2025年には、高齢者のうち約5人に1人が認知症になるとも推定されており、政府も認知症対策を急いでいます。
そこで、政府は2023年に認知症基本法を施行。
こうした対応は今に始まったことではなく、厚生労働省が2012年に定めた「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」から一貫していました。
そのなかで、認知症の方の進行予防や社会とのかかわりを促進することを目的に、厚生労働省を中心として推進してきたのが「本人ミーティング」です。
本記事では、「本人ミーティング」とはどんなもので、どのような効果があるのかを解説していきます。
認知症の方の声を社会に活かすことが目的のひとつ
政府が目指す認知症フレンドリー社会とは
政府は、かねてより認知症の方が生きづらさを感じないように、社会全体で受け止める環境づくりを推進してきました。
その根本には「認知症フレンドリー社会」という考え方があります。これは、認知症を「問題のある症状や行動」と捉えるのではなく、社会全体で受け止めて、認知症の方の生活をとりまくインフラや、生活環境などを改善して、少しでも課題を解決していこうとするものです。
なかでも懸念されているのが、認知症の方の社会参加の減少です。厚生労働省が2014年に行ったアンケート調査によれば、認知症の方は「友人や知人と会う機会が減った」(69.2%)、「買い物に行く機会が減った」(67.8%)といった回答が多くなることがわかっています。
なぜ外出の機会などが減るのかを尋ねたところ、健康面の不安だけでなく、「駅構内で迷ったり、適切なバス停を探すのが難しい」「券売機や自動改札などの機械操作が難しい」「ATMの操作が難しい」などの環境面を挙げた人が4~5割を占めていました。
認知症の方でも暮らしやすい「認知症フレンドリー社会」を形成するためには、社会全体の環境を整備する必要があります。
認知症の方の“声”を集める本人ミーティング
認知症フレンドリー社会を整備するため、認知症の方のリアルな声を集める必要性がありました。
そこで注目されたのが本人ミーティングです。これは、長寿社会開発センターによると、「認知症の本人が集い、本人同士が主になって、自らの体験や希望、必要としていることを語り合い、自分たちのこれからのよりよい暮らし、暮らしやすい地域のあり方を一緒に語り合う場」と定義されています。
2016年度に全国10ヵ所で試験的に導入され、その後認知症施策の一環として全国の自治体で行うよう推進されました。
自治体の認知症施策に役立てられている
本人ミーティングには、決まった形式があるわけではありません。どこで行うか、誰が参加するかも地域によって異なります。
たとえば、東京都国立市や立川市では、オレンジプランによって全国に設置された認知症カフェを活用して本人ミーティングを開催しています。
両市では、「在宅療養なんでも相談室」というサービスを市民に提供しており、そこに来た相談者や認知症疾患医療センターに受診後間もない人、家族が相談に来て認知症が見つかった人などを対象に、認知症カフェへの参加につなげ、日常的な利用を促進しています。
進行役は、認知症カフェに常勤している看護職が担い、認知症の方同士がなじみのある顔ぶれでリラックスできる環境づくりを進めています。
また、口に出して言いづらいことも、大きい模造紙に付箋を貼りだすことで、その内容を確認・共有できるような工夫をしているそうです。
ほかにも、デイサービスや小多機といった介護施設を活用したり、大々的に福祉センターの会議室を貸し切って本人ミーティングを行う自治体もあります。
こうして認知症の方が、日頃から困っていることや、何があったら暮らしやすいかなどの意見を聞くことで、各自治体による取り組みに役立てられているのです。
本人ミーティングからの広がり
本人ミーティングは、自治体の施策につながるだけでなく、それをきっかけにして、さまざまな広がりをもつと考えられています。
たとえば、以下のようなプラスの影響が考えられます。
- 認知症の方が仲間と出会い、前向きに生きる活力となる
- 認知症の方が積極的に地域づくりに参加できる
- 家族が認知症の方の本音を知ることになり、今後のことや日々の生活について話し合う機会になる
- 家族は、認知症の方が自信をもてるようなかかわりを心がけるようになる
- 大人や子どもなど、世代を超えて認知症の理解を促進して、支え合う地域づくりのきっかけになる
- 交通機関や地元企業も、認知症の方に対して、どのようなサービスが必要かを知る機会となり環境づくりに関心を抱きやすくなる
- 医療・介護職なども、認知症の方とのかかわりを見直す機会になり、個別の事例に沿ったサービス提供が可能になる
このように、地域行政だけでなく、さまざまな立場の人が本人ミーティングにかかわることで、認知症の方とどのように向き合い、どうやって接していけばいいのか、共通理解を深めることができます。
認知症の方が増加する今、民間企業にとっても認知症の方に対するサービスは無視できない課題になっています。
ただ、多くのメリットがある一方で、本人ミーティングの存在そのものを知らない人も少なくありません。
より知名度を高めるためには、本人ミーティングがさまざまな立場の人がかかわれるようになり、より大きな地域ネットワークとなることが望まれています。
認知症の方と一緒に家族で参加しよう
2023年6月から全国で公開されている映画『オレンジ・ランプ』をご存知でしょうか。

(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会
これは、39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんの実体験をもとに制作されました。その本編中に本人ミーティングのシーンが登場します。
映画『オレンジ・ランプ』山国秀幸Pインタビューはこちら!
本人ミーティングは、認知症の方が自身の本音を語るため、心理的なハードルが高いかもしれません。ご家族が認知症と診断されて不安を抱えている方も多いでしょう。
仮に本人ミーティングで発言できなかったとしても、観覧だけでも参加できるケースもあります。
認知症の症状は、まさしく十人十色です。実際に医師の診察だけではわからないことも多くあります。認知症のことを知るなら、認知症の方の思いを知ることが何よりも大切です。
認知症介護で悩んでいたり、今後の生活に不安があるのなら、地域で開催されている認知症カフェや本人ミーティングに参加してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
厚生労働省「認知症のわたしたちが集い、語り合う、やさしいまちをいっしょにつくろう」
日本老年医学会誌「本人ミーティングと認知症フレンドリー社会」
