目次
  • 厚生労働省の調査ではすべてを網羅できていない
  • 詳細な調査が進んだことで未届けホームの件数が増加
  • 未届けホームが低所得者の受け皿になっている

3月31日に厚生労働省が公表した「令和3年度有料老人ホームを対象とした指導状況等のフォローアップ調査」(第13回)の結果が、波紋を広げています。

5年ぶりに有料老人ホームの未届け施設(未届けホーム)が増加に転じたからです。

今回はこの問題について各方面への取材から深掘りしていきます。

厚生労働省の調査ではすべてを網羅できていない

今回の調査は、老人福祉法で義務付けられている届け出を行っていない、有料法人ホームについての調査結果を公表したものです。

厚生労働省が届け出先である都道府県のほか、政令指定都市や中核市に調査して結果を回収。さらに、市区町村の地域包括支援センターや生活保護部局などの関係部局とも連携して情報収集を行ったとしています。

昨年6月末の時点で確認された有料老人ホーム全体の数は1万5,363件で、前年比668件増。一方、未届けの有料老人ホームは、わかっているだけで前年より15件増の656件となりました。

全体に占める未届け有料老人ホームの割合こそ前年より0.1ポイント低下したものの、件数は5年ぶりに増加へと転じました。

しかし、この調査は、あくまで全国の自治体が把握している情報を国が取りまとめたものにすぎず、未だ把握されていない未届けホームが存在することは否定できません。

同省の老健局高齢者支援課も「地域包括支援センターなどと連携してから掘り起こしをしていますが、県によっても事情が違いますし、当然その(未届けホームであるという)疑いがあるものも含めた形で(調査を)お願いしていますので、100%かと言われますと、やはりまだ把握していないところもあると思います」と、まだ調査が完全に網羅できているのではないことを認めています。

全国で唯一、未届けホーム数が届け出済ホーム数を上回る尼崎市。...の画像はこちら >>

とはいえ、全国津々浦々まで完璧に網羅したデータではないことを割り引いたとしても、これが有料老人ホームを取り巻く現状を浮き彫りにする貴重な資料であることは間違いありません。

詳細な調査が進んだことで未届けホームの件数が増加

では、いったいなぜ未届けホームが生まれてしまうのでしょうか。その問題を探るためには、制度について理解する必要があります。

まず、3月31日公表の当該資料を見ていくことにしましょう。

この調査が始まったのは、2009年。

この年の3月に未届けホームだった「たまゆら」(群馬)で火災事故が起きました。

同施設に入居していた人の多くはもともと、東京都に居住していました。借家での生活が不自由になり、福祉事務所などの紹介で、縁もゆかりもない群馬県の施設に入所して、犠牲になってしまった人もいました。

この悲しい事故をきっかけに未届けの有料老人ホームの実態が報道によって明らかになり、社会的問題として認識されるようになったのです。

国もこの事態を受けて未届けの有料老人ホームに対して届出を推奨し、その実態把握を監督権限を持つ都道府県に促すようになったのです。

「たまゆら」の火事から約半年後の2009年10月31日時点の調査結果を公表したのが第1回で、以来毎年継続されています。

厚生労働省の担当者も「届け出を行っていない事業者は、老人福祉法第29条1項の規定に違反しており、改善命令や業務停止命令、罰金など罰則もあります。自然災害や火災の問題などもありますし、スプリンクラー設備の導入には補助もありますので、届け出を出してほしい」と強く主張しています。

では、資料の詳細を見ていきましょう。まず目を引くのが北海道の未届けホームの数。届け出済みの総数が1,062であるのに対し、未届けの施設数は実に120に上ります。

そこで、北海道庁・高齢者保健福祉課に話を聞きました。

「民間の事業者さんと利用者さんの間でやっていることなので、把握が難しいこともありますが、数年前に札幌の未届け老人ホームで火事がありまして、その後市町村と連携して道の方に(未届けの老人ホームを発見した場合に)報告を上げるように定めてあります」
全国で唯一、未届けホーム数が届け出済ホーム数を上回る尼崎市。地域特有の事情を取材
自治体の掘り起こしが進んだことで件数が増加

さらに、「事業者さんによっては手続き方法もわかっておらず、説明している状況もありますが、コロナ禍の影響で若干遅れが出ているのも事実です」と、厳しい現実を明かしています。

未届けホームが低所得者の受け皿になっている

国や自治体は、何とか未届けの事業者を掘り起こし、届け出をさせたい意向ですが、一方で深刻な状況もあります。

兵庫県の尼崎市は全国の自治体で唯一届け出済み施設を、未届けの施設数が上回りました。届け出38に対し未届け40と、異例の多さです。

いったい尼崎で何が起きているのでしょうか。尼崎市役所の法人指導課の介護事業所担当に話を聞いても、要領を得ない答えばかりでした。「届け出をしないでいいと思っている業者が多いということですか?」という問いには「まあ、そういうこともあるとは思いますが、電話でお話できるのはそんなもんですかね」とポツリ。結局、明確なコメントが得られませんでした。

ほかの自治体に比べ、明らかにおかしな対応です。仕方がないので尼崎市役所の取材はあきらめ、地元の業者さんにお話を伺うことにしました。

尼崎で高齢者施設の空室情報配信サービスの「こちあり!」を運営しているYouV(ゆうぶ)の大島和大さんは、「無届ハウス」(大島さんはこう呼んでいます)の現状を「市内に40はあると思います」と厚労省の公表した数字をズバリと指摘したうえで、こう解説してくれました。

「何が問題かといえば、やはり手続きの煩雑さ。
さらに人件費や設備費も、無届けのときに比べれば、はるかにかかります。それは結局、入居者の費用にも跳ね返りますから、オーナーさんも無届けのままでいい、となるのだと思いますね」

さらに、大島さんは、尼崎特有の事情を挙げて説明してくれました。

「これは、今回のテーマである老人ホームとは少し離れますが、尼崎のサービス付き高齢者向け住宅の家賃は6~7万未満の価格帯が最も多いんです。でも、尼崎に多い生活保護の方に、この価格帯は不可能です。一方で『無届けハウス』ですと4~4万5,000円の価格帯が中心で、それよりも安い物件もあります。『無届けハウス』は、そうした方々のセーフティーネットにもなっているわけです」

厚生労働省の「社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会(第1回・2017年5月11日)が公表した「生活保護制度の現状について」によると、尼崎市の保護率は4.04%で全国の中核市で2番目の高さです。

このように、施設に対する規制が低所得者を窮地に追い込んでいる側面もあるのです。未届けの施設を洗い出すことも大切ですが、弱者救済の環境整備も、並行して行っていくことが重要だといえそうです。

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