もの忘れは認知症の一般的な症状です。初期~末期に至るまで続き、進行するにしたがって頻度も増えていきます。

もの忘れが多くなると日常生活でさまざまな困難にぶつかりますが、ちょっとした工夫をするだけで生活を豊かにすることができます。

そこで、認知症によってもの忘れや用事を忘れることが多くなったときに家庭でできる5つの工夫を紹介いたします。

認知症の段階

認知症には一般的に初期・中期・末期の3つの段階に分かれます。

初期

初期段階では、もの忘れが主な症状になります。特に、新しい情報や出来事を記憶することが難しくなりますが、自分で食事や入浴、着替えなどはできる状態です。

  • 今日食べたものや話したことを忘れてしまう
  • 知っている友人や場所の名前が出てこない
  • 同じ質問や話を何度もする

中期

中期になると、もの忘れだけではなく判断力や思考力なども低下し、自分で食事や入浴などができなくなります。そのため、常に見守りや声掛けなどが必要となります。

  • 日付や曜日や季節がわからなくなる
  • 食事や服薬などの時間を忘れる
  • お金の管理や買い物ができなくなる
  • 道に迷ってしまう

末期

末期では、日常生活全体に介助が必要となります。在宅介護だけでは対応が困難になり、専門家によるサポートか施設入居が必要な段階です。

加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの違い

もの忘れは、加齢に伴って誰でも起こりやすくなります。例えば、「うっかり会議の時間を忘れてしまう」「鍵をかけ忘れた」などの経験がある方は多いのではないでしょうか。

ただし、一般的なもの忘れの場合は後で「そういえば会議を忘れていた」などと気付くことができますが、認知症によるもの忘れの場合は、鍵をかけることや会議そのものの記憶が消えてしまい、もの忘れをしている自覚がないことが特徴です。

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初期段階からみられる症状なので、判断が難しいかもしれませんが、忘れたことに対する自覚症状があるか否かを確認してみてください。自覚症状に乏しいように感じたら、なるべく早くもの忘れ外来などに相談してみると良いでしょう。

家庭でできる5つのもの忘れ対策

認知症によるもの忘れが多くなってきたとしても、初期~中期にかけては、いくつかの工夫をすることで自立した生活を続けることが可能です。

そこで家庭でできる5つの工夫をご紹介いたします。

①もの忘れを防ぐための記録・整理・整頓

認知症は、新しい情報や出来事を忘れやすくなりますが、記録して整理しておくことで、たとえ忘れてしまったとしても本人が自覚しやすくなります。具体的には以下のような方法があります。

  • 日記や手帳に書く
  • 音楽の録音やテレビ録画をする
  • 絵を描く・写真を撮る
  • メールやSNSを発信する

また、このような記録を家族と共有することでコミュニケーションを促すきっかけにもなります。コミュニケーションを頻繁にとると、認知機能を維持することにもつながります。

②もの忘れを補うためのメモ・カレンダー・時計

必要な情報を見えやすい形で保存しておくのも良いでしょう。たとえば、メモやカレンダーなどをリビングや玄関といったよく使う場所に置いておき、今日の予定や用事、食事や服薬の時間を管理しておくと、もの忘れが起きたとしても対処しやすくなります。

ポイントは、なるべく見やすく大きく表示できるもの。アナログ・デジタルを問わず、大きめの卓上時計などがおすすめです。「数字が大きくて見やすい」「朝昼晩の時間帯がわかる」「アラーム音や音が出る」機能などが搭載されていると、さらに役立ちます。

③もの忘れを減らすための生活リズム・食事・運動

もの忘れは、生活リズムや食事といった生活習慣によって改善することがあります。

生活リズム 生活リズムを整えることにより朝起きて夜寝るまでの一日の流れで「睡眠の質が向上する」「気分が安定する」「認知機能が保たれる」メリットがあります 食事 食事は、脳に必要な栄養素を摂取することで「脳細胞の働きが良くなる」「血管や神経の老化を防ぐ」「免疫力や体力が向上する」などのメリットがあります

④もの忘れを気にしないためのコミュニケーション・趣味・楽しみ

もの忘れが多くなると、自信を失ったり孤立した気分になる場合があります。「もの忘れをしたくない」と臆病になると、外出する気力がそがれ、人との接触を怖がるようになってしまいます。

こうして引きこもりのような状態になると、認知症の進行がさらに早まってしまいます。

そこで、映画鑑賞や美術館巡り、ゲームなどの趣味を通して人との交流の機会をもうけましょう。相手は家族でも友人でも構いません。もの忘れしてしまうことをなるべく意識させないような周囲のかかわり方も大切なポイントです。

⑤もの忘れを見守るためのサポート・相談・利用

もの忘れを見守るためには、医療・介護・福祉の専門家やデイサービスやショートスティなどの介護サービスの利用がおすすめです。専門家によるアドバイスを受けることで、適切な対処やかかわり方を学ぶ機会にもなります。

【事例】Aさん(60代)の場合

Aさん(65歳)は、アルツハイマー型認知症で、徐々にもの忘れがひどくなってきました。もともと会社員で現役時代は管理職で趣味も多かったのですが、認知症になって以降人と話すのが嫌いになってしまい、引きこもりがちになっていました。

ご家族は、少しでも元気になってもらえるように、次のような工夫をしました。

  • 買い物リストや友人の連絡先をなどをメモして持ち歩く
  • カレンダーに予定や用事を書き込んで毎朝確認する
  • 時計をリビングや寝室に置いて時間の確認をする
  • デイサービスや認知症カフェなどの交流の場に行く
  • 楽器演奏や読書・映画鑑賞など以前から好きだった趣味を続ける
  • 旅行やイベントの今後の予定を一緒につくる

いずれも先に紹介した5つのポイントを含んだ対処法です。これらの工夫によってAさんは元気を取り戻し、積極的に人と交流するようになったそうです。今でも趣味を楽しんでおり、生き生きとした毎日を過ごしています。

認知症によってもの忘れが多くなった…自立した生活を送るための5つの工夫

たとえもの忘れが多くなってきたとしても、自立した生活が歩めなくなるわけではありません。認知症の進行を抑えるためにも、かかわり方を工夫するだけでも大きな効果が期待できます。

ぜひ参考にしてみてください。

【参考文献】
若年性認知症ハンドブック(厚生労働省)2023/11/2

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