私たちデイサービス従事者は、「デイサービスに通っていれば安心」と言っていただけるようなサービス提供を常日頃心がけています。
しかし、どんなに尽力していても事故が起きるリスクをゼロにすることはできないのが現実です。
例えば、自宅に引きこもっていれば、事故に遭うリスクは低下しますが、社会的交流が減少して、うつを発症したり、筋力低下による健康被害を広げることにもなりかねません。
今回は、デイサービスで生じる可能性がある事故などを紹介するとともに、そうしたリスクを下げるためにご家族がとれる対策について解説いたします。
デイサービスで起こりやすい事故
転倒
転倒は、立ち上がりに伴って生じる事故の代表格です。転倒にも重大なものから軽度なものまでさまざまです。歩いていてバランスを崩し、わずかでも膝をついたり、手をついたりするようなことがあればデイサービスでは「転倒事故」として扱われます。
一般的に見たらオーバーな扱いと感じるようなケースもあるかもしれませんが、一見軽微に見える膝つきや手つき、尻もちでもひざや太もも、手首の骨折などといった重大な部位を骨折している場合が決して少なくないのです。
転落
座った姿勢や寝ている状態からずり落ちるという事故もあります。そうした事故を起きないようにするベルトなどの安全器具もありますが、拘束に当たるため、デイサービスでは原則的に使用できません。姿勢の維持が困難な方や危険を理解できない方もいらっしゃいますのでやはりゼロリスクにはできません。
ドアや機械器具などの巻き込み・挟まれ事故
可動する機器やドアなどに巻き込まれたり、挟まれたりする事故も起こる可能性があります。高齢になると物につかまって起居動作や移動動作を行う癖がどうしても生じます。動くものに掴まってしまい、結果としてドアに巻き込まれたり挟まれて怪我をしてしまうケースも想定しておかなければならないのです。
もちろん、そうした事故が起きないようにドアや機器にも防止する工夫がされていることが多いのですが、やはり完全には防ぎきるのは困難です。
誤嚥・誤飲
食事に伴う誤飲や誤嚥の事故も後を絶ちません。食事以外の場面でも、認知症などの影響で食べたり飲んだりできないものを口にする異食行動で事故が起こるケースもあり得ます。
どんなに気をつけていても防ぎきれる事故ではないと個人的には感じていますが、最近の判決では予見可能・回避可能と見なされ、ほぼ100%施設側の過失となっていますので、施設では神経を使って見守りをしています。
服薬間違い
あってはならない事故ですが、たびたび聞かれることがある事故です。施設の規模が大きいほど管理する薬の数や種類も増えるので、ヒューマンエラーなどで生じてしまうことが多いようです。神経系や循環器系の薬など、作用や影響が強い薬も少なくないため、大事となることがあります。
送迎サービスに伴う事故
いわゆる車両事故から乗降・移乗・自宅から施設までの移動時起こりうる事故です。転倒や転落・挟み込みなど、あらゆる危険が常に存在しますので各施設で対策が講じられ、マニュアルなども作成しています。
加えて、従事する方の創意工夫と絶え間なき努力がされています。
入浴サービスに伴う事故
火傷や湯あたり、溺れ、転倒、入浴機器の動作に伴う事故など、入浴サービスもまた数々のマニュアルと対策が講じられ、皆が神経をとがらせていてもなくならない事故の一つです。
認知症や加齢に伴う判断障がいなども加わり、一般的な考え方ではとても追いつかないリスクがあります。当然床も滑りやすく衣類などを身に着けていませんので体を支えることなども難易度は非常に高くなります。
その他の事故
突発的な状態変化や意識の消失、利用されている方々同士のトラブルなど、全方位に神経をとがらせていても防ぎきれない事故の危険性はどこにでも潜んでいます。
ご家族でできる対策
こうした事故リスクを軽減させるために、ご家族でもできることがあります。
それがデイサービスへの情報提供です。デイサービスは「通い」であることから、ご家族側からの気づきから事故を予測し、回避するヒントをもらうことが大いにあります。
例えば、次のような事例についてはデイサービス側が非常に助かる情報です。
在宅時の転倒や尻もちなどの報告家の中で転倒した場合、怪我をしていないからと流すことなく「夕べ転んだようだ」「軽くお尻を打った」など、情報をいただくと、転倒リスクを普段より警戒できますし、その後の状態の変化などにも注視できます。回数や頻度の増加もデイサービス側での情報と合わせて判断できます。
逆にとるに足らない、忙しそうだったから、などと情報提供いただけないとリスクの増大に気がつくのが遅れますので事故の予見や回避も困難になってしまいます。
また、その時点では気づかなかったとしても、後から骨折が判明したり脳梗塞を起こしていたりすることは珍しくありません。
治療方針や服薬内容の変更など受診なさった場合は、そのことにも触れていただけるとデイサービス側は非常に助かります。その際に治療方針や処方の変更点などがありましたら、ぜひ情報を伝えてください。
同種・同効薬(ジェネリック医薬品など)への変更といった軽微な変更であっても、状態が変化したり薬が合わなかったりすることがあるので、デイサービス側としては注視対象とします。また事故例に挙げた服薬間違いを防ぐことにも直結します。
ちょっと咳が出る、掻いたような跡がある、むくみがあるなど、普段と違うなと感じたことがあれば、そのまま情報を提供すると非常に有益です。
高齢になると、体調の変化に鈍感になることも少なくなく、皮膚感覚も聴覚や嗅覚同様に鈍くなります。現在は送迎乗車前に体温測定を行うことが新しい常識となりましたが、それ以前には「今日はとても寒がって…」と情報提供いただいたおかげで、ふらつきの予測や肺炎の発見につながったケースもありました。
デイサービスの利用までに体調が回復していたとしても、何日か前におなかを壊した、体調がすぐれないことがあった、といった話から変化を予測・予見することにつながります。
環境の変化や介助方法などの変更ベッドを変えた、杖を新しくした、リハビリパンツを別なメーカーのものにしてみたといった細かな変更であっても施設に伝えてあげてください。
環境の変化は、高齢である利用者にとっては混乱や戸惑いの原因となることが多いのです。認知症などがあれば環境の変化が普段より落ち着きがなくなったり、トイレに頻繁に通われたり、といった言動や情動の変化につながることも多くみられます。
変更した経緯や目的なども伝えると、スタッフで共有できるほか、デイサービス側からより良い情報提供ができることもあります。
本人の訴えの内容疲労感や不眠の訴え、デイサービスに行きたがらないためのいわゆる仮病と思われたことであっても、情報提供いただけるとありがたいものです。
デイサービス側が気を悪くするのではないかと、遠慮してしまうご家族もいらっしゃいますが、そうした情報を一つひとつ紡いでいくと、思わぬ大病の発見やリスクの回避につながることも実際にいくつも経験があります。
お迎えの際に「お変わりありませんか」と訊かれることが定番となっているでしょうが、私たちデイサービス側にとってはご本人の状態を伺う大切な質問です。
「なんだかここ最近、敷居につまずくことが増えたように感じるんです」と教えていただいた後に、どうも距離感が狂っているようだと職員が気づき、実は片目がまったく見えなくなっていたことが判明したケースもありました。
利用される本人の言動や様子からいつもよりどんなことに気を配るべきか、どんなことが想定されるかを予見・予測しながら観察していますが、そこにご家族側からの気づきが加わることで、精度は格段に向上します。
もちろん、世間話程度の他愛のない話で構いませんし、連絡帳やメモに簡単に記載いただけるようなことでも構いません。
こんな程度のこと…と流してしまわず、生活のちょっとした変化で構いませんので、ぜひ施設側に情報をお寄せください。