困窮者の自立を支援する生活保護制度。病気や障がいのある方にとってありがたい制度ではありますが、受給にあたってはさまざまな制約を受けることをご存じでしょうか?
そのなかでも生活保護制度と介護保険制度の関係を解説いたします。
生活保護における8つの保証
生活保護は、病気やケガなどで仕事ができない方や、何らかの事情で収入がなくなってしまった方などを対象に、最低限度の生活を保障する制度です。
これは日本国憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文を基につくられました。
支給される費用は8つあります。
生活扶助食費や衣類、光熱水費など、日常生活に必要な費用
教育扶助学用品費や学校給食費など、義務教育を受けるために必要な費用
住宅扶助家賃や地代のほかに、転居が必要になった場合の敷金、家屋の修繕費用などを支給
医療扶助病気やけがで治療が必要な場合に、生活保護の指定医療機関を受診した際の、診察代や薬代などの費用が医療機関に直接支払われる。
なお、一定の要件を満たせば柔道整復、あんま・マッサージ、はり・きゅうなどの施術も受けることもできる
介護扶助要介護・要支援状態にある人が、生活保護の指定介護機関で介護サービスを利用した際の利用料が介護機関に直接支払われる
出産扶助出産のために必要な費用で、分娩の介助や分娩後の処置などのいわゆる助産のほか、分娩に必要なガーゼなどの衛生材料費などの費用
生業扶助仕事に就くために必要な技能を身につけるための費用や仕事に必要な洋服などの購入費用、高等学校に就学する場合の授業料や教科書などの購入費用
葬祭扶助葬儀を行う扶養義務者等がいないなどの場合に、葬式の費用を支給
こうした保証は、基本的に個人ではなく世帯単位で行われます。
世帯の状況(人数、年齢など)をもとに、厚生労働大臣が決めた基準により計算した世帯1ヵ月分の生活費を最低生活費といいます。
この最低生活費と世帯全員の収入を比べて、世帯全員の収入が少ない場合に、最低生活費に不足する額が保護費として支給されます。
最低生活費については、各市町村で基準が違いますので、窓口で確認しましょう。
ケースワーカーの許可が必要になる
前述のように、生活保護は最低限度の生活保障なので、介護保険のサービス利用にも制限がかかることがあります。
実際に担当していた利用者さんの事例で説明していきます。
その方は生活保護受給者で「要介護3」の認定を受けており、原則「要介護3」以上になると、在宅生活が困難との判断で、施設入所を勧められます。
肺気腫の現病歴があり、自宅で生活するのが困難な状況ではありましたが、本人の強い希望で自宅で生活をなさっていました。また、近所に住む友人からの支援もあり、何とか生活が成り立っていました。
私は、できるだけ長い時間見守りができる体制づくりが必要だと考えたため、デイサービスを週5日、訪問介護を週2回、訪問看護を週1回利用するようなケアプランを作成しました
そのプランを市の保護課に持っていくと、担当ケースワーカーからこのように言われました。
本来であれば要介護3以上の方は、施設に入所してもらわないと困ります。それに、誰かの目が毎日入るのであれば、デイサービスを週5日も入れる必要ないですよね?
デイサービスの利用は、週3回までと決まっていますので、それでお願いします。生活保護は最低限度の生活保障ですからね
その方は結局状態が悪くなって入院され、転院先の病院でお亡くなりになりました。
「最低限度の生活保障」というのが生活保護制度の大前提なので、どうしても利用回数などに対して制限がかかってしまうのです。
また、状態などに応じて介護度の見直しをかけたりするのも担当ケースワーカーの許可が必要になってきます。
生活保護受給者は介護サービスの追加利用ができない
もう1つ事例を挙げて説明します。
その方は男性で、脳梗塞後遺症による左片麻痺のある方です。性格的にはかなり頑固で、意固地でした。
自宅はエレベーターのない、古い市営住宅の1階で、玄関前には階段が5段あります。先日、帰宅時に階段で転んでしまい、外傷を負ってしまいました。
この方はケアプランに「訪問看護」を位置づけているので、通常であれば看護師に急遽活動に入ってもらうのですが、生活保護を受給していたためできませんでした。
生活保護の受給者は介護サービスの追加利用ができないのです。
例えば、在宅で生活なさっている生活保護受給者の場合、状態が悪くなって、介護度の見直し(区分変更)の申請をしたら、介護度が確定するまで原則サービスは利用できません。
状態が悪いなら「入院」すべきという考えが前提にあるからです。生活保護は「最低限度の生活保障」が大前提の制度なので、さまざまな制約を受けることになります。

複数の制度を利用していると、このような弊害を受けることが少なくありません。困ったことがあれば、ケアマネージャーに自身が利用している保障制度などをしっかり打ち明けて相談してみてください。