今回は「軽度~重度認知症の在宅生活」に深く関わっている介護関係者の皆さまにうかがった、最前線の現場から届いた事例をお届けします。文中のAさんは、登場人物のプライバシーが考慮され、さまざまな事実により構成された架空の人物の設定であることをご承知ください。

本人が頑なに支援を拒否するケースの対応

一人暮らしのAさんは、認知症が進んできた80代後半の男性。その内容は生々しく、介護の現場の問題が、鮮明に浮かび上がるものでした。

話はまず、後見人が付く前のAさんの自宅内の状況からスタートします。そこは大量に購入された同じ食品があふれ返り、それが腐敗して害虫なども発生。さらに定期購入の健康食品、明らかに不要な家電製品で埋め尽くされていました。

Aさんは送り付け商法に騙され、必要以上の金額を浪費してしまっていました。この時点では、頼れる親族もいないとケアマネージャーに明かしています。生活は維持されているものの、認知症の進行が激しくなっていました。

いずれ在宅が無理との判断がされ、成年後見の申し立てに至りました。預金は10万円にようやく乗る程度。月々の収入と支出はともに10万円台で、ほぼトントンという状況でした。

親族と連絡が取れないAさんの場合、成年後見人等の選任は区市町村長が申し立てることになります。

後見人は本人に会う前に、関係者から聞き取りをして情報を入手したところ、デイサービスや家賃などの利用料金は本人が現金で払っており滞ってはいませんでした。

タンス預金がどうやらあるらしいが、隠しており誰も把握できないままであるため、財産管理が検討されたそうです。

Aさんの性格から財産を第三者に預けることを頑なに拒否することは容易に想像され、たとえ後見人がついたとしても、それが難しいことが事前に予想されました。

体調面にも不安がありました。便潜血検査で腫瘍が疑われ、総合病院での再検査が必要な状況だったのです。

送り付け商法の被害が複数回あり、地域包括支援センターで契約を取り消し、支払った金額を取り返す請求はしているものの、返金に至らない状況のまま後見人に回ってきた経緯がありました。

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この時点では送り付け商法の被害を受けないように、ホームヘルパーやケアマネージャーなどの支援者で見守りにあたっていたため、何か気づいたら今後は後見人に連絡してもらえるように、関係者間で事前に打ち合わせをする状況になりました。

親族に連絡が取れず、実態をまったく把握できないため、調査が必要であると判断されました。Aさんは会社勤めをしていたため、年金が少しあるのではないかという確認作業も行われ、未受給も判明。

しかし医療同意は後見人にはできないため、手を尽くして親族との関係をつくっておくべきなどの問題が洗い出されて整理されていきました。

さらに悪化した自宅の衛生環境

亡くなった後に後見人が管理していた財産の相続問題が生じるため、親族を調査する必要があります。そのため後見人がAさんの自宅を訪問すると、自宅は関係者から聞いていたよりも、ひどい状態になっていました。

住居内は大量の食品で埋まり、足の踏み場もないような状況。不衛生な状態がひどくなっていました。

長い付き合いであるヘルパーさんからは、最初に関わっていた頃より認知症が進み、フレイルサイクルが進行している状況だと聞きました。後見人がそこでようやく、本人の健康状態を把握できたことになります。

後見人が最初に本人に依頼するのは、生活費などの支払いのために現金の一部をなんとか預けてもらうことでした。

しかしAさんは入ってきた年金の全額を下ろして使っていました。家賃もその中からAさんが払っています。そこで家賃だけ残して、生活費は預けてもらえるように説得したそうです。

今後について、Aさんは1時間以上の会話の中で、頑なに施設での生活を拒否していましたが、話している直後に前の話を忘れるという認知症の短期記憶障がいも同時にありました。入浴もほとんどしておらず、健康面も心配される状況でもあります。

施設にすぐ入居というわけにはいかない中、後見人としては「この生活状況だとヘルパーさんに入ってもらうのも申し訳ないな」というのが当初の印象だったといいます。

そこで、後見人は最初にまず確定申告して、非課税世帯であることを証明する作業をしていましたが、Aさんはまたもや送り付け商法の被害にあってしまいました。

高価な海産物を代引きで送りつけてくる手口です。本人はすでに支払ってしまっていたため、すぐに後見人がこの業者に内容証明付き郵便を送り、品物を引き取らせて返金させたそうです。

その後、後見人も全体の状態が把握できてきたので、支援者のメンバーと改めてその課題を整理して、自分の思いを支援者の方と共有していきました。不衛生な自宅内の状況や、痩せてきてしまっている栄養状態が十分把握できたので、一人暮らしが難しい状態なのは明白でした。

しかし本人は「施設入所はいやだ」という意思表示をしているため、すぐには動けません。

「いざというとき、本人が了解したら入所できるように、少しずつショートステイを使ったり、施設見学をしたりしませんか」と支援チームのメンバーに呼びかけたそうです。

送り付け商法など一部の被害については取り返すことができるものの、時間と費用がかかるため事前に防止することが大切です。

Aさんが勝手に買えないように、なるべく本人が管理する部分を少なくしていくことを考えて、支援者全員で共有することを確認。

部屋についてはヘルパーさんが支援できるように1回業者を入れて大掃除をしていきたい、という考えを支援者間で共有したところ、部屋の片付けについて説得する方法のアイデアなどが出てきて、とんとん拍子で進みました。業者が入り、部屋は一旦、綺麗になりました。

親族にも、コンタクトを取ることに成功しました。しかし「やっぱり関わりたくない」とのことで、支援は見込めないという状況でした。

これは介護業者の間で情報共有をしている場合にも、しばしば耳にするケースです。「近所に住んでいる子ども世代からの協力が得られない」との証言が、頻繁に出てくるようになっているのを実感します。

説得してタンス預金を発見

不衛生な状況が改善されたことで、次に取り組むテーマが経済面。

家にあるタンス預金を使えるようにするため、地域包括支援センター、ケアマネージャー、ホームヘルパーらの協力を得ながら、Aさんを説得していきました。すると食品を入れていた容器の中から、数百万円が出てきたそうです。別の60代独居男性のケースでは、DVDラックに並べられた収納ケースに現金と預金通帳が隠されていました。

Aさんは今まで隠していた部分をようやく見せてくれたものの、すぐ後見人がそれを預かることができるかというと、そうはいきません。

本人が渡してくれないために、そこでまた苦労することになります。請求書を見せたり、滞納の証明を見せたりして、何とか半分の金額を預金通帳に戻すことができました。

金銭の管理にシビアな性格のAさんのような場合、ソーシャルワーカーやホームヘルパーなど信頼関係のできている人の協力を得て、チームで取り組むしかないわけです。

「支援拒否の高齢者を守れ!」ヘルパーやケアマネの連携で対応した地域包括ケアの事例
高齢者の自宅には箪笥預金があることも

Aさんは、自転車でスーパーマーケットに出かけて自分の欲しいものを買いに行って1日過ごし、夕方には帰って来るという生活ができていました。

しかし、食料の買い込みも収まらず、結局大掃除したお家もほとんど元の状態に戻るようなことになってしまいました。それだけではなく近所の野良猫を招き入れ、その糞尿もあり酷いことになっているということで、結局不衛生な環境に戻ってしまいました。

ペットの問題は、深刻です。孤独死の現場で残された猫が後を追うように餓死してしまっていたという証言も、関係者から聞かされたことがあります。

Aさんについては、ヘルパーさんの事業所から「またクリーニング入れてもらえないとやめますよ」という連絡が後見人に入ります。銀行もー日に何回も来て困っているという状況になってしまいました。

Aさんは非常に温厚な性格でしたが、ある日認知症の周辺症状により包括支援センターの職員に対して掴みかかる事件が起きます。トラブルも多くなり、結局「そろそろ在宅は難しいんじゃないか」という話に行き着きました。

在宅が難しい状況になってきたことで、結局6ヵ月後には行政サイド主催の地域ケア会議にかけて、後見人、地域包括支援センターとケアマネージャーと介護事業者、民生委員などが入って話し合いをもち、また課題を整理しました。

ゴミのルールが守れていないこと、猫のトラブル、タバコの火の不始末、傷んでいる食品を食べていること、銀行に行ってトラブルを起こしそうなときに行員からどのような対応をしてもらうか、ご近所さんにどういう声かけをしてもらえば安心できるか、などが会議で話し合われたそうです。

一方で関係者の話からAさんは亡くなった奥さんについての思いが強いため、在宅にこだわっていることがわかりました。最終的には、小規模多機能型居宅介護(注=※参照)で柔軟な対応をしてもらいながら、在宅生活を継続することに。

簡単には解決しないとはいえ、実際にいろんな方がいろんなアイデアを出して、なんとか在宅をキープしたという事例でした。

※「小規模多機能型居宅介護」は、利用者(要介護(支援)者)の心身の状況や置かれている環境に応じて、利用者の選択に基づき、居宅に訪問し、または拠点に通わせ、もしくは拠点に短期間宿泊させ、入浴・排せつ・食事等の介護、調理・洗濯・掃除等の家事等や機能訓練を行うもの。(厚生労働省 社保審-介護給付費分科会第179回資料④より)

小多機を活用して在宅生活を継続

「ケアの駅」で交流会を開催している山田富恵さんは「Aさんのケースは、あるあるの事例だと思います。『小規模多機能』(注*)により『通い』と『お泊り』とを両方やりながらでできた、という状況でしたね」としたうえで、さらにこう続けました。

「困っている人がいることを、ヘルパーさんがケアマネに知らせることで、地域包括支援センターにつながって、ことが動き出すわけですね。

それで後見人までつながったところで、いきなり来た後見人にお金を預けると言っても、信頼関係はないので、難しいのは当然ですよね。

長いこと関わってくれている地域包括支援センターの方や、いつも来てくれているヘルパーさんが連れてきた人が橋渡しをしてくれたら、『信頼できるかもしれない』となって、今まで抱え込んでいたお金を預けてくれる。

みんなが少しずつ連携すれば、買い物に自転車で行くとか、そういうことを見守りながらできることがある。任意後見制度の存在が、みんなに行き渡ることも大事ですよね」。

団塊の世代が後期高齢者となる2025年。地域包括システムの構築が目指されるのもこの年です。

それまでに、こうした事例の共有を地域で行い、支援者と地域包括支援センター、権利擁護センターなどが一体となって、2025年までの体制づくりに全力を挙げる。その時期が来ていることを、ひしひしと感じました。

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