧
プラットフォーム名概要と番組開設の条件Spotify for CreatorsSpotifyの配信管理ツール。分析・収益化機能も搭載。無料で番組作成・配信が可能、審査不要Apple Podcast世界的に人気のPodcastプラットフォーム。Apple IDで登録し、番組ごとに審査が必要Amazon Music for PodcastersAmazonとAudibleで配信可能。RSS登録制で審査あり、費用は無料YouTube MusicYouTubeのPodcast機能で動画/音声両方に対応。YouTubeチャンネルが必要、審査なしstand.fm国内発の配信アプリで、ライブ配信や収益化機能あり。誰でも即時配信可能、審査なしRadiotalkスマホで簡単に収録・配信ができる日本発の音声配信サービス。審査なし、完全無料Substackメルマガ+Podcastの配信が可能なプラットフォーム。誰でも配信可能、有料化も可、審査なしVoicy審査制の音声メディア。高品質な番組が中心で、配信にはパーソナリティ審査に合格する必要あり同じコンテンツを複数のプラットフォームで配信する人気コンテンツもありますが、まずは自分の目的にあったプラットフォームを一つ選択して始めてみましょう。
今日から始められる! ポッドキャストスタートガイド
ここからは、今日から始められるポッドキャストスタートガイドとして、初心者向けにチャンネル開設の手順を解説します。私は音楽やポッドキャストをSpotifyで聴いていることが多いのですが、Spotify for Creators(2023年にポッドキャスト配信ツール「Anchor」と「Spotify for Podcasters」を統合して誕生したSpotify公式の配信管理ツール。音楽アーティスト向け「Spotify for Artists」とのブランド統合も進められている)は審査なしでポッドキャストを開設できるようなので、今回はこちらのプラットフォームでの番組立ち上げ方法を紹介します。ポッドキャスト番組の開設に以前から私も興味をもっていましたので、実際にチャレンジしながら解説します。※参照記事:ポッドキャスト配信プラットフォーム「Anchor」日本での本格展開開始、クリエイターを一気通貫で支援(Spotify公式サイト)
1.Spotify for Creatorsにログイン


2.利用規約に同意して番組を作成


※参照URL:Spotify for Creators 利用規約
3.番組の設定を行う


4.サムネイル画像の設定~新しいエピソードを作成


5.音声ファイルのアップ~エピソードの情報を入力


6.公開スケジュールを設定し完了


こうして実際にポッドキャストの番組を制作してみて思うのは、想像以上に簡単であったということです。審査が必要なプラットフォームについては手続きが少し複雑になり時間もかかると思われますが、番組開設自体は、おそらくどのサービスでも似たような作業工数で進められるでしょう。また、今回番組開設にチャレンジしてみたSpotifyは、ここ最近、動画プラットフォームとしての側面も強化しはじめており、「ながら聴き」に向いた音声コンテンツを軸に映像も楽しめる要素が付加されてきているのは注目すべきポイントであると感じました。
クリエイティブ職種別の関わり方
ポッドキャストの人気は、自身がポッドキャスト配信者になる以外にも、クリエイティブ職に影響を与えていく可能性があります。例えば、Webサイトやアプリから直接再生できるポッドキャスト埋め込み機能をUI/UX設計に組み込むなど、リッチコンテンツの要素としてポッドキャストの存在感は、今後ますます重要になっていくでしょう。また、現在は生成AIによって仕事が激減しているような職種の方にとっても、番組の構成を担当したり、インタビュースキルを活かして番組のホストになったりするなど、次世代を見据えた領域変換の一つとしてポッドキャストに活路を見いだせるかもしれません。
この番組自体は、ラジオブースではなく局の会議室で録音するといった低予算でのスタートでしたが、第6回 JAPAN PODCAST AWARDSでは企画賞優秀賞を受賞する人気番組となり、チケットが即完売したトークイベントも開催されています。こうしたトークイベントではグッズ販売も展開され、イラスト制作者の松田氏にも何らかの形で還元されている可能性もあるように思います。ポッドキャストのサムネイル作成自体は、大きな収益には結びつかないかもしれませんが、このように人気番組になることでグッズ販売といったビジネス展開も十分にありえるので、ビジュアル領域のクリエイターにとっても視野に入れておきたいコンテンツ提供の場だと考えられます。
※参照記事:セイジドウラク(TBSラジオPodcast番組)X(旧Twitter)アカウントの投稿
以下に、クリエイティブ職種別に想定されるポッドキャストとの関わり方をまとめましたので参考にしてみてください。
クリエイティブ職種別:ポッドキャストの関わり方
職種関係領域のイメージWebデザイナー/エンジニア音声埋込機能に関するUI/UX設計と機能開発イラストレーター/漫画家/フォトグラファーサムネイル制作、ビジュアルアイデンティティ構築ライター/編集者編集者:スクリプト・構成・インタビュー設計動画クリエイター映像ポッドキャスト制作ミュージシャンフリー素材BGM制作・効果音制作マーケター/SNS運用者拡散戦略・リスナー導線設計
まとめ:クリエイターの新たな表現手段としてのポッドキャスト
立て続けにリリースされる生成AIツールに、今後の先行きを思って暗澹たる気持ちになっているクリエイターの方もいるかもしれません。「オワコン」などという言葉で自分の活動領域は終わって生成AIに置きかわるのだと煽り、成功者バイアスで自分は特別なスキルをもっているから生き残れると語るクリエイターも散見されますが、そんな声に耳を傾けるよりも、自分の活動領域と近い将来に訪れる生成AI社会に関して新たな可能性を探ることにこそ価値があると私は思います。今回、私自身もポッドキャストのアカウント開設に挑戦してみましたが、調査や作業を進める中でいくつもの可能性を感じました。前述の通り、一時は「オールドメディア」と言われたコンテンツも、新しい技術や価値観と巧みに融合することで、再び脚光を浴びることは十分にありえます。この事実は、多くのクリエイターにとって大きな希望となり得るのでないでしょうか。
生成AIの興隆というパラダイムシフトが今まさに起こっている中で、ラジオコンテンツの伝統と最新のAIツールという革新を結びつける役割を果たすのが、まさにポッドキャストなのかもしれません。誰でも気軽に始められるクリエイティブな領域ですので、ぜひ本記事を参考に、ポッドキャスト配信にチャレンジしてみてください。
