若年性認知症とは、働き盛りの65歳未満で発症する認知症のことです。日本では2006~2008年度に有病率調査が行われており、その時点で約3万7,800人が若年性認知症だと推計されています。
若年性認知症は、発症時期が早いため、仕事や子育てなどの責任を負っている方が多く、家庭や社会で大きな影響を及ぼします。また、若年性認知症はまだ一般的に知られていないため、周囲の理解や支援を得ることが困難な場合もあります。さらに、進行が早く、治療法も限られているため、家族が将来に対する不安や絶望感を抱いてしまうこともあります。
そこで、この記事では、若年性認知症になった方に対する家族の対応のポイントを紹介します。
早期発見と診断の重要性
若年性認知症は、初期症状が曖昧であったり、ストレスやうつ病などと混同されたりすることが多くあります。しかし、若年性認知症は早期発見・早期診断が非常に重要です。早期発見・早期診断をすることで、以下のようなメリットがあります。
- 病気の進行を遅らせられる可能性がある
- 適切な治療や介護を受けることができる
- 家族や周囲とのコミュニケーションを円滑にすることができる
- 経済的・法的・社会的な問題を未然に防ぐことができる
若年性認知症の場合の早期発見・早期診断は、家族や本人が自分自身や相手の変化に気づくことが大切です。以下は、若年性認知症の初期症状の一例です。
- 職場でミスが増えたり、仕事に集中できなくなったりする
- 趣味や娯楽に興味を失ったり、やる気がなくなったりする
- 怒りっぽくなったり、無関心になったり、人格が変わったりする
- 物忘れが増えたり、言葉が出てこなかったり、話が支離滅裂になったりする
- 規則や常識に従えなくなったり、不適切な行動をとったりする
- 幻覚や妄想を見たり、聞いたりする
これらの症状がある場合は、まずかかりつけの医師に相談してください。医師は、症状や経過を聞いたり、血液検査や脳の画像検査などを行ったりして、認知症の可能性を判断します。もし認知症の疑いがある場合は、専門の医療機関を紹介してもらい、より詳しい検査や診断を受けることができます。
早期発見・早期診断は、若年性認知症に対する家族の対応の第一歩です。
家族としてできるサポート
若年性認知症になった方に対する家族のサポートは、本人の病状や生活環境に応じて変わってきます。
家族としてできるサポートのポイントは以下の6つです。
- 本人の気持ちや意思を尊重する
- 本人の能力や自立性を保つように励ます
- コミュニケーションを取る際は、わかりやすく優しく話す
- 本人に適度な刺激や活動を提供する
- 安全を確保する
- 一緒に楽しめることを見つける
【事例】50歳で若年性認知症と診断
Aさんは50歳で若年性認知症と診断されました。会社員として働いていましたが、若年性認知症を発症して以降、仕事でミスが多くなったり、同僚とトラブルが起きたりしたことから退職しました。
Aさんは家で一人で過ごすことが多くなり、妻や子どもと話すことも少なくなりました。

Aさんの家族は、以下のようにサポートしました。
- 仕事を辞めたことを責めたりせず、理解を示した
- Aさんが好きだった趣味やスポーツを一緒に楽しんだり、新しいことに挑戦したりした。例えば、Aさんはギターを弾くのが好きだったので、家族でカラオケに行ったり、ギター教室に通ったりした
- Aさんと話すときは、簡単な言葉やジェスチャーを使って、ゆっくりと明確に伝えた
- Aさんの話を聞いて、共感したり、質問したり、感想を言ったりした
- Aさんの安全のために、家の中に落とし物や障害物がないようにした。また、外出するときは、必ず連絡先や住所を書いたカードを持たせた。Aさんが迷子にならないように、GPS機能付きの携帯電話や腕時計を渡した
- Aさんは動物が好きだったので、動物園やペットショップに行ったり、犬や猫と触れ合ったりした。Aさんは動物に癒されて、笑顔が増えた
これらのサポートをすることで、Aさんは家族との絆を感じることができました。また、家族はAさんの残っている能力や個性を尊重し、一緒に過ごす時間を大切にしました。

家族自身のケア
若年性認知症の方が家族にいると、本人だけでなく家族自身にも大きな負担となります。
家族は、本人の介護や仕事、子育てなどの両立に苦労したり、経済的な困難に直面したりすることもあります。
家族自身のケアのポイント
- 自分の感情や思いを素直に表現する。病気に対する怒りや悲しみを日記に書いたり、友人や親戚に話す
- 必要ならば専門家や相談員に相談する
- 医師や看護師に病気の状態や治療法などを質問したり、介護支援センターや社会福祉協議会などに経済的な援助やサービスなどを相談する
- ほかの若年性認知症の家族と交流する。若年性認知症家族会などに参加して、情報交換や励まし合いをする
- 自分の体調や健康を管理する
- 自分の時間や趣味を楽しむ
このように若年性認知症の方を支える、家族自身のケアをすることも大切です。Aさんの家族は同様のケアを実践し、自分自身を大切にすることができ他の人からも支えられていることを実感したそうです。
まとめ
若年性認知症は、まだ一般的にそれほど知られていません。しかし、若年性認知症に関する正しい知識や理解を広めることで、若年性認知症の方や家族に対する社会的な支援や配慮が増えていきます。若年性認知症の方はもちろん、支える家族や周囲の人たちが前向きに暮らせる社会にしていくために、 早くから正しい知識を得ることが大切ではないでしょうか。
【参考文献】
[1]若年性認知症とうまくつきあうためのガイドブック(堺市社会福祉協議会)
[2]若年性認知症の人とその家族の支援ガイドブック改訂版(新潟県)
[3]若年性認知症の人への支援(厚生労働省)
[4]きょうと認知症安心ナビ(京都地域包括ケア推進機構)