皆さんは「特養」をご存知でしょうか?

正式名称は特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)で、介護保険事業所の1つになります。

特養には、在宅での生活が困難な要介護状態の高齢者が入居できます。

主に自治体や社会福祉法人が運営しています。民間で運営されている有料老人ホームなどに比べて低料金な点が魅力ですが、原則要介護3以上の方しか入居できないなど、詳細な条件が設定されています。

特養の詳細は、下記リンクからご確認ください。
【わかりやすく解説】特養(特別養護老人ホーム)とは?入所条件・申し込み方法

特養は、2021年10月時点で全国に8,414施設あり、定員数は58万6,061人となっています。

今回はそんな特養で提供される医療サービスに焦点を当てて解説いたします。

現在の特養ではどんな医療が提供されているのか?

特養は主に入浴や排泄、食事など、日常生活におけるの介護を提供する施設であり、生活の場となります。

基本的には医療行為が行われる場所ではありませんが、現在の特養では常時生活を行ううえで医療行為が必要な方がいます。

特養で行われている医療として下記のようなものが挙げられます。

  • 酸素吸入(人口呼吸器の管理も含む)
  • 静脈内注射
  • 喀痰吸引
  • 褥瘡(じょくそう)の処置
  • 胃ろうや腸ろう、IVH※の管理
  • 軟膏塗布
  • 人口肛門・人口膀胱(ストーマ)

※中心静脈栄養の略。胸の周囲、鎖骨の下あたりにある中心静脈にカテーテルを刺し、栄養輸液を注入して栄養摂取する方法

特養では、看護師や研修を受けた介護職が医療行為を行いますが、指示については特養に配置されている医師が行います。制度上特養には必ず、医師を配置しなくてはなりません。

この配置医師は特養において、次のような業務を行います。

  • 定期的な診察
  • 入居者の健康状態や生活環境の適正・心身の状態にふさわしい食事・入浴等への意見(アドバイス)
  • 必要に応じた処方箋の発行
  • 臨時の往診及び処置
  • ターミナルケアから看取りへのかかわり
  • 主治医意見書の作成
  • 外部医療機関との連携(紹介状の記載)、家族への説明等
  • 急変等への対応(指示照会等)

いわば施設入居者の「かかりつけ医」といえばわかりやすいかもしれません。

ただ、実際にはすべての特養で上記のような医療が提供されているわけではありません。

例えば、酸素吸入(人口呼吸器の管理も含む)が可能な施設は全体の54%、静脈内注射は32%、喀痰吸引(1日8回以上)は24%。看取りへの対応は83%の施設となっています。

また、特養の配置医師の9割は非常勤のため、急変時の対応が難しい現状があります。

配置医師緊急時対応加算の算定は全体の6%と低調です。未算定の理由は「配置医が必ずしも駆けつけられない」「緊急時はすべて救急搬送している」が多い状況です。

配置医師緊急時対応加算とは
  • 配置医師が早朝または深夜に施設を訪問し、診療を行う
  • 入所者に対する緊急時の注意事項や、病状についての情報共有の方法、曜日や時間帯ごとの医師との連絡方法や診察を依頼するタイミングなどを、配置医師と施設の間で具体的に取り決めていること
  • 複数名の配置医師を置くなどし、施設の求めに応じて24時間対応できる体制を確保していること

また、配置医師が不在の場合、利用者の急変対応は配置医師へのオンコール対応が基本的ですが、原則救急搬送とする施設も一定数存在しています。

現状の課題とは

特養の配置医師が行う入所者に対する医療は「日常的な健康管理」であり、健康管理の領域を超える専門医療が必要となった場合は、外部の医療機関を受診や入院することが基本となっています。

しかし、現状の特養において、入所者の要介護度の重度化が進んだことで、配置医師による健康管理を超える専門医療が必要となる場面が増えてきています。

そのため、入所者が適切な医療をより円滑に受けることができる体制の整備(医療アクセスの向上)が課題に挙げられているのです。

厚生労働省は、この課題に対し、配置医師の機能の向上を主軸にしながら、各市区町村の医療資源の状況を踏まえ、協力医療機関(訪問診療含む)との連携体制強化や、オンライン診療との組み合わせなども含め検討を行い、入所者にとってどの方法が最善か議論が行っています。

これからの特養で求められる医療とは

現在厚生労働省などでは、特に次のような4つの場面での医療ニーズが議論されています。

1.専門医療等対応

近年、特養の入所者は要介護度の重度化が進み、専門医療を必要とする場合が増えています。また、病状の急変による夜間等の緊急対応を必要とする場合も増えていると考えられています。

2.認知症対応

特養の入所者は認知症である場合が多く、専門的な認知症医療を必要としています。近年、認知症専門医等の関与によって、状態に合わない投薬や多剤投与のために認知症が進行してしまっている方の改善事例が報告されるようになりました。そのため、介護現場と認知症専門医等との密接な連携が求められています。

3.看取り対応

入所者の看取りは、病院にて行われる場合もありますが、基本的には生活の場としての特養において行うことが求められています。看取りにおいては、次のようなポイントが重要だとされています。

  • 看取りの開始(回復が望めない状態であること等の診断)
  • 看取り期の定時・随時の診断
  • 死亡診断などの関与とそれらのご家族への説明
  • いずれも医師が大きな役割を果たすことになるが、家族からは、入所時からかかわって本人の状態をよく把握している配置医師によって行われることを望む声が強くあります。

    4.新型コロナ対応

    新型コロナウイルス感染症の感染者に対する治療は、日常的な健康管理の範囲を超える専門医療の分野です。

    特養においては、次のような現状が課題となっています。

  • 配置医・看護・介護職員に感染症対応についての専門性が少ない
  • 夜間の症状急変に対応できる医療体制がない
  • 人工呼吸器などの治療用の医療機器・設備がない
  • 隔離できる部屋がない場合が多く、医療を提供できない
  • このため、感染した入所者は病院へ入院することが原則となっていますが、医療ひっ迫により入院できない場合が多く発生しています。そのため、特養での施設内療養(入所継続)を余儀なくされて、特養内での感染拡大(クラスター発生)や、それに伴う死亡者の増大が生じています。

    こうした課題を解決していくために、配置医師の業務や業務内容を見直し、医療と介護の連携協働が不可欠であると提言されています。

    一気に見直すことは難しいため、特養で特に需要がある1~4の部分から見直しをスタートし、特養で提供される医療の在り方やそれに伴う報酬などについて段階的に検討のうえ、2024年度の介護報酬改定に反映される予定です。

    まとめ

    特養は、介護度が重い方が多く入所されている施設です。

    ほとんどの方は終のすみかとして選択されていることが多いと感じます。

    その場所で医療が提供されないために、望まない場所で最期の時間を過ごすことがないよう、2024年度には特養における医療について何らかの改定が行われるでしょう。特養での医療が今後どのように進められていくのか、今後も注目しておくと良いでしょう。

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