たとえ要介護状態になったとしても、住み慣れた自宅を離れて介護施設へ移ることを望んでいる方は少ないかもしれません。それは介護する家族側としても同じでしょう。

まずはどうにか在宅介護で支えられないかと、試行錯誤されるのではないでしょうか。

ですが、要介護状態の方をケアしていくのは、家族にとって精神的にも肉体的にも厳しいこともあります。特に認知症を発症して、うまくコミュニケーションが取れなくなったり、徘徊や異食などの症状が出たりした場合は、対応にかなりの労力が必要です。家族が限界を迎える前に、施設の利用を検討するのも選択肢の一つです。

そこで、本記事では、認知症の方が入居できる施設について、どんな状態の方に合うのか事例をもとに解説いたします。

①特別養護老人ホーム

原則要介護3以上の方が入所できる施設で、常時介護を必要とする方に向いています。多床室が中心の従来型の特別養護老人ホームは、費用負担が軽いこともあって、比較的人気が高く、待機者が多いと言われています。従来型とは別に、ユニット型の特別養護老人ホームもあります。

入所期限はなく、長期利用が可能です。看取り介護を行っている施設もあり、終の棲家として過ごすことができる施設として存在しています。

【事例】Aさんの場合

アルツハイマー型認知症のAさん(要介護4)は、長年高齢の夫に介護をしてもらいながら自宅生活を続けていました。長男、長女は遠方で生活を送っており、月に1回程度の訪問時に、買い物等支援を行っていました。夫は持病があり、持病の悪化により妻の介護が困難な状況になってしまいました。

もともと特別養護老人ホームにAさんの入所申込を行っており、当該特別養護老人ホームに相談。Aさんは入所まで若干の待機期間はあったものの、まもなく当該特別養護老人ホームに入所することになりました。

特別養護老人ホームは、待機者が多く、すぐに入所ができないと思われている方も多くいます。

待機者数は施設や地域事情等によって変わるため、一律的にどこも待機者数が多いというわけではありません。また、入所の順番(待機順位)は、特別養護老人ホーム内に設置される「入所検討委員会」において、以下のような項目で総合的に判定されます。

  • 入所申込者の要介護度
  • 心身の状況
  • 必要な介護の内容等
  • 介護者の有無および介護能力
  • 介護に対する意欲
  • 受けている介護の内容等
  • 在宅生活の継続性および居宅介護の状況
【事例別】特養、有料老人ホーム、グループホーム…認知症の方に...の画像はこちら >>

②介護老人保健施設

介護老人保健施設は「在宅復帰、在宅療養支援のための地域拠点となる施設」「リハビリテーションを提供する機能維持・改善の役割を担う施設」として定義されています。

一般的に、在宅復帰までの通過型施設であると認識されていますが、地域性や施設によっては、長期間入所の人を受け入れているところやターミナルケア(いわゆる看取り)まで対応しているところもあります。

介護老人保健施設は、在宅復帰率(総退所者の内在宅復帰される方の割合)・ベッド回転率(入退所の数)・訪問指導割合・専門職の配置等の指標により、「超強化型」「強化型」「加算型」「基本型」「その他」の5類型に分類されています。「超強化型」「強化型」は在宅復帰者の割合やベッド回転率が高いため、長期的な入所は難しいところが多いのが一般的です。

介護老人保健施設のメリットは、専門職によるリハビリを受けられる(入所から3ヵ月以内は短期集中リハビリテーション)ため、機能や能力の向上の可能性があるところです。

また、医師、看護師、理学療法士等のリハビリ専門職、栄養士(管理栄養士)、介護支援専門員、生活相談員、薬剤師等医療介護の専門家が多数配置されている点も強みと言えます。

【事例】Bさんの場合

脳梗塞を発症し、病院に入院したBさん(要介護1、脳梗塞による脳血管性認知症)は、急性期の治療を終えて転院先を探していました。リハビリを実施することで、さらに状態が改善される見込みがあったため、介護老人保健施設に入所。

3ヵ月間のリハビリにより、在宅復帰が実現しました。

【事例】Cさんの場合

介護老人保健施設の通所リハビリテーションを中心に在宅生活を送られていたCさん(要介護3、アルツハイマー型認知症)は、加齢とともに徐々にできないことわからないことが増えていきました。

そのため、介護老人保健施設に3ヵ月リハビリ入所、その後在宅復帰し3ヵ月の在宅生活を送るというパターンを2年ほど繰り返した後に、最期をその介護老人保健施設で迎えました。

持病の悪化や骨折、肺炎、脳梗塞等を発症すると、医療機関で入院治療を行うことが一般的です。高齢者の場合、入院治療を行うことで病気は良くなったとしても、心身機能が低下される方がいます。低下した心身機能を維持向上するためにリハビリを希望される場合の選択肢としてあげられるのが介護老人保健施設です。

また、介護老人保健施設は通過型施設と先に述べましたが、行ったり(入所)来たり(在宅復帰)を繰り返し、最期を慣れた介護老人保健施設で迎えるということも可能です。そのサイクルは次のようなものです。

  • 生活支援やリハビリ等を提供され在宅復帰する
  • 在宅生活をする。その際、併設されている通所リハ・訪問リハなどを使って生活する
  • また徐々に状態が低下する
  • ①に戻り、その後②③を繰り返していく
  • このサイクルを繰り返していくうちに、医療行為が必要になったり、徐々に看取りの状態に近づいていきます。そして最期は馴染みある老健で、その人のことをよく知る専門職に支援を受けながら看取りを迎えるといった利用方法もあります。

    【事例別】特養、有料老人ホーム、グループホーム…認知症の方に適した施設は?

    ③介護医療院

    要介護者に対し、「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する施設です。

    具体的には、要介護1~5の認定を受けている方であって、病院に入院するほどではないものの、喀痰吸引や経管栄養等の日常的・継続的な医学管理等が必要な方が利用できる施設です。

    【事例】Dさんの場合

    自宅で長女の介護を受けながら生活を送っていたDさん(要介護5、アルツハイマー型認知症、胃ろうを造設、吸引を1日に10回以上実施)でしたが、主介護者の長女の体調不良により在宅生活が困難になってきました。

    Dさんはアルツハイマー型認知症の進行によって、食事を口から摂ることができず、痰も自力で出せない状態のため、吸引や胃ろうからの栄養注入等の日常的に医療行為が必要であり、特別養護老人ホーム等の施設では対応が難しい状況でした。そこで選択したのが介護医療院です。

    吸引を頻回に実施することは、特別養護老人ホーム等の看護・医療体制では対応が難しくても、看護職員が24時間配置されている介護医療院では対応が可能です。

    このように、日常的な医学管理が必要な方にとっては、介護医療院が選択肢としてあげられます。

    ④グループホーム

    グループホームは、認知症対応型共同生活介護が正式名称です。「認知症対応型」という名前の通り、認知症の状態にある方が対象です。一つの共同生活住居(ユニット)で5~9名の方が生活を送ります。

    グループホームと特養等の施設の大きな違いは、食事の提供方法です。特養等の施設は、食事は基本が提供型です。栄養士等が献立表を作成し、それに沿って調理員が調理をして提供します。

    しかし、グループホームは、職員の支援を受けながら入居者が買い物をして自分たちで調理をするという仕組みになっています。

    【事例】Eさんの場合

    Eさん(要介護2、アルツハイマー型認知症)は、右大腿骨頸部骨折術後、リハビリのために介護老人保健施設に入所しました。

    半年ほど経過した頃、Eさんはリハビリと生活支援によって、杖歩行が可能な状態にまで機能が回復。家族と今後の方針を検討したところ、骨折前は家事行為を行っていたので、今後もできることは本人に行ってもらいたいという意向でした。Eさん自身も、「できることは自分でやりたい。家事だってできる」と言っていました。

    そこで、私はEさんにグループホームをおすすめめしました。グループホーム入居後のEさんは、物忘れ等はあるものの、買い物や調理、洗濯、掃除等、自分でできることを行い、生き生きと生活を送ることができました。

    グループホームの運営基準には、「利用者と食事その他の家事等は、原則として利用者と介護従事者が共同で行うよう努めるものとする」とあります。人は、自分ができることを行うことで機能や能力が維持・向上できますし、何よりも生き生きと生活を営めます。それは認知症であっても変わりません。そのような環境が整っているのが、グループホームです。

    ⑤有料老人ホーム

    有料老人ホームには、介護付き有料老人ホーム・住宅型有料老人ホーム・健康型有料老人ホームがあります。その中から今回は、介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホームの説明を簡単にします。

    介護付き有料老人ホームは、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設を指します。施設に配置されている職員による食事、排泄、入浴、機能訓練、レクリエーション等のサービスを受けることが可能です。

    一方の住宅型有料老人ホームは、施設職員がサービスを提供するのではなく、居宅サービス事業所と契約をしてサービスを受けることになります。介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホームを比較すると、介護付き有料老人ホームのほうがやや料金が高くなります。

    【事例】Fさん夫婦の場合

    FさんとGさんご夫婦は、自宅で生活を送っていましたが、夫のFさんは認知症を発症し要介護状態となったため、施設を探していました。夫婦でともに生活ができる施設を探しており、預貯金等もあったため、有料老人ホームに夫婦で入居することにしました。

    認知症の状態であっても、有料老人ホームで生活を送ることが可能です。また、施設には様々な特色や幅がありますので、申し込みを検討される方は、直接施設に確認されることをおすすめします。

    施設といっても、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設等の介護保険施設の他に、有料老人ホームや認知症対応型共同生活介護(以下、グループホーム)等の入居系事業所があります。

    施設・事業所の形態もそれぞれで、どの施設・事業所を選択するのが良いのか、迷われる方も多いかもしれません。また、早急に施設を選択せざるを得ない状況のときには、検討する余裕がなく、「とりあえず入所できることが最優先」とばかりに、説明等を十分に聞くこともなく決定してしまい、後々に後悔する方にも、私は出会ってきました。

    あらかじめ施設の特徴を知り、その人の状態に合わせた施設の選択をしましょう。

    編集部おすすめ