「認知症の治療」と聞いて、どのようなものをイメージされますか?
恐らく多くの方が、病院で処方された薬を飲むことを連想されるかと思います。
これは、薬物療法と呼ばれます。
認知症のもう1つの治療法が、非薬物療法です。初めて聞く方も多いのではないでしょうか。
実は認知症の非薬物療法には、さまざまな種類があります。本記事ではその中から7つ、一部事例を交えながらご紹介します。
日常生活の中でできる非薬物療法もありますので、参考になさってください。
認知症の非薬物療法とは
非薬物療法とは薬を使わずに行う認知症の治療法で、認知症診療ガイドライン2017において、下記のように示されています。
「認知症の治療は認知機能の改善と生活の質(quality of life:QOL)の向上を目的として,薬物治療と組み合わせて行う.また認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)には非薬物治療を薬物治療より優先的に行うことを原則とする」と示されるようになった
引用元:認知症診療ガイドライン2017
認知症の非薬物療法6種類
認知症の非薬物療法はさまざまな種類がありますが、ここでは主な6つをご紹介します。
非薬物療法を行う前に覚えておいて欲しいのは、「本人の役割作り」です。
認知症の方は、徐々にできないことが増えていくケースも多いです。周りの人が、危ないからなどの理由で「何もしなくていいですよ」というスタンスだと、認知機能がより低下してしまう可能性も。
本人ができることで役割を作りつつ、非薬物療法を実施していきましょう。
1.認知症リハビリテーション
認知症リハビリテーションは、音読や計算問題、書き取りなどの、いわゆる「脳トレ」を行い、脳に刺激を与えることが目的です。
本人の好きなものや、興味を持つもので行うことが望ましいと言われています。逆に無理強いは禁物です。
事例Aさんは商家に嫁いだ80代女性です。
この方の場合、帳簿付けを通じてずっと計算が身近な存在であったため、計算プリントに興味を持たれたと言えるでしょう。
2.運動療法
散歩やラジオ体操、ストレッチなど、体を動かすことで脳の活性化や筋力の維持、睡眠の質向上が期待できます。
介護施設によっては、専門のマシンを使って運動療法を行うところもあります。
そのほか、レクリエーションで楽しく体を動かすのも運動療法の1つです。
ただし、本人の身体状況によっては、転倒や体調不良につながる可能性もあるので、無理のない範囲で行うようにしましょう。
3.音楽療法
音楽療法には、受動的音楽療法と能動的音楽療法の2種類があります。
受動的音楽療法:音楽鑑賞や、音楽に合わせた体操など
能動的音楽療法:歌を歌ったり楽器の演奏など
好きな音楽に触れることは、脳の活性化や情緒の安定、心身のリラックスにつながります。
音楽療法についてはさまざまな研究がされており、徘徊や妄想、暴言、暴行、抑うつなどの周辺症状(BPSD)に効果があるという報告もあります。
介護施設では、カラオケで歌ったり、音楽ボランティアによる演奏や歌を聴いたりする形で音楽に触れることもあるでしょう。
好きな音楽をかけて一緒に歌う、昔の歌をテーマにした歌番組を一緒に見るなども音楽療法の1つです。ご家庭でもできるので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
4.園芸療法
植物や土に触れることは、五感を刺激したり心を癒す効果が期待できます。
それだけではありません。園芸を楽しむために、自然と体を動かすことにもつながるので、身体機能の維持にもつながります。さらには、きれいに咲いた花を見たり、野菜を収穫したりすることで、喜びや満足感、充実感も生まれます。
事例あるデイサービスセンターでは、敷地内に畑があり、じゃがいもや大根、にんじんなどの野菜を植えていました。畑仕事が好きな利用者様が職員と一緒に、種まきや草取り、収穫を行っていたのです。
畑で収穫した野菜で食事やおやつを作り、みんなで食べたときは、おいしそうな表情を見せていました。
5.回想法
回想法とは、昔のことを振り返り、語ってもらうことです。
アメリカで、「過去の振り返りは、執着や現実逃避ではなく価値ある前向きな行動」と捉えなおされ、認知症ケアの1つとして広まりました。
思い出を話すことで脳の活性化につながり、みんなで記憶を分かち合い共感することで、孤独や不安を解消する効果があります。
国立長寿医療研究センターが研究したところによると、昔の話をしているときの脳は、最近の話をしているときの脳と比べて、最大80倍血流が増加するそうです。
6.リアリティオリエンテーション
リアリティオリエンテーションは、ひとことで言うと、「見当識障害改善のリハビリ療法」です。見当識障害とは、自分のいる場所や時間などが分からなくなることを意味します。
日常会話の中で、正しい時間、正しい場所を伝えていくことがメインで、季節の花を飾ったり、「今日は〇月〇日ですね」など、声をかけたりするのも効果的です
繰り返し行うことで、見当識障害改善が期待できると言われています。
まとめ
この記事では、認知症の非薬物療法を7種類ご紹介しました。ご家庭でも取り組めそうなものがあったのではないでしょうか。
種類は色々ありますが、大切なのは無理強いしないことです。
本人が興味を持ち、楽しんで前向きに取り組める方法を選ぶようにしましょう。