「服を脱いで下さい」と初めて会った人に言われたら、皆さんならどうしますか。脱ぐわけない、セクハラだといった声が上がるかもしれませんが、そうとは限らない場合もあります。
では、なぜそのような人から言われた場合は違うのでしょうか。それは嫌なことであっても相手を信用し、信頼することで治療に結びつくと理解しているからです。
しかしこの理解が難しい人がいます。それが認知症の方です。それゆえ認知症の人の医療、中でも治療を必要とする状態になったときは悩ましい問題となります。
そこで、今回は認知症の方に医療の対応(薬を飲んでもらうことに始まり身体に負担を与えるものまで)が必要となったときの介護者の考え方や対応についてお話します。
治療をするかしないかも検討事項の一つ
対応を考えるうえで最初に必要なのは、その治療をするのかしないのかという根本的な問題です。
多くの医師は「治すこと」が自身の使命であると感じているので、治療する方向で話を進めますが、あえて“やらない”ということも考える必要があります。
年齢を考えるとどうなのか、治療することで心身の両面で負担はないのか。そして何より本人はどう思っているのかを確認し、確認できなければどう思っているかを介護者が考えることが大切です。
そのときはご本人の昔の発言や性格などの観点から考えていくことになります。難しい場合は自分ならどうするかを考えてみましょう。
治療の必要性をしっかりと説明する
そのうえで治療の必要性を感じたのであれば、次にご本人への十分な説明が必要になります。
認知症の程度にもよりますが、ご本人が治療へ少しの理解もないままで進めていくことは、望ましくありません。認知症の方は何かにつけて不安を抱えているのです。
例えば、受診や治療時に何をされるのだろうという不安です。対応の必要性を理解しないままでされていればなおさらです。
私が現在している仕事の一つに、点滴や吸引をされる認知症の方に対して状況に応じて本人の行動を拘束することがあります。程度はさまざまですが、私の目で見れば、点滴や吸引をする側の人の説明の仕方が、認知症の方の反応の差を大きく左右していると言えます。
また、かつては薬を飲んでもらうときでも説明の差により飲む、飲まないの違いがある場面を何度となく見てきました。医師をはじめ、かかわる人は認知症だから何を言ってもわからないと思わず、時間をかけてでも十分な説明をすることが大切です。
治療の際にはチーム体制をつくる
治療を進めていく中で必要なのは体制を整えておくことです。緊急事態となったときに来てもらえる身内はいるのか。
最後に大切なことは治すことをやめる、できることまでするという選択肢を持っておくことです。チームをつくったとしても本人に苦しみや嫌な思いをさせてまで治療する必要はないのではと私は考えています。