- 「やったことを伝えない」は大きな無駄を生む
- 認知症になった後でも本人の思いを大切にする
- 第三者の目線でのチェックが必要
- 見られてはいけないものは生前に整理しておこう
認定終活講師でジャーナリストの小川朗です。
今回は終活の草分けである一般社団法人終活カウンセラー協会の武藤頼胡代表理事に「終活をするうえでやってはいけないこと」を聞きました。
その内容をインタビュー形式でお届けします。
終活カウンセラー協会の武藤頼胡代表理事「やったことを周りに伝えない」は大きな無駄を生む
小川:終活カウンセラー協会も今年で設立11年目になりました。入り口である「終活カウンセラー2級検定」の受講者も2万3,000人を超え、相当数のデータが蓄積されたかと思います。そこで今回は「終活をするうえでやってはいけないこと」について詳しく伺いたいと考えています。
武藤:そのポイントでいえば「やったことを周りに伝えない」ことですね。例えば、お葬式が終わった後に、互助会の契約書が出てきたといったケースです。せっかく葬儀のためにお金を払っていたのに、家族に伝えていなかったばかりに、無駄になってしまったというお話をよく耳にします。
小川:もったいない話ですね。家族のために、良かれと思って準備しておいたことが、無駄になってしまったわけですから。
武藤:そうですね。だから「終活ノートを書いたから後で読んでね」じゃなくて、家族と共有することが大事です。特に、終末期医療の希望は細かく書いて、内容を家族にも伝えてほしいと思います。
認知症になった後でも本人の思いを大切にする
小川:そういえば、この連載の第209回でお話をお伺いしたときも、終活ノートに「事前指示書」を挟むことも大事だと、おっしゃっていました。
武藤:はい。
そこに「延命措置はしないでいい」と書くだけでは、家族は判断に困ります。いくつかの治療法がある場合にどうしたらいいのか。その先、どのような治療を選択すればいいのか。また、「もう自分はいいから、家族に任せたい」という場合では、家族の誰に任せたいのか。「みんなで話し合ってほしい」などの指示も必要です。介護に関しても「できれば自宅で」など、具体的な希望を書いておくことが大切です。
小川:終活をするうえで、本人と家族とのコミュニケーションは大事ですね。
武藤:認知症になった後でも、コミュニケーションは取れますからね。
小川:それは、第263回でも「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事が同じことを話していました。「認知症が進行していても、コミュニケーションは取れるので本人の思いはしっかり聞くべきだ」とコメントしています。
武藤:私は認知症になっても「私自身にしっかり説明して、治療方法の希望を聞いてほしい」ということも書いています。細かく記載しないと、いざというときに困るのは家族ですから。医療の希望も、その通りにしていたら膨大な費用がかかる場合もありますし。
小川:先進医療を選択すれば、治療費はいくらでも膨らむリスクがあります。そういう意味では、終活のあらゆる場合に当てはまりそうですね。

第三者の目線でチェックが必要
武藤:相続についても、同じようなことが言えます。一人で書いていると、どうしても漏れが出るので、やはり家族とコミュニケーションを取りながら終活ノートを書くことが大切です。
先日も相続の相談で「もう大丈夫」と話していた相談者に漏れを指摘したら「あれもあった」「これもあった」と、次々と出てきました。一度整理してから、自分のしたことに第三者の目線で評価というか、診断をしてもらうことは大事ですね。
自分で勝手にやっていると、遺留分(下記参照)などの解釈が間違ってしまうこともあります。第三者に診断してもらっていないから、間違ったやり方をしていることは結構あります。
遺留分亡くなった被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産取得分のこと。被相続人の遺書の内容によらず、この分だけは保障される。
小川:第三者目線で見てもらい、漏れがないか、間違っていないかなど、チェックすることが大事なんですね。
武藤:一人よがりの終活をしないということです。診断してもらっていないから、無理難題ばかり書いてあって、できないことだったりする。例えば、ハワイにお墓をつくってやってくれなどですね。家族が後で困らないように、と思ってしたことが、実際はそうでなかったりします。そのため、話し合っておくことが、大事なのです。相手あっての終活ですから。お父さんらしいよね、という笑える程度の関係性ができていればいいんですけどね。
小川:親の方に問題があるケースが出ましたが、子どもの方に問題があるケースもありますか?
武藤:親に終活させるときの失敗としては、仕事で親が一代で築いた財産に対するリスペクトがなく、自分の財産であるかのように「相続税で私たちが困るんだから、ちゃんと分けてよ」と迫るケースです。
これは、第三者の立場ながら「財産は親のもので、あなたのものじゃないですよ」と言いたくなります。普段から会っていなくて、盆暮れのときに言われるんじゃ、親もいい気持ちはしないでしょうし、確実にうまくいきません。
まず「元気で長生きしてほしいんだけど、もしものときにお父さんの財産を知っておかないとこれから大変だから」という姿勢がなければいけないと思います。
亡くなってからの死後事務委任も、いろいろな会社がやっていますから、選ぶのが大事です。高いところでは200万円近くかかりますが、安いところに頼めば、お葬式は別にしても19万円くらいでできることもあります。後で知って「ああ、ここに来ればよかった」と後悔されている話もよく聞きます。
見られてはいけないものは生前に整理しておこう
小川:最近、デジタル関連の終活も話題になっていますよね。これも「してはいけないこと」が多そうです。
武藤:見られたくないものは、墓場まで持っていくべき、ということですかね。誰でも一つくらい、見せたくないものがありますから。
小川:武藤代表にもありますか?
武藤:ありますよ。だから私は別フォルダに収納してあります。墓場まで持って行ってくれた方がいいものもあります。死んでしまった後で、関係性が崩れるものもある。それは悲しいことですよね。
小川:お墓まで持って行ったつもりが、後から恥ずかしいものが出てくるというのも困りますもんね。
武藤:亡くなったある男性のお片付けでご自宅に行ったときに、セーラー服が出てきまして、皆さんとりあえず見て見ぬふりをするという光景を目にしたことがあります。
小川:なかなか気まずい空気が流れそうですね。
武藤:やっぱりデジタルもそうですが、人生の中で誰にも一つや二つは、見なくていいもの、見せなくていいもの、知られなくていいものってあると思うんです。それをちゃんと整理しておくことが大切です。それもまた、残された人への優しさ、思いやりかもしれないですね。

小川:終活も正しいやり方をしないと、かえって家族に迷惑をかけたり、傷つけたりしてしまうこともある、ということがよくわかりました。最後に今日のまとめをお願いいたします。
武藤:そうですね。まずは終活ノートや保険の内容、証券の保管場所などを、しっかり家族に伝えて共有することが大事です。
小川:本日は、誠にありがとうございました。
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