加齢とともに睡眠は変化すると言われています。厚生労働省の『健康づくりのための睡眠指針』によれば、20~30代の頃と比較すると、それ以上の世代の睡眠は浅く、短くなるというデータも出ています。
また、内閣府の『高齢者の健康に関する意識調査』では、60歳以上の方が健康の維持増進のために心がけていることの第一位が、「休養・睡眠」となっています。
睡眠は生活の質に影響を与えるものです。睡眠の質が高ければ、心身の疲労回復や活性化につながり、健康な生活を送ることができるでしょう。反対に、睡眠の障害は本人の生活の質を低下するリスクも考えられます。
高齢の方は、よく「夜眠れない」と訴える方がいます。また、アルツハイマー型認知症等により、昼夜逆転や不眠などが見られる方もいます。
今回は、認知症の方の睡眠障害対策について解説いたします。
認知症と睡眠障害の関連
認知症の状態にある方のすべてに睡眠障害が起きるとは限りませんが、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、睡眠障害が起こることもあります。
【睡眠障害の主な症状や行動】- 夜に眠れない
- 寝てもすぐに目が覚める
- 早朝に目が覚める
- 昼夜逆転
- 横になっているときに、大きな声を出す、激しく体を動かす
- 夜中に眠れなくて、ウロウロ歩き出す、タンスなどをいじる など
認知症の中核症状の影響から、夜間の不安感が増して眠れなくなったり、寝ても夜中に目が覚めてしまったりするなどの睡眠障害が起こります。
夜間にまとまった時間の睡眠がとれないため、睡眠不足を補おうと昼間に寝てしまい、昼夜逆転になることも。
このような場合は何が原因で不安を感じているのかを探り、解決策を見出すことが重要ですが、在宅介護者が原因分析や解決策にたどり着くことは少々難しいかもしれません。そんなときは、介護の専門家に相談をしましょう。
誰でも簡単に実践できる「睡眠12ヵ条」
しかし、家族介護者でも「睡眠12ヵ条」を意識することで、認知症の状態にある方の睡眠障害を解決できるかもしれません。
これは厚労省が提唱したもので、高齢者だけでなく、全世代に向けて睡眠の質向上ために必要なことをわかりやすくまとめています。
ごく当たり前のことですが、認知症の状態であっても、自分でできることは自分で行うように促す、日光や風にあたる機会をつくる、人と会話する機会をつくるなど、活動的に過ごすことが良い睡眠につながります。
日中の活動が少ない方は要注意
逆に次のような活動する機会が少ない、刺激もない生活が目立つ方は注意が必要です。
- 1日中椅子に座ってじっとしている
- 1日中寝て過ごしている
- 家の中にこもって日光や風を感じる機会が少ない
- 誰とも会話していない
睡眠障害を解決しようとして、介護者が医師に睡眠薬の処方を安易に依頼するケースを見かけますが、これには慎重な判断が必要です。睡眠薬を投与することで、かえって認知症の症状を悪化させる可能性もあるからです。
やはり、まずは日中の活動を見直すことが何よりも肝心。それでも改善されない場合は医師と相談のうえで睡眠薬などの処方を考えるようにしましょう。
幻視が原因で睡眠障害を起こす可能性も
そこにあるはずのないものが見える「幻視」が原因で不眠になる方もいます。
僕が出会った認知症の方には、夜になると「小さい子どもが座っている」「虫が天井をはい回っている」など訴えて眠れなくなっている方もいました。
このような場合、「小さい子どもなんかいない」と否定するのではなく、本人の側から見えている世界を知ろうと努めることが重要です。「虫を追い払ってあげるから安心してくださいね」といった言葉をかけたり、実際に追い払う動作をして「いなくなりましたね」というと安心して眠ってくれることもあります。
しかし、状態によっては介護対応だけで症状を軽減できず、幻視が本人を苦しめる続けることもあります。そのときは、専門医に相談をして薬物治療も検討しましょう。
「夜間は寝るものだ」「〇時~△時までは寝てほしい」という介護者側の価値観は、介護者のイライラを生み出します。
介護者の「こうあるべき」という価値観が強くなると、支配的・管理的になってしまいます。結果、認知症の状態にある方と介護者の関係が悪くなり、かえって睡眠障害の原因になる可能性もあります。
認知症の方の睡眠障害は、家族介護者からすると負担を感じることが多いでしょう。そこで「睡眠12ヵ条」を参考に、対応方法を検討してみてください。そして家族だけで悩まずに、介護の専門家と一緒に対応することが大切です。