ノバック友里恵(本誌ライター)

****

<転職市場に起きている「静かな変化」>

3月も中旬に差し掛かりいよいよ後半戦。4月からの新生活に向けた準備が本格化している時期だろう。
進学や就職、異動など、環境の変化が多いこの時期、多くの人が考えざるをえないことといえば「収入」の問題だ。しかも、国際的な金融不安、歴史的な円安、物価上昇・・・生活コストは目に見えて上がっている。

実際、転職サービス各社の調査や発表によれば、「年収アップ」を目的とした転職活動はここ数年で顕著に増加している。特に2025年以降は、コロナ禍からの経済回復と労働市場の流動化が重なり、「転職=キャリアアップ」という認識がより一般化したと言えるだろう。

しかし、ここで不安になるのは、転職にチャレンジしたはいいが、実際は収入アップにつながるのか、ということだ。もちろん、大企業、グローバル企業などへのわかりやい「栄転」であれば、収入アップは容易に見込めるが、転職者の多くは必ずしもそのような「栄転」ではないだろう。むしろ、自分のキャリアと市場動向、その企業の背景や今後の可能性などを予測しつつ、ギリギリのせめぎ合いで決断をしている人が大多数のはずだ。

では、収入アップは本当に実現できるのか。本稿でその現実について取材して分かったことは、その答えが単純な「Yes」でも「No」でもないということだ。むしろ、重要なのは「どの領域に身を置くか」という活躍の場選びと、そこに向かうために、転職者自身が「どのような支援を受けるか」の2点に集約されるということである。

<「収入が上がる仕事」は存在している>

まず、転職者が最初に探し始めるのは当然「年収が上がる仕事」だろう。しかし、ここで見落としてはならないのが、「今年年収が上がっている仕事」が「来年以降も年収が下がらない」とは約束されていない、という現実だ。
最近は特に顕著で、市場で支配的だった企業が、わずか半年、一年で、新興企業や新興サービスにとって変わられてしまう・・・という事例は少なくない。

要は、目先の年収や市場だけに一喜一憂してはいけない、ということなのだ。一方で、安定的に成長している市場があることも事実。これは日本の人口動態や社会構造から、「成長せざるをえない(ニーズが縮小しづらい)」といった市場だ。

例えば、近年、特に注目されているのが、いわゆる「エッセンシャルワーク」と呼ばれる分野である。エッセンシャルワーカーは「生活必須職従事者」の意味である。すなわち、福祉・医療など中心に、どのような状況下でも社会に不可欠な産業・分野に従事する人々のことである。もちろんこの中には、一次産業、物流など、社会インフラを支える職種も含まれる。

今更言われるまでもなく、急激な日本の少子高齢化や就労意識や環境の変化により、これらの業界は「人手不足(人材不足)」と言われ続けている。この人材不足問題は深刻化を加速させており、社会問題にもなっているぐらいだ。

その結果、今、日本では何が起きているのか。企業側は人材確保のために待遇改善を進めており、かつてのような「大変だけど、低賃金」といったものではなくなっている。
むしろ、金の卵として厚遇される傾向にある。「未経験からでも年収が上がる可能性がある領域」として再評価が著しい分野こそ、「エッセンシャルワーク」「エッセンシャルワーカー」なのだ。

パーソルイノベーションが展開するドライバー職に特化した転職支援サービスによれば、同サービスを利用してドライバーに転職した直近転職者の半数以上が年収50万円以上のアップを実現しているという。これは非常に具体的でわかりやすい事例だろう。もちろん、すべてのケースがこれに当てはまるわけではないが、従来の「同業種・同職種での横移動」とは異なり、「需要の高い分野へシフトすることで収入を引き上げる」という戦略が現実的な選択肢になっている。

<AIが変える転職市場>新生活シーズン目前、収入アップは実現...の画像はこちら >>

(求職者にキャリアアドバイザーが手厚いフォローをする。写真はパーソルイノベーション社提供)

<「マッチングの質」が収入を左右する時代へ>

しかし、そういうと「結局、成長産業を探せば良いのだろう」と安直に思う人が多いかもしれないが、注意が必要だ。冒頭にも書いたが、成長市場がある日突然凋落産業になる可能性があるのが現在であるからだ。そこで取材を進める中で多くの専門家が指摘していたのが、高精度な「適材適所」をどのように見つけ出してゆくか、ということである。

つまりこれは、転職サービスを利用する際の選択基準になるのかもしれないが、転職する上で自分の属性やキャリア・能力、要望などを最大限年収アップにつなげることのできる転職先・市場探索が何よりも重要になるのだ。これをしくじると転職がダウングレードになるという取り返しのつかない結果になる危険性すらある。つまり、転職サービスによる「マッチングの精度」が成功の可否を大きく左右するということだ。


また、転職を意識している人が絶対に忘れてはいけないことは、方法の劇的変化だ。従来の転職市場では、履歴書や職務経歴書といったテキスト情報を人間がチェックするという方法だった。しかし現在は、AIを活用した情報や適切分析が主流になっており、マッチング技術も劇的に進化している。「一見、見事な履歴書」「華麗なキャリア」では誤魔化すことのできない、多面的な適性評価が行われるようになっているのだ。

もちろん、そういったAI分析の中には「華麗なキャリア」だけではない、行動特性や志向性、さらには業界との相性までを分析し、「定着しやすく、成果を出しやすい環境」を提示することも可能だ。こうした仕組みは、単なる転職成功率だけでなく、「入社後の収入伸長」にも影響を与えると考えられているからだ。「見事な履歴書」「華麗なキャリア」で押し通せる時代は終わったと考えるべきだろう。

<転職サービスを確認してみよう>

転職サービスは無数にあるが、本稿ではエッセンシャルワーク領域に特化したもので、事例チェックをしてみたい。代表的なものでいえば、冒頭で紹介した転職支援サービス「ピタテン」などがそのひとつである。同サービスは、エッセンシャルワーク領域での人材を中心に若年層や未経験の転職希望者と企業のマッチングの特化をコンセプトにしていることで知られる。

さて、同サービスが特徴的なのは、未経験者を中心とした人材紹介に力を入れている点だろう。福祉や医療系の転職サービスは無数に存在しているが、その大部分は「キャリア転職」である。
業界のことを熟知した同業種から横スライド転職が前提となっているためだ。逆にいえばこういった分野的な流動性の低さが慢性的な人材不足を生み出してきた要因でもあった。

それに対して「ピタテン」では、新規参入転職を強く意識した建て付けだ。その理由もシンプルなようだ。こちらの会社の広報室長を務めながら、早稲田大学ビジネスファイナンス研究センターの招聘研究員でもある清水さやか氏によると「研修やサポート体制を前提に採用を行う企業が増えているという現実もありますが、何よりもAIにとって代わられない職種なので、新領域の人材紹介つまり“フロントラインワーカー”の人材紹介として、当社では注力しています。」とのこと。人材不足の解消には、未経験者を受け入れて育成することが、結果的には近道であることに多くの企業が気づき始めているというわけだ。

もちろん、「ピタテン」では業務の自動化や模擬面接などAIを導入している。これは、採用面接・人事評価サービスなどにも活用できるという。なお、日本のAI研究の拠点でもある東京大学の松尾研によるスタートアップBAKUTAN社とのマッチングアルゴリズムを共同研究している。

転職希望者の応募プロセスの簡略化も特徴の一つで、フォーム入力は最短30秒程度、履歴書作成もアドバイザーが支援する仕組みが整っている。これにより、転職活動の心理的・時間的コストを下げることが狙いだというから、実践的だ。同社「ピタテン」を活用した転職者の実績として、「給与アップ率90%、定着率90%」とも謳われている。
もちろん、一例ではあるとは思うが、転職する側、受け入れる側の双方に対して同サービスがかなり具体的な成果があるということなのだろう。(註:より具体的な数値に関しては公式サイトhttps://www.pitaten.jp、公式情報https://renew.digital-agt.net/lpcats_delivery/index.htmlにて確認をしてください)

<AIならではの転職分析>

そして、パーソルイノベーション社が公表している具体的な転職市場の事例として興味深いのが、ドライバー職の変化だ。コロナ禍で一時的に需要が落ち込んだタクシー業界は、その後の需要回復と人材不足を背景に、賃金体系が大きく見直されている。

現在では、「努力や成果が収入に直結しやすい職種」へと変化しており、未経験からでも短期間で年収500万円を超えるケースも報告されていると同社は具体例を示している。

これは単なる一業界の話ではなく、「労働市場全体が成果連動型へとシフトしている」兆候とも捉えられる。このあたりは、私たちのイメージと、実際に稼働している市場に大きな乖離あるものの一つかもしれない。

AIによる細かな分析とマッチング次第では、イメージとは大きく異なる成果につながる。適切な分野に入り、適切な環境で働くことで、従来以上に収入を伸ばせる可能性が広がっているということだ。こういった分析はAIならではだろう。

<「新生活=収入アップ」は現実的な選択肢か>

では、4月からの新生活に向けて収入アップを実現することは可能なのか。

結論から言えば「YES」。ただし「戦略的に動けば可能性は高い」ということを忘れてはならない。
そしてそのためには以下の3点が重要になる。

(1)成長分野(特に人材不足領域)を見極めること
(2)自分に合った職場とのマッチング精度を高めること
(3)転職活動のハードルを下げ、行動量を確保すること

これらを個人だけで実現するのは容易ではない。だからこそ、専門的な支援サービスの役割が大きくなっていることがポイントだろう。特に、AI性能の指数関数的な向上している現在、もはや従来の転職市場を無効化しているといっても良いというのが今回の取材を通して感じた率直な感想だ。

かつての転職市場は、「企業が人材を選ぶ場」とされていた。しかし現在は、優秀な人材だけでなく、“ポテンシャルのある人材”も含めて、企業側が積極的に獲得に動く時代へと変わりつつある。この変化は、4月という節目において、これまで以上に多くの人にとってチャンスとなる可能性がある。

新生活を前に、「収入を上げたい」という思いを持つこと自体は、決して特別なことではない。その思いを現実に変えるための選択肢は、確実に広がっている。その中で、どの道を選ぶか。今まさに、多くの人がその分岐点に立っている。

今後も本誌では目まぐるしく変化する転職市場と年収アップを目指す転職予備軍の読者に向けて、現場取材を通して有用な記事を提供してゆく予定だ。
編集部おすすめ