高橋秀樹(放送作家)

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世界の人々がAmazonを使い続ける理由は意外なところにある。それは、Amazonが「世界一巨大な面倒くささ買取企業なのである」ということだ。


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今更言うまでもないことなのだが、世界中でAmazonが使われ続けている。価格が安いからだろうか。品揃えが豊富だからだろうか。配送が早いからだろうか。これらは確かに理由の一部ではあるが、どれも決定打ではない。なぜなら、それらはすでに多くの企業が追いつき、あるいは部分的には追い越しているからだ。それでも人々は、考える間もなくAmazonを開いてしまう。

この現象は、競争論や技術論だけでは説明できない。理由は、もっと意外で、もっと人間的なところにある。

Amazonは「便利」を売っていない。しかし、Amazonはよく「便利な会社」と言われる。だが、便利さそのものは本質ではない。
便利とは、機能が多いことでも、操作が速いことでもない。むしろ多くの場合、便利さは人を疲れさせる。選択肢が増え、比較が増え、判断の責任が増えるからだ。

Amazonが売っているのは、便利ではないのだ。

では何を売っているのか。人間のめんどくささを引き取ることである。何を選ぶか迷うめんどくささ。失敗したらどうしようと考えるめんどくささ。届かなかったら、返品が面倒だったら、という不安。

Amazonは、それらを一つ一つ消していった。

考えなくていい。確認しなくていい。
失敗を想定しなくていい。その結果として「便利」に見えているにすぎない。それは新しい商売ではない。しかし、実はこの発想自体は、まったく新しくない。日本の都市には昔から「便利屋」が存在してきた。やるのは難しくないが、やるのが面倒なことを代わりに引き受ける仕事だ。

家事代行、使い走り、雑務請負。人類史を遡れば、召使いや下働きも同じ構造を持っている。Amazonがやっていることは、根本的にはこれと同じだ。違うのはただ一つ、それを人ではなく、仕組みとして、世界規模でやったという点である。

めんどくささの引き取りが、個人の技能ではなく、インフラになった。ここが決定的に新しい。
人間を考えない存在にしようとしているのか? この問いは避けて通れない。考えなくていい世界は、人を馬鹿にする世界ではないのか。答えは単純ではない。

Amazonは人を馬鹿にしようとしているわけではない。ただ、人間を「疲れている存在」として正確に見積もっている。問題は、善意か悪意かではない。考えなくていい状態が長く続くことそのものだ。判断しない。比較しない。失敗を引き受けない。

それが一時的であれば問題ない。だが、それが生活の基準になると、思考は使われなくなる。
使われない能力は、衰える。この不安を感じる人は少数派だ。なぜなら、考えなくていいことは快楽ではないが、安静だからだ。多くの人は、それに疑問を持たない。

それでも人は完全には委ねない。興味深いのは、ここ数十年、利便性から離れようとする小さな潮流が消えていないことだ。

*ひとりキャンプ
*徒歩での旅
*田舎暮らし

だが現代のそれは、技術拒否ではない。スマートフォンを持ち、地図を確認し、必要ならデリバリーも使う。つまり人は、すべてを不便にしたいのではない。どこで考えるかを自分で決めたいのだ。行程は自分で引き受ける。身体感覚は取り戻す。
ただし、生理的な負担や失敗の後始末は外注する。これは矛盾ではない。文明を拒否しているのではなく、文明を道具に戻そうとしている。

Amazonが負けることはあるのか? 当然、Amazonは簡単には負けないだろう。価格競争でも、技術競争でも、利便性競争でも負けない。だが、負けるとしたら別の形になる。それは「基準でなくなる」という負け方であるはずだ。例えば、「まずAmazonを見る」という反射が起きなくなる。誰も怒らず、誰も宣言せず、ただ使われなくなる。それは企業によってではなく、人間の態度の変化によって起こる。

世界の人々がAmazonを使い続ける意外な理由とは何だったのか?

世界の人々がAmazonを使い続ける理由は、安さでも、速さでも、技術でもない。それは、人間が疲れているという事実を、最も冷静に、最も徹底的に前提にしたからである。


Amazonは未来を語らない。理想も語らない。ただ、今日の人間のめんどくささを引き取る。それが文明の必然なのか、行き過ぎなのかは、まだ分からない。だが一つだけ確かなのは、Amazonを見ているつもりで、私たちは自分たちの姿を見ているということだ。そしてその姿に違和感を覚えた人間だけが、次の問いを持つ。どこまで任せ、どこから引き受けるのか。

その問いこそが、Amazonの時代に残された、数少ない人間の仕事なのかもしれない。誤解を恐れずに言えば「Amazonはビッグ・テックでさえない。世界一巨大な面倒くささ買取企業なのである」
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