「冬の間、外を歩いていて転倒した。」
「家の中で段差につまずいて転んでしまった。」
ご自身やご家族でこのような経験をした方はいらっしゃいませんか。
身内の話で恐縮ですが、つい最近私の親戚が外出中に転倒して足にけがをしました。
しかし、高齢者が転倒すると、場合によっては寝たきりや要介護状態になってしまう可能性もあります。
そこでこの記事では、高齢者の転倒予防を中心に解説していきます。
転倒予防のポイント「ぬかづけ」についてもご紹介しますので、参考になれば幸いです。
転倒予防のポイントは「ぬかづけ」
転倒予防の“ぬかづけ”とは、日本転倒予防学会が提唱している言葉です。
- 「ぬ」は、濡れているところ(浴室や洗面所、台所など)
- 「か」は、階段や段差(部屋と部屋の間の段差など)
- 「づけ」は、片づけていないところ(茶の間や廊下など)
を意味しており、転倒の危険がある環境のことが簡潔に分かりやすく説明されています。
濡れているところは足を滑らせて、階段や段差、片付いていない場所は、つまづいて転びやすい場所です。
こういった場所を減らすよう注意喚起しているのが、転倒予防の「ぬかづけ」になります。「ぬかづけ」を減らすためにも、以下のような点に注意しましょう。
- 床を濡らしたまま放置しない
- 床にものを置いたままにしない
- 階段や玄関の段差部分には手すりをつける
転倒は寝たきりや要介護状態の原因になりやすい
転倒してしまうと頭を打ったり、大腿骨(足の付け根から膝までの大きな骨)や腰椎(腰の骨)を骨折したりすることがあります。
特に高齢者は、これらのけがが原因で要介護状態や寝たきりになる可能性が高いのです。
「令和元年国民生活基礎調査」から要介護者の状況を見ると、骨折・転倒は要介護状態になった人の原因で4番目に多い結果でした。
実際に私の周りでも、転倒による骨折が原因で寝たきりになった方が何名かいます。
ある90代女性は、ベッドから降りようとして尻もちをつきました。
その方は、圧迫骨折が原因で寝たきりになりました。
また、夜トイレに行く途中で転倒して大腿骨を骨折した方もいます。その方は、すぐに救急車で病院に運ばれましたが、入院中に認知症を発症してしまいました。
高齢になってからの転倒・骨折は、単なる怪我では済まないことが多いことを知っておく必要があります。国立長寿医療研究センターによると、80歳以上の死亡事故の3割近くは転倒が原因ということも示されています。
転倒の原因はどこにある
転倒の原因は、「ぬかづけ」だけでなく日常生活のあらゆるところに潜んでいます。また、高齢者自身の加齢による体の変化も転倒の原因になっているのです。
ここでは、外的要因・内的要因として説明します。
1.外的要因
外的要因とは、「家の中や屋外など生活環境によるもの」です。
実は、屋外より家の中の方が転倒という点ではハイリスクと言われています。
例としては、以下のようなケースがあります。
- 家の中のわずかな段差・電気コード・カーペットのふちなどにつまずきやすくなる
- 夜トイレに行く途中、足元がよく見えずに転んでしまう
階段のような目に見える段差であれば注意して行動しやすいのですが、目に見えない段差だと注意が行き届きにくいのです。
そのため「目に見えない段差」を作らないことが大切になってきます。
2.内的要因
内的要因とは、言い換えると年齢による身体能力の衰えのことです。具体的に言うと、以下のような面で機能の低下がみられます。
- 筋力
- バランスを保つ能力
- 柔軟性
筋力低下の原因は年齢だけではありません。病気、薬の副作用などで起こることもあります。
運動不足も筋力低下を引き起こし、転倒の原因となるのです。特にここ数年はコロナ禍による外出自粛もあり、体を動かすことが減った高齢者も多かったことでしょう。
今後は感染予防に注意しながらも、少しずつ外で体を動かすことをおすすめします。
転倒を防ぐ方法
転倒を防ぐ方法は、外的要因と内的要因を解消することです。外的要因の解消法は、ひと言でいうと環境整備のことで、記事の冒頭でご紹介した転倒予防の「ぬかづけ」の実践などがあげられます。
内的要因の解消法は、高齢者自身の体を整えることです。
1.外的要因を解消する
主に以下のようなことがあげられます。
- 床に不要なものを置かない
- 床が濡れていたら拭く
- カーペットのふちには目立つ色のテープをはる
- 電気コードを人が歩くところに配置しない
日本転倒予防学会では、毎年10月10日を「転倒予防の日」と提唱して注意喚起していますが、転倒しないための環境整備は日頃からの積み重ねが大切です。
外的要因解消に関連したエピソードをご紹介します。
ある80代女性の話です。
もともと自営業だったこともあり、2階建ての店舗兼住宅に住んでいます。
自宅がある2階に上がるための階段には手すりがついていましたが、5年ほど前までは手すりなしでも問題なく階段を上り下りできていたそうです。
しかし徐々に足腰が弱り、今は手すりにつかまっていると聞きました。昨年は周囲の勧めもあって、階段の先端部分に滑り止めをつけたとのことです。
手すりと滑り止めのおかげで、階段の上り下りが楽になったと周囲に話していたとのことでした。
2.内的要因を解消する
内的要因の解消の大きなポイントは、毎日の生活の中で、少しでも体を動かすことです。
掃除や洗濯などの家事も、立派な身体活動です。天気の良いときは、外を散歩してみるのもおすすめです。ただし、歩行が不安定な人は杖をご使用ください。
また、お住まいの地域で行っている転倒予防教室・介護予防教室などへの参加もおすすめします。このような教室では、簡単な運動やストレッチを行うことも多いので、家でも実践してみてもよいかもしれません。

認知症高齢者の転倒予防
認知症高齢者は、健康な高齢者と比べて転倒のリスクが高いと言われています。筋力や体力の低下以外にも、認知機能の低下していることが大きな原因です。
記憶力が低下している人の場合、以前転倒したことがある事実を忘れてしまい、何度も同じ場所で転倒する可能性があります。
歩行が不安定になっているのに、そのことを認識できていないことも転倒の原因になります。
また認知症高齢者の場合、健康な高齢者と比べると骨粗しょう症になりやすいという研究報告があります。
認知症高齢者の転倒骨折予防対策としては、環境整備が中心に行いましょう。
- 床にクッションフロアや衝撃吸収マットを敷いて転倒時の衝撃を軽くする
- ヒッププロテクターを着用する
ヒッププロテクターとは、大腿骨骨折を予防する下着タイプのプロテクターです。
大腿骨部分に、衝撃を吸収するパッド式のプロテクターがついており、転倒時の骨折リスクを減らしてくれます。ただしヒッププロテクターは介護保険を適用できないため、購入の際は自費になります。その点をご注意ください。
また、パッドをつけることで違和感を訴える方、外そうとする方がいる可能性も否定できません。
さまざまなタイプがあるので、その方が違和感なく着用できるものを選ぶようにするとよいでしょう
まとめ
この記事では、転倒予防の「ぬかづけ」とは何か?といったことから、転倒に関するさまざまな情報をお伝えしました。
高齢者にとって転倒は、健康状態を悪化させたり、要介護状態や寝たきりの原因になったりする大きなリスクです。
「ぬかづけ」をキーワードに家庭内の環境を整えることが大切になってきます。
それに加えて、高齢者自身も体を動かすことが必要です。
適度な運動もできるだけではなく、日光にあたることで骨粗しょう予防も期待できます。外的要因と内的要因の両面で転倒予防に努めていきましょう。