皆さんはヘルプカードというものを聞いたことがあるでしょうか。
要介護だったり障がいのある方が、災害時や生活上に困ったときに、周囲に自己の障がいへの理解や支援を求めるためのものです。
ヘルプカードには、必要な支援内容や緊急連絡先などが記載されています。ヘルプマークを鞄等に吊るしている方が困っているようであれば、周囲の方が声をかけたり気にかけたりするなど、配慮しやすくなるものです。
現在、行政において、ヘルプカードのほかに、防災手帳や地域の実情に応じた多様なカードなどが作成されています。
しかし、こうした取り組みをあまり知らないという方が多いのではないでしょうか。
今回は、ヘルプカードの活用法を事例をもとにご紹介いたします。
周囲からの支援を受けやすくする
どんな病気も本人が一番つらいことは、想像しやすいかと思います。病気になると、痛みや吐き気といった身体的な症状に加え、つらさや不安を抱えることがあります。
認知症になると、記憶に障がいが出てきたり、見えないものが見えたりすることがあります。また、今いる場所や目の前にいる人が誰なのかがわからなくなったり、家から出たらどこに出かけようとしているのか思い出せなくなったりもします。
そのため、日常的な生活を送ること自体が非常に大変です。支援者側からすると、とんちんかんで困ったことをする人に見えるかもしれませんが、一番困っているのは本人なのです。
病気によってつらい思いをしているのは本人であるという周囲の理解があれば、困っている人に対して「大丈夫ですか?」「何かお手伝いしましょうか?」と言葉をかけることができます。また、とんちんかんな言動に対しても、否定や指摘、叱責などをすることも減るのではないかと思います。
これが認知症の方に対する受け止めの前提です。
しかし、認知症による言動には、その原因が見えにくいことがあり、受け止められにくいものです。
例えば、足を骨折して松葉杖をついている方がいれば、「骨折しているからスムーズに歩けないのは当然」と周囲が受けとめて急かすことはしません。風邪をひいて高熱、咳等目に見える症状があれば、「大丈夫?」と周囲が気づかいます。
しかし、認知症はそうではなく、はっきりした状態を周囲が判断できません。
つまり、周囲の方からすると「普通(認知症を患っていない)」に見えるため、受け止められにくいのです。
そこで、ヘルプカードの出番です。認知症の方が鞄などに吊るしておけば、周囲も「認知症の方なんだ」と気づきやすくなります。また、認知症の方が困った際に、ヘルプカードを周囲の方に見せることができれば、支援を受けやすくなることも考えられます。
ヘルプカードの活用エピソード
若年性認知症を患いながら講演活動などをされている丹野智文さんという方をご存知でしょうか。
丹野さんは、38歳のときに認知症になりました。丹野さんは、実際に自作で「私は認知症です。ご協力をお願いします」などと書いたヘルプカードを作成して、本人が困ったときに周囲に見せて助けを求めているそうです。
「私は8年前に運転免許証を返納し、会社に行くためにバス、地下鉄、電車を使って会社へ行くようになりました。
そこで駅名を忘れてしまうことがあり、人に聞くと外見からはわかってもらえず本当にこのままでは難しいなと思って自分でヘルプカードを作ってみました。
実際に使うときには本当に勇気が必要でした。
でも、子どもたちのためにもなんとしても働かなければならないと思っていたのでそれを使って会社の行き場所を聞いてみました。そしたら、病気のことをちゃんとわかってくれることで丁寧に教えてくれる人が増えてきました。
最初は不安があって勇気が必要ですけど、いい体験があるとどんどん使ってみようと思います」
丹野さんのように、ヘルプカードを活用することで、周囲の方の受け止めと支援につながり、認知症の方が生活しやすくなる事例も出てきています。
まとめ
ただし、課題もあります。
外出時にヘルプカードを持ち忘れてしまう、ヘルプカードを持っていたとしてもうまく使いこなせないなど、認知症を由来とする課題もあれば、世の中にヘルプカードが広く浸透していないために、周囲の方が認知症の状態にある方のSOSに応えられないといった現実もあります。
このような現実を一瞬で魔法のように変えることは難しいかもしれません。しかし、地道に少しずつ啓発を図っていくことが大事なことだと感じています。
本記事が、認知症の方の受け止めと周囲の方が手を差し伸べるキッカケになることを願っています。