介護分野における国家資格の介護福祉士、私がその実技試験を受験した約25年前、ある噂がありました。
合格するにあたって実技の内容よりも試験官が重視していることがあるというのです。
真偽はわかりませんが、その後長く介護の仕事をする中で話しかけることの大切さを理解し、実践する毎日です。中でも認知症の人に対しては特に大切だと考えています。
そこで今回は認知症の人に話しかけることの大切さと、話しかけるうえでのポイントを簡単にお話します。
認知症の方の場合は“話しかけ”が特に重要
皆さんの中には認知症の人に話しかけても通じないと考えている方がいるかもしれません。
確かにそういう人がいるのも事実ですが、通じないからといって話しかけなくて良いわけではないのです。
これは介護以前の話で、「相手に何かしようとするときは話しかける」という、人として当たり前の話になります。さらに言うなら認知症の人に対しては、そうでない人以上に話しかけることが大切なのです。それはなぜでしょうか。
認知症の人は、自分の周りで起きている状況を理解するのが難しくなっていることから、いつも何かしらの不安を抱えているからです。だからこそ、その不安を少しでも解消することが大切なのです。
といっても特別なことをする必要はありません。介助の際などに、相手にしようとしているその内容を、話せばいいのです。
話しかけるときの3つの注意点
認知症の人に対しては、どんな対応をするにあたっても、安心感という土台があって初めて成り立ちます。そして、その安心感を持ってもらう方法で、大きな役割を果たすのが「話しかける」ということなのです。
なお、認知症の方に話しかけるにあたって気をつけるべき点を以下に3つ簡単に説明します。なお詳しくは第237回でも書いていますので参照いただければと思います。
適切な声で話す
聞こえの程度は人によって違います。声の大小や高低に気をつけ、相手に応じた声で話をしてください。
ゆっくり(はっきり)話す
話に夢中になるとどうしても早口になってしまうこともあると思いますが、認知症の方にとっては内容を理解するのが難しくなってしまいます。できるだけゆっくり、一つひとつの言葉をはっきり話すことを心がけてください。
わかる言葉で話す
何気ない会話の中で、いわゆる「はやりの言葉」を使ってしまうと、認知症の方が理解できなくなることがあります。わかりやすい言葉に言い換えるなど工夫をして話をするようにしてください。
認知症の方に対する話しかけは簡単なようで難しく、単純に見えて奥が深いのです。かかわる中で意識していなかった方もいるかと思いますが、今一度意識してかかわってみると良いでしょう。認知症の人に対する見方がきっと変わります。