「水分を摂る」ことは生きるうえで欠かせません。一般的に成人の身体の60%程度を水分が占めていると言われており、体の中の水分が不足すると、熱中症や脳梗塞等のリスク要因になります。

特に高齢者の場合、水分不足はせん妄を引き起こす原因にもなるとされており、日常的な水分補給は非常に重要です。

水分を補給する目安

厚生労働省によると、水分不足は次のような症状を引き起こしやすいとされています。

水分減少率 水分減少に伴う症状 2% 喉の乾き 3% 強い喉の渇き、食欲不振、ぼーっとする 4% イライラする、体温の上昇、だるさ、尿が濃く量が減少、皮膚が赤くなる 5% 頭痛、ほてり 8~10% けいれん、ふるえ、めまい 20% 尿が出ない、生命活動の停止

例えば、運動前の体重が60㎏、運動後の体重が59㎏とすると、単純計算で1㎏水分が減少したと言えます。脱水率の計算式は体重減少量÷運動前の体重×100=脱水率(%)です。

上記例を脱水率の計算式にあてはめると、
(60-59)÷60×100=1.7%となります。

つまり、1.7%の水分が減少すると喉の渇きを感じるようになります。喉の渇きを感じたら、水分補給をすることが推奨されています。

せん妄を引き起こした事例

高齢になると喉の渇きを感じにくくなるため、介護者にとって水分補給のタイミングがわかりづらくなり、脱水を引き起こしてしまいがちです。

脱水はさまざまな症状の要因となりますが、気をつけたいのが「せん妄」です。

せん妄とは、持病や内服薬の影響、脱水といった理由で、一時的に意識障害や認知機能の低下などが生じる状態を指します。せん妄は、認知症と似ていますが、異なる病態として区別されています。

認知症は原因となる疾患により、知的能力が衰退し、日常生活に支障をきたす状態を指し、基本的には認知機能は戻らず進行していくのが特徴です。一方、せん妄は、適切な治療によって認知機能が回復すると言われています。

【事例】自宅で長男と同居するAさんの場合

自宅で長男と同居するAさんは、身の回りのほとんどを自分で行うことができる状態です。

あるとき長男から「急に父(Aさん)がおかしくなった。

突然大声をあげたり、事実とは異なる言動を言う。認知症になったのではないか」と事業所に相談がありました。

そこで、ケアマネージャーはAさんの様子を確認するため、即日自宅訪問することに。その際、食事と水分摂取量が低下していると発覚したため、ケアマネージャーはすぐにかかりつけ医に見てもらうよう促しました。Aさんを診察した医師の所見は、脱水によるせん妄。点滴を施行することでAさんの状態は改善しました。

長男は「認知症だと思った。せん妄なんて知らなかった。脱水は侮れないな」と感想を述べたそうです。

介護現場で行われる水分補給の工夫

ネット記事などでは「高齢者は1日1.5ℓの水分が必要」だと言われることが多いようです。しかし、量だけにフォーカスして、その量を「飲まなきゃ・飲ませなきゃいけない」と思い込むのは危険です。

水分摂取は大事ですが、1.5ℓの量を飲む・飲ませることを目的にすると、強制的なかかわりや不適切なケアにつながる可能性があります。

そこで、ここでは介護の専門職が行っている水分摂取を促す工夫をご紹介いたします。

①選択肢を提示する

以前の介護施設は、お茶を一方的に提供するだけであり、利用者に選択の余地はありませんでした。

そこで近年は、「緑茶・紅茶・コーヒー・ジュース」など、飲み物の選択肢を用意して「どれにしますか」「温かいのにしますか、冷たいのにしますか」と選んでもらうことがスタンダードになっています。

本人が飲みたいものを選ぶことで、水分摂取量がアップする可能性もありますし、何より選択肢を用意して選んでもらうことで、意思決定支援の基本です。

水分不足で高齢者に起こりやすい“せん妄” 専門職が教える「飲...の画像はこちら >>

②本人にとって必要な水分量を目安に考える

まずは基本的な水分量の計算式を知りましょう。

【必要な水分量の計算式】

体重(kg)×年齢別必要量(ml)=必要水分量

【年齢別必要量の目安】

30歳未満:40ml
30~55歳:35ml
56歳以上:30ml

体重40㎏の方の1日に必要な水分摂取量の目安は、1.2ℓです(40㎏×30ml=1.2ℓ)

ただし、必要量を必ず飲まなければならないと絶対視するのではなく、一つの目安として柔軟に考えるようにしましょう。

③一度に飲む水分量を減らし、回数を増やす

一度に吸収できる水分量である200ml程度を5~8回程度に分けて、水分補給してもらうことが一般的です。

④ゼリーやアイスといった代替品を検討する

介護施設などでは、飲み物のほかに、ゼリーやアイスで水分補給を促すこともあります。ゼリーには、アミノ酸や糖分が含まれていますので、熱中症や脱水予防効果が期待できます。

⑤寝起きや夜中でも水分補給できる環境設定を行う

喉の渇きを感じにくい高齢者も、寝起きは水分を欲する方が多くいらっしゃいます。

枕元にペットボトルやストロー付きコップなどを用意して、こまめに水分補給ができる環境を整えることも効果的です。

こうした工夫は家庭でも簡単にできます。あまり水分を摂ってくれないときはぜひ試してみてください。

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