Adobe Illustratorの既存の2Dのベクターイラストを回転させ別アングルのイラストを自動生成できる「ターンテーブル」という新機能がSNSで話題を呼んでいますが、Adobeからもう一つ注目すべき3Dグラフィック強化ツールがリリースされています。

近年、3Dグラフィック表現はあらゆるコンテンツ制作において不可欠なものになりつつありますが、その制作を担える人材は依然として不足しています。
生成AIコンテンツが増える中で、2Dから3D領域へのスキル拡張を視野に入れているクリエイターの方も多いかと思いますが、Project Neoはそんなニーズに最適なツールの一つです。

そこで今回は、Project Neoの特徴や機能を詳しく紹介し、3D分野は全くの素人である著者が使ってみた感想などをご紹介します。

目次

Project Neo とは

最初に、Project Neoの概要と、従来の3Dデザインツールとの違いについて説明します。

Project Neoの概要

2Dデザイナーにもおすすめの3D制作ツール『Project Neo』をトライしてみよう!
Adobeの公式サイトに掲載されているProject NeoのイメージサンプルこれまでAdobeはAdobe Dimensionなど、いくつかの3Dグラフィックソフトウェアを提供してきましたが、Adobe Project NeoはWebベースの3Dデザインツールです。特にSVGデータを活用した3Dグラフィック制作において、作業時間を大幅に短縮し、効率化できる点が大きな特徴です。

オリジナルの3D制作に加え、Adobe Illustratorなど既存の2Dベクターデータを元に3D化することも可能です。そのため、Webデザイナーやコンテンツクリエイターなど、3Dグラフィックを手軽に作成したい人におすすめのツールと言えます。

Adobe Project Neoは、当初はプライベートベータ版として提供されていましたが、現在はパブリックベータ版として利用可能です。Adobe Creative Cloudのサブスクリプションがなくても、Adobe IDを持っていればアクセスして利用できます。Adobe IDは無料で作成できるため、実質的に誰でも試すことが可能です。ただし、将来的にはAdobe Creative Cloudのサービスに統合される可能性もありますので、その点は留意しておきましょう。
※参考URL:Adobe Project Neo(ベータ)とともに、新次元のクリエイティブビジョンの実現へ(Adobe公式サイト)
※参考URL:簡単に3Dデザインを作成できるProject Neoのパブリックベータ版を本日から提供開始(Adobe公式サイト)

従来の3Dデザインツールとの違い
3Dグラフィックの作成には専門知識とスキルが必要なため、習得には時間的なコストがかかります。Adobe Project Neoは、3Dの専門知識やスキルがない人でも、Webベースの直感的なUIによってIllustratorなどの2Dデータから効率的に3Dを作成できる点が、従来の3Dグラフィックツールと大きく異なります。
 

近年、コンテンツ制作において3Dグラフィック表現が求められるケースは増えていますが、気軽に取り組めるツールはこれまで多くありませんでした。Adobe Project Neoは、数時間かかっていた3Dグラフィック制作を数分に短縮することも可能で、グラフィックデザイナーやWebデザイナーが3D表現を取り入れるうえで革新的なツールとなっています。

Project Neo主な機能と特徴

次に、Project Neoの主な機能と特徴を詳しく解説します。

2Dデザイナー・イラストレーターの視点に立った設計
 

2Dデザイナーにもおすすめの3D制作ツール『Project Neo』をトライしてみよう!
2Dの画像から3Dを作成するのにも最適なツール従来の3Dツールは習得に時間がかかりましたが、Project NeoはAdobe IllustratorやPhotoshopといった2Dグラフィックツールを使い慣れたデザイナー・イラストレーターなどにも使いやすいように設計されています。

Adobeの他ツールをはじめとして、グラフィック系のソフトを普段から使っている方ではれば、直感的なインターフェースによって3Dグラフィックを容易に作成できるようになっています。また、ブラウザを経由したWebベースの利便性によって、端末環境に左右されない利用が可能であるのもメリットです。技術的な障壁を大幅に下げ、操作の直感性から学習コストも低いため、グラフィックデザインのワークフローにスムーズに3Dを取り入れることができます。

革新的な3Dデザインワークフロー
Project Neoは、時間のかかる煩雑な作業を効率化します。

1.非破壊型ワークフロー

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便利な非破壊ワークフローも含めたデザインワークフローを構築可能非破壊ワークフローで一度作成したデザインを自由に編集、変更、回転できるため、一つのデザインから無限のバリエーションを生み出せます。編集作業が元のファイルに影響を与えないため、誤ってデータを破損させるリスクがないという点は、初心者も安心して使えるツールであると言えます。

2.リアルタイム調整
あらゆる角度から照明や影の調整がリアルタイムで行えるため、立体をリアルに見せていく調整を行う作業時間が大幅に短縮できます。

3.タイポグラフィの強化

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「3D文字を作成」「シーンから作成」といった機能も搭載されている「3D文字を作成」という項目から作業をスタートさせれば、3Dタイポグラフィを簡単に作成できます。Adobe Fontsの3万点以上のフォントを利用してユニークな立体文字デザインを作成できる点も魅力的です。


4.AIによる機能拡張
「シーンから生成」という機能を選択すれば、AI生成画像のレイアウトを自由にコントロールすることも可能です。

5.SVGデータからの3D化

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Adobe公式で紹介されているSVGをインポートして作成した3Dグラフィックのイメージ前述のように、既存の2Dベクターデータを活用して3Dグラフィックスを作成することができます。

Adobeエコシステムとのシームレスな統合

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SVG、PNG、JPEG、MP4での書き出し対応既存のAdobe Creative Cloudツールとの連携が強力です。Adobe Illustratorで作成した2Dベクターデータを直接インポートして3D化できるだけでなく、Project Neoで作成したアートワークをSVG形式でIllustratorにエクスポートし、編集することも可能です。書き出し可能なファアイル形式はSVG、PNG、JPEG、MP4ビデオの4種類です。これにより、2Dと3Dをまたぐシームレスなワークフローが実現します。

コラボレーションとコミュニティの活用
 

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コミニティでは他のクリエイターの作品を閲覧できる
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Discordにも公式サーバーが用意されているWebベースの利点を活かし、チームメンバーとのリアルタイムコラボレーションが可能です。プロジェクトのリンクを共有するだけで、ブラウザ上で共同作業やレビューができます。また、コミュニティギャラリーでは、他のクリエイターが作成した作品を見て、その作成プロセスを学ぶことができ、インスピレーションを得る場としても活用できます。

Project Neo使って初心者がどこまで3Dを制作できるのか

最後に、3Dグラフィック初心者である私が実際にProject Neoを使って、どこまでの制作物を作成できるかを実例として紹介していきます(SVGを読み込む作業はAdobeStockの2Dデータを利用)。

チャレンジ1:ゼロからオリジナルの3Dイラストを制作する
最初に「新しいデザインを作成」という項目から、1からオリジナルで3Dのグラフィックを作成することにチャレンジしてみます。

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シェイプを組み合わせる
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パーツを追加してイメージするキャラクターに近づける画面左側のサイドバーにあるメニューから「シェイプ」を選択し、イメージを組み立てていきます。Illustratorのようなグラフィックソフトでは、縦軸(Y軸)と横軸(X軸)の2軸のみの座標でオブジェクトを移動させるだけですが、これに奥行きという軸(Z軸)が加わるので、この移動に慣れるのに少し時間がかかりました。


正面からオブジェクトを重ね合わせられたと思っていても、くっつけようとした2つのオブジェクトが角度を変えるとかなり離れた位置にあることもしばしばです。また、移動させようとして操作しているのに、オブジェクトが回転したり変形してしまうこともあります。

Adobe公式以外に、使い方を解説した記事や動画などはあまり多くありませんので、手探りでトライアンドエラーを重ねながら、パーツを追加しカラー設定なども実行し、イメージするキャラクターに近づけていきます。

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各アングルから全体像を確認
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顔のパーツを追加して完成キャラクターの耳なども追加され、だいぶイメージにつか付いてきました。顔のパーツ、体のパーツをグループ化してから、だいぶ操作が上手くいかなくてもどかしく感じることも少なくなってきたように思います。

「ミラー」機能などを実行してみるものの、パーツをシンメトリカルに上手に配置する方法がわからないまま進めましたが、それなりの形になってきたように思います。

完成形に近づいたので、周回(オブジェクトを回す項目)やチルト(傾きを調整する項目)を変えて、あらゆる角度から3Dグラフィックの全体像を確認します。クマとネコの中間のような動物キャラクターになりましたが、最後に顔のパーツを追加して完成としてみます。

ここまで来るのに、所要時間は1~2時間程度でした。慣れるまで時間がかかりましたが、操作方法はAdobeの他ツールを踏襲していることもあり、何も説明がなくても試しているうちに、なんとなく操作方法を掴めたように思います。

チャレンジ2:SVGで制作された既存のイラストを立体化する
既存のSVGデータを基にして3Dグラフィックを作成できるというProject Neoの大きな特徴を体験するために、2つ目のチャレンジはAdobe StockにあるSVGのイラストを読み込んで3D化を実行してみます。

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SVGデータを読み込む
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外観やシェイプといったプロパティ項目を調整まずはSVGのイラストを読み込みます。
読み込んだデータは、基の2Dグラフィックスと異なり、細かな描写が隠れてしまっているようです。そこで、画面右側にある外観やシェイプといったプロパティ項目を調整する、もしくはオブジェクトを直接クリックしてドラッグ&ドロップで変形させるといった操作を行いながら、3D化していきます。

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背景など不要なものを削除して完成
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元のSVGとProject Neoで3D化した画像の比較かぼちゃの表面にある線の描写やヘタの部分などが、凸凹していましたので調整します。途中、単に型抜きのように押し出されているような表現ではなく、かぼちゃのイラストがもう少し丸みを帯びたフォルムに変形させたいと、いろいろと試してみましたが、もともとのSVGデータが3D化を想定して作成されたものでないため、初心者にはこの調整が難しいとわかりました。

そこで、ここではイラストと同時に読み込まれた背景のオブジェクトを削除したところで一旦完成としました。

もちろん、Project Neoは単に平面のグラフィックスを押し出したようなスタイルだけでなく、多様な立体表現が可能です。ただ、2Dグラフィックスでの用途のみを想定されたSVGデータを活用する場合は、ゼロから新しいオブジェクトを作成する方が簡単にイメージに近いデータを作成できるような気がします。

チャレンジ3:SVGで制作された既存のタイポグラフィーを立体化する
SVGのイラストデータを読み込んでの立体化には、少し初心者としての限界を感じましたが、平面の画像を押し出すような立体化であればテキストがメインのグラフィックのほうが最適かもしれません。そこで、3つ目のチャレンジとしてSVGで作成されたタイポグラフィーをProject Neoで3D化してみます。

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SVGデータを読み込む
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カラー設定でオブジェクトを彩色Adobe StockにあるSVGのタイポグラフィー素材をProject Neoで読み込みます。レイヤーを選択し、画面右側にあるサイドメニューにあるプロバティ項目で、読み込んだデータを調整していきます。ここでは、テキストをエンボス(押し出し)加工したような立体化を施し、カラー設定でモノクロの画像を彩色してみます。


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ベースの背景もカラー設定し完成
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元のSVGとProject Neoで3D化した画像の比較ベースの背景も読み込まれていますが、ここではそのベース部分も活かして同じようにプロパティを調整してみます。このように、数ステップの作業で簡単に2Dのタイポグラフィー画像を3D化することができました。

まとめ

筆者は、粘土をこねたり木を彫ったりするアナログな立体制作に元々興味があり、スクリーンの世界で立体を制作するCG・3Dグラフィックスに憧れがありました。しかし、3Dグラフィックスの制作には、芸術的センスだけでなく、数学的な知識や正確な数値入力が必要なため、なかなか手が出せずにいました。特に、デジタルでの3D制作では、立方体や円錐体といった幾何学的なオブジェクトを組み合わせて形を作っていく部分に難しさを感じています。

そんな3Dツール初心者である筆者が実際に試してみて感じたことは、Project NeoはAdobeのツールに慣れている人なら、取り組みやすい導入ツールであるということです。一方で、グラフィックツール自体が全くの初心者にとっては、やはりそれなりの難易度があると感じます。また、Adobe Stockをはじめ既存のストック画像に、3D化を想定したSVG画像データがまだ少ないため、Illustratorのターンテーブル機能のように、既存のデータを一瞬で3D化するような「魔法のようなソリューション」とまでは言えないということは確認しておきたいポイントです。その一方で、3Dのキャラクターデザインや既存の2Dグラフィックスの創作フォントを立体的に見せたいといった用途では、非常に使い勝手の良いツールだと思います。

Project Neoが今後、単体で進化していくのか、それともIllustratorの機能の一部として統合されていくのかはまだ分かりません。現状はベータ版として提供されているため、今後さらに機能が強化され、よりパワフルな正式版がリリースされることが期待されます。3Dグラフィックスに興味はあったものの、なかなか踏み出せなかったという方には待望のツールだと思いますので、ぜひこの記事を参考にしてチャレンジしてみてください。


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