GoogleのAI技術の進化はめざましく、ここ数ヶ月の間に発表された新ツールや機能強化は、同社がAI市場で覇権を握ろうとする本気度の表れといえます。しかし、その怒涛のリリースとバージョンアップデートに、情報の整理が追いついていないと感じるクリエイターも多いのではないでしょうか。


生成AIツールや機能を仕事にどう取り入れる(または取り入れない)かは、各クリエイターによって千差万別でしょう。しかし、巨大テック企業であるGoogleが今、どんな最新AI事業に取り組み、どの方向へ進もうとしているのかを把握しておくことは、商業クリエイターとして活動していく上で必須の知識です。

そこで今回は、クリエイターが知っておくべきGoogleの最新AIツールと機能強化に関する情報、そして今すぐに導入したいおすすめの無料ツールや機能を詳しくご紹介します。

目次

Googleの新機能を試すプラットフォーム「Google Labs」

クリエイターが知っておくべきGoogleの最新ツール&機能を解説する前に、まずは予備知識としてGoogleの最新AIアップデートを確認していく上で重要な「Google Labs」というプラットフォームについて解説します。

予備知識:Google Labsとは
Googleが手掛けるAI関連の膨大なツールや機能強化の全体像を把握するのは容易ではありません。その最前線を掴む鍵となるのが「Google Labs」です。ここは、Googleが開発中の最先端AI技術や実験的なツールが一般公開され、ユーザーが体験・フィードバックできるプラットフォームです。この後のリストの長さを見れば、その膨大な取り組みが手に取るようにわかるでしょう。全てを詳細に確認する必要はありませんが、この一覧からGoogleのAI戦略の規模と多様性をぜひイメージしてみてください。

Google Labsで提供されているツール&機能(2025年8月時点)

カテゴリツール名説明メディア生成・加工Flowテキストからの動画生成(ImageFX/MusicFXの動画版)ImageFXテキストからの画像生成MusicFXテキストからの音楽生成VideoFXテキストからの動画生成(Flowに統合)Dopplバーチャル試着SynthID DetectorAI生成画像の透かし検出PortraitsAIでのポートレート生成/加工(または検索)Whisk画像生成(Imagenの基盤モデル利用)Stitch動画素材の自動編集/つなぎ合わせGenTypeテキストスタイル生成/フォントデザイン補助リサーチ・情報整理NotebookLM文書に基づくAIチャット/要約/コンテンツ生成AI Overviews in Search検索結果のAI要約(現Google検索機能)Learn About特定トピックのAI要約/学習補助Ask PhotosGoogleフォト内の検索/質問応答対話・アシスタントProject Astra高度なマルチモーダルAIアシスタントProject Marinerブラウザ操作を自動化するAIエージェントJules会話型AI(特定の文脈でのアシスタント)Sparkify会話型AI(アイデア出し/ブレインストーミング)AI Mode特定アプリ/デバイスのAIアシスタントモードDaily Listenパーソナライズされた音声コンテンツ(ニュース/ポッドキャスト)Conversational AI on YouTubeYouTubeの会話型AI(動画内容の質問応答)コーディング・開発AI-first ColabAI支援付きColab(コード生成/補完)/Codeコード生成/開発補助(スラッシュコマンド)Firebase StudioFirebaseのAI開発環境/補助Help Me ScriptGoogle Home用のスクリプト生成補助(GASなど)その他(特定のテーマ・実験)Gen AI in Chrome(Chromeブラウザに統合された生成AI機能群)、Moving Archives(歴史的映像アーカイブのAI探索)、Little Language Lessons(短時間語学学習)、Career Dreamer(キャリアアイデア生成/アドバイス)、TextFX(クリエイティブなテキスト生成・文章スタイル)、Illuminate(プレゼンテーション補助・AI分析)、Google Vids(AI活用動画作成・Workspace向け、有料)、GenChess(AIチェス)、National Gallery Mixtape(アート作品の組み合わせ/解説・AIキュレーション)Talking Tours(音声ガイド生成)、Food Mood(食事アイデア/レシピ生成)、Say What You See(視覚情報からのテキスト生成/説明)Googleには他にも「Google AI」「Google Cloud」「Google Research」「Google DeepMind」「Search Labs」というAI開発チーム&プロダクト領域があります。しかし、エンドユーザーであるクリエイターの視点からGoogleのAIの全体像を掴むには、Google Labsが最も分かりやすい入口となるでしょう。 「Google Labs」で提供されているツールや機能も、実はGoogleの膨大なAI開発事業の取り組みの氷山の一角なのですが、その壮大なプロジェクトを実感できたと思います。

 

クリエイターが知っておくべきGoogle最新ツール&機能 10選

前段に挙げたGoogle Labsのツール&機能も含め、ここからはクリエイターにとって特に重要かつ活用価値の高い10個のAIツールとその機能を厳選し、詳しく解説していきます。

1.GoogleフォトのAIによる画像編集機能

クリエイターが知っておくべきGoogleの最新AIツール&機能 10選(最新版)
Googleフォト上でAI強化された画像加工が可能にクリエイターにおすすめのAI機能強化の一つとして「Google フォト」のAI機能が挙げられます。
上記の画像のように、Google フォトではAIを活用した画像の加工・編集機能がすでに提供されており、無料のGoogleアカウントでもその一部を手軽に利用できます。

さらに、Pixelデバイスで先行導入された「消しゴムマジック」や「マジック編集」といった高度なAI機能も、Google Oneの有料プランに加入することで利用可能になります。今後はGeminiとの連携が強化され、自然言語による画像検索や動画変換、スタイル変更などが予定されており、プロンプト一つでの一括加工も現実的となるでしょう。Adobeなどのクリエイティブツールがインストールされていない端末で、緊急対応として画像加工が必要なケースでも役立つ機能です。

2. Geminiの最新アップデート&Gemma
Googleの基盤AIモデルである「Gemini」の最新アップデートについてもチェックしておきましょう。これは以前に本連載の「日常的に使いやすい生成AI「Gemini」とその関連サービスからGoogleのAI戦略を紐解く」という記事でも詳しく触れた内容ですが、ここ数ヶ月の間にも様々なアップデートが繰り返されています。また、オープンソースの生成AIモデルとして、「Gemma」の存在感も無視することはできません。以下に、最新のGeminiのバージョンや機能と、Gemmaに関する一覧表を紹介します。

モデル名説明Gemini 2.5 Flash高速かつ効率的な処理が特徴。リアルタイム応答や軽度なタスクに最適化された軽量モデルGemini 2.5 Pro複雑な推論とマルチモーダル機能強化。高度なタスクや大規模なデータ処理に対応する高性能モデルGemmaGoogleが開発したオープンソースAIモデル。研究者や開発者が自由に利用・改変可能で、AIエコシステム活性化に貢献3.Googleの主要なコンテンツ生成AIモデル
ChatGPTの画像生成AIと比較して、Googleの画像生成AIをはじめとしたコンテンツ生成AIは複数あり、その詳細を掴み切れていないという方が多いのではないでしょうか。
多くのクリエイターが、不正学習を伴うコンテンツ生成AIに批判的な立場だと思いますが、Googleが現在、どのようなコンテンツ生成AIを提供しているのかを把握しておくことは重要な知識です。ここでは、Googleのコンテンツ生成AIの全体像を把握するために、主要な生成AIモデルのラインナップと基盤モデルとなる主要なAIモデル群を情報整理していきましょう。

【画像生成AIモデル「Imagen」を基盤としたツール】
Googleの画像生成の基幹となるAIモデルが「Imagen」です。このImagenを基盤として、以下のツールが提供されています。

ImageFX(Imagenが基盤モデル)

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Imagenを基盤モデルとしたImageFXImagenを基盤モデルとした画像生成AIの一つに「ImageFX」があります。ImageFXは、プロンプト入力の補助と多様な生成を素早く試すことに優れた画像生成AIです。

Whisk(Imagenが基盤モデル)

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Imagenを基盤モデルとしたWhiskImagenを基盤モデルとした画像生成AIにもう一つ「Whisk」というツールがあります。Whiskは、生成後の画像や既存画像に対するより詳細な操作や編集の可能性を探ることに強みを持つツールです。

【動画生成AIモデル「Veo」、「Lumiere」を基盤としたツール】
動画生成AIの主要モデルには「Veo」と「Lumiere」があります。
 
Flow(Veoが基盤モデル)

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Veoを基盤モデルにしたFlowGoogleの動画生成AIの基盤となるモデルの一つに「Veo」があります。このVeoを基盤モデルとして、テキストからの高品質な動画生成を可能にするツールがFlowです。一貫性のある動きを持つ動画を生成できるのが特徴です。


Lumiere

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Lumiere動画生成AIのもう一つの主要モデルが「Lumiere」です。テキストや画像から動画を生成するだけでなく、動画の一部を編集する機能に強みを持つ研究モデルとして開発されています。

【音声・音楽生成AIモデル「MusicLM」、「Lyria」を基盤としたツール】
音声・音楽生成の主要モデルは「MusicLM」と「Lyria」です。

MusicFX(MusicLMが基盤モデル)
テキストからの音声・音楽生成の主要モデルが「MusicLM」です。

クリエイターが知っておくべきGoogleの最新AIツール&機能 10選(最新版)
MusicLMを基盤とした音楽生成ツール「MusicFX」このMusicLMを基盤として、テキストの指示から多様なジャンル、楽器、ムードの音楽を生成できるのが「MusicFX」です。

Lyria

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Lyria音楽制作支援に特化したAIモデルが「Lyria」です。シンセサイザー音源や楽器の音を生成するなど、作曲家やプロデューサーの創作活動をサポートする役割を担っています。

これらはモデル内でさらに細かくバージョンに分かれていますが、シリーズ名としてはこれらが主要なラインナップです。これらGoogleの主要な生成AIモデルと利用ツールを、以下の表にまとめましたので、参照してみてください。

Googleの主要な生成AIモデル一覧表

モデル名(カテゴリ)概要と利用できるツールImagen (画像生成)Imagenはプロンプトから高品質な画像を生成するAIモデル。非常にリアルな画像から、様々なアートスタイル、コンセプトアートまで対応し、テキストの指示への忠実性が高いのが特徴Veo / Lumiere / (動画生成)Veoはプロンプトから一貫性のある動きの高品質な動画を生成する基盤AIモデル、Lumiereはテキストや画像から動画を生成したり、動画の一部編集に強みがある研究モデルMusicLM / Lyria(音声・音楽生成)MusicLMはテキストの指示から様々なジャンル、楽器、ムードの音楽を生成するモデル。Lyriaは音楽制作を支援するAIモデルで、シンセサイザー音源や楽器の音を生成するなど、作曲家やプロデューサーの創作活動をサポート4. コーディング・データ処理をAIアシストするツール
Googleは、専門的なコーディングやデータ処理に関するツールや機能も強化しています。


Google AI Studio

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Google AI Studioその一つ「Google AI Studio」は、基盤AIモデル「Gemini」などを活用して、独自のAIアプリケーションを開発・試作できる無料のウェブベースプラットフォームです。このツールは、プロンプトの調整やモデルの動作確認を直感的に行えるため、コードを書かずにAIの能力を試したり、簡単なAIツールを自作してデザインプロセスに組み込む可能性を探ったりすることも可能です。APIキーを取得すれば、自分のアプリケーションからGeminiモデルを利用することもできます。

Stitch(BETA版)

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Stitchまた、Googleは、UIデザインからフロントエンドコードの生成までを支援する、画期的な生成AIツール「Stitch」というツールも提供しています。これは、デザインの実装プロセスを劇的に加速させるための研究プロジェクトとして、現在ベータ版が公開されています。Stitchを使えば、次世代のAIを活用したコーディングやデザインワークフローを実際に体験できます。その他にも以下の表にあるようなコーディング支援AIツールがあります。

ツール名説明Google ColabブラウザでPythonコード実行。AIがコード補完やデバッグを補助し、データ分析・画像処理を支援Firebase StudioFirebaseを用いたアプリ開発をAIで支援。Geminiがデータ管理やコード生成を補助Gemini CLI(Command Line Interface)Geminiモデルをコマンドラインから操作。開発者向けテキスト処理・コンテンツ自動生成5. リサーチ・情報整理を強力にサポートするAI機能
GoogleのAIは、その検索機能の強化により、情報整理のあり方を根本から変えようとしています。これは、「情報提供から価値提供へ!クリエイターも知っておきたいAI時代を生き抜く次世代SEOの新常識(前編)・(後編)」の記事でも触れたAI Overviewsや、関連情報を深掘りするクエリファンアウトといったAI検索機能によって実現されています。


また、同じく「著名人も絶賛!Googleが開発したAI搭載型ノートブック「NotebookLM」のクリエイター向け活用術」で紹介したNotebookLMも注目のツールの一つで、複数の資料をAIが要約・分析し、リサーチ作業を劇的に効率化します。この動画要約機能の「Video Overviews」も近日中に搭載予定のNotebookLMは「Google Labs」から登場し、今では多くのビジネスパーソンに利用されています。

こうしたリサーチや情報整理の分野でのAI活用は、AIによるコンテンツ生成とは一線を画します。私的な利用に限定すれば著作権上の問題も起きにくく、自身のアイデアを増幅させる強力な味方となるでしょう。クリエイティブワークをサポートする上で、ぜひ取り入れたいツールや機能の一つです。

6. GenType&AIで調整されたGoogle Fonts
Googleは、フォントに関連するツールや機能に関してもAI技術による強化を図っています。GenTypeはその代表的なツールの一つです。

GenType

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GenType「GenType」は、生成AIを活用したテキストスタイル生成やフォントデザイン補助を行うツールです。ユーザーの入力したテキストから多様なスタイルを自動で生成でき、フォントのカスタマイズや新しい書体の探索など、フォントデザインの補助機能も充実しています。

AI で調整されたGoogleフォント

クリエイターが知っておくべきGoogleの最新AIツール&機能 10選(最新版)
AIで調整されているGoogle Fontsの代表格「Noto Fonts」また、Googleは、デザインやコンテンツ制作において不可欠なフォントも、AI技術をフォントの開発や最適化に活用し、商用利用を含めて無料で利用できる「Google Fonts」の多言語対応や可読性の向上を図っています。その代表格といえるのが「Noto Fonts」です。

このフォントは、世界のあらゆる言語に対応することを目指すオープンソースのフォントファミリーで、「No Tofu」(文字化けの四角い記号「豆腐」が出ないようにする)をコンセプトにしています。
Noto Fontsは、AIや機械学習を用いて膨大な数の文字デザインを統合・調整されており、これにより、文字化けを気にせず多言語対応のコンテンツを作成することができます。このように、Googleはフォント自体にもAIを応用し、クリエイターの多様な表現を支援しているのです。
※参照記事:Noto(Wikipedia)

7.Googleのオフィス系ツールのAIアシスト機能
Googleドキュメント、スプレッドシート、スライドといったオフィス系ツールもAI機能が強化されてます。これらの多くは有料のGoogle Workspaceへの加入で利用できますが、以下で紹介するスプレッドシートと「Looker Studio」の連携機能のように、無料のGoogleアカウントで使えるものもあります。

Looker Studioで分析データを瞬時に可視化

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「Looker Studio」からレポートを作成
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分析データなどをAIで瞬時に可視化できる「Looker Studio(旧Google データポータル)」は、分析データなどをAIで瞬時に可視化できるツールです。プレゼン用のスライドを作る時間はないけれど、解析データをわかりやすく見せたい場合に役立ちます。

例えば、WebデザイナーをはじめとしたWeb制作系のクリエイターが、クライアントにサイトのリニューアル効果や実装後のデータ共有をする際に便利です。分析データをAIで瞬時に可視化し、説得力のある情報共有を手軽に行えるでしょう。

ツール名(カテゴリ)AIアシストの概要Google ドキュメントAIが文法・スペル修正、スマート作成などで文章作成を支援するGoogle スプレッドシートAIが「分析(Explore)」機能でデータ解析、グラフ提案、自然言語での質問応答などを行うGoogle スライドAIがプレゼン内容・デザイン提案、画像検索などでスライド作成を効率化する(一部有料)Looker Studio連携スプレッドシート等のデータを連携し、AIが分析・可視化した専門的なダッシュボード作成を支援する8. コミュニケーション・ファイル管理系のAIアシスト機能
GoogleのGmail、Google Meet、Google ドライブといった主要サービスにも、クリエイターのコミュニケーションや情報管理を効率化するAI機能が搭載されています。これらの多くは、無料のGoogleアカウントがあれば利用可能です。以下は、Google Meetで利用できるリアルタイム字幕起こし機能です。

Google Meetのリアルタイム字幕起こし機能

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「字幕」をONにして日本語選択
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リアルタイムで字幕が起こされる「Google Meet」のリアルタイム字幕起こし機能は、無料でも利用可能ですが、文字起こししたデータのダウンロードには、Google Workspaceの有料プランに加入する必要があります。この字幕起こし機能は、「Google Chat」のビデオ通話機能でも利用できます。

ツール名AIアシストの概要GmailAIが返信候補を提案、メール本文を自動補完し、メール作成を効率化するGoogle Meet(もしくはGoogle Chat)会議中の音声をAIがリアルタイムでテキスト化し、字幕表示や要約(一部有料)を行うGoogle ドライブAIがファイルの利用頻度や内容を学習し、必要なファイルの提案、検索結果の最適化を行う9. Google Arts & Culture

クリエイターが知っておくべきGoogleの最新AIツール&機能 10選(最新版)
Google Arts & Cultureのモバイルアプリに搭載されたArt Transfer機能「Google Arts & Culture」は、世界の芸術や文化遺産をオンラインで体験できるプラットフォームですが、ここでも最新のAI技術が組み込まれたアップデートが図られています。例えば、「AIを活用したアートの探索と体験」では、AIが画像の類似性やスタイルを分析し、ユーザーの好みに合わせたアート作品を推薦する、歴史的背景や関連情報を提供するといったことが可能になっています。その他にも歴史的映像アーカイブのAI探索ができる「Moving Archives」、アート作品を組み合わせてAIが解説・AIキュレーションを行う「National Gallery Mixtape」などもAIが活用された機能です。

また、モバイル版のGoogle Arts & Cultureアプリでは、AIを使って写真に有名絵画のスタイルを適用できる「Art Transfer」などの実験的ツールが無料で利用できます。この機能は、他の生成AIと同じ仕組みを活用していますが、自身の写真と著作権問題のないアートの画風を使うため、不正学習に懸念を持つクリエイターでも比較的試しやすいでしょう。私自身、著作権のある画風を再現する画像生成AIには抵抗を感じ一度も試したことはないのですが、Art Transferで自分が著作権を持つ写真を使って画像生成AIによる画像加工技術を一次体験することについては、迷いはあるもののギリギリ許容範囲内でした。倫理観は人それぞれですが、画像生成AIを批判するといった目的も含めて技術を知るための一歩として試す価値のあるツールだと思います。

10. GoogleのAI社会実装を実現していくツール&機能
最後にクリエイティブ領域とは直接は関係ありませんが、AIの社会実装を実現していくツールや今後実装予定のツール&機能についても把握しておきましょう。Googleの先進的なAI技術やサービスの開発・構想に関する知識はビジネスを行う上で必ず役立つはずです。以下の表で、そのツール&機能を紹介します。これらは現在、研究段階にあるもの、一部のテスターに限定公開されているもの、有料プランでの提供が予定されてものなども含まれます。

Googleの社会実装の取り組み

項目説明Google Workspaceの高度なAI機能Workspace有料プランで利用可能な、ドキュメント・スプレッドシート・スライドの高度な生成AI機能Project MarinerAIがウェブ操作を自律的に自動化するエージェント研究。未来のワークフロー効率化Webサイト品質・アクセシビリティ改善LighthouseとDevTools連携でウェブサイトの品質・SEO・アクセシビリティをAI的に診断AIキャラクター・新体験への戦略的提携Character.AIとの戦略提携。AIインフラ強化でAIキャラクター体験を向上Google Apps Script (GAS) のAI機能強化オフィスツール自動化言語GASのAI機能強化。定型業務の自動化スクリプト生成を支援SynthID DetectorAI生成画像に電子透かしを埋め込み、識別。AIと共存する透明性の基盤技術AIインフラ・ハードウェアへの大規模投資AI学習・推論を支えるTPU/Axionなど独自プロセッサ開発への大規模投資医療・ロボティクスなど多分野への応用Med-PaLM(医療)やWaymo(自動運転)など、多分野でのAI社会実装と課題解決Google OpalAI活用ワークフロー自動化アプリのβ版(現在は北米限定)。企業向けに複雑な業務プロセスを効率化。 

まとめ

本記事で紹介したGoogleの最新AIアップデートを見ていくと、私たちが意識していない領域にまでAI技術が深く組み込まれている現実が見えてきます。生成AIモデルの性能ではOpenAIがライバルですが、日常使うツールやエコシステムへのAI統合、つまり「プロダクトへのAI組み込み」という点ではGoogleが他社を圧倒的にリードしていることがわかるでしょう。これに追随できるのは、現時点でおそらくMicrosoftしかなく、どうやってGoogleに対抗していくのか今後の動向が注目されます。

また、私たちが、日常生活の中でGmailやYouTube、Chromeなどを使うことは、すべてGoogle(Alphabet)のAI戦略に取り込まれているといった認識を持たなければいけません。それは、Googleに限ったことでなく、X(旧Twitter)やThreadsなどのSNSでどんなに生成AIの不正学習について批判したところで、それは生成AIを開発している企業のプラットフォームを利用している事実があるということも同様で、ある種の矛盾も生じています。しかし、この矛盾を抱えること自体が問題なのではなく、それを自覚することこそが重要です。生成AIの問題は、はっきりと白黒をつけられるほど、シンプルで割り切れるものではないのです。

生成AIを積極的に導入するか、批判的な立場を取るか、クリエイターそれぞれの考えは多様でしょう。しかし、私は明確な答えを出す必要はないと思うのです。自己矛盾や曖昧さを抱えながら、そこで生まれる苦しみや悩みに耐え、私たちは次に来る生成AI社会を受け止めていかなければいけない。そうした中で、生成AI社会におけるGoogleというビックテックの目指す方向性をキャッチアップすることは、極めて重要なビジネス上の基盤となり、また心の準備にもなります。本記事がその一助となれば幸いです。

クリエイターが知っておくべきGoogleの最新AIツール&機能 10選(最新版)
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