認知症は、「原因となる疾患(アルツハイマー病等)により、記憶力・言語能力・判断力・理解力・遂行力等の知的能力が低下し、日常の生活に支障をきたした状態」です。

さまざまな生活行為を送るうえでは、脳が重要な役割を果たしていますが、その脳が変化することで、生活に支障をきたしてしまうのです。

特に、移動能力のある認知症の方は、その行動範囲を限定することが難しく、「いつ、どこで、どんなことを引き起こすかわからない」状態です。そのため、認知症の方の外出時には注意が必要です。

そこで今回は、認知症の方と外出する際の注意点を解説いたします。

認知症の方の人権も考える

認知症の方が一人で外出すると、「目的地にたどり着けない」「道に迷う」「自宅に戻ってくることが難しい」などの状況に陥りやすくなります。また、交通事故をはじめ、さまざまなアクシデントに見舞われる可能性も高いと言えるでしょう。

認知症の方の一人での外出 適切な支援を行う7つのポイントの画像はこちら >>

そのため、これまでは一般的に認知症の方のひとりでの外出は制限されてきました。24時間見守りができない在宅介護の場合はやむを得ないかもしれません。

しかし、施設などでの制限には再考の必要があると思います。なぜなら、日本で暮らす誰もが基本的人権が尊重されるべきだと憲法で明言されているからです。

日本国憲法の条文には次のようにあります。

第11条 基本的人権の享有と性質

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。(以下略)

第18条 奴隷的拘束及び苦役からの自由

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。(以下略)

憲法は、基本的人権の享有と奴隷的拘束からの自由について「国民は」「何人も」と規定しており、「認知症の状態にある人は除く」とは書いていません。

つまり、どんな状態であっても人権が守られ、奴隷的拘束を受けないと約束されていると考えられます。

ちなみに「人権」とは、人が生きる権利のことであり、人間らしく生活をする権利、人が人らしく自由に生きるための権利のことです。

これらのことから、仮に施設などで極端に行動を制限されているなどのケースがあった場合は、家族としてはケアマネージャーに相談するなどの対策をとったほうが良いと思います。

認知症の方の外出を支援する7つの方法

認知症の発症有無にかかわらず、人が外に出て行くには理由があり、その日そのときによってさまざまです。認知症の外出も、特別なことではなく、「自分の意思にもとづいて目的をもって出かける」私たちと何ら変わりはありません。

ただ、認知症の方の外出にはさまざまなリスクが生じやすいので、必要な対策を考えることが大切です。

  • GPS(位置情報を知らせる機器)を活用する、携帯電話を普段使っているようであれば携帯電話を持ってもらう
  • 玄関等にセンサーをつけて、音が出たり、データ記録できたりするサービスを活用する
  • 服の裏側などに、住所氏名などを記入しておく(自治体によっては名前や住所などの情報をQRコードにして貼るサービスもある)
  • 本人が外出しそうな場所、過去に保護された場所、以前良く行っていた場所を把握しておく
  • 万が一、捜索になったときのために「氏名・生年月日・服装・写真(全身と顔写真)・身長・体重・体形や髪型」等を記載したシートを作成しておく
  • 早期に気づく・見守る・声をかける
  • 市区町村や地域包括支援センターと情報共有をしておく
  • 下記のような方がいたら、認知症の状態にある人が道に迷っている可能性があります。

    • 靴や服装がチグハグ(季節に合わない服装、靴が左右違う)
    • 夜間に一人で歩いている
    • 車道を歩いている
    • 赤信号でも横断しようとする
    • 車通りが多い車道を、車を確認せずに横断しようとする
    • 雨が降っているのに傘をささずにずぶ濡れになって歩いている

    繰り返しになりますが、認知症の方は自力で安全を確保することが難しい状態にあり、支援者は「安全を確保する」ことが求められます。

    生命・身体を守るために、その方の意思を少し制限してもいいのか、意思を尊重する代わりに、生命・身体の危険を容認するのか、これは両立が難しい課題です。

    難しい課題で、すぐに答えが出るものではないかもしれませんが、できる限り行動を抑制しなくてもいい方法を考え続け、できる限りの手を尽くしていく姿勢を忘れてはならないと思います。

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