時田秀一(本誌ライター)

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現代のビジネスにおいて清潔感は自己管理能力や敬意を示す重要なビジネススキルとなっている。

かつて女性中心だった美容医療の常識は今、大きく変わりつつある。
株式会社スタイル・エッジ(東京・代表取締役社長 島田雄左、以下スタイル・エッジ社)が2025年10月に発表した「第1回美容クリニックに関する調査」によれば、美容クリニック利用者の実に46%が男性という事実が明らかとなった。これは、美容医療がビジネスパーソンの日常的な「身だしなみ」の延長と捉えられ始めたことを示唆しているのかもしれない。

一方で、市場の急拡大に伴い、「高額契約の強要」や「仕上がりの不一致」など、消費者トラブルも増加傾向にある。それは行政を巻き込んだ業界の健全化や、関連団体による透明化などへの取り組みも進められているものの、抱えている課題の障壁は高い。

そこで本稿では、士業・医業に特化した国内最大手のコンサルティングファームとして、それらの問題への多くの取り組み実績を有するスタイル・エッジ社の島田雄左氏に、データが示す社会変化と、賢い消費者が持つべきリテラシーについて伺った。同社は、美容医療機関、法律事務所などを多くのクライアントとして有しており、豊富な実績と経験を持つコンサルティングファームとして知られている。

<男性利用者が46%?>「美容室感覚」になった美容クリニック...の画像はこちら >>

(以下、インタビュー)

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<「整形=マイノリティ」は今は昔。日常化する「自分への投資」>

インタビュアー 時田秀一(本誌ライター・以下、時田):最初に、「美容クリニック利用者の46%が男性」という調査結果は、一般的な感覚からするとかなりインパクトがあると感じます。この点について率直なご意見を聞かせてください。

株式会社スタイル・エッジ 代表取締役社長・島田雄左氏(以下、島田氏):今回の調査で利用者の46%が男性という数字を見て、消費者意識の大きな変化を感じました。韓流ブームなど、メディアの影響も大きいとは思いますが、本当にちょっと前まではまったくそんな意識はなかったと思いますから。

時田:短期間で消費者の意識が変わった要因は何だと思われますか?

島田氏: やはり最大の要因は、SNSの普及により、消費者の多様な意見が、マスコミのフィルターを通さず自由に得られるようになったことですね。
その結果、美容医療が「自己投資」の一つという価値観が定着したのだと思います。今は「美容室へ行く」ことに近い感覚で利用されるようになっています。特に脱毛やスキンケアといった施術は性別を問いませんから。

時田:「肌をきれいにしたい」「清潔感を保ちたい」というニーズなどは、男性の利用者増に繋がっていると私も感じます。私の周辺にも「医療」とは意識せず、エチケット感覚で利用している人が増えた印象です。

島田:年齢層についても、30代・40代が中心ではありますが、ライフステージごとに「健康的な見た目を維持したい」といったニーズを満たす商品が増えています。かつての贅沢品としてのイメージから、社会的自信やQOL(生活の質)の向上、あるいは心身の健康維持の一部として、世の中に受け入れられるようになったのだと理解しています。

<トラブル急増の深層。「情報の非対称性」という落とし穴>

時田:市場の健全化や意識改革が進む一方で、ネガティブなニュースも耳にします。「第1回美容クリニックに関する調査」の結果からも、多くの利用者が「費用対効果」や「リスク」に対して不安を感じていることがわかります。

島田氏: 利用者が感じる不安の正体、それは「不透明さ」です。「本当にこの金額に見合う効果があるのか?」「副作用はないのか?」「後から高額な追加料金を請求されないか?」。

美容医療は決して安い買い物ではありません。しかも、家電製品のようにスペックが明確に決まっているわけでもない。ここに、専門家サイドと、一般の利用者の方との間に、埋めがたい「情報の非対称性」が生じてしまうのです。

時田:「情報の非対称性」とは何ですか?

島田氏: 売り手と買い手との間で保有する情報に格差がある状態が「情報の非対称性」です。例えば、医師やクリニック側は、当然ながら医学的な専門知識や、過去の膨大な症例データを持っています。一方で、利用者側が持っている情報は、ネットで検索した断片的な口コミや、広告のキャッチコピーくらいしかありません。この「知識の圧倒的な格差」がある状態で、十分な説明もないまま契約が進んでしまう。これがトラブルの原因であることが多いです。

時田:プロにとっては「常識的なリスク」でも、素人にとっては「想定外の事故」になり得る、ということですね。

島田:このギャップ、すなわち「情報の非対称性」を埋める努力を怠ると、結果として「騙された」「失敗した」と利用者が感じてしまうわけです。

時田:特に美容医療の場合、「美しさ」というゴールの基準が曖昧です。そのあたりも問題を複雑にしてそうですよね・・・。


島田氏: おっしゃる通りです。美容医療の結果には、どうしても主観が入ります。そこが最も難しいポイントです。例えば、二重の手術をして、医学的には完璧な仕上がりになったとします。しかし、患者様ご本人が「私がなりたかったのは、もっと幅の広い二重だった」と感じてしまえば、それはその人にとって「失敗」であり「不満」になってしまう。客観的に見て綺麗になったとしても、ご本人が描く理想と異なれば、それは不満に繋がります。個々が描く「美しさ」のイメージは異なるため、そこを埋める難しさが常にある。このイメージギャップの大きさが、費用対効果への疑問や不満を生む最大の要因になっています。

<賢い選択のために。透明性という「共通言語」>

時田:構造的な要因である以上、すぐに状況を変えることはできません。そうなると、私たち消費者の側で安全性を確保する必要があるように思います。どうすれば自分の身を守り、「失敗しない選択」ができるのでしょうか。


島田氏: 我々としては、利用者が納得して選択できる「正しい情報」をクリニックと一緒に作っていくことが重要だと考えています。誠実な診療を行っているクライアントを応援し、ビフォーアフターにおける期待値のギャップを埋めるようなシステムを構築していく。事前のイメージと実際の結果の差をいかに小さくできるか。その仕組みを整えることで、利用者が安心して通える美容医療の環境を提供できるのではないか。そうした取り組みを通じて、業界全体の信頼性を高めていきたいと考えています。

時田:消費者意識や価値観がどんどん変化している現実を踏まえれば、正しい情報の提供と期待値ギャップを埋める仕組みづくりが徹底できれば、おのずと美容医療は社会にとってもっと価値あるものになりそうですね。 性別問わずニーズも高いわけですし。

島田氏:透明性の高い情報開示と、嘘のないコミュニケーションを支援していく。そうした地道な取り組みを通じて、誰もが安心して自分らしくなるための投資ができる。そんな美容医療の新しいスタンダードを作っていきたいと考えています。

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(以上、インタビュー)

<失敗しないクリニック選びの3箇条>

最後に、今回の取材を通して、筆者なりに失敗しないクリニックについて、消費者の側からチェックできる3つのポイントとしてまとめてみたいと思うので、参考にしてほしい。

(1)「デメリット」から逃げないクリニック
筆者が今回のインタビューで感じたことは、「デメリットについて 質問をした際に正確な情報が提供される」ことの重要性だ。
施術を受ける際、メリットや効果だけでなく、リスク、副作用、ダウンタイムについて、はっきりと説明してくれる医師を選ぶ。「絶対大丈夫」「すぐに終わる」といった安易な言葉に注意を払うことだけで、失敗と感じるリスクは大幅に軽減できるはずだ。

(2)「見積もり」が明朗なクリニック
施術費には、施術単体だけでなく、麻酔代やアフターケア代など、不可欠なオプションが必ずある。それが表示されている金額に含まれているのか、別料金なのかによって、金額は大きく異なる。島田氏は「見積もりの内訳の不透明さは、そのままクリニックの経営体質の不透明さに直結しています」と語ってくれたが、なるほど、その通りだと感得させられた。

(3)「持ち帰る」ことが許されるクリニック
これは、美容医療以外の場面でもよく目にするが「今日契約すれば安くなる」「今(だけ)がチャンス」と即決を迫るようなクリニックは、まずは避けるべきだろう。まともな医療機関であれば、患者が冷静に考える時間を奪うようなことはしないというのが、島田氏の持論である。一度持ち帰り、冷静な頭で比較検討できる環境を提供してくれるかどうかが、信頼の試金石になっているというわけだ。

本誌は美容医療や誇大広告について精力的な取材を進めているが、今回改めて美容医療の市場が持つ危うさと可能性について考えさせられた。医療という最先端の科学・技術と人間のコンプレックスや変わりたいといった願いが複雑に交差して、さまざまな課題や問題を生み出している。
男性利用者の急増というデータは、誰でもが「なりたい自分」を追求できるようになったという社会・意識の変化であると同時に、その無防備な欲望が、知識格差によるトラブルになっているという現実も忘れてはならない。

島田氏は自分たちの役割として「単なる広告代理店の枠を超え、『情報の翻訳者(インタープリター)」となって業界の構造改革を推進すること』にあると強く自認しているという。
確かに、士業・医業を得意としたコンサルティングファームは決して多くない。

美容クリニックが「美容室感覚」に近づいた今だからこそ、その手軽さを享受しつつも、医療を受ける者としての賢明さと慎重さが重要だ。正しい情報を見極め、納得して選んだ「自己投資」だけが、あなたの人生をより豊かで自信に満ちたものに変えてくれるのだから。
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