介護が4年目を迎えると独自の介助方法となり、少しずつ介助者中心の生活になります。しかし介護者中心の介助は本来実践するべき役割を忘れ、介護される側の気持ちを置き去りにしているのです。
私は妻の介護準備や日々の生活で苦労した経験から、時間ができれば自分の行動を見直すように心がけています。
完璧な介護など望むのは難しいですが、少しでも妻の役に立てるように奮闘する夫の行動が家族介護を担う方のお役に立てれば幸いです。
突然の介護に準備はできるか
妻が突然倒れ、介護が必要な状況になれば、夫としてさまざまな決断を迫られます。
私が妻の介護を決断するまでの悩みごとは、次のとおりでした。
- 自分に介護ができるのか
- 家族は協力してくれるのか
- 仕事は続けるのか、辞めるのか
- 在宅介護ができる環境にあるのか
- 介護手続きはいつするのか
突然の介護は、これからの生活に不安を抱えながら始まります。
まさか自分が介護者になるとは想像していないため、心構えもできていないのです。
突然の介護への対応
私が行動した突然の介護への対処法を紹介します。
在宅介護を始めるまでに行動した主な対処法は次の4つです。なお、妻が退院する日がある程度分かっていたため、退院日から逆算して考えました。
親の介護が対象になっている厚生労働省のツールも用意されているので、参考にされてみてもいいかもしれません。(「介護への事前の備え」)
退職に伴う手続き
退職に伴う手続きを最初に行いました。
妻が退院する頃は定年を迎える半年前でしたが、介護で職場に迷惑をかけたくなかったため、家族には退職の意思を伝えました。
上司には退院4ヵ月前に退職の意向を伝え、労務担当者には退職に必要な手続きの確認や引継ぎ準備に追われる毎日です。
ただし、私が40~50歳代前半であれば経済的な不安もあり、退職の決断はしていなかったでしょう。
介護に関する手続き
介護に関する手続きを迅速に行うことは、心理的かつ経済的負担を和らげるために大変重要な対応です。
実母や義母の介護手続きは妻に任せきりであったため、全く知識のない状態からの情報収集です。
また介護に関する手続きも多く、仕事と並行しての手続きは大変苦労しましたが、迅速に行うべき対応です。
家計の管理
私を大きく悩ませたのは、家計の管理です。
給料などの収入を知っていても支出を知らなければ、入院費や治療費などの急な出費に対応できません。特に私のようにすべての家計を妻に頼りきりの夫にとっては、日々の生活に不安を覚えながら過ごすことになります。
介護を決断した時点で、お金の管理をしっかり行い、生活費と介護費をしっかり区別し生活設計を見直すことも大切です。
自宅内の整備
自宅内の整備も在宅介護を始めるまでに忘れてはなりません。
介護ベッドを中心に車椅子の配置からデイサービス利用時の移動用リフトなど、私の想像以上の福祉用具が必要でした。介護生活を始める居室を中心に、妻が落ち着き、介助しやすい生活空間を確保しなければ、余計なストレスが溜まります。
特にマンションや段差が多い一戸建てで介護を始めようとしている方は、その場しのぎの対応ではない整備が必要です。
介護者が実践すべき大切な役割
私の考える介護者が実践すべき大切な役目とは、医療関係者や介護士との関係を良好に保つための行動です。
介護に関わる環境の確保や情報収集、生活設計の見直しを行っても、最後は人間関係が大切になるのです。
ここでは、私が忘れないようにしている介護者が実践すべき大切な役割を6つ紹介します。
要点をまとめて伝える
要点をまとめて伝えることが大切です。
介護士や看護師は多くの利用者と関わっており、妻に対応できる時間は限られます。
私は介護を始めてから介護士や看護師へ伝えたい情報は、要点を可能な限りまとめた内容を箇条書きでA4用紙に記載し、渡しています。
用紙に記載した内容はお互いが情報共有しやすいなどの利点があり、また一度作成すれば転用できるため、活用の幅が広がるのです。
相手の話を最後まで聞く
当初は、自分の質問ばかりを医療関係者に伝えるだけで満足していたため、独りよがりの介護になっていました。
また自分で知りえた他の情報を鵜吞みにしていたため、医療関係者と私の考え方に温度差ができ、スムーズな介護とはいえなかったでしょう。
独りよがりの介護は、周囲の協力者を遠ざける結果になります。今では、医師や看護師、ケアマネージャーの話を最後まで聞いた後、自分の意見を伝えているため、以前に比べ信頼関係が高まったと考えています。
あいまいな表現は避ける
介護者が「大丈夫です」というあいまいな表現や伝え方は避けるべきです。
妻の体調が安定している状態で、今だけを見て大丈夫という表現は相手に安心感を与え、体調が急変した場合の原因がつかめません。介護者の情報は医療関係者が知ることができる貴重な情報源になり、医師の治療方針にも影響を与えます。
介護者はあいまいな表現ではなく、痰の色や量、排便や排尿状況など可能な限りの情報を伝えるべきだと考えています。
妻の要望を確実に伝える
妻の要望を医療関係者に確実に伝えることも大切です。
妻は介護や看護を受けている際にも、私の言葉を聞き、医療関係者に確実に伝えているか確認しています。うまく伝えていないときは、喧嘩になったこともあり、妻が介護に協力してくれなくなったことも経験しました。
妻は構音障害により直接要望を伝えることが困難なため、私が事前に聞き取り、確実に伝えています。
治療方針を確認する
医師に都度、治療方針を確認しておくことも介護者の努めです。
資格もなく経験も乏しい介護者は、医師の治療方針を尋ねるのは勇気が必要です。
私は胃ろう増設後の点滴に疑問を持ち、医師に確認した後に点滴を外したことで痰の量が減り、介護負担が減った経験があります。
疑問点は医師や看護師に確認し解消しておくことは、介護を続ける上でも大切です。
薬の情報を知っておく
妻が処方されている薬の情報を知っておくことはとても大事です。
訪問看護の際に、看護師から「薬は変わっていませんか。今の薬は何を使っていますか」と突然聞かれることもあります。特に訪問診療後に処方される薬が変更になれば、訪問看護師と共用する大切な情報です。
毎食時に処方する薬の効用や名称をすべて知る必要はありませんが、処方箋の一覧表だけは忘れずに保管しておくようにしましょう。
介護疲れを感じる前に行動していること
私が介護疲れを感じる前に行動していることは、可能な限り不安を払拭しておくことです。
不安の元となる思い込みや不安とは次のようなものです。
- 今の介護が最適
- 今の治療しかない
- 今のリハビリを継続するしかない
- 今より楽な介護はないのか
- 今の栄養状態で良いのか
- リハビリの効果はあるのか
- 妻に苦痛はないか
私はこのような思い込みと相反する不安が常に交差しています。
今の介護に慣れてしまえばそれでもいいのでしょうが、身体の自由がきかない妻の気持ちを置いてきぼりにする可能性があるのです。特に介護疲れを感じ始めると夫中心の生活になりやすい傾向になっていました。
介護になれた頃には、一度立ち止まって考え、新たに行動することも必要だと感じます。
介護される側の目線で考える
介護される側の目線で考えることも、時には必要です。
我が家の場合は、妻の体調や苦痛を知り改善するのは介護者である夫です。しかし、介護経験が長くなると、介護者の都合により手順を省略した方法を考え、今までとは違う介助になりがちです。
介護される側の目線で考え、基本をベースとした介助方法を時には意識してみてください。
自分の力だけでは介護を続けられない
3年の介護経験からわかったことは、自分の力だけでは介護を続けられないということです。
家族の協力があっても、主に介護者が中心で物事は進みます。「介護者が実践すべき大切な役割」は私の経験から導いた現在の答えです。
介護は、協力者となるすべての方の支援で成り立っているという想いや行動がお互いの信頼関係を深めるのではないでしょうか。