「2025年問題」をご存じでしょうか。
この問題は1947年~1949年に生まれた「第1次ベビーブーム世代」が、後期高齢者(75歳)以上となることに起因します。
厚生労働省が作成した『今後の高齢化の進展~2025年の超高齢者像~』という資料によれば、2025年の高齢者人口は約3,500万人、認知症高齢者数も320万人になると推計されていました。
終活認定講師にとっても、この問題は講義の中でも取り上げるべき大きなテーマです。社会的には年金制度や医療制度などへの影響が指摘されていますが、何と言っても深刻なのは、介護業界の人手不足です。
今回は、長らく叫ばれている介護人材不足の問題を、外国人人材という視点から解説します。
人手不足のために推進される政府の対策
厚生労働省が2021年7月9日に公表した『第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』という資料によると、今後以下の人数の介護職員が必要になると明記されています。
今後必要になる介護職員の数 年度 介護職員数 2019年度との比較 2019年度 211万人 - 2023年度 約233万人 +約22万人 2025年度 約243万人 +約32万人 2040年度 約280万人 +約69万人
この介護職員の必要数とは「介護保険給付の対象となる介護サービス事業所、介護保険施設に従事する介護職員の必要数に、介護予防・日常生活支援総合事業における従前の介護予防訪問介護等に相当するサービスに従事する介護職員の必要数を加えたもの」。
後期高齢者が急増する一方で、介護職員が不足するという深刻な事態が、目の前に迫っているのです。
そのため国としては以下の5つを重点的に取り組むとしています。
現状では介護職員の月額9,000円の賃上げ政策を実施したものの、全産業平均に比べれば低いのは相変わらずで、慢性的な人材不足が解消されるメドは立っていません。
そこで最も現実的な取り組みと思われるのが、上記の⑤に明記された外国人人材の確保といえます。
アジアから来日する外国人人材の現実
現状は、どうなのでしょうか。複数の介護事業所を運営している代表者の方に、お話をお聞きすることができました。すると、介護人材を雇用する問題の難しさが浮かび上がってきました。
「当社では、ベトナムからの技能実習生が働いており、今年の12月で丸3年を迎え、今後技能実習3号を目指すのか、それとも特定技能を目指すのか迫られております。
本人も今後日本で働くのか、それとも母国に帰るのか迷っており、当社としても本人の動向を見ながら、他の特定技能の外国人の雇用も検討しております。
ただし、昨年末から特定技能の資格を持った3名も面接しましたが、残念ながら、介護未経験な方ばかりで言語のレベルについても即戦力とは言えない方ばかりでしたので、採用には至りませんでした。
そもそも介護で希望される方が少ない現状と、一度大都市で働かれた実習生は給与水準が安い地方で働くことを選択されない現実があり、苦慮しております」
この代表者の言葉からもわかるように、外国人に労働力を求める場合、大きく分けて2つのルートがあるといえます。技能実習生から始めるケースと、特定技能の資格を持っている外国人を雇うケースです。
ここで技能実習と、特定技能について、説明しておきましょう。まず外国人技能実習制度について、厚労省のHPにはこう書かれています。
外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております技能実習生は国内の企業や個人事業主と雇用契約を結びますが、国際貢献を掲げているため技能実習生を労働力調整の手段とすることは禁じられています。
とはいえ、人手不足に悩む一部の企業が、技能実習生を貴重な労働力として頼っている現実は、各方面から指摘されているところです。
そこで技能実習介護を主体にしているミャンマー政府公認の人材送り出し機関「ミャンマー・ユニティ」の北中彰最高顧問にお話をうかがいました。
「ミャンマー人にとって、日本は、他国に比べて働きやすい国なので、前から日本に行きたいという人は多かった。言葉も似ていてミャンマー語と日本語は助詞も使うし、文法が一緒。
他の国は『私は・飲む・お茶を』という語順ですが、ミャンマー語は「私は・お茶を・飲む」と日本語と並びが同じ。
ミャンマーは世界の中でも「介護職が人気がある国」です。現世で徳を積むという仏教思想があり、体の不自由なご老人を助ける仕事が「徳を積める仕事」だということで、ミャンマーは介護職希望者が多い貴重な国です。
またミャンマーは2021年2月の軍事クーデター発生後、欧米各国からの経済制裁により、失業者増大、通貨暴落、物価急上昇に見舞われ、生活困窮者が急増しています。そのため家族の生活を支えるために海外で働きたい若者が急増しています。
出稼ぎ先としては、先進国の中でもミャンマー人に対して在留資格がおりやすい日本の人気が高い。
アジアの先進国、美しい国、あこがれの国日本。仏教文化、国民性など親和性も高く、日本で働くために日本語を学ぶミャンマー人が急増しており、N4保有者も多数出てきております。まさに日本就職ブームが到来しています。
そして今、本人負担額が少なく、ミャンマー政府認定のナンバーワンの送り出し機関として信頼度の高いミャンマー・ユニティに日本で働きたい若者が殺到しており、面接候補者数はクーデター前の5倍、4,000人以上に達しております。
ミャンマーではもはや大卒者にも就業機会はほとんどなく、ミャンマー・ユニティの面接候補者は大学進学者(卒業、在学、中退者)が全体の56%に達しています。大学進学者は日本語学習能力が高く、コミュニケーション能力が要求される介護職には理想的な人材です。」
クーデターで厳しい状況下にあるミャンマー。
「ミャンマーの方は、日本で長く働きたいという方が多い。だから3年間実習を受けて、特定技能を目指すというのが現実的な流れです」と前出の北中氏は付け加えました。
過酷な労働で外国人からの評価が低下
ここで特定技能について説明しておきましょう。特定技能とは、政府が2019年4月に新設した在留資格です。日本国内において人手不足が深刻化する、介護を含む14の業種で外国人の就労が解禁されました。
労働力調整の手段とすることは禁じられている技能実習生とは違い、外国人の方を労働者として受け入れる在留資格です。
人材不足の産業に戦力となる人材を提供することが目的のため、特別な育成や訓練を受けることなく、すぐに一定の業務をこなせる水準が求められます。
そのため、外国人が特定技能1号の在留資格で来日するには、日本語を話せるだけでなく、仕事に関する知識・経験に関しての特定技能評価試験に合格することが必要となります。
これは在留資格の「特定技能」を取得した場合に従事できる14業種における技能水準を評価する試験です。特定技能1号の在留資格で日本に在留できる期間は通算5年で、家族の帯同は認められていません。
2022年度に入ってしばらくして、特定技能1号の資格で来日したフィリピン人2人が、宮崎県都城市の介護事業所で働き始め、話題となりました。
そこで2人の来日を支援した人材サービス会社「パーソル グローバル ワークフォース」の多田盛弘社長にこれまでの経緯をうかがいました。
「特定技能という「就労」を目的とする新しい在留資格ができた時点で、人材会社として参入できると判断し、パーソルのグループ会社の1つとして創業しました。
ただ、お客様からすると、ご要望が特定技能の領域から外れる場合もあるので、特定技能をメインとしつつ、ほかの領域にもご希望があれば紹介しているというような状況です。
私たちがこの会社をつくったときに、特定技能で最も需要が大きいと想定していたのは宿泊と外食です。当時はまだコロナ前。
インバウンドでどこのホテルもレストランも人手が足りない状況がピークに達していたので、そこをターゲットにしていたんですが、ご存じのようにあのコロナで外食・産業、観光産業が壊滅的な状況になった中、一番コロナの影響を受けなかったのが介護でした。
やはり高齢化が進み、人が足りないという背景と、コロナを受けて介護の需要が最も大きいこともはっきりしました。
すでに150人が入国しており、待機している約300人も、順次入国しています。現在はインドネシアが75%、フィリピンが15%、ネパールが10%という割合です。
日本語と介護の専門用語と初任者研修テキストと同等の内容の試験に受かって、日本での就業許可が出る形です。
実は事業者のみなさんに話を伺うと、在留資格の種類ではなく残留資格はあまり関係なく、人材の質がポイントとのことでした。
技能実習は本来実習という名目でありながら実際は労働力として使われているので、国連やアメリカ政府から人権上問題があるというような指摘を受けています。
大手の会社だと人権問題で技能実習はどうかということもあるので、そういうことも考慮に入れて、総合的に考えて特定技能の方が安心ということはあると思います。
それに試験が3つもあるので、最低限試験勉強をして3つとも合格しているという時点で、人材の振れ幅は少ないと思います。
入国時が一番トラブルの起きやすい時期ですが、日本語も含めてトラブルもなく、すぐに現場になじんでいるという点で、特定技能の質が担保されている背景なんじゃないかな、という気はしています」
特定技能の方も新型コロナウイルスの水際対策の緩和を受けて、ようやく来日が実現しているようです。すでに顕在化している介護人材の不足という、喫緊の課題が完全に払しょくできればそれに越したことはありません。
しかし、今回取材した中でも、各所に不安な面が出てきています。それは一部で明らかになっている技能実習生に対して雇い主が過酷な労働を強いたり、暴力をふるったりしているという問題です。
実習生が受けた暴行シーンの動画が母国で拡散し、悪評となって伝わり、日本の評価を暴落させていることは、今後の人材確保に大きくマイナスとなることは間違いありません。
今回の取材過程でも「すでに良い人材はアメリカ、中国、ドイツなど賃金のいい国に流れている」という指摘も複数ありました。
前出の介護事業所の代表者も次のようにすでに日本の評価が下落していることを指摘していました。
「私も実習生の管理団体のメンバーですが、最近はベトナム人で良い人材を取れなくなってきています。ご指摘の通り、ほかの外国に流れたり、日本の給与水準が上がらないため魅力がなくなっていることが理由だと思います。おそらく今後は、カンボジア、インド、スリランカ、インドネシアなどの発展途上国が人材の中心になっていくものと思われます」
ミャンマー・ユニティの北中氏も同じ意見で、「確かに外国人をひどい扱いをするとの声もあります。
日本は選ばれない国になりつつあるんです。ではどこの国が頼れるかというと、今後はミャンマーのほかはアフリカなどになっていくと思います」と北中氏は指摘しています。

続々と訪れる外国人人材の人々。彼らが楽しく働ける環境を維持し続けることが、最も大事なことだということは、今回よくわかりました。
同時に国もまた、業者と外国人の声に耳を傾けて、彼らが働きやすく、努力次第で不安なく長期にわたって滞在できる規制緩和の努力を、進めていく必要もありそうです。